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1.
しおりを挟む王国にある由緒正しい伯爵家には2人の兄弟がいた。
王国では貴族子息の誘拐を防ぐため子供が7歳になるまでは生まれたことすら知らされることはない。
その兄弟は10歳の兄と6歳、正確にはあとひと月で7歳になる弟だった。
兄は将来継ぐ伯爵家を守るために厳しい教育を受けていた。
代わって弟は兄が死なない限り伯爵になることはなく両親は弟を溺愛していた。
アルティスは風が窓を叩く音に頭を上げた。外を見てみると遠くから段々と雨雲が近づいてきているのが見えた。
一雨来るかも知れないな、と考えていた時窓の外を何かが横切ったのが見えた。
「オルフェ!?」
「あ、にーさま!」
「1人でどうしたの…森には危ないから1人で行ったら駄目だろう?」
満面の笑みを浮かべる弟に苦笑しながら窓際へと近寄る。
アルティス達の屋敷の裏には魔族領がある。
そこには魔王や配下の魔物が住んでおり浅いところでも入る時には大人を連れていけと幼い頃から口酸っぱく言われてきていた。
まだ幼い弟には難しかったのだろうと思いながら家の中に入るよう誘導する。
「オルフェ、もうすぐ雨が降る。森には明日兄様と一緒に行こう。」
「や!今行きたい!」
「でも雨に濡れたら風邪を引いてしまうよ?」
「ひかないもん!」
「オルフェ…森は危ないからせめて護衛を連れていきなさい」
「1人でいく!」
やだやだと駄々を捏ねる弟にどうしたものかと考える。そうこうしている間に雨雲はぐんぐんとこちらに近づいてきている。
「じゃあにーさまばいばい!!」
「あ、待ちなさい!!」
制止の声を聞かず森へと走っていくオルフェ。小さくなっていく背中に急いでメイドを呼ぶ。
「どうしました。」
「オルフェが森に入った。後を追いかける。帰ってこないようなら騎士を森へ寄越してくれ」
「え、あ、坊っちゃま!!」
それだけ急いで伝えるとオルフェの後を追いかける。小さな足跡を追いかけるも中々見つからない。
「オルフェー!!どこだー!!兄様のとこにおいでー!!」
喉がヒリヒリと痛むほど繰り返し叫ぶも、森は物音1つしない。
見えずらい足跡を辿りながらアルティスは深部に近づいていることを悟っていた。
1度引き返すべきか。しかし弟が魔物に捕まっているかもしれない。もしかすればあと少しの所にいるかも知れない。
そう思うと前に進むしかなかった。
「オルフェ…!!どこだ……!!」
叫びすぎて声が掠れてきたとき、何かが聞こえた。
急いでその音の方へ向かう。
藪をかき分け進むと途端、目の前が拓けた。
「にーしゃま!!にーしゃま!!」
「グギャギャ、グギャ!!」
そこには服を破られ今にもゴブリンに襲われそうになっている愛しい弟の姿があった。
「オルフェ…!!」
無我夢中で弟を抱きしめゴブリンから引き剥がす。しかし代わりにアルティスの服が引きちぎられる。
「にーさま!にーさま!」
「大丈夫…!!大丈夫だからね!!兄様が守ってあげるからね…!!」
数匹のゴブリンが背後で剥き出しにされた尻に群がっているのを感じる。恐怖に頭が支配される。それでも弟だけは守らなければ、と必死に抱き抱えた。
そして跡継ぎ教育のひとつとして徹底して教えこまれているどんな時でも冷静であること、という教えがアルティスにおぞましい情報を思い出させていた。
今の時期は魔物たちが発情期に入り母体を求めて人間を襲う、と習ったのはいつの頃だったか。
そして男性同士の性交に尻を使うというのも知識として知っていた。
犯される────
理解して、今すぐ逃げだしたいもののいつの間にか恐怖のあまり気を失ってしまった弟を抱えて逃げられる程余裕はない。そもそも今体勢を変えれば弟がゴブリン達に奪われてしまう。
アルティスにはどうなるか理解しながら犯されるのを待つしか選択肢しか無かった。
「グギャ!!ギャギャギギグ!!」
「ギギャグギャ!!」
「いっ──!!ぐ、ぁ、ぁぁ!!」
突然下半身を刺すような痛みが襲う。とうとう行為が始まってしまった。
ただ魔物たちが欲を発散させるために道具として使われる行為は痛み以外何ももたらさない。
愛しい弟をひたすらに強く抱き締めながら一刻も早く解放されることをただ願っていた。
痛い。早く終われ。オルフェは無事か?痛い。痛い。痛い。まだか。痛い。辛い。苦しい。オルフェは大丈夫?苦しい。
数匹のゴブリンに代わる代わる犯された頃には意識が朦朧としていた。簡単な事しか考えられなくなっていた。
「グギャギャ!!グギャ──」
またゴブリンがアルティスを犯そうとした時、その首はアルティスの真横に落とされた。そのことを理解したころには周りのゴブリンたちも反逆の機会すらなく物言わぬ骸と化していた。
「我の縄張りにこんな不届き者がいようとは…我の番が決まるまで手を出してはならぬと申して置いたのに。これだから知能の低い雑魚は嫌いなのだ。」
低く腰に響く声が静かな森に木霊する。
アルティスにはもうそれが誰なのか理解する気力もなくただようやく地獄が終わったということしか分からなかった。
「お、珍しい。人間がこんなところにいるとは。それも若い個体が2匹も。よし決めた、こやつを番にしよう。」
声の主はそう言ってオルフェの腕を引っ張った。
「歳は…6、7歳くらいか?まぁ少し待てば…あ?なんだこいつ」
「お…ふぇ……を……は、なせ…」
「なんだ生きておったのか。動かぬから死んだのかと……お、お前男か。人間で髪の長い個体は雌だと聞いたのだが…まぁ例外もあるか。」
アルティスの頭にはもう何も声は届いていなかった。ただ目の前の男が愛しい弟を連れ去ろうとしている、それだけが彼を動かしていた。
「…良いことを教えてやろう坊主」
端正な顔をニヤリと歪めて言った。
「ゴブリンに3発種付けされると子宮が出来てゴブリンの子供を孕むのだ。お主は何発出された。」
「…ぁ……?ご、ぶり……はらむ……?」
「そうだ。このままだと、お前は、ゴブリンを、妊娠する。」
区切られ耳元でハッキリと告げられた言葉に顔面からサッと血の気が引いていく。
ゴブリンを孕む?男なのに?子宮が出来る?
理解出来ないことだらけだが熱を持ち始めた下腹部が男の言葉を信じさせた。
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