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悔恨編
26. ロイside
しおりを挟む何日もかかりようやくフォルネウス伯爵関係の話がまとまりシルヴィアの捜索を進められると思ったときある噂が流れてきた。
「フードの妖精?なんだそれ。妖精って…もう絶滅したか人間には見えなくなったはずだろ?」
「そうよ。ただこの噂の妖精は例えらしいのよ。2人組の2回りくらい大きなダボダボのコートを着てフードで顔を隠してるらしいの。」
お腹も随分大きくなり移動も大変そうになっているリアは久しぶりに会ってもいつも通りの笑顔で迎えてくれた。
臨月に入りそろそろ出産、という時期になったので一度様子を見に二人の屋敷に訪れた。
ベッドに居たままでいいと言ったのに少しは動くべきだから、と言ってソファに移動したリアはやはり表情が変わっていた。
戦場から離れたこともあるだろうがそれだけでは説明出来ない柔らかな表情だ。その顔はもう朧気になってしまったがリアの母親に似ていると思う。自分の両親の顔さえもうはっきりとは思い出せないのだけれど。
わざわざ騎士団の訓練を休んでまでリアの隣にいるアルは心配そうにリアの腹を撫でている。その表情は父親というより子供のようでなんだか面白かった。
3人での真面目な話、雑談、赤ちゃんの話をしていた時リアがとある噂を教えてくれた。「フードの妖精」もう何百年も前に人間が見ることの出来なくなった存在。そのため一瞬何を言っているのか意味が分からなかった。
「フードを深く被った2人組で1人は薄めの藍色の髪でもう1人はほんっとに身体のどこ部分も露出させないんだって」
「藍色…ってことは若干貴族の血が入ってるな……それに全く見せないって……で?そいつらが何?」
するとリアは少し躊躇うように言った。
「その人たちが言った甘味処の主人にいいことが起こるみたい。急にお金持ちになるとかそんな大きなことじゃなくてちょっとしたラッキーが続く、みたいな。」
その言葉に目を見張った。もしかして俺が今思い浮かべているあいつなのか……?
「ラッキーってどんなだよ?」
「噂だから本当かは分からないけどずっと昔に無くしてた指輪が見つかったとか、商人がうっかり仕入れを間違えて高級な砂糖を普通の値段で売ってくれたとか、客が増えたとか」
「ふーん…でそれがなんなんだよ?」
「アル……あんたは察しが悪すぎる…馬鹿なの?」
リアが呆れたように言う。しかしよしよしとペットでも撫でるかのようにわしゃわしゃとアルの頭を雑に撫でる瞳は慈愛に満ちていた。
「しかもこれフーレ子爵領なの」
その言葉に涙が浮かんだ。
やっと、やっと見つけた。やっと迎えに行ける。
「……その噂の信憑性は?」
少し震える声で尋ねる。自分の声にどこか祈るような感情が読み取れて笑えた。それでも願わずにはいられない。
リアは俺の願いを心得ていると言いたげにゆっくり頷いた。
「かなり高いわ。2人組のフードは多くの人が何度も目にしている。それにその店に起きているラッキーなことも。確定とは言いきれないけどもしかしたら、そうかもしれない」
「……そうか…そっか……!!……ありがとう調べてくれて…」
「ううん……早く迎えに行ってあげな。この子が産まれたらお兄ちゃんだって紹介しないといけないんだから」
リアはそう言っていたずらっ子のように笑った。アルはなんとなく何の話なのか気づいたようで少し気まずそうな顔をしていた。
ただ今はあるのことなんて気にならないくらい気持ちが昂っていた。
はやく、早くいかないと。
「リア、アルごめん。今すぐ仕事終わらせてフーレ子爵領の…視察にいってくるよ」
「ふふ、行ってらっしゃい。気をつけていくのよ?」
「……仕事は終わらせとけよ」
「ありがとう…!!」
馬車に乗って城に戻る。その間も馬車が酷く遅く感じて何度も御者に1番早いスピードで頼む、と繰り返した。御者は酷く緊張しているようだったが普段なら気にかけてやるそんな様子ですら今は気にかけることすら出来なかった。
ひたすらに頭の中にはシルヴィアが浮かぶ。
フードで見えないとなると本当にシルヴィアなのかは分からない。それでもその可能性に縋りたい。ラッキーなことが光の御子の加護であることを願う。
そして仕事が早く終わることも。
ヴィー待っててね。すぐに行くから。
すぐにそんな地獄から救い出して上げるからね。また共に暮らそう。
だからもう少し辛抱していてね。
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