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12.プリケツと久々の神様
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ああ、ぷりぷりのケツを丸出しにした小さな男の子たちが僕を連れていくよー。
何だか眠いんだ、パトラッ〇ュ。
すべすべの御ケツ達の背中に翼が生えてるよー、実際に見るとキモいよー。でも御ケツはすべすべぷりぷりのもっちもちだよー。触っても怒らないよー、この子たちいい子だ、そうに違いないよ。君もそう思うだろうパトラッ〇ュ。
なんて気分がいいんだー。何の心残りもないよー、さっさと天界へ連れてっておくれよー。僕にハーレムをおくれよー。
「茶番はええからさっさとこっちへ来い!」
「やだー変な声が聞こえるよー。神様みたいな声だーでもシカトしよー」
「全部聞こえとるぞ。早く来い!」
「嫌だー僕は安らかになりたいんだー。こんなに心地良いんだね、そうだろうパトラッ〇ュ」
「誰じゃパトラッ〇ュって。おーい起きんか!目を覚ませ!」
「神様ー嫌だ―僕は死にたいよー死なせてくれー」
「そんな事言わんで、ほれ起きんか」
あーーーーだんだんと降りていくよー。違うよー上に行くんだよー。体が重いよー。重力がだるいよー。嫌だ嫌だ嫌だ!御ケツに囲まれて天界に行くんだ!御ケツを永遠に撫でていたいよー。
バシンッ!
「痛っっっった!痛った!はあ!?叩く必要ないでしょう、神様!」
「お前の精神が天界に引っ張られておったので、ちょっと気付をな」
「っつー、なるほど。お助けいただきありがとうございます」
「うん。ところでずっと死にたがっていたが、そうなのか?」
「いいえ、神様の元で働きたく存じます。どうかもう一度現世で働けるよう取り計らって頂けませんか」
「よかろう。そうだ、お主に与えた能力じゃが上手く使いこなせておらんな」
「実はよい使い方を思いついたのです。魔法と能力を掛け合わせるのです」
「ふむ、良い発想だ。ではお前に新たな使命を授けよう」
「ははっ」
「魔族を救え。以上じゃ」
「このバカにご教示を。魔族とは何でございますか?」
「一緒に住んでおるじゃろ」
「あれは、人間ではないのですか?」
「違うな。魔族じゃ。わしを創り出した祈る者達じゃ」
「神様をお造りに?それは……卑下し過ぎではございませんか?」
「いんや、マジじゃ。魔族が居るからワシが居る。ワシが居るから魔族が居る」
「卵と鶏ですか。畏まりました。この力を使って魔族を救ってみせます!供物も欠かさずお届けいたします!」
「宜しい、では行くのだ!」
「ははーっ」
※※※
ふむ、これは……
標様をお助けする為に転移したが、想像していたよりも平和だ。転生者同士の争いでは無辜の民が殴殺され、築き上げた遺産を悉く破壊するはずなのだが……。
オークが侵攻した跡がそのまま残っているだけか。新たな傷跡などどこにも無さそうだが、どこにいらっしゃるのだ、標様。
ちらほらと明かりが灯り、小屋が立ち並ぶ一角。あの方がよく羽を伸ばしに来るという歓楽街だ。侵攻の面影を残しつつもしぶとく生き残っているようだ。今すぐにでも皆殺しにしてやりたいが、それではいけない。こいつらに、単純な死はもったいない。甚振った後で生きるのが辛くなるぐらいの目に遭わせてからでないと、俺の腹の虫が収まらないだろう。
ふう、集中しよう。
向こうでは人だかりができている。何かあるな。
通りをまっすぐに進むと、髪のない男が軒先で伸びている。外傷は見当たらない。魔法で眠らされたのだろうか。人だかりの隙間からは荒れた内装が見え隠れしている。なるほど、ここか。
魔力を一帯に広げて下手人と標様を探そう。標様が我らのような従者を嫌う為、今まで魔力を隠していた。だがマティーの命令だ。たとえ殺されたとしてもお助けしろ、とな。
あの方は稀代の傑物だ。我らにとって、かけがえのないお方だ。だがしかし、少しだけ引っかかる事がある。あの方は何に怒り転生者達を屠るのか。我らの様に祖先から続く怨嗟であるはずはない。
一体何があの方を動かすのだろうか、それを知るまでは、一族の命運を託せない。
「なんだ!?この魔力」
「恐ろしい、恐ろしい!」
「まさかこれは!!」
「魔族だ!!」
我らの真の魔力は、あらゆる生物を畏怖させるらしい。魔力量ではなく、その質が禍々しいのだそうだ。人間が怯えて逃げ出す様はとても愉快だ。
だが同時に不愉快でもある。
お前たちがしてきた悪行よりも我らの魔力に怯えるその態度に吐き気がする。
しかし合点もいくな。過去の行いに目を向けず、何度も何度も繰り返す蛮行は、人間本来の性なのだろう。被害者面が巧みで、罪のない種族を悪人に仕立て上げるのが非常に上手い。
なるほど、種族の本能がそうさせるのならば、やはり俺の考えは間違っていないな。
生きるのが嫌になるぐらいに辱め、甚振り、飢えさせて初めて、人間は我々と話し合う事が出来るだろう。こいつらは本当の恐怖を知らないのだ。どこかで転生者が勇者が助けてくれると信じているから、こうして被害者の様に振舞っていられるのだ。
恐怖の先に灯る憎しみを知らないから、怯えていられるのだ。
標様!!
魔力がないだと!?まさかそんな……。
魔力の網にかかったのは、まだ温かい人間の体だった。
俺の魔力に恐れをなした人間達は遠くの方でこちらを観察している。標様はお前たちと同じ人間だろう。何故助けない!?
店に入ると脚が落ちていた。衣服の切れ端が巻き付いた男の脚だ。獣にでも食いちぎられたような断面を見せている。一体どんな武器を使ったというのだ。
標様の首元に触れて脈を取ってみるが、やはり死んでいる。遅かったか、クソっ。モヒートはどうした、アイツは何をしているんだ!
※※※
ディキ様に状況は伝えたから、きっと応援を寄こしてくれるはずだ。標様が、ジローがやられるとは、くそっ俺がついていながら。
みだりに魔力を使うと俺たちの存在がジローにバレてしまうから、あまり派手に動けなかった。出来たことと言えば、転生者が武器を使う瞬間に方向を逸らすことぐらい。
だが、最後の一発だけはどうにもならなかった。大砲みたいな範囲の攻撃で、少し方向を変えても意味がなかった。ジローにはもう少し耐えてもらうしかない。息も絶え絶えだったけど、大丈夫なはずだ。俺にできることはジローの無事を祈りながら、この転生者を追うことだけ。
1人では勝てないだろう。でも、仲間たちが来ればきっと勝機があるはずだ。
この男、ジローが動かなくなったのを確認するとさっさと逃げやがった。俺は遠目から観察し少しだけ妨害していただけだった。
何をしていたんだ、何で助けに行かなかったんだ。
大丈夫だ。我らが神が遣わした標様なのだから、そう簡単に死ぬはずがない。転生者が逃げた後、店の中に入って自分を納得させた。浅く早い息のジローを眺めて、そう考えるしかなかった。
ジローの為に数秒だけ祈りを捧げて、転生者の後を追った。青髪に黒いコート、そしてその隣には魔族。しかも首に鎖をつけられている。彼女の眼を見てすぐん分かった。深紅の眼だ。そしてあの魔力は、懐かしい魔力だ。標様が来てからというもの、あの質感の魔力を肌で感じたことはなかった。
可哀そうに、まだ子供なのに奴隷として売られてしまったのか。やはり転生者はクズだな。あんな子供に家政婦でもさせるつもりか?それともボディーガード?あり得ない。転生者というのはあんな子供にまで欲情するのか。獣以下だ。
我が神が遣わしたジローは20歳以上という厳格なルールを守っている。この国の法律ではない、俺たちの村のルールでもない。彼自身が決めた鉄の掟だそうだ。さすがだと思う。さすが神が遣わした我らの標だ。
歓楽街を抜けた先は荒れ果てた市街地だった。オークとワイバーン達が破壊の限りを尽くした場所だ。辛うじて建物は残っているが、どれも背の低い民家だけで、随分と見晴らしがいい。
見晴らしがいい……。
クソっ、誘導されたのか――。
「何者だ、姿を見せろ」
人間に擬態しているから、魔族とは気付かれていないはず。魔力で気取られたということもないだろう。魔力は抑えて尾行していたからだ。
転生者らしいな。恐らくスキルとかいう特殊能力だろう。これに我らが祖先は苦しめられたのだ。
「どこにいるかは見えているっ!姿を現すなら言い分ぐらいは聞いてやる。さもなければ、問答無用で撃つ!」
見えているのか。俺はアイツの後ろを付けていた。やはりスキルで気取られている。そしてあの武器、弓矢に火薬を取り付けたような物だろう。通りに出てしまえば、身を守る遮蔽物がない。魔法で?いや、ジローでさえ防ぎきれなかったのだから、難しいだろう。
「最後だ。出てこい!」
時間を稼ぐ。味方を待つんだ、それしかない。
「分かった!今から出る、だから撃たないでくれ!」
民家と民家の間、細い路地から両手を出した。武器がないことを示すためだ。
「撃たないと約束する。さあ出てきてくれ」
「分かった、動くぞ!」
ゆっくりと足を動かして、怯えたフリをしながら通りの真ん中へと進み出た。奴が目を細めればヒッと声を上げ、女の子の鎖がガチャリと音を立てればビクリと体を震わせる。
とにかく時を浪費するんだ。
「怯えないで話てくれ。何故俺たちをつけていたんだ?」
「そ、そそそれは……」
「それは?」
「貴方が只者じゃないと思ったからです」
「只者じゃない、ねえ。どういう意味かな!?」
「ヒッ!すみませんすみません、悪い意味ではないんです!」
「只者じゃない、それを知った連中が俺たちを傷つけたんだ。お前もその類じゃないのか?」
「ち、ちちち違います!本当です!信じてください!」
「それで?只者じゃないからつけた。何が目的で?」
「そ、それは……」
お前を殺すためさっ!と言ってしまいたい。もうネタが尽きた。何を言えばいいんだ?貴方が魅力的でーとか言おうか?
どうしようどうしよう。
ジローとの会話の殆どがシモの話だから、ゲスいキャッチボールしかできる自信がない。
――ああ、これだわ。
「それは、ご提案があるのです!」
「提案?」
「はいっ!私の村にお越しいただけませんか?良い村なのです、是非!」
「――なんか胡散臭いから断る。じゃあな」
「いやいや、ちょっと待って下さいよー」
「なんだよ」
「我が村には伝説があるのです。魔物が跋扈する御魔森を制せる者は、この世界の覇者となるであろうぅぅ!」
「御魔森ってなんすか?」
「我が村のすぐ隣にある化け物だらけの森です。たまに冒険者とかも来ますよ。素材がたくさんあるんだーとか言って」
俺たちの村はギリギリ魔族領、と自分たちでは思っている。だが人間側は違う。俺たちが人間に擬態しているので、最近殺したあの領主の土地だと考えているのだ。そこに住むのが魔族だなんて露ほども思っていない。
といっても俺たちが住む前には、本物の人間が住んでいたらしい。今は魔族が実効支配しているから魔族領ということでいいはず。
正直どっちの領かなんて誰にも分からない。しかし、人間が滅多に寄り付かないので魔族領でいいと思う、その程度に曖昧な場所だ。
魔物がいるのは本当だし、たまーに冒険者が来るのも本当だ。ただし素材は採れない。俺達が住んでから魔物や動物たちが悉く絶滅したのだ。生き残ったのはワイバーンとブラックドッグ、オークだけ。
何度も何度も標様を転生させる儀式をしたからだと思う。
ガリガリの魔物たちを狩っても大した素材は手に入らないだろうし、そもそも冒険者が帰ってきた試しがない。森に行った冒険者は雑魚ばかりだったからなー。
「眉唾だろ。俺たちは暇じゃないんで、他を当たってくれ」
「お待ち下さい!」
「まだ何か?」
いえ、何もありません。もうどうしたらいいのか分かりませんよ。村まで来てくれれば、仲間たちとフルボッコにできるし、回復したジローが倒してくれると踏んだんだけどな。
ああ、どうしよう。ジローならテキトーなことをそれっぽくつらつら言えるんだろうな。なーんにも思いつかねー。
コイツが興味を持ちそうな事は何だ。
ジローに声を掛けたのは何故だ。
――同じニホンジン同士とか言っていたな。
ジローとの共通点といえば転生者であることぐらい。ニホンジン同士とは、たぶん転生者同士という意味だろう。情報がほしいとも言っていた。
それからあの女の子、彼女が怯えだした瞬間に魔力が大きく膨れ上がっていた。この3つ、どれでもいいから餌にしてここに繋ぎ止めなければ。
「その女の子、魔族ではありませんか?」
「――――だったらなんだ!?」
「お、お待ちを!別に差別したいわけでは……」
「だったらなんだ!?」
俺はわざとらしく辺りを確認した。誰にも見られたくないと、コイツに理解させるためだ。少しでもその女の子と境遇が近ければ、コイツも同情するだろうし、何かしらの興味を持つだろう。
「実は私も……」
「ジョン!お前、何してんの?」
――はっ!?ジロー?
何だか眠いんだ、パトラッ〇ュ。
すべすべの御ケツ達の背中に翼が生えてるよー、実際に見るとキモいよー。でも御ケツはすべすべぷりぷりのもっちもちだよー。触っても怒らないよー、この子たちいい子だ、そうに違いないよ。君もそう思うだろうパトラッ〇ュ。
なんて気分がいいんだー。何の心残りもないよー、さっさと天界へ連れてっておくれよー。僕にハーレムをおくれよー。
「茶番はええからさっさとこっちへ来い!」
「やだー変な声が聞こえるよー。神様みたいな声だーでもシカトしよー」
「全部聞こえとるぞ。早く来い!」
「嫌だー僕は安らかになりたいんだー。こんなに心地良いんだね、そうだろうパトラッ〇ュ」
「誰じゃパトラッ〇ュって。おーい起きんか!目を覚ませ!」
「神様ー嫌だ―僕は死にたいよー死なせてくれー」
「そんな事言わんで、ほれ起きんか」
あーーーーだんだんと降りていくよー。違うよー上に行くんだよー。体が重いよー。重力がだるいよー。嫌だ嫌だ嫌だ!御ケツに囲まれて天界に行くんだ!御ケツを永遠に撫でていたいよー。
バシンッ!
「痛っっっった!痛った!はあ!?叩く必要ないでしょう、神様!」
「お前の精神が天界に引っ張られておったので、ちょっと気付をな」
「っつー、なるほど。お助けいただきありがとうございます」
「うん。ところでずっと死にたがっていたが、そうなのか?」
「いいえ、神様の元で働きたく存じます。どうかもう一度現世で働けるよう取り計らって頂けませんか」
「よかろう。そうだ、お主に与えた能力じゃが上手く使いこなせておらんな」
「実はよい使い方を思いついたのです。魔法と能力を掛け合わせるのです」
「ふむ、良い発想だ。ではお前に新たな使命を授けよう」
「ははっ」
「魔族を救え。以上じゃ」
「このバカにご教示を。魔族とは何でございますか?」
「一緒に住んでおるじゃろ」
「あれは、人間ではないのですか?」
「違うな。魔族じゃ。わしを創り出した祈る者達じゃ」
「神様をお造りに?それは……卑下し過ぎではございませんか?」
「いんや、マジじゃ。魔族が居るからワシが居る。ワシが居るから魔族が居る」
「卵と鶏ですか。畏まりました。この力を使って魔族を救ってみせます!供物も欠かさずお届けいたします!」
「宜しい、では行くのだ!」
「ははーっ」
※※※
ふむ、これは……
標様をお助けする為に転移したが、想像していたよりも平和だ。転生者同士の争いでは無辜の民が殴殺され、築き上げた遺産を悉く破壊するはずなのだが……。
オークが侵攻した跡がそのまま残っているだけか。新たな傷跡などどこにも無さそうだが、どこにいらっしゃるのだ、標様。
ちらほらと明かりが灯り、小屋が立ち並ぶ一角。あの方がよく羽を伸ばしに来るという歓楽街だ。侵攻の面影を残しつつもしぶとく生き残っているようだ。今すぐにでも皆殺しにしてやりたいが、それではいけない。こいつらに、単純な死はもったいない。甚振った後で生きるのが辛くなるぐらいの目に遭わせてからでないと、俺の腹の虫が収まらないだろう。
ふう、集中しよう。
向こうでは人だかりができている。何かあるな。
通りをまっすぐに進むと、髪のない男が軒先で伸びている。外傷は見当たらない。魔法で眠らされたのだろうか。人だかりの隙間からは荒れた内装が見え隠れしている。なるほど、ここか。
魔力を一帯に広げて下手人と標様を探そう。標様が我らのような従者を嫌う為、今まで魔力を隠していた。だがマティーの命令だ。たとえ殺されたとしてもお助けしろ、とな。
あの方は稀代の傑物だ。我らにとって、かけがえのないお方だ。だがしかし、少しだけ引っかかる事がある。あの方は何に怒り転生者達を屠るのか。我らの様に祖先から続く怨嗟であるはずはない。
一体何があの方を動かすのだろうか、それを知るまでは、一族の命運を託せない。
「なんだ!?この魔力」
「恐ろしい、恐ろしい!」
「まさかこれは!!」
「魔族だ!!」
我らの真の魔力は、あらゆる生物を畏怖させるらしい。魔力量ではなく、その質が禍々しいのだそうだ。人間が怯えて逃げ出す様はとても愉快だ。
だが同時に不愉快でもある。
お前たちがしてきた悪行よりも我らの魔力に怯えるその態度に吐き気がする。
しかし合点もいくな。過去の行いに目を向けず、何度も何度も繰り返す蛮行は、人間本来の性なのだろう。被害者面が巧みで、罪のない種族を悪人に仕立て上げるのが非常に上手い。
なるほど、種族の本能がそうさせるのならば、やはり俺の考えは間違っていないな。
生きるのが嫌になるぐらいに辱め、甚振り、飢えさせて初めて、人間は我々と話し合う事が出来るだろう。こいつらは本当の恐怖を知らないのだ。どこかで転生者が勇者が助けてくれると信じているから、こうして被害者の様に振舞っていられるのだ。
恐怖の先に灯る憎しみを知らないから、怯えていられるのだ。
標様!!
魔力がないだと!?まさかそんな……。
魔力の網にかかったのは、まだ温かい人間の体だった。
俺の魔力に恐れをなした人間達は遠くの方でこちらを観察している。標様はお前たちと同じ人間だろう。何故助けない!?
店に入ると脚が落ちていた。衣服の切れ端が巻き付いた男の脚だ。獣にでも食いちぎられたような断面を見せている。一体どんな武器を使ったというのだ。
標様の首元に触れて脈を取ってみるが、やはり死んでいる。遅かったか、クソっ。モヒートはどうした、アイツは何をしているんだ!
※※※
ディキ様に状況は伝えたから、きっと応援を寄こしてくれるはずだ。標様が、ジローがやられるとは、くそっ俺がついていながら。
みだりに魔力を使うと俺たちの存在がジローにバレてしまうから、あまり派手に動けなかった。出来たことと言えば、転生者が武器を使う瞬間に方向を逸らすことぐらい。
だが、最後の一発だけはどうにもならなかった。大砲みたいな範囲の攻撃で、少し方向を変えても意味がなかった。ジローにはもう少し耐えてもらうしかない。息も絶え絶えだったけど、大丈夫なはずだ。俺にできることはジローの無事を祈りながら、この転生者を追うことだけ。
1人では勝てないだろう。でも、仲間たちが来ればきっと勝機があるはずだ。
この男、ジローが動かなくなったのを確認するとさっさと逃げやがった。俺は遠目から観察し少しだけ妨害していただけだった。
何をしていたんだ、何で助けに行かなかったんだ。
大丈夫だ。我らが神が遣わした標様なのだから、そう簡単に死ぬはずがない。転生者が逃げた後、店の中に入って自分を納得させた。浅く早い息のジローを眺めて、そう考えるしかなかった。
ジローの為に数秒だけ祈りを捧げて、転生者の後を追った。青髪に黒いコート、そしてその隣には魔族。しかも首に鎖をつけられている。彼女の眼を見てすぐん分かった。深紅の眼だ。そしてあの魔力は、懐かしい魔力だ。標様が来てからというもの、あの質感の魔力を肌で感じたことはなかった。
可哀そうに、まだ子供なのに奴隷として売られてしまったのか。やはり転生者はクズだな。あんな子供に家政婦でもさせるつもりか?それともボディーガード?あり得ない。転生者というのはあんな子供にまで欲情するのか。獣以下だ。
我が神が遣わしたジローは20歳以上という厳格なルールを守っている。この国の法律ではない、俺たちの村のルールでもない。彼自身が決めた鉄の掟だそうだ。さすがだと思う。さすが神が遣わした我らの標だ。
歓楽街を抜けた先は荒れ果てた市街地だった。オークとワイバーン達が破壊の限りを尽くした場所だ。辛うじて建物は残っているが、どれも背の低い民家だけで、随分と見晴らしがいい。
見晴らしがいい……。
クソっ、誘導されたのか――。
「何者だ、姿を見せろ」
人間に擬態しているから、魔族とは気付かれていないはず。魔力で気取られたということもないだろう。魔力は抑えて尾行していたからだ。
転生者らしいな。恐らくスキルとかいう特殊能力だろう。これに我らが祖先は苦しめられたのだ。
「どこにいるかは見えているっ!姿を現すなら言い分ぐらいは聞いてやる。さもなければ、問答無用で撃つ!」
見えているのか。俺はアイツの後ろを付けていた。やはりスキルで気取られている。そしてあの武器、弓矢に火薬を取り付けたような物だろう。通りに出てしまえば、身を守る遮蔽物がない。魔法で?いや、ジローでさえ防ぎきれなかったのだから、難しいだろう。
「最後だ。出てこい!」
時間を稼ぐ。味方を待つんだ、それしかない。
「分かった!今から出る、だから撃たないでくれ!」
民家と民家の間、細い路地から両手を出した。武器がないことを示すためだ。
「撃たないと約束する。さあ出てきてくれ」
「分かった、動くぞ!」
ゆっくりと足を動かして、怯えたフリをしながら通りの真ん中へと進み出た。奴が目を細めればヒッと声を上げ、女の子の鎖がガチャリと音を立てればビクリと体を震わせる。
とにかく時を浪費するんだ。
「怯えないで話てくれ。何故俺たちをつけていたんだ?」
「そ、そそそれは……」
「それは?」
「貴方が只者じゃないと思ったからです」
「只者じゃない、ねえ。どういう意味かな!?」
「ヒッ!すみませんすみません、悪い意味ではないんです!」
「只者じゃない、それを知った連中が俺たちを傷つけたんだ。お前もその類じゃないのか?」
「ち、ちちち違います!本当です!信じてください!」
「それで?只者じゃないからつけた。何が目的で?」
「そ、それは……」
お前を殺すためさっ!と言ってしまいたい。もうネタが尽きた。何を言えばいいんだ?貴方が魅力的でーとか言おうか?
どうしようどうしよう。
ジローとの会話の殆どがシモの話だから、ゲスいキャッチボールしかできる自信がない。
――ああ、これだわ。
「それは、ご提案があるのです!」
「提案?」
「はいっ!私の村にお越しいただけませんか?良い村なのです、是非!」
「――なんか胡散臭いから断る。じゃあな」
「いやいや、ちょっと待って下さいよー」
「なんだよ」
「我が村には伝説があるのです。魔物が跋扈する御魔森を制せる者は、この世界の覇者となるであろうぅぅ!」
「御魔森ってなんすか?」
「我が村のすぐ隣にある化け物だらけの森です。たまに冒険者とかも来ますよ。素材がたくさんあるんだーとか言って」
俺たちの村はギリギリ魔族領、と自分たちでは思っている。だが人間側は違う。俺たちが人間に擬態しているので、最近殺したあの領主の土地だと考えているのだ。そこに住むのが魔族だなんて露ほども思っていない。
といっても俺たちが住む前には、本物の人間が住んでいたらしい。今は魔族が実効支配しているから魔族領ということでいいはず。
正直どっちの領かなんて誰にも分からない。しかし、人間が滅多に寄り付かないので魔族領でいいと思う、その程度に曖昧な場所だ。
魔物がいるのは本当だし、たまーに冒険者が来るのも本当だ。ただし素材は採れない。俺達が住んでから魔物や動物たちが悉く絶滅したのだ。生き残ったのはワイバーンとブラックドッグ、オークだけ。
何度も何度も標様を転生させる儀式をしたからだと思う。
ガリガリの魔物たちを狩っても大した素材は手に入らないだろうし、そもそも冒険者が帰ってきた試しがない。森に行った冒険者は雑魚ばかりだったからなー。
「眉唾だろ。俺たちは暇じゃないんで、他を当たってくれ」
「お待ち下さい!」
「まだ何か?」
いえ、何もありません。もうどうしたらいいのか分かりませんよ。村まで来てくれれば、仲間たちとフルボッコにできるし、回復したジローが倒してくれると踏んだんだけどな。
ああ、どうしよう。ジローならテキトーなことをそれっぽくつらつら言えるんだろうな。なーんにも思いつかねー。
コイツが興味を持ちそうな事は何だ。
ジローに声を掛けたのは何故だ。
――同じニホンジン同士とか言っていたな。
ジローとの共通点といえば転生者であることぐらい。ニホンジン同士とは、たぶん転生者同士という意味だろう。情報がほしいとも言っていた。
それからあの女の子、彼女が怯えだした瞬間に魔力が大きく膨れ上がっていた。この3つ、どれでもいいから餌にしてここに繋ぎ止めなければ。
「その女の子、魔族ではありませんか?」
「――――だったらなんだ!?」
「お、お待ちを!別に差別したいわけでは……」
「だったらなんだ!?」
俺はわざとらしく辺りを確認した。誰にも見られたくないと、コイツに理解させるためだ。少しでもその女の子と境遇が近ければ、コイツも同情するだろうし、何かしらの興味を持つだろう。
「実は私も……」
「ジョン!お前、何してんの?」
――はっ!?ジロー?
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