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29.王城へ〜十返舎一九はてえてえ〜
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※※※
何かがおかしい。魔王戦の後から立て続けにクラスメイトが死んでいった。数名が王城を離れたことはあった。でも死人が出たことは無かった。きっと魔王が何かしたんだろう。
クソッ、こんな時に牢屋に閉じ込められるなんて。
友梨佳が心配だ。
クラスメイトたちの様子が変なんだ。なんというか、能面みたい表情がなくて、時折見せる顔が作り物のようで。誰もが持つ感情っていうモノが、まるでないように感じられることが増えた。
こんな時に一人残すなんて。友梨佳……。
「ここですよぉバイアさまぁ」
友梨佳!?今の声は友梨佳だ!
「ふ~ん、随分といい暮らしじゃないか」
あの声は……誰だろうか。
バイア様?偉い貴族だろうか。
城内は人が多くて覚えきれないんだよな。
にしても、友梨佳は貴族に知り合いがいるのか。
「住心地はどうだい?」
コイツは……。
魔王に捕らえられていた人間じゃないか。王都に連れ帰って騎士に引き渡し、既に故郷に帰ったと聞いた。何故ここに居るんだ。
「ソルティドッグ、手を出されたかい?」
「はい。無理矢理捩じ込まれて……」
「はあ、そうかい。そりゃあ痛かったろうね」
ソルティドッグ……?友梨佳、だろ?
友梨佳と救い出した女がニヤリと嗤った。
すると、口角が裂けて股先から這い出るエイリアンのように、鋭い牙が露出した。顔色が紫に変わり、手の爪から足までが露悪的な様相に変わり、バサリと音を立てる漆黒の翼。ゆらりと気だるげな尻尾。
そして、あらゆる不浄を詰め込んだような魔力。
「お前ら、お前たちが魔族、か」
「初見かい?そんなんでよく村まで来たねえ」
王国が実験用に飼育している魔族を見たことがある。痩せ細り、落ち窪んだ目をした、生ける屍だった。脅威は感じられない、ただの異形だった。
全然違うじゃないか。
人間に擬態?しかも、見分けがつかないほど精巧に……。
この禍々しい魔力は?恐怖を撫ぜるこんな魔力、感じたことがない。
「アンタが最後の生き残り。変な気は起こさないことだねえ」
「友梨佳は何処だ」
「村にいるよ」
いつの間に……。結界の檻に閉じ込められたあの時か?それ以外に考えられない。しかしどうやって。いやそんなことはどうでもいい。俺が最後の生き残りってことは、アイツら皆、死んだってことなのか。全員が、人の皮を被っていた魔族だったってことなのか。
友梨佳……。
俺はずっと、魔族と…………。
あのイカれた魔王の元で一人拘束される友梨佳。助け出さなくては。殺される前に。殺すよりも恐ろしい目に遭う前に。
『武器選択……』
「いいのかい?私達に傷をつければ、アンタの恋人が死ぬかもしれないのにねえ」
「――――クソッ」
どうすればいいんだ。一体どうすれば。
「残念だねえ。この国の終わりとともに、アンタらも死ぬんだからねえ」
「国が終わる?どういう意味だ」
「そのままの意味さ。フフフ、せいぜい余生を楽しみな」
去っていく彼女たち。その背後に魔法を放つことは簡単だった。しかし、友梨佳が人質に取られている今は何もできない。
今は――――。
※※※
結局、瞬間移動しました。城が思ったよりも遠くてさ。どっかで見たような城下にも見飽きたんすよ。人間の一歩ってのは、小さいものだねえ。ちまちま大変だぜ。
こうして溢れ返る騎士たちも、大変だぜ。勝てないと分かってるのに出てこなきゃあイケないんだからさあ。
「ぐあっ」
「うぉぉぉぉお!ぐべっ」
「標様、終わりました」
「オッス」
ダイキリ兄やんが適当にあしらってくれた。
ここは、転生者たちが暮らしていた部屋の大広間。談話室?皆が揃ってワイワイする、洋風のアレだ。暖炉があってソファがあって、マグカップに注がれたココアを飲んで的なあの部屋だ。
「標様、お待ちしておりました」
「立てい!膝を付くのはウンコを漏らした時と、愛する人の***をねぶる時だけにしなさい!」
「はっ」
宜しい。
それにしても、多いだろ。90名近くの魔族が入るには狭いだろ!
「へい!10名ぐらい主要メンバーを残して、後はどっか行け!動けんわ!」
「はっ。散れい!」
「はっ」
ふう、スッキリ。今日も快便だわ。
さて、この王城にいる転生者はこうた君と、俺が連れてきたモブの転生者たち。あと青頭。
転生してどれくらいだろうか。数日、数週間、数ヶ月?それが今日終わる。誠に残念だ。同じ日本人が異国で散るのは残念だ。それと同じぐらい、異国でイキリ散らすのも残念だと思うわけで、これは切腹みたいなもん。同志を切り捨て恥をすすごうじゃあないの。
錦の御旗は我が手に在り!
「こうたは軟禁されております」
「ナイスゥゥ!」
「元老院は堕ちました。標様の意のままでございます」
「――――――はっ?」
「洗脳を完了し、この国は魔族、もとい標様のものでございます」
「WHAT THE FUCK!?」
ドーユーコトーデスカー?ワータシーノイーノマーマー?
「ていうか君、名前なんだっけ」
「バイアでございます標様」
「バイタ……酷い名前だ」
「バイアでございます」
「君の親に文句を言ってやろう。どいつだ?」
「バイア、です!」
「ホント酷い。バイタの中には生活のために必死にって子もいるのにさ。君もその口?」
「――――標様、バイアです。耳垢でも詰まっているのではないですか?」
「ああ、バイアね。悪い悪い。そんなエロい格好してたら、ねえ」
「前に萎えたって言ってたじゃないのさ……」
「今も萎え萎えさっ!」
「え?」
「君はね……」
コンコンと詰めてやった。
版図拡大とか望んでないし、内政して前世の知識で無双とかもしないし、領民から愛されたくもない。
というか、勝手に有能さを発揮するな。むしろ迷惑だ。
俺にそんな取り巻きはいらない。そんな現実あり得ないし認めない。
お前らは奴隷であって、呼吸するのも、糞をするのも、飯を食うのも、すべてが俺の裁量次第。俺の名前を掲げてミッションコンプリートしたつもりなんだろうが、そんなのは唾棄すべき幻想だろうが!主人公みたくなれってか?
そんな配下、そんな部下、そんな甘々な現実なんかねえんだよバカ!
転生者殺しに燃える、復讐の一族じゃねえのかよ。俺のお膳立てする前に、転生者の一人や二人見繕ってきやがれってんだ。
転生者を俺抜きで殺せるぐらいに強くなれってんだよ。
「――――す、すみません、で、でじだ」
そしたら泣くんだぜ?どうよこれ。おかしくない?俺が悪者?
「俺は主人公じゃねーの!主人公嫌いの転生者なの!いいかお前ら、よーく聞け」
ここにいるのは魔族の主要メンバー。ここいらでキッチリと、兜の緒を締めなきゃな。俺も、お前らも。
「転生者、勇者、英雄、俺は主人公と呼んでいる。コイツらの取り巻きみたいな真似はしてくれるな。言われたことを言われた通りにやってりゃあいいんだよ」
俺は唯一無二の反主人公でしかない。それが生きる意味であり、神から頂いた存在意義だ。
ムカつくから、鼻に付くから、キモいから。理由はその時々で揺れ動くさ。しかし共通してんのは主人公が嫌いってこと。主人公と同じにはならない、なってたまるかって思いが根底にあるってこと。
「お前らが世界を手中に収めたいってんなら、好きにしろ。しかぁし!俺の目が黒いうちは禁止だ。分かったな!」
「はっ」
「ゔぅ、はい……」
舐め腐りやがって。一片、いや十返舎一九、ぶっ殺そうかな。
関係ねーな。十返舎一九さん。済まねえ、語呂がよくてつい……。
まあいいさ!気分切り替えて行こうか。
「アンタ、悲しくならないの?」
「ひゃい?ニャンですか、深雪ちゃん」
「アンタも転生者なんでしょ?言ってみれば魔族の勇者じゃない。所詮、主人公の1人じゃないの」
ピキンと、嫌ーな音がした。
怖いなー怖いなー。空気の読めないガキってのは。私がねえ、ガキを睨みつけてやったら、こう言ったんですよ。
「転生者を妬んで殺すだけの、悲しい転生者。アンタって、それだけの人間でしょ?使命がどうのって、言い訳も聞くに耐えないわね」
いやあね、私はこう聞こえたんです。
転生者、つまり主人公に寄生するだけの蛆虫じゃないか。妬み嫉みでちょっかいを掛ける、大人に成れないクソガキじゃないかってね。
怖いなー、怖いなー。
「つまり?何が言いたいのかな?」
5万周ぐらい回って冷静だった。開頭手術をして、脳みそに直接アイスバケツチャレンジをしたぐらいに、冷静だった。ほーんとにトマトパスタぐらい冷製。
「アンタはクソよ。向上心の欠片もない、生きる価値のないゴミ。アンチを掲げるんじゃなくて、地に足つけて、まともになれば?同じ日本人なんだし、仲良くできるはずでしょ?」
…………。
……………………。
………………………………。
…………………………………………。
仰る通りだね。正論、乙。
身に染みるぅ。効いたわ、効いた。
神の使命だとか言って、鬱憤を晴らしてただけだったわ。
それの何が悪いのか、教えてちょ。プリーズPlease。
夢も希望もない俺に、何をもって向上しろと言うのかしら。幸せそうにしてるやつが、偉そうに講釈ですかい。ほうほう、君の言う通りにすれば、俺も幸せになれると言いたいのかな?おっさんに説教カネ。
有り難い、殺したい。感謝と殺意のランデブー。
真っ平御免で御座いやす。
俺は不幸が好きなんでい。破滅と破壊が好きなんでい。努力して少しの恥を飲み込んで、痛みを抱えて助け合って、最後は幸せな没個性に成り下がる。みんなと一緒。唯一無二の全人類になりまっしょい。
と、言いたいのかな?
さすれば、明るい未来が待ってるぞぉぉ!
いやー、結構です。
お前らを痛めつけるだけで十分、明るいっつーの。
日本人同士仲良くしようって?ナショナリストめ。今はグローバル時代ぞ?
「そうだな。お前の言うとおりだ。心を入れ替えるよ」
「――――――――あ、あっそ」
こんなに素直なオッサンいると思う?いないよー。
嘘だよーん。
お前はギッタギタにして、廃人になるまで痛めつけて、良きところ、絶好のタイミング、エクスタシーが最高潮の時に殺すよーん。
「どこ?転生者は」
「は、はっ。ご案内します」
バイアちゃん、そんな怯えなくても大丈夫よ。怒ってない、怒ってない。怒ってても君たちにはな~んにもしないよ。
転生者を殺すだけだよ。
談話室の奥には円形の広間があり、各部屋のドアがずらりと並んでいた。外国の刑務所みたいな造りだ。
「こちらで、ござい、ます」
「何よ、ドギマギしちゃってー」
「はっ。申し訳、ありません」
「もういいから、下がって」
魔族全員、こんな感じになってるのかな。全員後ろに控えてるから顔が見えないけど、バイアは苦い顔をしていたな。怒ってるのか、恥じてるのか。俺みたいなゴミを煽てていた自分たちの浅慮に気付かされたとか?
そうだとしたら、随分と腑抜けてるな。
魔族の恨みが、その程度じゃないことを神に祈ろう。
ノックノックエッグノッグ。
なんてしねえよっと。
『吹っ飛べ』
メシャリ、バギッ!
ドアがひしゃげて、御開帳!居ました、こうた君!わざとらしく、驚いた顔をしています。談話室からここまで、そんなに距離は無かったので、会話は聞こえてたっしょ?
いいリアクションありがとね!
「へーい。久しぶりー!」
「お、お前は!」
「戦うのは止めておこ……」
『武器選択にっかり……』
とぷんと床からこんにちは。ディキさんたちがこうた君の周りを囲んだ。
『影へ沈め』
「ぐっ……」
コイツらは自動防御ができない。バトロワでしっかりと確認したんで、間違いにゃーい。
どうやら自動防御機能は、青頭が特許出願中らしい。俺もモブから奪った能力(設定)を持ってるから知ってる。MENUE画面にある、装備一覧てところに変な石が入ってたんだよ。説明文には「暗闇を照らす石」とか分かり易い記載があった。要するに、洞窟とかで使えるよってことだろう。
他にそれらしい部分がなかったから、自動防御も、多分この類だ。青頭が持ってる何かしらの道具が作動したんだろう。
青頭以外、思ったよりも制御は簡単ってこった。牢屋にいるときも、監視をつけとけば管理できた。
ちゅまり?初手さえ防げば恐るるに足らなくね?
「ずっぽしだな。草生えるわ」
「殺す、のか?」
「イエーーース。その前に余興がある。ゆりかちゃん!」
そんなにモジモジしないのっ!
つーか誰だ!こんな卑猥な縛り方したやつは!乙P……。おつ、おつ…………。
てえてえだなお前。
「C!おいで~」
お前は痩せろ!なかなかの巨乳に育ってんじゃねえか。いや、ちゃうわ。誰だ!男のパイオツを強調して縛ったのは!ド変態の素質があるなあ、緊縛師の才能アリだよ。
「ゆり、か。無事だったか」
「こうた……」
「無事に決まってんじゃん。俺をなんだと思ってんだよ」
「頼む、ゆりかは助けてくれ。何でもするから」
ほーん。何でも?何でもって言えば、大概のことはどうにかなると思ってる?ナメすぎだから。Cぐらい舐め過ぎだから。痛くなっちゃうよ。ゆりかちゃんヒリヒリしちゃうよ。
現実をナメすぎなんだよ。
何かがおかしい。魔王戦の後から立て続けにクラスメイトが死んでいった。数名が王城を離れたことはあった。でも死人が出たことは無かった。きっと魔王が何かしたんだろう。
クソッ、こんな時に牢屋に閉じ込められるなんて。
友梨佳が心配だ。
クラスメイトたちの様子が変なんだ。なんというか、能面みたい表情がなくて、時折見せる顔が作り物のようで。誰もが持つ感情っていうモノが、まるでないように感じられることが増えた。
こんな時に一人残すなんて。友梨佳……。
「ここですよぉバイアさまぁ」
友梨佳!?今の声は友梨佳だ!
「ふ~ん、随分といい暮らしじゃないか」
あの声は……誰だろうか。
バイア様?偉い貴族だろうか。
城内は人が多くて覚えきれないんだよな。
にしても、友梨佳は貴族に知り合いがいるのか。
「住心地はどうだい?」
コイツは……。
魔王に捕らえられていた人間じゃないか。王都に連れ帰って騎士に引き渡し、既に故郷に帰ったと聞いた。何故ここに居るんだ。
「ソルティドッグ、手を出されたかい?」
「はい。無理矢理捩じ込まれて……」
「はあ、そうかい。そりゃあ痛かったろうね」
ソルティドッグ……?友梨佳、だろ?
友梨佳と救い出した女がニヤリと嗤った。
すると、口角が裂けて股先から這い出るエイリアンのように、鋭い牙が露出した。顔色が紫に変わり、手の爪から足までが露悪的な様相に変わり、バサリと音を立てる漆黒の翼。ゆらりと気だるげな尻尾。
そして、あらゆる不浄を詰め込んだような魔力。
「お前ら、お前たちが魔族、か」
「初見かい?そんなんでよく村まで来たねえ」
王国が実験用に飼育している魔族を見たことがある。痩せ細り、落ち窪んだ目をした、生ける屍だった。脅威は感じられない、ただの異形だった。
全然違うじゃないか。
人間に擬態?しかも、見分けがつかないほど精巧に……。
この禍々しい魔力は?恐怖を撫ぜるこんな魔力、感じたことがない。
「アンタが最後の生き残り。変な気は起こさないことだねえ」
「友梨佳は何処だ」
「村にいるよ」
いつの間に……。結界の檻に閉じ込められたあの時か?それ以外に考えられない。しかしどうやって。いやそんなことはどうでもいい。俺が最後の生き残りってことは、アイツら皆、死んだってことなのか。全員が、人の皮を被っていた魔族だったってことなのか。
友梨佳……。
俺はずっと、魔族と…………。
あのイカれた魔王の元で一人拘束される友梨佳。助け出さなくては。殺される前に。殺すよりも恐ろしい目に遭う前に。
『武器選択……』
「いいのかい?私達に傷をつければ、アンタの恋人が死ぬかもしれないのにねえ」
「――――クソッ」
どうすればいいんだ。一体どうすれば。
「残念だねえ。この国の終わりとともに、アンタらも死ぬんだからねえ」
「国が終わる?どういう意味だ」
「そのままの意味さ。フフフ、せいぜい余生を楽しみな」
去っていく彼女たち。その背後に魔法を放つことは簡単だった。しかし、友梨佳が人質に取られている今は何もできない。
今は――――。
※※※
結局、瞬間移動しました。城が思ったよりも遠くてさ。どっかで見たような城下にも見飽きたんすよ。人間の一歩ってのは、小さいものだねえ。ちまちま大変だぜ。
こうして溢れ返る騎士たちも、大変だぜ。勝てないと分かってるのに出てこなきゃあイケないんだからさあ。
「ぐあっ」
「うぉぉぉぉお!ぐべっ」
「標様、終わりました」
「オッス」
ダイキリ兄やんが適当にあしらってくれた。
ここは、転生者たちが暮らしていた部屋の大広間。談話室?皆が揃ってワイワイする、洋風のアレだ。暖炉があってソファがあって、マグカップに注がれたココアを飲んで的なあの部屋だ。
「標様、お待ちしておりました」
「立てい!膝を付くのはウンコを漏らした時と、愛する人の***をねぶる時だけにしなさい!」
「はっ」
宜しい。
それにしても、多いだろ。90名近くの魔族が入るには狭いだろ!
「へい!10名ぐらい主要メンバーを残して、後はどっか行け!動けんわ!」
「はっ。散れい!」
「はっ」
ふう、スッキリ。今日も快便だわ。
さて、この王城にいる転生者はこうた君と、俺が連れてきたモブの転生者たち。あと青頭。
転生してどれくらいだろうか。数日、数週間、数ヶ月?それが今日終わる。誠に残念だ。同じ日本人が異国で散るのは残念だ。それと同じぐらい、異国でイキリ散らすのも残念だと思うわけで、これは切腹みたいなもん。同志を切り捨て恥をすすごうじゃあないの。
錦の御旗は我が手に在り!
「こうたは軟禁されております」
「ナイスゥゥ!」
「元老院は堕ちました。標様の意のままでございます」
「――――――はっ?」
「洗脳を完了し、この国は魔族、もとい標様のものでございます」
「WHAT THE FUCK!?」
ドーユーコトーデスカー?ワータシーノイーノマーマー?
「ていうか君、名前なんだっけ」
「バイアでございます標様」
「バイタ……酷い名前だ」
「バイアでございます」
「君の親に文句を言ってやろう。どいつだ?」
「バイア、です!」
「ホント酷い。バイタの中には生活のために必死にって子もいるのにさ。君もその口?」
「――――標様、バイアです。耳垢でも詰まっているのではないですか?」
「ああ、バイアね。悪い悪い。そんなエロい格好してたら、ねえ」
「前に萎えたって言ってたじゃないのさ……」
「今も萎え萎えさっ!」
「え?」
「君はね……」
コンコンと詰めてやった。
版図拡大とか望んでないし、内政して前世の知識で無双とかもしないし、領民から愛されたくもない。
というか、勝手に有能さを発揮するな。むしろ迷惑だ。
俺にそんな取り巻きはいらない。そんな現実あり得ないし認めない。
お前らは奴隷であって、呼吸するのも、糞をするのも、飯を食うのも、すべてが俺の裁量次第。俺の名前を掲げてミッションコンプリートしたつもりなんだろうが、そんなのは唾棄すべき幻想だろうが!主人公みたくなれってか?
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そしたら泣くんだぜ?どうよこれ。おかしくない?俺が悪者?
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ここにいるのは魔族の主要メンバー。ここいらでキッチリと、兜の緒を締めなきゃな。俺も、お前らも。
「転生者、勇者、英雄、俺は主人公と呼んでいる。コイツらの取り巻きみたいな真似はしてくれるな。言われたことを言われた通りにやってりゃあいいんだよ」
俺は唯一無二の反主人公でしかない。それが生きる意味であり、神から頂いた存在意義だ。
ムカつくから、鼻に付くから、キモいから。理由はその時々で揺れ動くさ。しかし共通してんのは主人公が嫌いってこと。主人公と同じにはならない、なってたまるかって思いが根底にあるってこと。
「お前らが世界を手中に収めたいってんなら、好きにしろ。しかぁし!俺の目が黒いうちは禁止だ。分かったな!」
「はっ」
「ゔぅ、はい……」
舐め腐りやがって。一片、いや十返舎一九、ぶっ殺そうかな。
関係ねーな。十返舎一九さん。済まねえ、語呂がよくてつい……。
まあいいさ!気分切り替えて行こうか。
「アンタ、悲しくならないの?」
「ひゃい?ニャンですか、深雪ちゃん」
「アンタも転生者なんでしょ?言ってみれば魔族の勇者じゃない。所詮、主人公の1人じゃないの」
ピキンと、嫌ーな音がした。
怖いなー怖いなー。空気の読めないガキってのは。私がねえ、ガキを睨みつけてやったら、こう言ったんですよ。
「転生者を妬んで殺すだけの、悲しい転生者。アンタって、それだけの人間でしょ?使命がどうのって、言い訳も聞くに耐えないわね」
いやあね、私はこう聞こえたんです。
転生者、つまり主人公に寄生するだけの蛆虫じゃないか。妬み嫉みでちょっかいを掛ける、大人に成れないクソガキじゃないかってね。
怖いなー、怖いなー。
「つまり?何が言いたいのかな?」
5万周ぐらい回って冷静だった。開頭手術をして、脳みそに直接アイスバケツチャレンジをしたぐらいに、冷静だった。ほーんとにトマトパスタぐらい冷製。
「アンタはクソよ。向上心の欠片もない、生きる価値のないゴミ。アンチを掲げるんじゃなくて、地に足つけて、まともになれば?同じ日本人なんだし、仲良くできるはずでしょ?」
…………。
……………………。
………………………………。
…………………………………………。
仰る通りだね。正論、乙。
身に染みるぅ。効いたわ、効いた。
神の使命だとか言って、鬱憤を晴らしてただけだったわ。
それの何が悪いのか、教えてちょ。プリーズPlease。
夢も希望もない俺に、何をもって向上しろと言うのかしら。幸せそうにしてるやつが、偉そうに講釈ですかい。ほうほう、君の言う通りにすれば、俺も幸せになれると言いたいのかな?おっさんに説教カネ。
有り難い、殺したい。感謝と殺意のランデブー。
真っ平御免で御座いやす。
俺は不幸が好きなんでい。破滅と破壊が好きなんでい。努力して少しの恥を飲み込んで、痛みを抱えて助け合って、最後は幸せな没個性に成り下がる。みんなと一緒。唯一無二の全人類になりまっしょい。
と、言いたいのかな?
さすれば、明るい未来が待ってるぞぉぉ!
いやー、結構です。
お前らを痛めつけるだけで十分、明るいっつーの。
日本人同士仲良くしようって?ナショナリストめ。今はグローバル時代ぞ?
「そうだな。お前の言うとおりだ。心を入れ替えるよ」
「――――――――あ、あっそ」
こんなに素直なオッサンいると思う?いないよー。
嘘だよーん。
お前はギッタギタにして、廃人になるまで痛めつけて、良きところ、絶好のタイミング、エクスタシーが最高潮の時に殺すよーん。
「どこ?転生者は」
「は、はっ。ご案内します」
バイアちゃん、そんな怯えなくても大丈夫よ。怒ってない、怒ってない。怒ってても君たちにはな~んにもしないよ。
転生者を殺すだけだよ。
談話室の奥には円形の広間があり、各部屋のドアがずらりと並んでいた。外国の刑務所みたいな造りだ。
「こちらで、ござい、ます」
「何よ、ドギマギしちゃってー」
「はっ。申し訳、ありません」
「もういいから、下がって」
魔族全員、こんな感じになってるのかな。全員後ろに控えてるから顔が見えないけど、バイアは苦い顔をしていたな。怒ってるのか、恥じてるのか。俺みたいなゴミを煽てていた自分たちの浅慮に気付かされたとか?
そうだとしたら、随分と腑抜けてるな。
魔族の恨みが、その程度じゃないことを神に祈ろう。
ノックノックエッグノッグ。
なんてしねえよっと。
『吹っ飛べ』
メシャリ、バギッ!
ドアがひしゃげて、御開帳!居ました、こうた君!わざとらしく、驚いた顔をしています。談話室からここまで、そんなに距離は無かったので、会話は聞こえてたっしょ?
いいリアクションありがとね!
「へーい。久しぶりー!」
「お、お前は!」
「戦うのは止めておこ……」
『武器選択にっかり……』
とぷんと床からこんにちは。ディキさんたちがこうた君の周りを囲んだ。
『影へ沈め』
「ぐっ……」
コイツらは自動防御ができない。バトロワでしっかりと確認したんで、間違いにゃーい。
どうやら自動防御機能は、青頭が特許出願中らしい。俺もモブから奪った能力(設定)を持ってるから知ってる。MENUE画面にある、装備一覧てところに変な石が入ってたんだよ。説明文には「暗闇を照らす石」とか分かり易い記載があった。要するに、洞窟とかで使えるよってことだろう。
他にそれらしい部分がなかったから、自動防御も、多分この類だ。青頭が持ってる何かしらの道具が作動したんだろう。
青頭以外、思ったよりも制御は簡単ってこった。牢屋にいるときも、監視をつけとけば管理できた。
ちゅまり?初手さえ防げば恐るるに足らなくね?
「ずっぽしだな。草生えるわ」
「殺す、のか?」
「イエーーース。その前に余興がある。ゆりかちゃん!」
そんなにモジモジしないのっ!
つーか誰だ!こんな卑猥な縛り方したやつは!乙P……。おつ、おつ…………。
てえてえだなお前。
「C!おいで~」
お前は痩せろ!なかなかの巨乳に育ってんじゃねえか。いや、ちゃうわ。誰だ!男のパイオツを強調して縛ったのは!ド変態の素質があるなあ、緊縛師の才能アリだよ。
「ゆり、か。無事だったか」
「こうた……」
「無事に決まってんじゃん。俺をなんだと思ってんだよ」
「頼む、ゆりかは助けてくれ。何でもするから」
ほーん。何でも?何でもって言えば、大概のことはどうにかなると思ってる?ナメすぎだから。Cぐらい舐め過ぎだから。痛くなっちゃうよ。ゆりかちゃんヒリヒリしちゃうよ。
現実をナメすぎなんだよ。
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とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
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