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愛するつもりならありますから

16. 弱いけど強いひと<2>

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そんな男性陣のやりとりはつゆ知らず、ディアナは道すがら拾えるものを拾っては投げつけながら、赤髪さんもどきとの距離を詰めていた。

他国に入国するにあたって武器を持ち込むわけにもいかなかったため、さっきは丸腰で対応する羽目になったが、今は先ほどの魔獣襲撃を受けて、折り畳みのナイフを数本貸して貰ってポケットに入れていた。
茂みにさしかかった当たりで、ディアナは手近なところに這っていた蔓をナイフで適当な長さに切り取ると、鞭のようにしならせて、赤髪さんに打ち付ける。

力か勢いか固さか鋭さか、とにかく何かが強ければ、それが当たれば痛いものだ。石だろうが蔦だろうがモノは何だっていい。相手が痛ければ、それだけで攻撃としては用をなす。そしてディアナには確実に当てる腕がある。

ディアナの中では、『ヤツは赤髪さんではない』で確定だが、洗脳されているとか遠隔操作されてるとか、器だけは赤髪さんである可能性が拭い去れない以上は、息の根を止めてしまうわけにはいかない。
目的を探るためにも、まず優先すべきは、身柄の確保だろう。

でも、得体の知れない相手に必要以上に近づくのは危険だ。
もともと力勝負になったら勝てない可能性のあるディアナは、適度に距離を保ちながら戦うべきであり、距離が保てる上に投げちゃったらオワリではない『なんちゃって鞭』は、現状に適した武器と言えた。
蔦は強度としては足りないが、その辺にいくらでも生えている。ちぎれても次々調達可能なので、惜しみなく使い捨てにも出来る。

ディアナは、赤髪さんもどきが動こうとする気配を察知しては、その手だの足だのを一早くビシャンと打ち、的確に抵抗を封じる。反撃に出ようとしていると言うより、どうにかして逃げようという気配が濃厚なので、狙いどころは足だろう。

利き手ではない左も素人目には遜色ないレベルで使えるディアナは、右手で蔦を振るいながら、隙あらば左手で石を打ち込んだ。
攻撃としてはとても地味なのだが、赤髪さんもどきの右足の『弁慶の泣き所』の毎回おなじ一点のみを、ねちっこくねちっこくひたすら狙っている。

よけたり庇ったりしようにも、蔦での攻撃により身構えざるを得ないタイミングで、すかさず弁慶攻撃をかますという、えげつなさだ。
地味なダメージであっても、同じ場所を重点的に狙われ続けたら、その蓄積は舐めていられないものになる。当たる度に痛みはじわじわ増していき、最終的には相当堪えるものになるという、イラっと感満載の戦法である。しかも狙いはしっかり弁慶だ。あそこは痛い。かの辺境伯閣下ディアナのパパだって普通にすんごい痛い。

姑息と言われようが、ディアナが体得しているのは魔獣と戦う術である。
ケモノ相手に騎士道とか武士道とかいった気高いマインドを発揮したところで、ケモノが正々堂々戦ってくれるわけでもあるまいし、無傷で帰ることの方が余程価値がある。
そもそもディアナは騎士じゃないので、騎士道とかどうでもええがな。

「くっ…これだから南東の民は嫌なんだ!血を流さないどころか、近寄ることもままならない……!!」
「!!」

赤髪さんもどきが呻くように絞り出した声を、初めてちゃんと耳にしたディアナは、はっと息をのんで攻撃の手を止めた。

声が、完全に赤髪さんのものだったのだ。

地声は、声帯や体格で決まるもので、似せることはできても、骨格やら肉付きやらまでも同じでないと全く同じ声にはならないはずだ。
それなのに、赤髪さんの声を発した。

…ということは、あの体は赤髪さんのものってことになるのでは―――――

「ええ~…?どうしたらいい………?」

ディアナが困惑している隙に、赤髪さんもどき?本人?は、若干足を引き摺りながら茂みに身を隠し、気配を消した。
気配を消したとはいえ、激しく動いたら茂みが揺れるので、そろりそろりとしか動けないはずであり、確実にまだあのへんにいる。今ならまだ取り逃がしたわけではない。

取っ捕まえるべきなのは分かっているのだが、あまりの胡散臭さに迂闊に近づいてはいけない気がして、ディアナは追わないでおくことにした。


だって、頭の中で警鐘が鳴り響いているのだ。


あれは、今までに対峙したことのない何かなのだと。

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