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会遇編
36.
しおりを挟む熱い。熱い。熱い。
痛みよりも燃えるような熱さが二の腕を襲う。
「ゔっあぁ!!」
「ユルハ!!」
「ヴィー!!」
「った…!!」
痛みに悶える中自分の少し前に同じように滴っている赤色が見えた。痛みで意識が朦朧とするなかなんとか顔を上げるとフーレ子爵の腕にも矢が掠った様だった。
いや、態と当たりに行って軌道をずらしてくれた。
そのおかげで心臓を狙っていたはずの矢は二の腕に当たった。
何故子爵が?
あんなに人の身体で実験しまくったような人でなしが?
助けてくれた?
痛みで思考がまとまらない俺に痛そうに顔を歪めた子爵が詰め寄ってきた。
心配、してくれて……?
「この矢は本当に魔封石が使われているのか。確かに傷の再生はしていないな…。痛みはあるのか?普通の矢と比べるとどうだ?抜くと傷は治るのか?それとも魔封石によって付けられた傷は治らないのか?おいちょっと意識して傷治癒しようとしてみろ。刺さった状態では他の加護や魔法は使えないのか?今の状態で新しくつけた傷は?治るのか?」
「ちょ、それどころじゃ…!!痛い痛い痛い!!熱いし!!」
疑問を連投してきながら子爵が距離を詰める。その瞳は俺の二の腕に刺さった矢のことしか写していない。
……身を呈して矢の軌道をずらしたのも一重に研究の為だろう。
無遠慮に矢を掴み引き抜いた。
「ッッッ!!、ぁああ!!」
「ユルハ!!おいフーレ子爵ユルハ痛がってる!!」
クミネの心配そうな上擦った声が聞こえる。けれどその声に反応なんてできずただ荒く息を吐いて痛みをなんとか逃すことだけを考えた。
「そりゃあこいつは人の2倍の痛覚持ってるし矢引き抜いたら痛いだろーなー。…治ってはいる、か…?地味な変化だな。やはり魔封石でついたのもだからか。なら……」
おもむろに引き抜いた矢を折るとそのささくれだった断面で俺の太ももに傷をつけた。
「っ───!!」
痛みが増すことは無いものの太ももが異常なほど熱さを訴えてくる。
ヒルハの呻き声とカイルとリア、クミネの俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
「……それでもこっちの傷は治るのか。魔封石か…確かに今まで研究には使ってなかったな…光の御子の加護すらも封じるとは…盲点だったな。」
このマッドサイエンティストが……!!
恨みがましい瞳で見つめるも奴はぶつぶつと研究結果に意識を飛ばし思考の渦に浸っているようだった。
奴の狂人ぶりを目の当たりにしてこなかったクミネは子爵の本性(笑)を見て驚いたようだ。
「くっそ…離せ!!」
「離すわけないだろ!おい衛兵はやく押さえろ!!」
「……アル…っなにしてるのよ…!!」
あっちはあっちで仲間割れが起きている最中のようだ。アルはまだ俺への殺意を抱いているらしく殺意の目を向けている。
「ユルハ様!!」
自力で拘束を破ったらしいアレクシスに解放して貰ったヒルハが涙やら鼻水やらで顔を濡らせて走りよって来た。
「おお…元気だったかヒルハ」
「ユルハ様!!…っ申し訳ありません!!主の情報を明け渡すなどどのような状況下に置いても会ってはならない失態!!この命を持って償わせて頂きたく!!」
「え!?ヒルハ!?ゆ、ユルハそんなことしないよね…?ユルハのこと殺さないよね……?」
震える声でクミネが俺に尋ねる。ヒルハは本気なのだろう。ただ頭を下げて沙汰を待っている。
「……この責任ヒルハの命を持って償わせる。よってその命果てるときまで俺の隣に立ち続けろ。」
その言葉に2人は涙を流した。クミネは喜び涙を流した。ヒルハの涙はきっと喜びではなかった。彼は深く悔やみ後悔し、それを温情という形で償う、いや償うどころか罰を与えられないことが苦しいみたいだった。
それが分かっていながら俺はこれ以上の罰を与える気はなかった。
「───死んだらその後何処に行くと思う?」
不意にそんな声が掛けられた。
そこには酷く懐かしい俺の愛した人、初めて母のように慕った人が居た。彼女もまたアレクシスに解放して貰ったらしい。
問われた意味がわからず呆然とする俺に彼女は無表情のまま続ける。
「死とは何を意味すると思う?死とは何かの終わりか、始まりかどちらだと思う?」
彼女は昔のような自信に溢れた瞳をしていなかった。
彼女は迷子の子供のような戸惑い恐れ、怯えたような瞳を揺らめかせていた。
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