牢獄の王族

夜瑠

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出会い編

22.

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勢いよく部屋に入る。

「シルヴィア様!?」

その勢いのままベッドに横になっていた彼女の胸に飛び込む。

「……どうなされ……泣いているのですか?先程ので怪我を……?」

無言で首を振る。
なんなんだろう。よく分からない。ただ苦しくて涙が止まらない。幸せなときの苦しみとは全然違っていてこの苦しさは耐えられない。

エルザが荒い息を吐きながら部屋に入ってきた。

「エルザ!シルヴィア様はどうなさったの……?」

「はぁ…はぁ…ん、その…はぁ…アル様たちの…会話を…はぁ………聞いてしまいまして……」

「会話……?」


思わずアマンダをきつく抱きしめてしまう。
いやだ。いやだ。アマンダまで僕を化け物だと思わないで。

「その……アル様がシルヴィア様のことを、、化け物と……」

「なっ!?本当ですか!?そんな…ひどい……!」

アマンダがぎゅっと抱き締め返してくれる。
その息苦しさが今はそれがとてつもなく安心する。

「うぅ…ゔ~……!!」

「大丈夫……大丈夫ですよ……アマンダがおりますよ。ヴィー様は化け物なんかじゃありませんよ…大丈夫……大丈夫です。」

ぽん、ぽんと一定のリズムで背中を叩いてくれる。声を出したらダメなのに。また殴られるのに。あれ?ここではもう殴られないんだっけ?石を投げられるだけ?あれ、それはお城の外だけ?

もう分からない。分かりたくない。アマンダだけでいい。

アルもリアもロイも知らない。みんな僕を化け物だって思ってたなんて……


「……シルヴィア様……ロイ様たちといるのがお辛いなら私たちと一緒に逃げますか…?」

「……ぇ……?」



顔を上げるとアマンダがいつものように困った顔で笑っていた。優しく涙を拭ってくれる。

ここから逃げる……?


「ここから離れて名前も変えて全く違う人生を過ごしてみますか?ちょうど今日の夜知り合いの商人が近くに来るんです。その馬車に乗ってここからでますか?」


ここからでる……名前を変えて……


「アマンダは…?アマンダも一緒……?」

「はい。一緒に行きましょう。大丈夫、貴方は愛されるべき御方ですから。何の心配もいりません。」

今日初めてお城をでた。
今日初めて人と関わった。
今日初めて魔法を見た。

今日初めて裏切りを知った。



ここは苦しい。このお城は僕を苦しめる。アマンダがいるなら一緒に全部捨ててしまうのもいいかも知れない。


「……ぅん、アマンダといる……アルいや……」

「……そうですか……じゃあ一緒に逃げちゃいましょう!エルザとユリも一緒ですよ!」

「エルザ……ユリも……?」

明るく振る舞うアマンダに少しだけ心が軽くなる。外で暮らすのが少し楽しみになってくる。なんて単純なんだろう。


エルザを見るといつものニヤリとした笑みじゃなくすこし苦しそうに笑顔だった。

「はい……一緒に、行きましょう」

「エルザ?どうしたの?調子が悪いのかしら?」

「っいえ!なんでも!!ユリに伝えてきます!」


急いで部屋を出るエルザを見送る。どうしたんだろう?

「シルヴィア様どんなところに行きたいですか?自然がいっぱいな所?技術の発展した所?それとも魔法の発展した所?」

「……ぁ……わかんない……けど…僕を化け物って言わないで皆が僕を愛してくれるところ……」

「あら、じゃあ1つ良いところを知っています。そこにしましょう!」

にっこりとアマンダが楽しそうに笑う。
ますます心が浮き足立つのが分かる。本当にそんな所あるの?僕を愛してくれるの?本当に化け物って言わない?本当に?

「詳しくは着いてからのお楽しみにしましょう!さ、荷造りしましょう。きっと楽しいですよ!」

「……っうん!!」


アマンダに手を引かれ最近与えられた自室へ向かう。この数日で僕のためにたくさんの物がロイ達から与えられた。それが嬉しくて毎日貰ったものを並べて眺めてた。

けど、今はそれら全てがただ化け物の機嫌取りのための貢物に見える。胸が焼けるような痛みを訴えた。

それに気づかない振りをして僕はアマンダの持ってきた鞄にまだ新しいたくさんのものを詰め込んだ。


16年と少しをこの城の地下牢で過ごししばらくの間だけ外の世界を知った。


そして僕は今夜もっと広い外に出る。


「……アマンダ…僕行きたいところがあるの…」

「はい?どこです?行けるなら向かいましょう」

「うん、あのね────」




カビ臭くジメジメしていて暗闇が支配する空間。

僕が人生の大半を過ごした場所。

ここは特になんの思い入れもないけれど僕にとって多くの思い出はここにある。

老人から聞いた話をこの冷たい壁に背を預けながら想像する。けどこの部屋しか知らない僕はやっぱり想像なんて出来なくて。


ねぇ、おじいさん。

貴方は外の世界は美しいと言ったけれど化け物の僕には全然美しくなかったよ。
僕は貴方と過ごしたこの空間の方が輝かしく思えるんだ。やっぱり僕はおかしいね。


「……シルヴィア様…?」

壁を見つめてただ立っていたからかアマンダが心配そうに声をかけてくる。

ああ、おじいさん。貴方の言っていたことで一つだけ分かったことがある。

「うん、もう大丈夫。」


これが『母親の愛』ってやつかな?アマンダは母上じゃないし年齢も近いけれど貴方の語っていた母親みたいに暖かいんだ。

これがそうなのかな?






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