上 下
62 / 66

39.ダークサイダージュン

しおりを挟む
「ほらよズボンを履け」

バサリ――。

騎士が投げたズボンを手に取り、俺は黙って足を通した。

ピチャン――。

暗い牢屋、暗い気分。
ダークな雰囲気が俺をその気にさせる。

これは……危ない想い殺意だ。

ガチャン――。

「さあ出な……ぉぉっと」

「どうした、また口汚く罵らないのか?」

「……くっ。いや、止めておく」

どうやら溢れてしまっていたらしい。
騎士がたじろぐほどの殺気が。

イケない子だ。
まだ、暴れるには早すぎるぜ。

カツカツ――。

「くぅっ」

こんなにも眩しいのか……シャバってのは。
空気が澄んでいて、それでいて温かい。

今の俺には、毒だな。

「ジュン!こっちだ!」

そこにいたかお前ら。
悪魔の子。
淫乱ゆりウサ耳。
バカでいい奴。

俺の周りを囲むには相応しくないが、今は利用させてもらうぜ。
この危ない想い殺意を、静めるためにな。
クックックッ。
クハハハ!
神よ、俺をこの世界によこしたこと、後悔させてやるぜ。

「フフフ。泣いてたんですかぁ?」
「怖かったぴょん?」
「熱いプロポーズに感動したんだな。分かるぞジュン!」

……このクソ共の手を、八つ当たりという血で染める、か。
罪悪感など皆無!
俺は、バッドガイなのだ。
ダークサイドに堕ちた、召喚勇者なのだ。

「またおかしくなったぴょん。クンクン……シンプルに臭いだけぴょん」
「生臭さなしねぇ。どうしたんでしょぉ、興味が湧いてきますねぇ」
「愛だよ二人共、ジュンは愛に目覚めたんだ」

……クハハハ。お前たちの言葉には耳を貸さぬぞ。
お前たちにいちいちツッコミを入れるのも疲れたのだ!
好きにボケ倒せ。そして!スベり散らかすがいいさ。
クハ、クハハ、クハ、クハ、クハハハハハハハ……。

「ふっ」

「……気取ってるぴょん。コイツなんか、クールを気取ってるぴょん」
「ふぅむ、歪んだ笑い方……クールというよりもぉ、まるで悪人ですねぇ。ワルを気取ったひ弱なゴブリンといったところでしょうかぁ」
「うーん、私は愛だと思うけどなあ。幸せな未来を想像してるんだろうきっと。そうだろジュン」

……。
…………。
………………。

「ジュン聞いてるのか?聞いてるのかジュン!」
「フフフ。女を知らない悪人ているのでしょうかぁ」
「ふぁぁぁ、コイツ面倒くさいぴょん。また牢屋に入れるぴょん」

はあ。ちょっとキャラ変したぐらいでグチグチ言いやがって……。

「このボケナスがぁぁぁぁ!イチイチうるせえよ!ちょっとカッコつけただけじゃん!いいじゃん無口になっても!そんな日は誰にでもあるでしょうがぁぁぁぁ!」

「あ、戻ったぴょん」
「さあ、換金は終わりましたしぃ、魔王領へ向かいましょうかぁ」
「ジュン……ふっ。カッコつけるのは、ザロッツの前だけにしろ。ハハハハ」

あーもう、何言ってもだめだー。
コイツらのメンタルバケモンだぁー。
俺が疲れちゃうよ。あームリムリ、抵抗するの止めます。
神ー?ちょっとふざけただけなんでー、すんませんしたー。
それとお願いなんすけど、コイツらの知能を500%増加してもろて、悪魔頭目の地獄成分を99%除菌してもろていいすか?

「っておい!ちょっと待たんかい!話があんだよ!ぇぇぇぇ、シカトはないでしょ、シカトはぁぁ!」



騎士団詰め所から出て、奴らの後を追った。
人の話も聞かず、ホイホイ歩きやがってほんと面倒くさい……ってあれ?
なんでプリッケギルドに、向かってんだ?

あれ?てかレイアの腰に剣が?あれ?荷車はどこいった?

「はあ、はあ、おいアホ共、荷車はどしたよ」

「臭いので捨てましたよぉ。その中にレイアさんの剣も入ってましたねぇ」

「うむ、荷車に盗賊を詰め込む時、剣までうっかり詰め込んでいたみたいなんだ。ハハハ、おかげで臭いのなんのって」

腰振りビリガンギルマスの思い出……さよなら。
つーか、何がおもろいの?剣までうっかりって、そうはならんやろ。何をどうしたら腰から外れて荷車に積まれるんだって……ああ、アイツがバカだからか。筋は通ってるな。

「で、なんでプリッケギルドに向かうの?」

「おかしいと思いませんかぁ?名もなき村……ではなくてぇ、バイオ村近辺に盗賊が出たというのにぃ、なぜ放置されていたのかぁ。おそらく――」

「え?まさに俺は、その話をしようとしてたんだけど」

「……えぇ?」

「いやさ、牢屋で会ったんだよ。プリッケコウロン支部の元支部長さんと。で、盗賊団とプリッケギルドは繋がりがあるかもとか、国が貧乏だからあの村は見捨てられたとか聞かされて、本格的に盗賊狩りしたいなーと思って相談しようとしてたんだ」

「……うざッ」

「え?なに?」

「うざいですねぇ。私が話すはずだったのにぃ……まあ、聞きましょう。何かプランがあるんですよねぇ?」

あれ?あれれれれれれれれ?
ちょっと怒ってらっしゃる?
ほー。俺に先を越されたのがムカつくか。
アホだと思ってた俺が、すんごく賢くてお金持ちの私よりも、情報を持ってたことがムカつくか。

にょひょひょひょひょ。
反撃方法が分かったぜアドミラよ。
今後は、チクチクとイジメてやるから覚悟しやがれ。
ただし!今日のところは止めとく。疲れたからな、うん。

「プランはこうだ。盗賊を捕まえ、ボスの名前とアジトを吐かせる。
プリッケとの繋がりも吐かせれば最高だが、無理ならアジトで証拠を探せばいい。
んで、王都支部のエルフ支部長を捕まえて、牢屋に囚われてるイリャワトソン君の無実を証明させる。どうだ?完璧だろ」

「……まぁ、良いんじゃないですか」

おーっと!ドS陥落だぁぁぁ!
神よ感謝します!コイツの攻略法完全に把握です!マジアザした。

「で、でもぉ、盗賊が吐かなかったらどうするんですぅ?」

「……スカムを捕まえて吐かせようぜ。アイツがボスか幹部なはずだし。下っ端盗賊を捕まえるのは、証拠固めだからな」

「……スカムですかぁ?」

「盗賊団の名前【ムカスムカムカ】だぞ?どう考えたってスカムと関わりあるだろ」

「……ぅん?」

「【ムカスムカムカ】文字を入れ替えると、【スカムカムカム】だろ?まあもし、スカムが無罪だったら土下座してやるよ、それぐらい自信ある」

「……ぅん」

「え?」

「そのプランでいいんじゃなぃ……」

あれ?あ、ほへ?
くぁわ……くぁわう、くぁわうぃぃぃいい!
ドSが見せていい顔じゃねえぞそれ。
な、なんだこのときめきは。
くはっ、忘れてた。
コイツは可愛いんだ、顔面もスタイルも完璧なんだ。
性格がウンコなだけで……惑わされるな俺。

「ア、アドミラも盗賊捕まえる気だったんだろ?なのに、なんでギルドに行こうとしてたんだ?」

「この国にあるプリッケギルドの中で一番弱くてぇ、一番妬んでそうだからですぅ」

「妬む?」

「盗賊団に道は奪われてぇ、冒険者も依頼もぉ、よその支部に根こそぎ奪われたんですよぉ?」

少なくとも、王都からこの町に来たがる人はいないだろうな。盗賊団のいる場所を通らなきゃダメなわけだし。迂回してこの街に来るぐらいなら、よその町やらギルドに行けばいい。
そうなると、依頼は減り、依頼が減ると冒険者も減る。

トドメは王都支部の誕生か。
ここに来る必要はもはやない。

そりゃあ弱るし、そりゃあ妬むだろうな。

「その隙につけ込んでなにかしようって?」

「……このギルドを奪いたいなぁと、どう思いますぅ?」

「ど、どう思う?」

「ジュンさんの意見が聞きたいですぅ」

……ほっ、ほう?
悪くないなあ。そう素直に来られると、憎めないなあ。

「ビリガンギルドの支部にするってことだろ?良いと思うけど、案は?」

「説得ですぅ」

「はあ、まあ自信あるならどうぞ」

「ありがとうございまぁす!」

……素直だな。
いや素直すぎるな。
途中までは、敗北により屈服したのかと思ったが、これは変だな。
そうだ、良く思い出せ。
奴は悪魔だ。俺の攻撃を受けて、黙ってると思うか?

来るッ!
今はまだ見えないが、必ず来るッ!
デカい一撃が。

「早速行きましょうかぁ」
「……アドミラたん、なんの話してたぴょん?意味がわからなかったぴょん」
「小難しい話は、ジュンとアドミラに任せれば良いんだぞ、シェリス」

カランコロン――。

3人はプリッケギルドのへと吸い込まれていった……。
そんなバカな。

俺は、無傷だと!?

時間差攻撃か、それとも……忘れた頃に、きつい一撃を見舞う気なのか!?

分からない、ドSの思考が分からない。


まあいいや。
これ以上考えても、無理だあー。

カランコロン――。

「……よーこそー、プリッケギルド、コウロン支部へー」

クソやる気のない受付嬢に出迎えられ、俺はプリッケギルドへ潜入した。
今思うと、まともなギルドに足を踏み入れたのは初めてだな。

異世界のギルド……か。
まず出迎えるのは、頬杖をついたケバい受付嬢。たぶん独身で、いい男を見つけた瞬間、愛想を振りまくタイプだろう。
左端のスペースには、テーブルと椅子が並べられて、メニュー表らしき、立て看板まで出ている。
軽食屋かな?
その奥にはまたカウンターがあり、左は飲食で右は買い取りと書かれてる。
なるほど、買い取りもしてくれると。魔物とか売れるんだろうな。

……うん、ガラガラだ。

テーブルに顔をつけて、ぬるそうなジョッキを突いてるおっさん。
受付前に並べられたソファーで、キャッキャウフフしてる男女。

以上。

想定を大きく下回る風景だ。

「ジュン!支部長に会えるぞ!」

受付前にいるレイアが、俺を呼んでいる。
めんどくさそうに、奥へ消えていった受付嬢は、支部長を呼びに行ったのだろう。

こんだけ暇なら、支部長に会うのもチョロいか。

受付前で待機してると、受付嬢が気だるげに奥から戻ってきた。

そんで俺を一瞥して……。

「こちらでーす。どーぞー」

お眼鏡にはかなわなかったようだ。







――――作者より――――
最後までお読みいただき、ありがとうごさいます。
作者の励みになりますので、♡いいね、コメント、☆お気に入り、をいただけるとありがたいです!
お手数だとは思いますが、何卒よろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

処理中です...