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19ー2.堕とされた男

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「シコってるだと!?そ、それは禁忌だぞ!」

「俗的な言い方で誤解させたな。正しくは愛すのだ」

「愛、だと!?」

「母は我が子を抱く。父は我が子を抱く。生物は皆、抱かれて愛された。
しかし!悲しいかな、生まれた時から一緒にいる、我が息子を抱くことは叶わない。体の構造的にな。
だからこそ愛でるのだ。抱く代わりに、優しく手で包み込む。
その行いに神が怒りを向けると?
本気でそう思っているのかぁぁぁあッッッ!」

「ひぃぃ。いや、そ、それは……」

「まずは己の息子を愛せ、同志よ。さすれば平穏を身に宿すことができよう。私のようにな」

「わ、我々は間違っていたというのか……そんな、どれだけの我慢をしてきたと……うゔっ、うゔぁぁぁ」

「同志」

俺は彼を抱きしめた。
臭い?汚い?関係ないね。
これほどまでに切なく、これほどまでに過酷な人生を歩んできた彼には、必要なのだ。

オカズが――。

「男の潮◯きというのがあってな……」

俺は耳元で囁いた。
ネット社会で得た、豊富な知識の一端を示してやった。

「はぁっ、ぐぁぁあぁああぁぁあぁぁ、がぁあぁ、うぉぉぉぉ、し、しお、どぅぁっでぇぇぇ、な、あ、あ、あ、あ、アッ」

ちょっと……ていうか、刺激が強すぎたらしい。

「……あ」

彼は、ガクガクと腰を震わせ、砕けた。
ガクリと崩折れ、潤んだ目で俺を見つめている。

「……禁様きんさま、いや、汝様なんさま

「ナン?ナンすかそれ?」

「お、おおお、雄汝禁教オナンキンきょうにおける、し、しし指導者の階級です。はあ、はあ、あなた様は、悟りをひらきし雄汝禁様オナンキンさまの二つ下の階級なのでしょう?きっとそうだ」

知らんけど、そーゆことにしとこ。
汝様ナンさまだけにな。

「……他言はせぬよう。励めよ同志」

カッコよく言い残し、てくてくと歩き出したところで、崩折れた男が俺を呼び止めた。

汝様ナンさま!」

めんどくせえなあ、と思ったのは認めよう。
だが彼も同志だ。
彼のため、俺はくるりと振り返った。

すると、彼はポウッと頬を赤くして、唇を濡らしていた。

「はあ、は、励みま、す♡」

「……あ、はい」

くっそぉぉぉぉぉ!どうして男なんだ!
あああああああ!
なんか腰辺りに嫌な感触が残ってるし!

くそ!くそ!
なんで俺がひとりエッチの手ほどきしてんだよ!
むしろ俺が手ほどきしてほしいんだよッ!

「フフフ。モテモテですねぇジュンさん」

「うっさい死ね」

「おいおい、仲間にそんな言い方ないだろう?」

「ぴょんぴょん!」

俺はグラサンをかけた。
なぜか視界が歪む。

あれ?どうしてだろう。

「泣いてますぅ?」

誰にも見せたくない、この涙――。


プリッケギルドから歩いて数十分。

「ここですぅ」

「でか」

アドミラの家族名である、チェレーブロの名を冠した商会に到着した。
端的に言ってデカい。
日本で言うところの、ドン◯ホーテぐらいのデカさだ。
驚安かどうかは知らないが、こんだけ広けりゃ、なんでも売ってそうではある。

しかも立地は王都のど真ん中らしく、王城が目と鼻の先にある。

だから騎士が多いんだろう。
負けじと、ハイソな人々も多いし、高そうな防具を身につけた冒険者たちも行き交っている。

「どうぞぉ、貧乏人の皆さまぁ~」

「……ここで買うの止めようぜ。約束な」
「んああ。というか買えないと思うぞ」

んんん、クソッ!
どうやらチェレーブロ商会の顧客は、ハイソな方々限定らしい。
出入りする人が、いかにもリッチって感じで、なんか鼻につく。

「ぴょんぴょ~ん」

「めんどいからって、ぴょんで相槌打つの止めてもらっていい?」

「……ぴょん」

もう、壊れちまったんだな。
アドミラの毒にやられたんだな。
それでもどうしてだろう。女好きだと分かっているのに、興奮してしまう。

くっ、かわゆいなお主。

「いらっしゃ、お嬢様!?」

階段を上がると、中から出てきた正装の男が、驚いた顔をしている。

まあ、貧乏人の俺らなんか眼中にはねえよ。
お嬢様しか見てねえよ?

「お父様いるぅ?」

「はい。ご案内致します」

「ううん、一階にいるから連れてきてぇ」

「は?いや、しかし……ただいま商談中でございまして」

「はあ」

「か、畏まりました。どうぞお寛ぎください」

男は顔を青くして、タタタッと走り出した。

「フフフ。面白いでしょぅ?」

「パワハラ反対!アドミラ反対!」

「行きましょう?みんなが、絶対に買えない商品を紹介してあげるぅ」

「……金持ちになっても、絶対にここでは買わないでおこうぜレイア」
「あ、ああ、そうだな」

アドミラの背を追いかけてると、なんだか汚らしい小動物にでもなった気分にさせられた。
あのドSキチゲエのアドミラがいないと不安になるほど、商会の中はキラキラしてて、めっちゃ清潔で高級感溢れてて。

ハイソな方々とすれ違うが、意外にも、差別とか侮蔑とかはゼロ。
存在しないかのように、俺たちには目もくれなかった。

普通に傷ついてたら、アドミラが、わざわざ振り返ってニヤリと笑った。

殺意を覚えた、良い思ひ出だ。

「こちらどうぞぉ。触れないでねぇ、弁償できないんだからぁ」

「……もう帰っていいすか?」

「良いけどぉ、ギルドが潰れちゃいますねぇ」

「父親に金をねだるだけだろ?俺たちは邪魔じゃないか」

「むむ、出ましたねぇ、ノータリンのジュンさんがぁ」

「……ふう。落ち着け俺。落ち着け」

「少なくともジュンさんは必要ですぅ。正確にはスキルが必要ですぅ」

「スキル?」

いつものおっとりとした表情はどこへやら。
あくどいというのは、悪く言い過ぎだが、目にドルマークが見えるぐらいに商人の顔をしていた。

「まあ、見ててくださいよぉ。大金をギルドに持ち帰りましょぉ!」

「お、おー!」






――――作者より――――
最後までお読みいただき、ありがとうごさいます。
作者の励みになりますので、♡いいね、コメント、☆お気に入り、をいただけるとありがたいです!
お手数だとは思いますが、何卒よろしくお願いします!
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