牢獄の王族

夜瑠

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会遇編

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「ふふふ、あらあら」


女は嗤う。穏やかに微笑みを冠する口許とは裏腹にその瞳には濁った欲望の光が点っていた。


「なんだ?なんか面白いことでも書いてんのか?」

男が手紙を覗き込む。
そしてお世辞にも整っているのは言えない顔を更に歪めた。


「もう、貴方には文字読めないでしょう?手紙に嫉妬したの?」


くすくすと可笑しそうに笑う女の視線にバツが悪そうにしながら男は頭をかいた。
心做しかその頬は朱を帯びているようにも見える。

ふぅ、と一息大きな息を吐くと誤魔化すように男は女の唇に咬みついた。まるで捕食するかのような荒々しい口付け。しかし慣れてはいないのか女の口に差し込まれた舌は戸惑うようにうねる。

女はそんな性急な口付けにもただ微笑んで導くように舌を絡ませるだけだった。

深く長く互いの唾液を交換し終えたころ漸く口を離す。息を乱す男と余裕の表情で唇の唾液を舐めとる女。どちらが手練であるかは一目瞭然だった。
男はその様子にも悔しそうに顔を歪めた。


「誰からだよ。お前は貴族にも股開いてんのか?物好きだな」

口付けのテクニックで相手にもされなかったのが悔しかったのか男は嫌味っぽくそう吐き捨て徐に女の胸を揉みしだいた。鼻にかかる甘い声に漸く機嫌が良くなる。俺が、俺の手がこの女の快感を生み出した。女が演技しているなど考えつきもせず純粋に気分を良くさせた。


女は自らその手に胸を押し付けるように男を誘惑する。そして心外だとでも言いたげに反論する。

「私だって誰彼構わずセックスしてるんじゃないのよ?貴族は嫌いだしね。これはお仕事の手紙よ。」

「仕事?……ああ、そう言えばお前情報屋か。娼婦かと思ったぜ」


男は一瞬本気で女の仕事が思いつかなかった。きっと娼婦かと思ったのも本気だろう。それほどこの女は日々何処かの男に抱かれている。

それに普通の情報屋とは総じてプライドが高いのだ。自らの集めた情報に見合う対価を払え、とやけに高値で売るやつが多い。従って今のこの女のように淫らに胸を押し付ける男の膝にぐしょぐしょに濡れた股を擦り付け、スラムの汚い男に組み敷かれるのを良しとするのは異常なのだ。

いや、情報屋でなくとも多くの女はこうして掃き溜めに暮らすスラムの最後にいつ身体を清めたのか分からない異臭を放つような男に抱かれようものなら精神を病むだろう。


「ん、…前に来たお客さんがぁ、ァっ、んァ、今週また来るって、はっ、」

股にも伸ばされた手に自らイイトコロに当たるように腰をくねらせる。

幼少の頃から女には避けられ嫌悪されてきた容姿の男はこの貴族にも劣らない美貌を持つ美女が他でもない自分に寄りかかって自分の手と肉棒が与える快感に悦びを顕にして叫ぶように喘ぐのが気分が良かった。

そして独占欲が湧いていた。

身体を開いていつでも相手はしてくれるが引かれたある一定のラインからは入らせてくれない女にも、自分と同じようにこの女に魅力されこの女を抱くスラムの自分以外の男も気に食わなかった。


「……その客ともヤってるのか」

「あら?嫉妬?んっ、あは、心配なく、はァ、その子とはしてないしする予定もないわ」

「そうか…なぁ俺だけの女になってくれよ」

「ふふ、貴方はいつもそればかりね。私は一人の男じゃ満足出来ないの。何人もの男に抱かれたいの」


もうお決まりになってしまった会話を繰り返し女は思う。

いつから自分はこんなにガバガバの貞操観念を持つようになってしまったのか。初めは情報を得るために身体を売っていたのに今ではただ己の性欲を満たすために進んで身体を開いている。

はそれこそ淑女だったのに。人が惨めで憐れな様を晒すところを見るのは好きだったけどそれは隠していた。
 皆は私のことをいつも優しい、大人しい、穏やかだと称した。心の内も知らないで。

それでも現実を失うのが怖かったビビリなは心の中でずっと一人の人と結婚し添い遂げていく人生を送りたいと願っていた。

それが気づけば。そりゃ死なないために頑張りますよね。そりゃこんなビッチにもなりますよ。

けど漸くから解放されたと思ったのにこのはそう簡単に私を解放させてはくれないらしい。


男の陰茎が女を穿つ。


大袈裟に感じた振りをしてやりながら冷静な頭で思考を巡らせる。

嗚呼、この興奮はきっとこの行為の所為ではない。

どうして貴方はそう愚かなの?

折角私の元から解放してあげたというのにまた私の元へ近づいてくるのね。なんて愚かで哀れでいじらしい。

そんな貴方を愛しているわ。


囚われた光の御子
シルヴィア=クリス=ミスタ=ベルヴァニスタ



女の醜く持ち上がった口許からは高く甘い嬌声が響いていた。











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