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会遇編
21.
しおりを挟む宿で夜通し考えても何も良い案は浮かばなかった。
夜中にクミネは限界がきて寝落ちしてあと残ったのは俺と護衛たち。護衛たちは俺の出した意見に賛否を答えるだけで新しい案は出さないので結局諦めて夜明け前に眠りについた。
昼前に起きてまた話す。けれどまた話し合いはループする。
「やっぱ正面突破じゃない?」
「数日様子見だろ。そんで情報収集。」
「そんなことしてたらあいつら殺されちゃうよ!!」
「大丈夫。あと数日は雨が降るって占い屋が言ってただろ。処刑は雨の日にはやらない。それに処刑されるほどの大罪を犯したとは思えない。」
「冤罪とかでやばい罪擦り付けられてっかもじゃん!」
このような言い合いを昨夜からずっと繰り返している。クミネはとりあえずはやく助けに行きたいらしかった。俺だって囚われてるところが城じゃなければ正面突破するけど……。
城に行くと思うと足が竦む。
無駄に記憶力の良いこの頭は関係の薄い両親や妹の首の切断面まではっきりと覚えている。まるで今目の前で起きたかのようにはっきりと思い出せる。
当時はそれを特になんとも思わなかったが今は違う。あれは恐ろしい出来事だ。人間が死んだというのに、形式上俺の肉親が、国の頂点が目の前で殺され、幾人かにはその血がかかり辺りには独特な鉄の匂いが広がったというのに奴らは大歓声を上げて喜んだ。
今までなんの関心も向けず、まぁ公表されてなかったから仕方はないが俺が光の御子だと知った途端擦り寄ってくる貴族。俺の加護の力で作物がよく育っているというのに化け物と罵り石を投げてくる街人。
光の御子の俺を懐柔し国の発展のために傀儡にしようとする元革命軍の奴ら。
「俺は死なないからいいけどお前らは死ぬんだぞ?正面突破はリスクが大きい。だからと言って俺だけが城に入っても出来ることは少ない。」
「でも……情報収集してるときにあいつらの状況が悪化したら…」
痛みを感じないままにしてくれていれば良かったのに。わざわざ俺の感覚を呼び戻し痛覚二倍の封印を解いたせいで俺は弱くなった。
あの地下牢にいた頃がなんだかんだ1番よかったのかもしれない。
「それに雨なんていつやんでいつ晴れるかわかんねぇじゃん」
「…まぁそれは占い屋が腕がいいことを信じるしかねぇな」
何をされても無関心でいられた。
何かを知ることもなかった。
自分の特異性を理解しないでいられた。
世界が広いと知らずにいれた。
自分の世界が狭いと気づかずいられた。
「こればっかりは運だよ。どう行動するにせよ必ず運が必要になる。」
「運頼みかよ…2人の命かかってるかもしんねぇのにさ……」
「そりゃそうだよ。相手が悪い。国と戦おうとしてるのがこんな知識も力もないやつなんだ。運頼みしかないだろう。」
無知は救いだ。
自分の惨めさも愚かさも憐れさも知らずにいられるのだから。
だから俺は今の俺を否定する。そして俺を楽園から連れ出し英雄ヅラ晒してるあいつらを否定する。
お前らが勇者のように可哀想で惨めな少年を地下牢から救出したという華々しいエピソードはそれはそれは大人気だろう。それこそ劇になるほどに。
けれど俺はお前らを否定する。
俺はわざわざ生きづらい環境に放り捨ててといて救世主語るなんて甚だ面白い。
「…一度子爵からの伝言を聞くまでは動かないようにしよう。」
「…そうだね。…あ、でも確かお客さんが今日来るとか言ってたきがする。」
「あー…そう言えばそんなこと言ってたっけ…?」
「返事遅くなるかもね。」
よくある物語の勇者の魔王退治も「魔王が封印から目覚めた」という理由で攻め込んで行くけどそりゃ寝起きで襲われたら全勢力使って対抗するだろ。まだなんの被害もないのに殺しに行くのは正義なのか。
被害が出ないうちにってことは分かるがそれでも魔王に無慈悲すぎないか。
自分が魔王のように扱われるからそう思うのか。
「まぁ夕方までには届くだろ。そんなに遠い距離じゃないし客もそんなにずっと話してるわけじゃないだろうし」
「…だといいけど。早く攻めた方が良いと思うんだけどなぁ……」
城に関わった人物は皆俺のことを嫌っていく。
もし2人と再会できたとき2人に嫌われていたらどうしよう。ただでさえ俺の小さな世界が壊れてしまう。
「……どちらにせよ正面突破は無謀すぎ却下」
臆病者な俺は自分が傷つかないためなら唯一無二の存在を切り捨てられる。
嫌われていたら耐えられないなら二度と再会しなければ傷つかないだろう?
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