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愛するつもりならありますから

23. おかえり<1>

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「ねえ、ここって魔獣がめちゃめちゃ出没する領地だってこと知ってるよね?わたしの旦那さん弱くって、魔獣と戦ったことなんかないんだけど、その体でどうするつもりなの?」

すると乗っ取り犯は、びくっと体を震わせて、ディアナの顔を凝視した。

「お、おまえだって番が魔獣に襲われたら困るだろう!?」
「そりゃ守りたいのはヤマヤマだけど、わたしだって魔獣の相手をしながらだったら、自分の身を守るだけで精一杯だし」

ディアナの返答が想定外だったのか、乗っ取り犯は驚愕に目を見開いた。

まあそれは真っ赤な大嘘なのだが、乗っ取り犯はディアナがどの程度戦えるのかを殆ど把握していないはずだから、ハッタリかまし放題で構わない。

するとその時、少し先の茂みのあたりから、突然ガサッと音が鳴った。割と大きな音を立てながら、茂みを移動していく何か。

「なっ…なんだ………?どどど動物…か………?」

魔獣の可能性を感じているのだろう。乗っ取り犯は、慌てて身を起こすと、茂みを凝視している。警戒するあまり、茂みから目が離せないようだ。
その隙に、ディアナが指先を素早く動かして何かしていることに、気づいた様子はなかった。

しばらくして音が止んだと思ったら、今度はその先の木の上の方から、ガサッと音が鳴った。

ディアナが、手近にあった足くくり罠を投げつけてみたが、何ら反応はなく、命中したのかしなかったのかすらはっきりしない。足くくり罠は木にひっかかり、吊り上げるために罠に括りつけてあったロープだけが、だらりと垂れ下がっている。

「襲ってくる気配はなさそう…。小動物かな…?」

ディアナの呟きに、乗っ取り犯は、あからさまにほっとした表情を浮かべた。

が、その次の瞬間には再びガサッと木の上から音が鳴り、ディアナはポケットから折り畳みナイフを取り出して投げつけながら、音の鳴った木に駆け寄る。
しげしげと木を見上げているが、その後はしんと沈黙を保ち続けている。

「移動したみたい………」


だが、間を置かずに、先ほどの木から少し離れたあたりから、何かが落ちたかのようなドンという音が鳴った。そしてまた茂みを移動していく。

「ひっ!?」

飛び上がるほどビビり倒している乗っ取り犯には構わず、ディアナは手にしていた松明を放り投げると、弓矢を構えた。

「移動が速い…!近づいて来られたら対処できないかも…!旦那さま、そんなところにいたら狙われるよ!」

ディアナの叫びに、乗っ取り犯は震え上がり、慌ててディアナのいる方に駆け寄ってくる。

その間にも、ディアナは続けざまに何本も矢を射った。
そして最後の一本を手にしたとき、「あいたっ」と声を上げた。

「慌てすぎて鏃に触れちゃった…。指先切れた…」

じっと人差し指を見つめるディアナを目にして、乗っ取り犯の目の色が変わる。

ディアナの指先には血が滲んでいる。
怪我を負わせられるような隙など一切なかったディアナが、傷を負っている。

ラキルスの姿をした乗っ取り犯は、ディアナの人差し指に手を伸ばしてきたが、ディアナは避けようとはしなかった。
ただ、右足を力強く振り下ろそうとした。

ディアナの行動が意味を成す前に、ラキルスの体はディアナの血の滲む指先に触れ、その瞬間に乗っ取り犯は、ラキルスの体から離れ、ディアナの体に移動した。

だが、振り下ろしかけていた足の動きを止めることは敵わず、そのまま、地面を強く踏みつける形になり―――――その足は、そこに仕掛けられていた足くくり罠を踏み抜いていた。

それは、ディアナとラキルスが、逃亡したと思われた赤髪さんを捕獲するために、最初に仕掛けた一箇所目のものだった。

足くくり罠に足を取られたディアナの体は、抵抗する間もなく、足から木に吊り上げられる。
右足を罠で括られ、その足から木に引き摺り上げられた体は、頭が下になった状態でぶらりと空中に揺られていた。

さながら、タロットカードの『吊るされた男』のように。


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