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27.天界に起きた波乱
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「アンラ・マンユが動いた……」
あの邪神が謀逆ができようはずもない。魔族は徹底的に殺したのだから、あの神に力はないはず。
祈りの数は力となる。その力を行使するのは祈る者を救う時。たかだか数百名の祈りで存在する神が、私達に牙を向いただと?
愚か者め。
「弁財天が来ませんな」
「どこにいる」
「さあ。もしかすると、死んだのでは?」
「本気で言っているのか、毘沙門天」
「彼女がこの席に座らなかったことがありましょうや」
いつもなら空席が目立つこの会合で、今の空きは2つだけ。
弁財天とアンラ・マンユの席だ。
アンラ・マンユを出席させたことはない。
何故ならこの会合が、魔族を如何にして扱うかという会だからだ。
弁財天は毎度必ず出席していた。オークという下等種族に肩入れをする、変わった奴だったが、神としては素晴らしかった。
まさか本当に死んだというのか。神が死ぬだと?起きてはならない。神が死ぬのは、神によって殺される以外にあり得ないこと。それが起きたというのか。
「まずは座って、話し合いましょう。ゼウス殿」
「ああ、そうだな」
プロメテウス、お前が一番憂慮しているのだろう?ユーラケー王国という人間の庭が、荒らされることを。一番義憤を覚えているのだろう?危険な刃が国の中枢に向けられていることに。
愚王を誅し、稀代の女王が見つかったというのに。悔しかろう、何故今なのかと。
バダンッ!
突然扉が開いたかと思えば、倒れ込んだのは、血濡れた天使、ウリエルだった。
まさか……。
「ワシは除け者かの、ゼウス」
「アンラ・マンユ」
熾天使であるウリエルがこの有様。ということは、この宮を守護する者は……。
「殺したわ。心配せずとも良い、お前たちに危害は加えん」
「分を弁えろ。お前如きに殺られるはずもない」
「――――相変わらず傲慢じゃの、ゼウス」
「どんなカラクリで力を得た」
「知っておるのだろう?弁財天を殺したのだ」
遂に始まったのか。争乱の時代が。
神を殺すなど、無益で愚かしい真似を。
「わざわざ報告に来たか。ご苦労」
「報告ついでに一つ、言うておく」
「――――なんだ」
「これまでの恨み、必ず果たすのでな。せいぜい足掻くことじゃ」
「ここにいる12の神を殺すとでもいうのか」
「フッ、フハハハ」
「何が可笑しい」
「必要ならば、な」
クロークを靡かせ、部屋を去った。必要ならばとは、殺しが目的ではないということか。
であれば弁財天は必要だから殺された。
復讐、恐らく祈る者を消そうと目論んでいるのだろう。我々がそうしたように。
愚かだ。12の神に対抗できると思っているのか。それぞれが遣わした転生者に抵抗する術を持っているというのか?耄碌したなジジイ。見誤っているぞ。
「ゼウスちゃん、どうするの~?」
「魔族は危険だから殺す、これまで通りだアフロディーテ」
「ンフッ。アンラ・マンユ、お爺ちゃんになってたわね~」
「疲弊しているのだろうな」
ここにいる皆、祈る者が増え続けているから若々しいままだ。魔族とは違って、世界に広がり子を増やし、互いの神を認め祈る。我らが協力し合えば、祈る者という限られた牌を奪う必要はないのだ。
魔族以外の生物は、魔族を敵として認識している。我らが遣わした転生者たちが、市井へとそう伝えたから。世代を超えて連綿と受け継がれ、もはや疑う者はいない。そして神を疑う者もいない。
繰り返す魔族への攻撃が、魔族の反抗を呼び、生物が報復を受け、いつしか互いに復讐の種を持ち、転生者を寄越せと我々に祈りが届く。
繰り返し、繰り返し、転生者を送り込み、遂に魔族を追い詰めた。
だが残滅させるのは得策ではないだろう。
共通の敵が居てこそ、生物は手を取り合い、我らに祈りを捧げるのだから。
※※※
天界に浮かぶ、我が嶮難宮には、豪奢な門も荘厳な道もない。
質素な残骸こそ、我が城。天井は砂礫と化し、どこか遠くで星星の一部にでもなっているのだろう。
暗い広間、剥がれ落ちる壁。歩く度に足の裏へと突き刺さる。この痛みにも慣れてしまった。
唯一、正しく有る椅子。魔族の目の如き色を湛えた、背もたれと座面。見上げる空を思わせる黒色の肘掛け。砂埃で薄汚れた、権威の象徴。
椅子の前の段差に腰掛けて、一息ついた。
入口から続く血の足跡に、ため息が出た。何度も何度も往復して懊悩。一歩城を出ては自らの有り様に恥じ入る。そして遂には椅子に戻ってきて来た。
黒ずんだ床が、我が記憶を呼び起こす。
愚かだ、なんとも愚か。
魔族の為にあるワシが、どうして他の神に遠慮したのか。
仕える天使も愛翫の獣もいない居城は、黄道から外れ、酷く冷たい風が吹く。
骨まで凍り動けなくなった頃、魔族もまた冷たくなっていった。
一人では勝てるはずもない。
ゼウスの宮、傅蛇宮に入れるはずもない。
忌み嫌われる魔族の神を、誰が気に掛け、誰が助くというのか。魔族こそが佑を待っていたというのに。
諦観に至り、祈る者の死を幾度も見た。
星がよく見える。
万難を迎えるこの宮で、ただ一つの希望だ。世界を作りし、創出者がなんの為にか星星を輝かせる。
暗澹の城を照らすか、はたまた星に成れとでも暗示しているのか。
無常なる日々、魔族の死屍累々が天界に届こうかという折、星が爆ぜた。見たこともない色味を垂れ流し、僅かな温かさが降り注いだのだ。思わず立ち上がり、その一部始終を目に焼き付けた。
美しさには終わりがある。されども、終わりもまた美しい。
ある種の気付きが私に芽生えた。いや、創出者が芽生えさせたのかもしれない。
極地には先がない。星の煌めきと終焉が美しさの極地であるならば、ワシの存在と魔族の命運は、何処にあるのか。星とは対極、醜さの極地だろう。
蔓延る恨み、熱烈な侮蔑、下劣な肉欲、理由なき忌避。
どう足掻いても、これより先に進む事はない。堕ちる事はない。
そして星の如き美しさを手にする事もない。
極地とは、始点がありて終点があるもの。至る道に終わりがあって、始まりがないことがあろうか。
ワシらが終点、醜悪の極地であるからこそ、星が存在し得るのだ。
そんな気付きを得て、祈りに耳を傾けた。よく通る祈り、魔族たちの必死の祈りだ。
『復讐を。復讐を。復讐を』
さもありなん。やはり至る所は醜さの果て。
美しさが爆ぜる様は美しい。
醜さの爆ぜる様は醜い。
まさに道理。
正しくあろうと、彼らに認められようと藻掻いた。常に正しければ、魔族への弾圧が止まるのではないか。他神が定義する善良になれば、魔族もまた認められるのではないか。
試行錯誤の末、出た答えは、無駄。
天秤の対にいて、一所に身を寄せる事はない。
ワシらが軽くなれば、増えるまで静観し、重くなれば、適度に減るまで間引く。
都合のいい重しでしかないのだ。
ワシは魔族の神、アンラ・マンユ。
魔族が祈る神であり、魔族の救いでもある。
正しさでは救われず、善でも救われず、ワシらが忌避されるだけの存在だと気付いたのは、美しさを知った時だった。
ワシらがいれば、美しさは必ず生まれる。極地とはそういうものだから。
ただひたすらに、醜くあれば良い。それで魔族が救われて、また星が煌めくというのなら。
『ジロー』
『……』
『ジロー』
『……ん?』
『ジロー!』
『はっ!?神様!?』
天啓を与えるのは初めてだ。下界への干渉は控えていたが、今さらだろう。
ジローの体をもって、神を一柱殺したのだから。
『転生者狩りはどうじゃ』
『は、はい。えーと、まあ順調です』
『近場に数名おるな。何故じゃ』
『えー、魔族の玩具でございます』
『ふむ、まあ良い。何か変化はないか?』
『変化、ですか?』
『体調に違和感などないか』
守護神への厭忌を使用した場合、ワシがジローの体に乗り移る。それはつまり、ジローの体を異質にするということだ。
魂には魂の容れ物がある。人間の魂は人間に、動物の魂は動物に宿る。
ジローが愛でていたあのネズミ、あれは神の調整が入り込んだ為に、理から外れてしまった者。神の恩寵を与えられた謂わば半神、ただの転生者ではないのだ。
実際、弁財天がネズミの体を借りていた。恐らく、その為だけにネズミに転生させたのだろう。
そしてワシが、ジローの体に乗り移るということは、ネズミと同じく理を変えるということ。人間からすれば恩寵だが、ヒトならざる者に変えてしまうということでもある。
ジローは半神となり、何かしらの影響が出ているはずだが……。
『イライラしているぐらいですかね』
『イライラ?原因は?』
『それが無いんです。ああそれからムラムラすることも』
『それは本能的なものではないのか』
『いやー魔族を見るとムラムラするんです。見ると、というより魔力にムラっと』
『ふむ』
半神となり発生する影響とは、神の何かを受け継いでしまうことだ。例えば神の力の一部を得たりする。
『恐らく、魔族の祈りを感じているのだろう』
『祈りですか?』
『完全な声として受け取ることは出来ていないが、感情だけがお前に伝わっているのだろうな』
『どうすればいいのです?』
『魔族に聞くのじゃ。その感情の訳を』
『なるほど。何故急にこんなことに……』
『お前は半神となった。ワシの力を受け継いでおる』
『半神、俺が……』
『魔族を頼むぞ。ワシはここですべきことがある』
『はっ』
さて、まずは力を蓄えねばな。
※※※
はい。私こそが神です。
嘘です。
半神となりました。タイガースじゃない方の半神です。
ヤバない?神ってさ。
チョーーー神ーー。
はい、神です。まあ半分ですけどね。
って会話もできるわけよ。強くね?マジで全能感パネェーー。
「ディキ」
「はっ」
「何か怒ってる?」
「いえ」
「じゃあ魔族が不満に思ってることない?」
「――――いえ、ないはずで、す?」
意味わからんよなー。急に変な質問されてさ。
「族長どこ?団長どこ?皆どこ?」
「転生者の元でございます」
「ふーん。行ってみるか」
ポチと二人っきりも悪くない。悪くないんだけど、ジジババが居ないのも寂しいものだ。
ムチ子さんはジョンのとこに嫁いだし。
俺を愛してくれるのはポチだけだなー。
「ワフっ」
「――――よーちよーちよーちよちよち。すぐに帰ってくるからねー」
カァァァワユイのお。
さて来ました、磔の広場。村の入口です。完全に、サイコパスが住む村です。
客観的に、控えめに評価しても、イかれてる。
現代アート的なノリで、村の入口に磔にされた人間がいるんだぜ?クレイジーにも程がある。
「――――ひぃっ」
「――――ゔぅ」
なぜ俺を見てビビる。おかしいだろっ!生ハムみたいにしたのは、そこにいる魔族たちだろ!
ふざけんなよっ!ケバブ野郎がっ!
おっとイケねえ、イライラするな。これも魔族たちの祈りのせい。ちゃんと聞き取りしないと。
「へい!族長!」
「これは、標様。如何いたしましたかな?」
「何か苛ついてる?」
「はっ?」
「神にイライラを祈っただろ。それが俺にも届いてんのよ。云うてみよ」
「――――神への祈りが標様に。左様ですか」
「何か不都合でも?」
「い、いえ」
挙動不審!不都合がアリアリのマシマシじゃねえか!何よ、俺が何したよ!こうして地面が赤くなるぐらいに憂さ晴らししといて何さ!プンプン。
「早く言え。お前らが苛ついてる通り、俺も苛ついてるんだ」
「はっ。お気を悪くしませんよう……」
転生者を甚振るのはスッキリしますぅ。
でもぉ、同じ奴の肉ばっか削いでるとぉ、コイツが悪いわけじゃないのになぁって……。
転生者全員が悪いのにぃ、他の奴らがのうのうと生きてるのってぇ、マヂムリィ。
ってことらしい。
まとめると……。
他の奴もボコろうぜ!ヒャッハー!
狂戦士めっ!言わんとしてることは分かるけど、ペース早くね?北○の拳ぐらい、この世を荒廃させるつもりかい?お前ら全員モヒカンにしなきゃ、納得しないぜ。
「我らと同じ運命を辿らせねば、気が済みませぬ」
「はいはい、分かりましたよ」
そろそろ動く時期だったし?まあ別にいいけどさ。
「王都に行ってみますか!」
「王都ですか!?」
何をビビってんだよ。当たり前だろうが!王都に愉しみが詰まってんだよ!カニ味噌ぐらいたっぷりな!
「転生者全員参加な~」
あの邪神が謀逆ができようはずもない。魔族は徹底的に殺したのだから、あの神に力はないはず。
祈りの数は力となる。その力を行使するのは祈る者を救う時。たかだか数百名の祈りで存在する神が、私達に牙を向いただと?
愚か者め。
「弁財天が来ませんな」
「どこにいる」
「さあ。もしかすると、死んだのでは?」
「本気で言っているのか、毘沙門天」
「彼女がこの席に座らなかったことがありましょうや」
いつもなら空席が目立つこの会合で、今の空きは2つだけ。
弁財天とアンラ・マンユの席だ。
アンラ・マンユを出席させたことはない。
何故ならこの会合が、魔族を如何にして扱うかという会だからだ。
弁財天は毎度必ず出席していた。オークという下等種族に肩入れをする、変わった奴だったが、神としては素晴らしかった。
まさか本当に死んだというのか。神が死ぬだと?起きてはならない。神が死ぬのは、神によって殺される以外にあり得ないこと。それが起きたというのか。
「まずは座って、話し合いましょう。ゼウス殿」
「ああ、そうだな」
プロメテウス、お前が一番憂慮しているのだろう?ユーラケー王国という人間の庭が、荒らされることを。一番義憤を覚えているのだろう?危険な刃が国の中枢に向けられていることに。
愚王を誅し、稀代の女王が見つかったというのに。悔しかろう、何故今なのかと。
バダンッ!
突然扉が開いたかと思えば、倒れ込んだのは、血濡れた天使、ウリエルだった。
まさか……。
「ワシは除け者かの、ゼウス」
「アンラ・マンユ」
熾天使であるウリエルがこの有様。ということは、この宮を守護する者は……。
「殺したわ。心配せずとも良い、お前たちに危害は加えん」
「分を弁えろ。お前如きに殺られるはずもない」
「――――相変わらず傲慢じゃの、ゼウス」
「どんなカラクリで力を得た」
「知っておるのだろう?弁財天を殺したのだ」
遂に始まったのか。争乱の時代が。
神を殺すなど、無益で愚かしい真似を。
「わざわざ報告に来たか。ご苦労」
「報告ついでに一つ、言うておく」
「――――なんだ」
「これまでの恨み、必ず果たすのでな。せいぜい足掻くことじゃ」
「ここにいる12の神を殺すとでもいうのか」
「フッ、フハハハ」
「何が可笑しい」
「必要ならば、な」
クロークを靡かせ、部屋を去った。必要ならばとは、殺しが目的ではないということか。
であれば弁財天は必要だから殺された。
復讐、恐らく祈る者を消そうと目論んでいるのだろう。我々がそうしたように。
愚かだ。12の神に対抗できると思っているのか。それぞれが遣わした転生者に抵抗する術を持っているというのか?耄碌したなジジイ。見誤っているぞ。
「ゼウスちゃん、どうするの~?」
「魔族は危険だから殺す、これまで通りだアフロディーテ」
「ンフッ。アンラ・マンユ、お爺ちゃんになってたわね~」
「疲弊しているのだろうな」
ここにいる皆、祈る者が増え続けているから若々しいままだ。魔族とは違って、世界に広がり子を増やし、互いの神を認め祈る。我らが協力し合えば、祈る者という限られた牌を奪う必要はないのだ。
魔族以外の生物は、魔族を敵として認識している。我らが遣わした転生者たちが、市井へとそう伝えたから。世代を超えて連綿と受け継がれ、もはや疑う者はいない。そして神を疑う者もいない。
繰り返す魔族への攻撃が、魔族の反抗を呼び、生物が報復を受け、いつしか互いに復讐の種を持ち、転生者を寄越せと我々に祈りが届く。
繰り返し、繰り返し、転生者を送り込み、遂に魔族を追い詰めた。
だが残滅させるのは得策ではないだろう。
共通の敵が居てこそ、生物は手を取り合い、我らに祈りを捧げるのだから。
※※※
天界に浮かぶ、我が嶮難宮には、豪奢な門も荘厳な道もない。
質素な残骸こそ、我が城。天井は砂礫と化し、どこか遠くで星星の一部にでもなっているのだろう。
暗い広間、剥がれ落ちる壁。歩く度に足の裏へと突き刺さる。この痛みにも慣れてしまった。
唯一、正しく有る椅子。魔族の目の如き色を湛えた、背もたれと座面。見上げる空を思わせる黒色の肘掛け。砂埃で薄汚れた、権威の象徴。
椅子の前の段差に腰掛けて、一息ついた。
入口から続く血の足跡に、ため息が出た。何度も何度も往復して懊悩。一歩城を出ては自らの有り様に恥じ入る。そして遂には椅子に戻ってきて来た。
黒ずんだ床が、我が記憶を呼び起こす。
愚かだ、なんとも愚か。
魔族の為にあるワシが、どうして他の神に遠慮したのか。
仕える天使も愛翫の獣もいない居城は、黄道から外れ、酷く冷たい風が吹く。
骨まで凍り動けなくなった頃、魔族もまた冷たくなっていった。
一人では勝てるはずもない。
ゼウスの宮、傅蛇宮に入れるはずもない。
忌み嫌われる魔族の神を、誰が気に掛け、誰が助くというのか。魔族こそが佑を待っていたというのに。
諦観に至り、祈る者の死を幾度も見た。
星がよく見える。
万難を迎えるこの宮で、ただ一つの希望だ。世界を作りし、創出者がなんの為にか星星を輝かせる。
暗澹の城を照らすか、はたまた星に成れとでも暗示しているのか。
無常なる日々、魔族の死屍累々が天界に届こうかという折、星が爆ぜた。見たこともない色味を垂れ流し、僅かな温かさが降り注いだのだ。思わず立ち上がり、その一部始終を目に焼き付けた。
美しさには終わりがある。されども、終わりもまた美しい。
ある種の気付きが私に芽生えた。いや、創出者が芽生えさせたのかもしれない。
極地には先がない。星の煌めきと終焉が美しさの極地であるならば、ワシの存在と魔族の命運は、何処にあるのか。星とは対極、醜さの極地だろう。
蔓延る恨み、熱烈な侮蔑、下劣な肉欲、理由なき忌避。
どう足掻いても、これより先に進む事はない。堕ちる事はない。
そして星の如き美しさを手にする事もない。
極地とは、始点がありて終点があるもの。至る道に終わりがあって、始まりがないことがあろうか。
ワシらが終点、醜悪の極地であるからこそ、星が存在し得るのだ。
そんな気付きを得て、祈りに耳を傾けた。よく通る祈り、魔族たちの必死の祈りだ。
『復讐を。復讐を。復讐を』
さもありなん。やはり至る所は醜さの果て。
美しさが爆ぜる様は美しい。
醜さの爆ぜる様は醜い。
まさに道理。
正しくあろうと、彼らに認められようと藻掻いた。常に正しければ、魔族への弾圧が止まるのではないか。他神が定義する善良になれば、魔族もまた認められるのではないか。
試行錯誤の末、出た答えは、無駄。
天秤の対にいて、一所に身を寄せる事はない。
ワシらが軽くなれば、増えるまで静観し、重くなれば、適度に減るまで間引く。
都合のいい重しでしかないのだ。
ワシは魔族の神、アンラ・マンユ。
魔族が祈る神であり、魔族の救いでもある。
正しさでは救われず、善でも救われず、ワシらが忌避されるだけの存在だと気付いたのは、美しさを知った時だった。
ワシらがいれば、美しさは必ず生まれる。極地とはそういうものだから。
ただひたすらに、醜くあれば良い。それで魔族が救われて、また星が煌めくというのなら。
『ジロー』
『……』
『ジロー』
『……ん?』
『ジロー!』
『はっ!?神様!?』
天啓を与えるのは初めてだ。下界への干渉は控えていたが、今さらだろう。
ジローの体をもって、神を一柱殺したのだから。
『転生者狩りはどうじゃ』
『は、はい。えーと、まあ順調です』
『近場に数名おるな。何故じゃ』
『えー、魔族の玩具でございます』
『ふむ、まあ良い。何か変化はないか?』
『変化、ですか?』
『体調に違和感などないか』
守護神への厭忌を使用した場合、ワシがジローの体に乗り移る。それはつまり、ジローの体を異質にするということだ。
魂には魂の容れ物がある。人間の魂は人間に、動物の魂は動物に宿る。
ジローが愛でていたあのネズミ、あれは神の調整が入り込んだ為に、理から外れてしまった者。神の恩寵を与えられた謂わば半神、ただの転生者ではないのだ。
実際、弁財天がネズミの体を借りていた。恐らく、その為だけにネズミに転生させたのだろう。
そしてワシが、ジローの体に乗り移るということは、ネズミと同じく理を変えるということ。人間からすれば恩寵だが、ヒトならざる者に変えてしまうということでもある。
ジローは半神となり、何かしらの影響が出ているはずだが……。
『イライラしているぐらいですかね』
『イライラ?原因は?』
『それが無いんです。ああそれからムラムラすることも』
『それは本能的なものではないのか』
『いやー魔族を見るとムラムラするんです。見ると、というより魔力にムラっと』
『ふむ』
半神となり発生する影響とは、神の何かを受け継いでしまうことだ。例えば神の力の一部を得たりする。
『恐らく、魔族の祈りを感じているのだろう』
『祈りですか?』
『完全な声として受け取ることは出来ていないが、感情だけがお前に伝わっているのだろうな』
『どうすればいいのです?』
『魔族に聞くのじゃ。その感情の訳を』
『なるほど。何故急にこんなことに……』
『お前は半神となった。ワシの力を受け継いでおる』
『半神、俺が……』
『魔族を頼むぞ。ワシはここですべきことがある』
『はっ』
さて、まずは力を蓄えねばな。
※※※
はい。私こそが神です。
嘘です。
半神となりました。タイガースじゃない方の半神です。
ヤバない?神ってさ。
チョーーー神ーー。
はい、神です。まあ半分ですけどね。
って会話もできるわけよ。強くね?マジで全能感パネェーー。
「ディキ」
「はっ」
「何か怒ってる?」
「いえ」
「じゃあ魔族が不満に思ってることない?」
「――――いえ、ないはずで、す?」
意味わからんよなー。急に変な質問されてさ。
「族長どこ?団長どこ?皆どこ?」
「転生者の元でございます」
「ふーん。行ってみるか」
ポチと二人っきりも悪くない。悪くないんだけど、ジジババが居ないのも寂しいものだ。
ムチ子さんはジョンのとこに嫁いだし。
俺を愛してくれるのはポチだけだなー。
「ワフっ」
「――――よーちよーちよーちよちよち。すぐに帰ってくるからねー」
カァァァワユイのお。
さて来ました、磔の広場。村の入口です。完全に、サイコパスが住む村です。
客観的に、控えめに評価しても、イかれてる。
現代アート的なノリで、村の入口に磔にされた人間がいるんだぜ?クレイジーにも程がある。
「――――ひぃっ」
「――――ゔぅ」
なぜ俺を見てビビる。おかしいだろっ!生ハムみたいにしたのは、そこにいる魔族たちだろ!
ふざけんなよっ!ケバブ野郎がっ!
おっとイケねえ、イライラするな。これも魔族たちの祈りのせい。ちゃんと聞き取りしないと。
「へい!族長!」
「これは、標様。如何いたしましたかな?」
「何か苛ついてる?」
「はっ?」
「神にイライラを祈っただろ。それが俺にも届いてんのよ。云うてみよ」
「――――神への祈りが標様に。左様ですか」
「何か不都合でも?」
「い、いえ」
挙動不審!不都合がアリアリのマシマシじゃねえか!何よ、俺が何したよ!こうして地面が赤くなるぐらいに憂さ晴らししといて何さ!プンプン。
「早く言え。お前らが苛ついてる通り、俺も苛ついてるんだ」
「はっ。お気を悪くしませんよう……」
転生者を甚振るのはスッキリしますぅ。
でもぉ、同じ奴の肉ばっか削いでるとぉ、コイツが悪いわけじゃないのになぁって……。
転生者全員が悪いのにぃ、他の奴らがのうのうと生きてるのってぇ、マヂムリィ。
ってことらしい。
まとめると……。
他の奴もボコろうぜ!ヒャッハー!
狂戦士めっ!言わんとしてることは分かるけど、ペース早くね?北○の拳ぐらい、この世を荒廃させるつもりかい?お前ら全員モヒカンにしなきゃ、納得しないぜ。
「我らと同じ運命を辿らせねば、気が済みませぬ」
「はいはい、分かりましたよ」
そろそろ動く時期だったし?まあ別にいいけどさ。
「王都に行ってみますか!」
「王都ですか!?」
何をビビってんだよ。当たり前だろうが!王都に愉しみが詰まってんだよ!カニ味噌ぐらいたっぷりな!
「転生者全員参加な~」
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結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
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30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
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これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
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「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
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