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13.疑心を向ける俺をお救いください神様
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脚が、くっついている。あんな重傷だったのに、いつも通りのジローだ。
「ん?お前……」
マズイ、マズイマズイ!擬態を少しだけ解いていた。ジローがやたら目を覗き込んでくる。赤くなっていたかもしれない、ヤバい。
「目が充血してんな。どんなプレイをしたんだよ、絶対教えろよな!」
「お、おう。それよりもジローは何でここに?」
「あん?そりゃお前、このインディーズバンド頭に黒染めを勧めに来たのよ」
「はあ、よく分からないけど」
「要するに、ぶっ殺すんだよ。そして俺の神様へ捧げる、深い闇の神様へな!」
助かった!来てくれたんだ、しかもジローが。
「モヒート、後で話そうか」
「ヒッ!」
後ろから突然聞こえたのは、一族最強の男の声だった。勇者を一人で打倒したという伝説の男、ダイキリ様だ。
「ダ、ダイキリ様」
「下がっていろ。標様の邪魔になる」
「ダイキリ様!そ、その魔力が……」
この魔力は、人間のものじゃない。魔族本来の魔力だ。ダイキリ様ともあろう御方が、ミスをするなんて。
「標様は知っている。下がれ」
「えっ」
「ジョン、じゃなくてモヒートねえ。さっきの写〇眼、後で見せろよ?」
「い、いや違うんだ」
「話は後だ。神様からのお言葉も伝えたいしな」
「神、様……」
何がどうなっているんだ。神様が俺たちに何を?そして俺たちが魔族だとバレてしまって良かったのか?いや、いいのか。魔族だから問題なんじゃない。標様に忠実な下僕であることが問題なんだ。そのはずだ。
※※※
コイツ、生きていたのか。トドメを刺しておけばよかった。俺の邪魔をするヤツは殺すと誓ったのに、こんなミスをするなんて。まだ足りなかった、足りないんだ覚悟が。
「その女の子魔族だな」
魔族魔族うるさいな。
あの気弱そうな男、ヤツの仲間だったか。どうやら俺は足止めされていたらしい。やられた。たぶん、俺に怯えていたのも演技で時間を稼いでいたのだろう。
そして、もう一人の男の魔力、魔族っぽい。フレデリカの魔力に似ている。とてもどす黒い、どろりとした負のエネルギーがひしひしと伝わる。
「そっちのお連れさんも魔族だろ」
「ああそうだ。それからジョンも魔族だ。ジョンでいいよな?」
「あ、ああジョンでいいよ」
なるほど、魔族とつるむ転生者か。俺と同じじゃないか。だったら戦う必要はないだろう、差別される者同士お互いに歩み寄ろう。
「俺は神とお話してきた。そしてある使命を頂いた、これはマジだ」
「俺に関係があるんだな」
「当然。その女の子を解放して、俺達の村に引き渡せ。そしたらお前は苦しまずに殺してやる、俺の神に誓おう」
「神、というものを俺は信じていない。でもアンタの言葉は信じよう、だからまずは話し合いをしないか?」
「神様の使命だから妥協なんて期待すんなよ?」
「つまりどうしても殺す、そういう事か」
「そうだ。悪いな、お前に恨みが腐るほどある。今すぐに殺っちゃってもいいか?」
「恨まれる覚えがない。そしてフレデリカは渡さない」
「あんだろうがっっ!熟女ぉぉぉぉぉ!」
熟女?コイツ、それで怒ってたのか?奴隷専門の卑猥な店でそういう事を出来なかったから?ヤバすぎだろ。
『良心の呵責、確率操作』
いきなり仕掛けてきたか。俺のステータス画面を見る限り、危険を知らせるアラートは出ていない。なんのスキルだ?ミスフォーチュン、不幸という意味だったはず。何か不幸になるのか?それからレモースってなんだ、聞いたことがない。
とりあえず体力や魔力に異常はないから、攻勢に出ても問題はないだろう。
メニューから武器を選択、コイツがいい、実績は既に証明したからな。
『武器選択、暴れ牛の銃角セット音速の角弾』
邪魔さえしなければ殺さなかったのに。サヨナラ――。
ドオンッ!
くっ、やっぱり反動が大きい。肩当てを追加したほうがいいな、手首が限界だ。
「ユウキッ、大丈夫?」
「んああ、心配すんな。お前は連れて行かせない」
「――うん」
「ん?どうした?」
「ユウキ、怒らない……」
「残念だったなクソボケ!こちとらいっぺん死んで、それなりに考えてんだよ!ギッタギタのベッコベコにしてやっからな!」
は?弾がない、そしてアイツは無傷。
あれは唯の防護壁では?そんなもので音速の角弾を止められる訳がない。戦車で使われる44口径をイメージしたんだぞ?あんなガラスでどうやって止めたんだ。
――スキルか。
確かリフュートと唱えて、一度だけ弾丸を止めていた。アレの応用版か?
いっぺん死んでそれなりに考えた、か。
なるほど、確かに厄介だな。
『ケツから串刺しになれ』
アラート!自動防壁が作動したか。今の攻撃は下から、なるほど。
視覚外からなら通用するとでも思ったのか、甘いな。俺は仲間に見捨てられ、こうして必死に生き延びたんだ。その程度の攻撃じゃあ、魑魅魍魎蠢く森で生きる事も出来ないだろうよ。
最強火力が無理ならば、変則的な攻撃で削り取るしかないか。毒ガエルの消化液と火蜥蜴の着火剤を混ぜ合わせて、浴びせ掛ける!
『弾薬切替、セット液体充填弾』
パァンッ!
これだけじゃあ効かないのは分かっている。弾丸が防護壁にぶつかり、炸裂すれば、防護壁を溶かす消化液に目が行くだろう。だがそれには火蜥蜴の強力な着火剤が含まれている。そこに火を放てば目の前には炎幕が出来上がり、俺を捉えることは出来ない。そして俺の弾丸は、変幻自在にお前を撃ち下ろすだろう。
『弾薬切替、セット通常弾、魔法付与、火』
※※※
ああいう奴の特徴、お前らも分かるだろ?ルビが異常に多い。日本語で十分なのにわざわざ下手くそな英語に翻訳する。絶対英検持ってないだろ、俺持ってるからな?3級。だから、俺はルビを使ってもいい。それでも自重してるってのに、何じゃあいつのルビは。コバエが飛び回ってる感じがして鬱陶しいんだよ。夏場に出し忘れた生ゴミか。
「はーい、火ね火の魔法ね。わー燃えた燃えたー」
俺には『主人公殺しの眼』というニンニン能力がある。これはルビの振り忘れじゃない。しゅじんこうごろしのめ、お前らルビ中毒者にはこうしてひらがなで書いてやれば伝わるだろ。変な英語に変換したりしないのが、うちの神様の優しいところだ。
『良心の呵責、確率操作』とか言ってただろ!って思ったやつ、全員『ケツから串刺しになれ』マジでなれ。先っちょにう〇こがついた串が口から出てくるのを自分の目で確かめろ。二度と俺の神様を侮辱するんじゃねえ。
――まあ、統一してくれよと思わなかったといえば嘘になるが、口には出したことはない。
俺はいいんだよ。お前らは思っただけでも罪だから、内心の自由とか無いから。
話が逸れたな。えーっと、ああ、ニンニン能力があるからこいつの居場所は余裕で分かる。分かるし、魔法で俯瞰して観察することもできる。つまり炎幕ができたところで、だから?って感じなわけよ。
『武器特性付与、黒蛇の鞭』
はい、撃ちましたね。
ということで私の前には防護壁×反駁の対主人公防壁が完成しているので、効きまへん。引っ掛かったなサイケデリックヘアー!ここに来る前、反駁を無詠唱で発動できるように神に依頼したんだよタコ!主人公が努力するような事を土下座で獲得したんだよイカ!
さっき『セット液体充填弾』とか馬鹿みたいに言ってただろ?だから敢えて反駁だけ外しておいたわけよ。そしたら調子乗るかなと思って。で、調子に乗ってくれていると。何か勝った的な雰囲気出てるじゃん。羽生〇治が勝ち筋見えたら手震えます的なノリじゃん。必殺技っぽく空に向けて撃つのはいいけどさ、恥ずいなー。せめてちゃんと狙えよー。キメ顔だけどさ……。
おまはん、まだ勝っとらんじょ?
はいはい、大したことないと思っていた防護壁にぶつかって、そしたら俺の能力で相殺されて消えてしまいます……。
『動かせ』
ヒエッ!何?いきなり体が動いたんだけど!?
ヒョッ!何?地面に穴が空いたんだけど!?
「標様!全方位を防護壁で囲ってください!」
UH-HUH だから勝確面してたんだね。めっちゃ危なかった、突っ立ってたらヘッショだったわ。恥かくとこだった。
助かったけど、ダイキリ君有能すぎて、俺の立場なくない?この展開って主人公っぽくない?んー、神様に言われたしなー、ちょっと不満はあるけど後でしっかりと話し合えばいいかな。
『防護壁×反駁』
ムハハハハ、今度こそ勝てまいよ。ネズミ一匹通れまいよ。あっ、そういえばネズ公元気してるかな。オーク達死んじゃったから落ち込んでたな。後でちょっかい掛けに行こうかしら、もふもふさせて頂きたいし。
何か蘇ってから、無性に手触りのいいものを求めてるんだよなー。なんでだろう、天界でオッパイでも揉んでたのか?まあいいや、現世でも揉めるし。
さてさて反転攻勢と行きたいところですが、俺には攻撃系の能力がありまへん。マジでないんです。
だから、あの主人公殺しといて良かったー。アイツ攻撃系の能力持ってたからな。ネズ公がいてくれて助かったー。ネズ公の能力は付与するタイプだけど軍団がいたから、うまく戦うよう先導できた。今思えば運が良かったな。うん……。
このお膳立て感、神が動いていないか?
運ということは神?いいやあの方は動かないと俺は信じている。だって……。
これも既視感がある。俺の状況が主人公っぽいなと思って、誰の仕業か考えて、結局神に行き着いて、自分で否定するくだり。デジャヴュですの?
んーおかしい、おかしいぞ。運がすり寄ってる気がするな。
――――主人公にのし上がってないか俺。
良くないよ、宜しくないよ。何がどうしてこうなった?これは運だろうか、ただの運であの主人公を殺せたのだろうか。それとも俺の知略?知略だけで転生者が2人も集まるか?あーーーーー、ぷんぷん臭うよーーー。主人公臭がするよーーー。
「標様?」
パァンッ!ドオンッ!
ちゃんと防壁は機能している。だから攻撃は防げる。
俺は死んだ、でも生き返った。
今は反転攻勢のチャンス、中二病とミカちゃんが持っていた主人公君の能力『影渡り』と『暗視的中』で殺れるだろう。そう、一回殺されたのになんか殺れるのだ。チート主人公っぽい。
そしてコイツら、魔族だ。ホイホイついてくる系の取り巻きだ。感謝されるような事はしていないし、標様とかいう汁男優みたいな響きの、対象になった覚えはない。これも慕われる系主人公っぽい。
絶対に嫌だ、ふざけんな。人生がこんなちょろいわけねえじゃん。ありえねえ。
――――――――止めた。
『瞬間移動』
※※※
ジロー!?
「……」
「ダイキリ様……」
「一体何を考えて……」
「分かりません……」
転移した。どこかへ。
敵を前に逃げたのか?
「おい!アイツはどこへ行った!?」
そりゃあ転生者も驚くよな。攻撃の通らなかった相手がいきなり消えたんだ。恐らくスキルを使って辺りを探したんだろう。それでも見つからないから、こうして俺たちに尋ねているわけだ。
聞くなよ、俺達も知らねえんだよ。意味不明なんだよ。
「ユウキ、逃げよう」
「で、でも……」
「お願い、話したいことがあるの」
「話し?……分かったよ」
敵がいないんだから帰るよな。俺達も転生者相手に楽に勝てる自信はない。殺るならもっと万全の状態がいい。だから追わない。ダイキリ様も眉を顰めて思案しているようだし。
「あの女、連れ帰るべきだと思うか?」
「あの魔族の子ですか?さあ。使命だと言っていましたが、俺達の使命ではありません。それに……」
「忠実な下僕を嫌う。だから何もせずにこうして固まっているしかないと」
「そうなりますね……」
「……」
遂にダイキリ様は黙り込んでしまった。俺達と標様を物語るように、炎幕は燃えていた。
「ん?お前……」
マズイ、マズイマズイ!擬態を少しだけ解いていた。ジローがやたら目を覗き込んでくる。赤くなっていたかもしれない、ヤバい。
「目が充血してんな。どんなプレイをしたんだよ、絶対教えろよな!」
「お、おう。それよりもジローは何でここに?」
「あん?そりゃお前、このインディーズバンド頭に黒染めを勧めに来たのよ」
「はあ、よく分からないけど」
「要するに、ぶっ殺すんだよ。そして俺の神様へ捧げる、深い闇の神様へな!」
助かった!来てくれたんだ、しかもジローが。
「モヒート、後で話そうか」
「ヒッ!」
後ろから突然聞こえたのは、一族最強の男の声だった。勇者を一人で打倒したという伝説の男、ダイキリ様だ。
「ダ、ダイキリ様」
「下がっていろ。標様の邪魔になる」
「ダイキリ様!そ、その魔力が……」
この魔力は、人間のものじゃない。魔族本来の魔力だ。ダイキリ様ともあろう御方が、ミスをするなんて。
「標様は知っている。下がれ」
「えっ」
「ジョン、じゃなくてモヒートねえ。さっきの写〇眼、後で見せろよ?」
「い、いや違うんだ」
「話は後だ。神様からのお言葉も伝えたいしな」
「神、様……」
何がどうなっているんだ。神様が俺たちに何を?そして俺たちが魔族だとバレてしまって良かったのか?いや、いいのか。魔族だから問題なんじゃない。標様に忠実な下僕であることが問題なんだ。そのはずだ。
※※※
コイツ、生きていたのか。トドメを刺しておけばよかった。俺の邪魔をするヤツは殺すと誓ったのに、こんなミスをするなんて。まだ足りなかった、足りないんだ覚悟が。
「その女の子魔族だな」
魔族魔族うるさいな。
あの気弱そうな男、ヤツの仲間だったか。どうやら俺は足止めされていたらしい。やられた。たぶん、俺に怯えていたのも演技で時間を稼いでいたのだろう。
そして、もう一人の男の魔力、魔族っぽい。フレデリカの魔力に似ている。とてもどす黒い、どろりとした負のエネルギーがひしひしと伝わる。
「そっちのお連れさんも魔族だろ」
「ああそうだ。それからジョンも魔族だ。ジョンでいいよな?」
「あ、ああジョンでいいよ」
なるほど、魔族とつるむ転生者か。俺と同じじゃないか。だったら戦う必要はないだろう、差別される者同士お互いに歩み寄ろう。
「俺は神とお話してきた。そしてある使命を頂いた、これはマジだ」
「俺に関係があるんだな」
「当然。その女の子を解放して、俺達の村に引き渡せ。そしたらお前は苦しまずに殺してやる、俺の神に誓おう」
「神、というものを俺は信じていない。でもアンタの言葉は信じよう、だからまずは話し合いをしないか?」
「神様の使命だから妥協なんて期待すんなよ?」
「つまりどうしても殺す、そういう事か」
「そうだ。悪いな、お前に恨みが腐るほどある。今すぐに殺っちゃってもいいか?」
「恨まれる覚えがない。そしてフレデリカは渡さない」
「あんだろうがっっ!熟女ぉぉぉぉぉ!」
熟女?コイツ、それで怒ってたのか?奴隷専門の卑猥な店でそういう事を出来なかったから?ヤバすぎだろ。
『良心の呵責、確率操作』
いきなり仕掛けてきたか。俺のステータス画面を見る限り、危険を知らせるアラートは出ていない。なんのスキルだ?ミスフォーチュン、不幸という意味だったはず。何か不幸になるのか?それからレモースってなんだ、聞いたことがない。
とりあえず体力や魔力に異常はないから、攻勢に出ても問題はないだろう。
メニューから武器を選択、コイツがいい、実績は既に証明したからな。
『武器選択、暴れ牛の銃角セット音速の角弾』
邪魔さえしなければ殺さなかったのに。サヨナラ――。
ドオンッ!
くっ、やっぱり反動が大きい。肩当てを追加したほうがいいな、手首が限界だ。
「ユウキッ、大丈夫?」
「んああ、心配すんな。お前は連れて行かせない」
「――うん」
「ん?どうした?」
「ユウキ、怒らない……」
「残念だったなクソボケ!こちとらいっぺん死んで、それなりに考えてんだよ!ギッタギタのベッコベコにしてやっからな!」
は?弾がない、そしてアイツは無傷。
あれは唯の防護壁では?そんなもので音速の角弾を止められる訳がない。戦車で使われる44口径をイメージしたんだぞ?あんなガラスでどうやって止めたんだ。
――スキルか。
確かリフュートと唱えて、一度だけ弾丸を止めていた。アレの応用版か?
いっぺん死んでそれなりに考えた、か。
なるほど、確かに厄介だな。
『ケツから串刺しになれ』
アラート!自動防壁が作動したか。今の攻撃は下から、なるほど。
視覚外からなら通用するとでも思ったのか、甘いな。俺は仲間に見捨てられ、こうして必死に生き延びたんだ。その程度の攻撃じゃあ、魑魅魍魎蠢く森で生きる事も出来ないだろうよ。
最強火力が無理ならば、変則的な攻撃で削り取るしかないか。毒ガエルの消化液と火蜥蜴の着火剤を混ぜ合わせて、浴びせ掛ける!
『弾薬切替、セット液体充填弾』
パァンッ!
これだけじゃあ効かないのは分かっている。弾丸が防護壁にぶつかり、炸裂すれば、防護壁を溶かす消化液に目が行くだろう。だがそれには火蜥蜴の強力な着火剤が含まれている。そこに火を放てば目の前には炎幕が出来上がり、俺を捉えることは出来ない。そして俺の弾丸は、変幻自在にお前を撃ち下ろすだろう。
『弾薬切替、セット通常弾、魔法付与、火』
※※※
ああいう奴の特徴、お前らも分かるだろ?ルビが異常に多い。日本語で十分なのにわざわざ下手くそな英語に翻訳する。絶対英検持ってないだろ、俺持ってるからな?3級。だから、俺はルビを使ってもいい。それでも自重してるってのに、何じゃあいつのルビは。コバエが飛び回ってる感じがして鬱陶しいんだよ。夏場に出し忘れた生ゴミか。
「はーい、火ね火の魔法ね。わー燃えた燃えたー」
俺には『主人公殺しの眼』というニンニン能力がある。これはルビの振り忘れじゃない。しゅじんこうごろしのめ、お前らルビ中毒者にはこうしてひらがなで書いてやれば伝わるだろ。変な英語に変換したりしないのが、うちの神様の優しいところだ。
『良心の呵責、確率操作』とか言ってただろ!って思ったやつ、全員『ケツから串刺しになれ』マジでなれ。先っちょにう〇こがついた串が口から出てくるのを自分の目で確かめろ。二度と俺の神様を侮辱するんじゃねえ。
――まあ、統一してくれよと思わなかったといえば嘘になるが、口には出したことはない。
俺はいいんだよ。お前らは思っただけでも罪だから、内心の自由とか無いから。
話が逸れたな。えーっと、ああ、ニンニン能力があるからこいつの居場所は余裕で分かる。分かるし、魔法で俯瞰して観察することもできる。つまり炎幕ができたところで、だから?って感じなわけよ。
『武器特性付与、黒蛇の鞭』
はい、撃ちましたね。
ということで私の前には防護壁×反駁の対主人公防壁が完成しているので、効きまへん。引っ掛かったなサイケデリックヘアー!ここに来る前、反駁を無詠唱で発動できるように神に依頼したんだよタコ!主人公が努力するような事を土下座で獲得したんだよイカ!
さっき『セット液体充填弾』とか馬鹿みたいに言ってただろ?だから敢えて反駁だけ外しておいたわけよ。そしたら調子乗るかなと思って。で、調子に乗ってくれていると。何か勝った的な雰囲気出てるじゃん。羽生〇治が勝ち筋見えたら手震えます的なノリじゃん。必殺技っぽく空に向けて撃つのはいいけどさ、恥ずいなー。せめてちゃんと狙えよー。キメ顔だけどさ……。
おまはん、まだ勝っとらんじょ?
はいはい、大したことないと思っていた防護壁にぶつかって、そしたら俺の能力で相殺されて消えてしまいます……。
『動かせ』
ヒエッ!何?いきなり体が動いたんだけど!?
ヒョッ!何?地面に穴が空いたんだけど!?
「標様!全方位を防護壁で囲ってください!」
UH-HUH だから勝確面してたんだね。めっちゃ危なかった、突っ立ってたらヘッショだったわ。恥かくとこだった。
助かったけど、ダイキリ君有能すぎて、俺の立場なくない?この展開って主人公っぽくない?んー、神様に言われたしなー、ちょっと不満はあるけど後でしっかりと話し合えばいいかな。
『防護壁×反駁』
ムハハハハ、今度こそ勝てまいよ。ネズミ一匹通れまいよ。あっ、そういえばネズ公元気してるかな。オーク達死んじゃったから落ち込んでたな。後でちょっかい掛けに行こうかしら、もふもふさせて頂きたいし。
何か蘇ってから、無性に手触りのいいものを求めてるんだよなー。なんでだろう、天界でオッパイでも揉んでたのか?まあいいや、現世でも揉めるし。
さてさて反転攻勢と行きたいところですが、俺には攻撃系の能力がありまへん。マジでないんです。
だから、あの主人公殺しといて良かったー。アイツ攻撃系の能力持ってたからな。ネズ公がいてくれて助かったー。ネズ公の能力は付与するタイプだけど軍団がいたから、うまく戦うよう先導できた。今思えば運が良かったな。うん……。
このお膳立て感、神が動いていないか?
運ということは神?いいやあの方は動かないと俺は信じている。だって……。
これも既視感がある。俺の状況が主人公っぽいなと思って、誰の仕業か考えて、結局神に行き着いて、自分で否定するくだり。デジャヴュですの?
んーおかしい、おかしいぞ。運がすり寄ってる気がするな。
――――主人公にのし上がってないか俺。
良くないよ、宜しくないよ。何がどうしてこうなった?これは運だろうか、ただの運であの主人公を殺せたのだろうか。それとも俺の知略?知略だけで転生者が2人も集まるか?あーーーーー、ぷんぷん臭うよーーー。主人公臭がするよーーー。
「標様?」
パァンッ!ドオンッ!
ちゃんと防壁は機能している。だから攻撃は防げる。
俺は死んだ、でも生き返った。
今は反転攻勢のチャンス、中二病とミカちゃんが持っていた主人公君の能力『影渡り』と『暗視的中』で殺れるだろう。そう、一回殺されたのになんか殺れるのだ。チート主人公っぽい。
そしてコイツら、魔族だ。ホイホイついてくる系の取り巻きだ。感謝されるような事はしていないし、標様とかいう汁男優みたいな響きの、対象になった覚えはない。これも慕われる系主人公っぽい。
絶対に嫌だ、ふざけんな。人生がこんなちょろいわけねえじゃん。ありえねえ。
――――――――止めた。
『瞬間移動』
※※※
ジロー!?
「……」
「ダイキリ様……」
「一体何を考えて……」
「分かりません……」
転移した。どこかへ。
敵を前に逃げたのか?
「おい!アイツはどこへ行った!?」
そりゃあ転生者も驚くよな。攻撃の通らなかった相手がいきなり消えたんだ。恐らくスキルを使って辺りを探したんだろう。それでも見つからないから、こうして俺たちに尋ねているわけだ。
聞くなよ、俺達も知らねえんだよ。意味不明なんだよ。
「ユウキ、逃げよう」
「で、でも……」
「お願い、話したいことがあるの」
「話し?……分かったよ」
敵がいないんだから帰るよな。俺達も転生者相手に楽に勝てる自信はない。殺るならもっと万全の状態がいい。だから追わない。ダイキリ様も眉を顰めて思案しているようだし。
「あの女、連れ帰るべきだと思うか?」
「あの魔族の子ですか?さあ。使命だと言っていましたが、俺達の使命ではありません。それに……」
「忠実な下僕を嫌う。だから何もせずにこうして固まっているしかないと」
「そうなりますね……」
「……」
遂にダイキリ様は黙り込んでしまった。俺達と標様を物語るように、炎幕は燃えていた。
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