24 / 136
出会い編
24. ロイside
しおりを挟むシルヴィアがいなくなった。
4日前、話し合いに区切りをつけ夕食のため食堂へ向かおうと会議室を出た時異様に慌てている家令からメイド3名と光の御子様が見当たらないと報告を受けた。
教会から帰ってきていたことすら知らなかった俺たちは何故誰一人それに気づかなかったのかを責めた。そして城の中に何者かが侵入したのか、3人の中にエリザベートがいてその計画なのか、ただの家出なのか調べさせた。
そして今日、未だ落ち着きを取り戻せないでいる城に3人のうち1人のメイドが帰ってきた。
憔悴しきった様子で足元もおぼつかず目の焦点も合わない。一先ず低調に保護し毛布と温かいスープを飲ませた。
安心したのかそいつはポロポロと涙をこぼしひたすら謝り続けた。
そして事の顛末を聞いた俺たちは酷く驚き、後悔し、自分を責めた。
「シルヴィア様は教会や街で化け物だと罵られ石を投げられ急いで城に戻りました。街にいた時間は1時間にも満たないほどでした…。そして一目散に御三方のいる会議室へ走っていった時……その…シルヴィア様を化け物だという言葉を聞いてしまい……」
「……あ、……おれが……?」
「………そんな……」
アルは目を見開き顔色を失わせた。リアもアルほどでは無いが顰めた顔は青色に変わっている。そしてきっと俺も。
そうかシルヴィアはあの時聞いていたのか……
「それで……アマンダ様がシルヴィア様を誰も貴方を化け物扱いしない所に連れ出してあげる、と。」
俺たちは危険人物かもしれないと疑っていた相手に最も守るべき人物の心を救わせてしまったのか。なんて愚かで傲慢で滑稽なんだろうな俺たちは。
「……そうか…シルヴィアは今どこに…?」
「……あ……」
「……よければでいいんだ…一言謝りたい……」
謝って済む問題ではないだろう。それでも俺は謝りたい。この命果てるまでずっと謝り続けていきたい。
しかし途端に彼女はようやく戻り始めた顔色をまた真っ白にさせ震え出した。
「……ごめんなさい…ごめんなさい……!!シルヴィア様が売られてしまったの……!!」
「……は……?」
「ヴィーが……?」
「うられ……た……?」
口を開け呆然とする。
俺たちはずっと人質や光の御子の力を使うために囲うとばかり思っていた。エリザベートも貴族に取り入るために光の御子を欲しているものだと。
なのに囲うどころか売られた?
光の御子が?
「どうして止めなかったのよ!!」
「だって…!!逆らえるわけないじゃない!!私は結局一生あの男の奴隷から抜け出せないんだから!!」
「奴隷……?お前奴隷上がりだったのか!?」
「あの男っていうのは…?」
アルと同時に質問してしまう。涙を次々に溢れさせる彼女の瞳は闇を知っている目だった。
「……ギル=クーリック。花街の首領。彼の見世にいる多くは奴隷上がり。私たちはあいつの手駒となるように育てられる。火事で見世が燃えて解放されたと思ったのに今度はあの御方がいた……あの御方は病気の弟の薬代を条件にシルヴィアを売ることを提案してきた。私が弟を捨てられないと知っているから……」
「あの御方…」
何となく予想はついてるけど……。
「……アマンダ=ホーネット。本名エリザベート=ホスト=アマリステ様。」
「……やっぱり……」
「アマンダか……」
「ヴィーはそのあと…?」
「分からない。エリザベート様は飽きたからまたスラムで生きると言っていたけれどシルヴィア様はギル達が連れていきました。どこへ向かったのか分かりません。」
少しでも吐いて楽になりたいのかエルザは多くの情報をおしえてくれる。実際は自分達の失言が悪いのだけどエルザに何故早く教えてくれなかったんだ、と憤ってしまう。
「……なんで帰ってきたの?このまま逃げることもできたのに…」
リアがそういうとエルザは苦しそうに悲しそうに自嘲するように顔を歪めて答えた。
「シルヴィア様が馬車に押し込まれて連れていかれたあと私たちは予定通り約束の薬を貰った。私はすぐに弟のいる街へ向かったの。…ふっ、その時にご主人様達が何もしてこないことを怪しめば良かったのにね……。家に帰ると待っているはずの弟と預けていた近所のおじいちゃんの遺体があった。両方とも誰かに殺されていた。弟の近くには紙があって……それに……『薬は渡すと言ったけど弟を殺さないとは言ってないぜ?』って……!!」
エルザは唇を噛み締め大粒の雫を落とす。
「もう……もう、私の生きる理由が無くなってしまった……!!いつご主人様が私を回収しに来るかわからない……!!最後は姉様達みたいにゴミのように棄てられるのよ……!!そんなのいや……!!」
そう発狂するように叫ぶ。
俺達はその勢いに気圧されていた。同情していた。家族が殺される痛みを共感してしまった。
だから動けなかった。
「だから私は綺麗なままで死んでやるの!!そして私の生きた証を残してやるの!!」
「……!エルザ!!まちなさい!!」
1番近くにいたリアが手を伸ばした時には遅かった。
きっとずっと毛布の下に隠していたのだろうナイフでエルザは自分の心臓を突き刺した。
「……エリク……今お姉ちゃんが逢いに行くからね……」
エルザは全てから解放されたようにそれは綺麗で安らかな微笑みで死んだ。
即死だった。
俺たちはシルヴィアの前での失言、目の前の少女の自殺を止められなかった悔しさ、このどうしようもない喪失感でその場からしばらく動けなかった。リアの泣き声だけがずっと響いていた。
エルザ=クーリック 享年15歳 自死
20
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
【完結】魔法薬師の恋の行方
つくも茄子
BL
魔法薬研究所で働くノアは、ある日、恋人の父親である侯爵に呼び出された。何故か若い美人の女性も同席していた。「彼女は息子の子供を妊娠している。息子とは別れてくれ」という寝耳に水の展開に驚く。というより、何故そんな重要な話を親と浮気相手にされるのか?胎ました本人は何処だ?!この事にノアの家族も職場の同僚も大激怒。数日後に現れた恋人のライアンは「あの女とは結婚しない」と言うではないか。どうせ、男の自分には彼と家族になどなれない。ネガティブ思考に陥ったノアが自分の殻に閉じこもっている間に世間を巻き込んだ泥沼のスキャンダルが展開されていく。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
とある隠密の受難
nionea
BL
普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。
銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密
果たして隠密は無事貞操を守れるのか。
頑張れ隠密。
負けるな隠密。
読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。
※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる