100 / 136
会遇編
20. エリザベートside
しおりを挟む同じ転生者だった今は亡き王女メリア=キース=ミスタ=ベルヴァニスタは無様に失敗して死んでいった。
馬鹿が、としか思わなかったし特に同情も悲しみも湧かなかった。私の邪魔はするなよ、とだけ思ったのを長い月日が経った今でも覚えている。
ヒロインは自滅した。なら悪役令嬢の私は?
やっぱり最近の流れらしく悪役こそが幸せになるルートなの?
そう、思った。
思っていた。
情報を得るために身体を売る度に効率が良いからと言う自分と前世の真面目で清純だった自分が現状を拒絶する叫びの狭間で胸が苦しくなった。
そんな苦しみを忘れたくて快楽に耽ろうと股を開いてまた苦しくなる。そんな馬鹿みたいな人生だった。シルヴィア様を同じ娼婦に堕とせばきっと苦しくなんてなくなると思った。あいつよりマシだと思えると思っていた。
けれどそれが失敗だった。
私がスラムの汚い男に股を開いて端金と情報を得ているときにあいつは高い金で選ばれた高貴な身分の客に抱かれた。毎日治癒魔法で性病を治す私と比べてあいつは体質もあって全く穢れなかった。あいつがストリップショーをしていると聞いて実際に見ればきっと優越感に浸れる、男共の性の対象にされてる奴を見ればきっと。なんて思って群衆に紛れてあいつのストリップショーを1度だけ見に行った。
見に行くんじゃなかったと今でも思う。
私の想像通りあいつは男の子達の色欲を一斉に向けられた。何人かはショーを見ながら自分で扱いていた。
なのにあいつはそれでも穢れなかった。まるでこちらを挑発するように余裕の笑みを浮かべて。私と共にいた時の無垢で辿々しい言葉使いなんかしてなくて自信に裏付けられたかのような言葉使いだった。
なのにあいつはミルネスだと名乗った。
腸が煮えくり返りそうだった。堕としたはずがあいつは高貴なままだった。その名は私の微弱な攻撃を拒絶すると言いたいのか。それだけ恵まれていながら何を拒絶するんだ。
余裕のある表情を浮かべ何を考えているのか分からないような飄々とした自分を演じながら心の中はただ1つのことしか考えてなかった。
憎い。あいつが憎い。
私はこんなに底辺まで堕ちているのになんであいつは堕ちない。穢れない。私が幸せになるための世界ではなかったのか。私は自滅したあのくそビッチとは違うのに。
どうして私だけ。
悔しくて苛立たしくて仕方なかった。
ただまだここまではなんとか耐えれた。だってあの見世に送ったのは私なんだから。自業自得だと言い聞かせれた。
なのに。
なのにあいつは信頼出来る仲間とパトロンに保護されてスローライフを送り始めた。また名前を変えて。
何故?
私はこの掃き溜めから出れないのに。仲間なんて居ないのに。なんでお前にはいるの?私と何が違うの?光の御子だから?なんなのそのチート。もしかしてお前も転生者なのか?
ずるい。私はそんなのどれも持ってないのに。
何一つそんなのないのに。
治癒魔法が使えなかったら既に性病で死んでいるというのに。お前は知らないんだろう?毎朝毎朝自分の股間や胸、内臓に治癒魔法をかける惨めさが。鏡で隅々まで見て内臓一つ一つを意識しながら治癒する惨めで哀れな人生なんて考えたこともないんだろう。
こんなことなら見世なんかに売らずスラムに捨てればよかった。
でもきっとそれでもお前は王子様 が救ってくれるんだろう?ずっと探してたもんね。
なんでお前にはそんなに味方がいるの。
ずるいわ。私は独りぼっちなのに。
身体を求めてやってきた浮浪者しか私にはいないのに。なんであなたの周りには綺麗な奴らが集まるの。
私が間接的にでも人を殺したからいけないの?
でも仕方ないじゃない。そうしないと私に味方してくれる人なんていなかったんだもの。
貴方だって伯爵を殺したじゃない。
なのに誰も貴方を責めないのね。おかしな話。伯爵領の人いったい何人が死んだか分からないのに。貴方は許されるのね。笑って生きることを許されるのね。
ずるい。憎い。妬ましい。……羨ましい。
私はずっと理解者が欲しかっただけなのよ。
やり方は確かにおかしかった。わかってる。けどただ仲間が欲しかったの。それだけなのよ。どれだけ穢れても気にせず隣に並んで歩いてくれる人が欲しかったの。
でももう遅いわね。
「……ふふ、はやく私を処刑してよ。ねぇ何時?私はいつ処刑してもらえるの?」
冷たい牢獄で私の声が響く。
すぐに牢の外の門兵から返事がかえってくる。
「……黙って待ってろ。極悪人。」
「あら。酷いわ。私にはちゃんと名前があるのに。」
「お前なんか極悪人で十分だ。いいから黙ってろ。」
「つれないわね。ねぇ私の名前教えてあげようか?」
お母さんが好きだった花の名前。
「……黙ってろ」
「ねぇねぇ。名前。知ってる?」
私が生まれた頃が見頃な花。
「黙っとけ」
「ねぇ。」
誰も知らない。誰も私を知らない。
「黙って寝てろ。」
誰も知らない花の名が唯一私を私たらしめるもの。
エリザベートは私じゃない。だからはやく元の私に戻してよ。
13
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
【完結】魔法薬師の恋の行方
つくも茄子
BL
魔法薬研究所で働くノアは、ある日、恋人の父親である侯爵に呼び出された。何故か若い美人の女性も同席していた。「彼女は息子の子供を妊娠している。息子とは別れてくれ」という寝耳に水の展開に驚く。というより、何故そんな重要な話を親と浮気相手にされるのか?胎ました本人は何処だ?!この事にノアの家族も職場の同僚も大激怒。数日後に現れた恋人のライアンは「あの女とは結婚しない」と言うではないか。どうせ、男の自分には彼と家族になどなれない。ネガティブ思考に陥ったノアが自分の殻に閉じこもっている間に世間を巻き込んだ泥沼のスキャンダルが展開されていく。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
とある隠密の受難
nionea
BL
普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。
銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密
果たして隠密は無事貞操を守れるのか。
頑張れ隠密。
負けるな隠密。
読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。
※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる