牢獄の王族

夜瑠

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悔恨編

34.

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「ユルハさまー!!ここにいっぱい生えてますよー!」

「ほんとかー!?そっちいくわ!!」

「あ、そこぬかるんでますから気をつけて!!」

「わかったー!!」


長い冬が明けた。
食料も薪も使用人が運んでくれるのでほとんど小屋から出ない日々だった。

ヒルハはアレクシスと2人で朝から身体を動かしていたようだが。

人生で初めてを見た。本にあった通り真っ白で、ふわふわと空から降ってきた。ただ本では甘いって書いてたのになんの味もしなかった。

それをアレクシスに何となく言ったら『……絵本だからな』と言われた。俺の読んでいた本は全てが事実ではないらしかった。


そんな寒く薄暗い冬がこの間ようやく終わり春になった。

久しぶりに感じる太陽のぽかぽかとした温もりに頬が緩む。

泥濘に気をつけながら山菜を摘むヒルハの傍へ駆け寄る。そこには一面緑のカーペットだった。

「ほんとだ。ここらへん全部ニツミ草じゃん」

「ええ。それにあの奥の赤い花のはクゾリ草だと思います。」

「食べれるやつ?」

「美味しいらしいですよ」

「よし、とるか」


俺たちは家の周りの山に山菜を摘みにきていた。それはアレクシスが何の気なしに口にした言葉が原因だった。

『そういやここらへんはニツミ草とかヤウリ草とかあるから食いっぱぐれねぇな』

『……え、草食べんの?』

『草って……山菜だよ。』

箱入り()だった俺たちは山菜という存在すら知らずそれに驚いたアレクシスが今まで1番の行動力と熱意で俺たちに山菜についてを教えこんでくれたのだ。……別人すぎて意味がわからなかった。

そしてただでさえ家から出れず暇を持て余しているところに山菜について語られて興味を持たないはずがない。

俺たちは春になり暖かくなれば山に山菜摘みにいこう、と約束した。

それが今日である。


図鑑とやらで一通りの勉強はしてきたので見た目と名前はばっちりである。

今日摘んだ山菜は天ぷらにして食べたらいいとアレクシスが教えてくれた。天ぷらが何か分からなかったがヒルハが作り方を教わっていたので大丈夫だろう。


「もう籠いっぱいになったな」

「そうですね。寒くなってきたし終わりますか?」

「……そうだな、おわろうか」

もう少しやっていたい気もしたが寒いのも事実なので終わることにした。籠いっぱいの山菜は今日の成果を可視化しているようで嬉しくなった。

「こんなに食べきれますかね?」

「明日にも食べればいいだろ」

「そうですね。明日は子爵様が来るって言ってましたし少し渡しましょうか」

「あー、そういや来るんだっけ……」

思い出した事実につい顔を歪めてしまう。その様子をヒルハが可笑しそうにくすくすと笑う。


「ユルハ様に会いに来るんですから覚えておかないと」

「……どうせまた厄介事だろ?」

「……それは否定できませんね」


子爵が俺に会いに来るなんて実験を手伝えか、実験台になってくれ、のどっちかしかない。

そうじゃなけりゃあの狂科学者が実験室から出てくるはずがない。

あいつの頭が良いのも実験が素晴らしいのも知ってるが犠牲になるこちらの身にもなって欲しい。

死なないしすぐ治るとはいえ痛みは倍なんだから。そのくせあのクソ科学者は『すぐ治るのが欠点だよなぁ』なんてサンプルを取れないことに苦言を呈してくる。殴りたいと何度思ったことか。養ってもらってる身なので我慢したが。

だがあいつの実験に付き合っているうちに意識すれば自然治癒をことが出来るようになった。全く意味の無いものだが。

あいつが怪我がすぐ治れば意味が無いというので相当意識すれば怪我したままでいられる。30分までなら。

今のところ実験以外で役立ちそうなところは無い。


「……明日はなんだろ」

「……最近子爵が大量に釘を運んでいるらしいとの情報は仕入れましたよ」

「……釘かぁ痛い系のやつだな…」

「……そろそろ論文発表の時期ですからね」

「……釘を使った何の実験を発表する気だよ…」


今から足取りが重くなってしまう。嫌だなぁ…なんだよ釘って…絶対痛いじゃん…釘は実験に関係なかったとかないかな…?

緑の中を憂鬱な気持ちで歩く。
深緑の濃い葉っぱすら自分の気持ちを表しているように感じた。

陰鬱とした不気味な森。

そう一度思うと少し怖くなった。

「……はやくかえろ」

「え?はい。この森を抜ければもう着きますよ」

「よし、はやくこの森抜けるぞ!」

「は、はぁ?」

よく分かっていないヒルハの手を引きずんずんと出口へ向かう。

小走りで進むとすぐに森を抜けた。暗かった森の外は広々とした丘でその奥に小さな二つの家が見えた。


「……帰ろう」

「はい!もうみえてますからね!すぐですよ!」


そのままなんとなく手を繋いだまま俺たちはに向かった。

すごく胸がぽかぽかとした。






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