三角コーナー

猩々飛蝗

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舞台、暗闇の中、舞台中心の私にスポットライト、私は後ろを向いている。

私「諸君、諸君には、なりたい自分、理想の自分、かくありたいと望む姿が、あるだろうか?私には、ある」

私、振り返って。

私「そして、万人がまた、そこを目指すべきだとも信じている。それは何か」

力強く、一歩踏み出す。

私「三角コーナーである。何故などと野暮なことを問うてくれるな、あの美しさ、無駄が徹底的に廃された機能美の塊的佇まい、汚れ役を強いられても文句を言わぬ姿勢……いや、言葉にすればどれも陳腐に堕してしまう、兎も角あのえも言われぬ、言葉もて現わせぬ存在、三角コーナーに、私はなりたいのだ」

舞台、暗転。

私のナレーション「私は考えた。来る日も来る日も。悩んだ。どうすれば三角コーナーになれるか。悩んで悩みぬいた末の或る日、我が家のシンク、その右手前端に鎮座ましましていた三角コーナーが、私に語り掛けてきたのだ」

舞台中央にはせまっ苦しい四畳半と、その端(観客側なら右端か左端かは問わない)にキッチンのシンク。シンクの、観客側端に三角コーナー。それを覗き込む私。

三角コーナー「三角コーナーになりたいそうだな、人間。予も、卿の情熱を毎日、側で見てきて、その気持ちは痛いほどわかっておる。予は卿の手助けがしたいのだ。卿に、三角コーナーとなる術を教えてやろう」

私、三角コーナーの声が聞こえることを不思議にも思わず、狂喜乱舞して。

私「本当ですか!ありがたや、ありがたや。是非その三角コーナーになる術とやらをお教えください!」

三角コーナー「うむ、三角コーナーになるには、三角コーナーのイデアと接続する必要があるのだ。工場で生産される三角コーナーは皆、加工途中、穴だらけの鉄板であるうちに、からどこかの段階で三角コーナーのイデアと接続し、三角コーナーとなって出荷される。三角コーナーが決定的に三角コーナーとなるのはこの時だ。であるから、卿も恐らく三角コーナーのイデアと接続さえすれば三角コーナーとなりえるであろう」

私、三角コーナーに向かって前のめりになりながら。

私「して、その三角コーナーのイデアと接続するにはどうすればよいのでしょうか」

三角コーナー「それはだな、全宇宙に遍く偏在する(誤字ではない)全ての三角コーナーを集めることで成されるとされている」

私「なんだか頼りないですねぇ、もしかして今まで誰も成功していないのですか」

三角コーナー「しょうがないであろう、我々三角コーナーは既に三角コーナーになっているから三角コーナーになる必要はなく、どうしてか卿以外に三角コーナーになることを強く望む存在も居なかった故。いや、居なかった、というのは不適切であろうな、言い伝えの残っている以上成し遂げたものはやはりいるのであろう。恐らくは初めて三角コーナーをこの世に顕現せしめた職工、いわば三角コーナーの生みの親、その者が成し遂げたのだろうな」

私、唾をのみ込む。

私「すると、私はそのような素晴らしいお方の成し遂げた偉業をまた、試みねばならないのですね……いいや、何を迷うことがありましょう、私は必ずやり遂げますよ!待っていてください!」

三角コーナー、莞爾として微笑む。(演出の腕の見せ所也、期待している由)

舞台、暗転。

私のナレーション「私は嬉々として三角コーナー蒐集に励んだ。或いは店で三角コーナーを買い占め」

舞台上、カートに山盛りの三角コーナーを載せてレジに向かう私(この時、レジに店員を置いて何かのリアクションをさせるか、棚を設けて大量の三角コーナーをカートに載せるシーンにするか、ご自由に)

以下、舞台上に並べた各シーンのセットを移動していく形式が良いか?

私のナレーション「或いは各家庭から三角コーナーを買い取り」

玄関先で、廃品回収業者の態、三角コーナーを受け取り、金を渡す私。

私のナレーション「或いは廃棄物として回収し」

今度は金を渡さず、ただ三角コーナーを受け取る。

私のナレーション「如何せんどちらもかなわぬ時は、やむなく盗み出した」

私、風呂敷で頭を包み、古典的空き巣の図、闇夜のキッチンに侵入、三角コーナーを盗み出す。

暗転。

私のナレーション「段々、身の回りに三角コーナーがなくなってきた。周囲の家庭からも、スーパーからも、私はすでに三角コーナーを集め終えていたのだ。私は三角コーナーを探す必要に迫られた。三角コーナーを探すというのは適切では無かった。三角コーナーというものは大抵シンクにあり、シンクというものは大抵家屋にある。従って私は家屋を探した。自宅のある街を抜けてしまうと、次には直近の街を探す必要が生まれた。そして気付いたのだ。」

私、自室の四畳半の内、三畳分を占領する、天井まで届く三角コーナーを背に、観客側を向いている。

私「全宇宙の三角コーナーは既にこの地球に集結しているではないか、そこに顕現しているのは正に地球、地球こそが三角コーナーのイデアなのだ!!」

シンクの三角コーナーがまた語り掛けてくる。

三角コーナー「よくぞそこまで辿り着いた。それを理解することができて初めて、次へと歩を進められるのだ。地球の生態系に属す卿が、即ち地球と、三角コーナーのイデアと既に接続している卿が、更に言えば地球上の全存在が三角コーナーとなるに能わざるか。その問いに自ら至らねば、卿は三角コーナーへと至る道の一歩目をすら刻めぬのだ。よくやった。よく気付いた。これで卿に、三角コーナーたるの真の道を伝えられる」

私、座っていたのを、立ち上がり、シンクに齧りついて。

私「ありがとうございます、ありがとうございます。師とお呼びしても構いませんか、師よ、してその真の道というのは一体……」

三角コーナー「うむ、卿は、認識というのは何によって成されると思う?」

私「認識……ですか」

三角コーナー「うむ、何かを、周りのものと区別して理解するとき……卿はどのようにしている?」

私「ええと、多分それは境界、縁だと思います、輪郭によって……視覚的にも、概念的にも……」

三角コーナー、ポンと膝を打つ(演出、頑張れ)

三角コーナー「でかした!よくわかった!それだ、そこにこそ鍵があるのだ!輪郭でものを認識するというが、ではそれはどちらの輪郭だね?三角コーナーとそれを取り巻く空間を区別するとき、卿は三角コーナーの輪郭を見ているのか、それとも空間の輪郭、その間隙を三角コーナーとしてみているのか……」

私「なるほど、つまりその時、空間と三角コーナーとはほぼ同じものであると!」

三角コーナー「そうじゃそうじゃ!打てば響く、良いものじゃのう……つまり、わかるか。卿によってのみその縁が、輪郭が定義される三角コーナー、その三角コーナーのみによって卿の輪郭を定義できる三角コーナーを見つけることで、」

私「私は三角コーナーになれるのですね!」

三角コーナー「うむ。そういうことじゃ。もう余が卿に伝えることは無い。精進するのだぞ」

私、感涙にむせぶ。

私のナレーション「そして私は、かき集めた三角コーナーをリアカーに載せ、私によってのみ縁を定義でき、それのみで私の縁を定義できる三角コーナーを探す旅に出た。旅はまだ始まったばかりであるし、いつ終わるとも知れない。しかし私はやり遂げて見せる。やり遂げねば死んでも死に切れぬ。私は絶対に、三角コーナーになるのだ」
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