牢獄の王族

夜瑠

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会遇編

20. エリザベートside

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同じ転生者だった今は亡き王女メリア=キース=ミスタ=ベルヴァニスタは無様に失敗して死んでいった。

馬鹿が、としか思わなかったし特に同情も悲しみも湧かなかった。私の邪魔はするなよ、とだけ思ったのを長い月日が経った今でも覚えている。


ヒロインは自滅した。なら悪役令嬢の私は?

やっぱり最近の流れらしく悪役こそが幸せになるルートなの?


そう、思った。


思っていた。


情報を得るために身体を売る度に効率が良いからと言う自分と前世の真面目で清純だった自分が現状を拒絶する叫びの狭間で胸が苦しくなった。

そんな苦しみを忘れたくて快楽に耽ろうと股を開いてまた苦しくなる。そんな馬鹿みたいな人生だった。シルヴィア様を同じ娼婦に堕とせばきっと苦しくなんてなくなると思った。あいつよりマシだと思えると思っていた。


けれどそれが失敗だった。

私がスラムの汚い男に股を開いて端金と情報を得ているときにあいつは高い金で選ばれた高貴な身分の客に抱かれた。毎日治癒魔法で性病を治す私と比べてあいつは体質もあって全く穢れなかった。あいつがストリップショーをしていると聞いて実際に見ればきっと優越感に浸れる、男共の性の対象にされてる奴を見ればきっと。なんて思って群衆に紛れてあいつのストリップショーを1度だけ見に行った。

見に行くんじゃなかったと今でも思う。


私の想像通りあいつは男の子達の色欲を一斉に向けられた。何人かはショーを見ながら自分で扱いていた。

なのにあいつはそれでも。まるでこちらを挑発するように余裕の笑みを浮かべて。私と共にいた時の無垢で辿々しい言葉使いなんかしてなくて自信に裏付けられたかのような言葉使いだった。


なのにあいつはミルネス拒絶するものだと名乗った。


腸が煮えくり返りそうだった。堕としたはずがあいつは高貴なままだった。その名は私の微弱な攻撃を拒絶すると言いたいのか。それだけ恵まれていながら何を拒絶するんだ。


余裕のある表情を浮かべ何を考えているのか分からないような飄々とした自分を演じながら心の中はただ1つのことしか考えてなかった。

憎い。あいつが憎い。

私はこんなに底辺まで堕ちているのになんであいつは堕ちない。穢れない。私が幸せになるための世界ではなかったのか。私は自滅したあのくそビッチとは違うのに。

どうして私だけ。

悔しくて苛立たしくて仕方なかった。


ただまだここまではなんとか耐えれた。だってあの見世に送ったのは私なんだから。自業自得だと言い聞かせれた。


なのに。


なのにあいつは信頼出来る仲間とパトロンに保護されてスローライフを送り始めた。また名前を変えて。


何故?


私はこの掃き溜めから出れないのに。仲間なんて居ないのに。なんでお前にはいるの?私と何が違うの?光の御子だから?なんなのそのチート。もしかしてお前も転生者なのか?

ずるい。私はそんなのどれも持ってないのに。

何一つそんなのないのに。


治癒魔法が使えなかったら既に性病で死んでいるというのに。お前は知らないんだろう?毎朝毎朝自分の股間や胸、内臓に治癒魔法をかける惨めさが。鏡で隅々まで見て内臓一つ一つを意識しながら治癒する惨めで哀れな人生なんて考えたこともないんだろう。

こんなことなら見世なんかに売らずスラムに捨てればよかった。

でもきっとそれでもお前は が救ってくれるんだろう?ずっと探してたもんね。

なんでお前にはそんなに味方がいるの。

ずるいわ。私は独りぼっちなのに。

身体を求めてやってきた浮浪者しか私にはいないのに。なんであなたの周りには綺麗な奴らが集まるの。

私が間接的にでも人を殺したからいけないの?

でも仕方ないじゃない。そうしないと私に味方してくれる人なんていなかったんだもの。

貴方だって伯爵を殺したじゃない。

なのに誰も貴方を責めないのね。おかしな話。伯爵領の人いったい何人が死んだか分からないのに。貴方は許されるのね。笑って生きることを許されるのね。


ずるい。憎い。妬ましい。……羨ましい。


私はずっと理解者が欲しかっただけなのよ。

やり方は確かにおかしかった。わかってる。けどただ仲間が欲しかったの。それだけなのよ。どれだけ穢れても気にせず隣に並んで歩いてくれる人が欲しかったの。


でももう遅いわね。



「……ふふ、はやく私を処刑してよ。ねぇ何時?私はいつ処刑してもらえるの?」

冷たい牢獄で私の声が響く。
すぐに牢の外の門兵から返事がかえってくる。


「……黙って待ってろ。極悪人。」

「あら。酷いわ。私にはちゃんと名前があるのに。」

「お前なんか極悪人で十分だ。いいから黙ってろ。」

「つれないわね。ねぇ私の名前教えてあげようか?」

が好きだった花の名前。

「……黙ってろ」

「ねぇねぇ。名前。知ってる?」

が生まれた頃が見頃な花。

「黙っとけ」

「ねぇ。」

誰も知らない。誰もを知らない。

「黙って寝てろ。」


誰も知らない花の名が唯一私を私たらしめるもの。

は私じゃない。だからはやくに戻してよ。






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