【完結】44億年ぼっちドラゴンが友だち探しの旅に出る

マルジン

文字の大きさ
上 下
6 / 52

6.ラハール初等学校入学選抜試験

しおりを挟む
「字が読めないのか?」

「はい。何も分かりませんッ!」

「一応聞くが、人間族以外の言語で読み書きできるものはあるか?」

「ありませんッ!」

「目は見えるな?」

「目はとても良いですッ!」

「……貴様、何をしに来たのだ」

しかめっ面の男は、呆れていた。

試験に無学で挑む者は何人も見てきたし、鉛筆を忘れたり武器を忘れたりする者もごまんと見てきた。

しかしこんな奴は前代未聞だ。

手ぶらで、字が読めなくて、遅刻ギリギリに来て、元気だけは良い。

こんなバカ、見たことがない。

「試験を受けに来ました!入学希望です!」

「……試験とは直接関係しない受付を、私が代筆するとしてだ。筆記試験はどうするつもりなのだ?鉛筆は貸し出さんぞ。見たところ武器もないようだが、実技試験が模擬戦闘だった場合お前は素手で戦うのか?」

「そうです、ね。はい!何とかして受かりたいと思います!よろしくお願いします!」

こんなにも清々しいバカは、見たことがない。
まあ、どうせ落ちるだろう。

だが、何故だ?
気になってしまう。

たぶん、バカすぎるせいだろうな。

「名前をもう一度言え」

「アスドーラです!」

ノース王国で、事前に決めておいた個人情報の設定が役に立った。
しかめっ面男の質問にポンポン答えるアスドーラ。

「ふむ。最後の質問だ。学校を卒業した後、お前は何をする?まあ、これは飛ばしても別に構わんのだが――」

「僕は全種族の友だちを作りたいので、旅に出ようと思います!」

「友だ……まあいい。えー、要するに冒険者でいいか?いや、冒険者でいいな?旅に出るのであれば、冒険者だな?」

「えーと、たぶんはいッ!」

「よしどっか行け!」

「はい!ありがとうございました!」

こうしてアスドーラは、無事受付を終えたのであった。



ラハール初等学校は、世界的にも屈指の敷地面積を誇り、校舎も機能的で現代的な造りになっている。
校門と校舎の間に広がる空間は修練場と呼ばれ、総勢約2,400名の学生たちが一堂に会す余裕があるほどである。
修練場を抜け、校舎同士を繋ぐ渡り廊下の下を潜ると、これまた広い中庭があり、重厚で堅牢な造りの校舎を目の当たりにするだろう。

ざわざわと落ち着きのない人群れは、今後お世話になるであろう校舎の雄々しさに、目を輝かせている。

それは、世界最強のアースドラゴンも同じであった。

「こりゃあ、壮観だねえ」

ノース王国の王城にも負けないほど、首を仰け反らせてしまう背の高さ。
頑丈そうで重たそうな分厚い壁。だけれども城郭のような武骨さはなく、洗練された新しさがある。
ため息を漏らしながら、人間の技術力を再認識していたら、ピョンと黒い影が校舎の上に現れた。

それも複数の影が。

「傾聴ッ!」

雷鳴のような号令に、アスドーラを含む入学希望者たちはビクリと震え、声の主を認めた。
それは受付を担当していた、しかめっ面男だった。
彼は、図抜けて高い時計台の前で、ふわふわと浮きながら入学希望者を見下ろしている。

「現時刻より、ラハール初等学校入学選抜試験を実施する!」

ついに始まった入学試験。
ゴクリと生唾を飲み込む者や、余裕綽々に笑顔を浮かべる者まである。

「試験官の指示には必ず従うように。また如何なる不正行為も我々を欺けないと知れ!」

終始高圧的なしかめっ面男は、気味悪くニヤリと笑い、入学希望者の誰かを指差した。
すると、目にも止まらぬ速さで影が移動したかと思えば、誰かが声を上げた。
その影は、校舎の上にいるローブ姿の者だった。

「えっ!な、なんだよ」

何やら揉めているらしい。
ちょうど、あの男が指差した場所で。

「魔道具の使用はれっきとした不正行為である。貴様は失格だ。ただちに退場せよ」

時計台の前から失格を突きつけたしかめっ面の男は、黒いローブの試験官が失格者を連行する様を眺めて、ふっと笑みを浮かべる。

「それでは第一次試験を始めるッ!」

すると、唐突に試験開始を宣言した。
入学希望者たちは、まさかといった様子でざわざわと困惑の様相を呈した。
だが、入学希望者の心の準備など、彼には関係のないことである。

障壁テネディーレ

続いて魔法が展開された。
それは、中庭を覆うほどの巨大な魔法障壁である。
いきなり試験開始を言い渡され、さらには魔法まで発動されては、入学希望者たちの混乱も加速してしまう。

「魔法障壁だと?何がしたいんだよ」
「ど、どこに障壁を?」
「いきなり魔法かよ。どうやって防げばいいんだ!」

一部の受験者たちは、キョロキョロと辺りを見回し、どうしたらいいのか、何がしたいのかと困惑していた。

じわりじわりと、上空の障壁が受験者たちの頭上に迫っていることなど知らずに。

一方では、全く異なる反応をした受験者もいた。

障壁テネディーレ
守護せよルクディウム
「逃げーべ。こら無理だァ」

上空に展開された障壁を認識し、即座に魔法で自身を守ったり、迫りくる障壁の範囲外となる場所まで走り身を隠したりと、明らかに魔法に慣れた様子であった。

時計台の前で佇む男は、眼下の様子を暫く観察したいた。
自身の発動した魔法が、受験者たちに近づく光景を。
受験者に魔法が触れるまで残り数十秒。
すると、男はニヤリと笑い口を開く。

「魔法障壁に触れれば、一時的な魔力酔いを起こすだろう。対処することを強く勧める」

それを聞いて慌てたのは、魔法障壁がどこにあるのかも分からない受験者たちだ。
「どこに……って上か!」

周囲の受験者たちが空を見上げる姿を見て、ハッと気づいたらしい。
だが……。
「対処ってどうすりゃいいんだよ……」

対処法を知らなかった。
例え魔法を認識できても、対処法を知らなければ意味がない。

例え対処法を知っていても、誤りがあれば意味がない。

「……うぷっ。これは魔力酔い?守護の魔法を掛けたのに……うおぇぇぇ」

障壁が受験者の首元まで降りた頃、バタバタと倒れる者や嘔吐する者が続出した。
それでも容赦なく障壁は降りていき、確実に受験者たちを選別していく。
じわりじわりと魔力酔いの影響が現れ、障壁が地面につく頃には、受験者の四分の一程度が倒れ伏していた。

「魔力酔いをした者はただちに退場せよ!」

そう言われて、納得できない者もいただろう。
けれど魔力酔いは、かなりキツイと言われている。馬車酔いや二日酔いと症状こそ似ているが、残念ながら治癒魔法は効かないし、薬剤も効かない。そして自身の魔法も安定しなくなる。
考えられる対処法は、休むこと。
障壁の影響が消えるまで、横になって眠るしか対処法がないのだ。

「クソッ、また来年かよ」
「……悔しい」

渋々といった様子で、中庭をあとにする受験者たち。
自力で動けない者もいるようで、校舎の上に佇む影が次々と降り立ち、中庭から引きずり出している。

一つ間違えれば私も、ああやって退場していくんだ。半ば同情のような目で、彼らの背を追いかける中に世界最強はいた。

「……運が良かったようだな。あのバカは」

時計台から、アスドーラを視認した男は、意外そうに小さく呟く。

とうのアスドーラはといえば、結構焦っていた。

さっきの魔法障壁が何かすら分からず、とりあえず甘んじて受けてみたは良いものの、周りでは倒れる者がいたり倒れない者がいたりで、どっちの反応が正解なのかも分かっていなかった。
痛くも痒くもないので、演技で倒れるのも何か違うと思い突っ立っていたら、どうやら切り抜けたらしいことを知り、今に至るわけである。

さっきのは何だったんだろうなあ。
魔法の盾で押し潰す気かと思ったけど、別に何も感じなかったし。
魔力酔いってなんだろ。毒の魔法かなあ?なかなか厳しいねえ、入学試験。
うかうかしてられないや。気合を入れなおさないとね。
と、ボケーっと考えていた。

「難しい試験ですねえ」

「……あっ、うん。そうだね」

気合を入れなおした直後、隣で一緒に頑張っていたエルフ君に声を掛けた。
「境遇を同じくする者は、友だちになりやすいです。積極的に声を掛けましょう」
第一回友だち作り会議の提案は、しっかりと活きていた。

「僕はアスドーラです。お名前は?」

「えとー、えっーと、ノピーだよ」

「次の試験も頑張りましょう!ノピーさん」

「……う、うん。頑張ろー」

どぎまぎするノピーの反応を見て、アスドーラは慎重にいこうと画策する。
ノース王国女王のエリーゼによれば「押しが強すぎても嫌われます。相手の反応を見て、押し引きは丁寧に判断してください」らしいから。

「残った者は次の試験場へ移動する!こちらへ進め!」

魔力酔いした者が大方捌けたところで、次の指示がくだった。

指さしたのは、受験者たちの正面にある校舎の入り口だった。
計4枚の扉が開放されており、数多い受験者を受け入れるには、やや小さな規模である。

喜びに浸る時間は僅かであった。
彼らは言われるがまま進む。
すると前列にいた者が違和感を覚えた。

「壁……?」

小さな違和感であった。
何かの手違いだろうか?それとももう少ししたら進めるのだろうか。
どちらにしても暫くすれば進めるだろう。
そのぐらいの、違和感。

しかし後方の受験者は前の状況がよく見えず、どんどん前へ進む。
最後尾にいるアスドーラからは、前方からの不穏な声も聞こえなければ、人垣のせいで扉すら見えていない。

次第に扉前でどん詰まりになる人の群れ。
小さな違和感は、いつの間にか大きな危機感に変わり始めていた。

「壁だ!魔法で壁ができて……うぐっ」
「待って押さないで!」
「早く行けよ!」

前へ後ろへ、体を捩りながら隙間を作ろうと藻掻く前方の受験者たち。

しかし無情にも、試験官の指示に従い前へ前へと進む後方の受験者。

その光景を試験官たちは校舎の上で、じっと見つめていた。

「残り5分!」

時計台から響く、カウントダウン。
受験者たちは、ようやく気づいた。

試験の内容は告げられず、しかもまだ、試験官の誰一人として試験の終わりを告げてはいない。

「……し、し試験は、まだ続いてるんだ」

時計台を見つめるノピーがボソリと呟き、アスドーラも試験官の背後にある針を見つめた。

カチリ。

「1分経過。残り4分だ」





――――作者より――――
最後までお読みいただき、ありがとうごさいます。
作者の励みになりますので、♡いいね、コメント、☆お気に入り、をいただけるとありがたいです!
お手数だとは思いますが、何卒よろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば
ファンタジー
シキは勇者に選ばれた。それは誰かの望みなのか、ただの伝統なのかは分からない。しかし、シキは勇者に選ばれた。果たしてシキは勇者として何を成すのだろうか。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...