3 / 12
知らぬ間に加速する世界
しおりを挟む
学校に着いてからも、しばらく放心状態になっていたと思う。体が覚えていて勝手に動いたのか、いつの間にか自分の席に座っていた。目の前には中学からの友人であるマイトが不思議そうな顔をして俺の顔を見ていた。
「どうしたんだよ朝からボーッとして。ゲームのやりすぎで寝不足か?」
「いや、むしろ寝過ぎた。だから朝早く起きちゃって変な感じになってんだ」
本当のことは言わない。と言うか言えなかった。
「ほーん、だから今日はミサキちゃんと一緒じゃ無いのか? せっかくあんなに可愛い子が起こしに来てんのにもったいねー」
「まあ、な。それより今日は放課後遊びに行かないか? 久しぶりにゲーセンとか」
「お前がそんなこと言うなんて珍しいな。けどごめん、俺他に用事あって行けねぇわ」
マイトを遊びに誘ったのは、気分転換がしたかったってのが大きかった。とにかく今は別のことを考えていたかったからだ。気持ちの整理をつけたかったんだと思う。しかし、いつもなら二つ返事でOKしてくるマイトが珍しく断ってきた。帰宅部で放課後何をするでも無く暇な時間の方が多いと自分で言っていたのに、珍しいこともあるものだ。だから聞いた。聞いてしまった。一体どんな用事なのかと。
「用事なんて珍しいな。どんな用事なんだ?」
「あー、まあお前ならいいか。誰にも言うなよ。実は俺、志崎さんと付き合うことになったんだ!」
「え?」
予想外だった。俺と同じで持てる方でもなかったマイトが、美人と噂の志崎さんと付き合うだなんて。一瞬コイツは騙されてるんじゃ無いかと思った。よくあるだろ嘘告白ってやつだ。
「俺から告白してさ。そしたらあっちも俺のこと気になってたみたいで、顔真っ赤にしてOKしてくれたよ」
違った。それに志崎さんの方を見てみると、若干顔を赤らめながらこちらをチラチラ見ていた。あんな顔を見れば流石に分かる。あれは本気の顔だ。
「てわけでさ、遊びに行くのはまた今度で頼むわ」
「わかった」
「んじゃ、俺は彼女に挨拶してから席戻るわ。あ、そうそう。お前も誰かに取られる前にミサキちゃんにちゃんと告っとけよ」
「ああ」
もう違う誰かの恋人になってしまっただなんて言えるわけがない。頷くことしか出来なかった。
俺の周りには誰も居ない。灰色の世界は、やっぱり灰色のままで。うるさいくらいに聞こえてくる周りの声は、恋愛の話、勉強の話、スポーツの話、そして受験の話もちらほら。
一人置いて行かれた気がした。周りは動いているのに、俺だけ一人止まっている、そんな感覚。なんとなくこの速さはこれからもどんどんスピードを上げていく気がした。俺を置いて、俺だけ残して。
気づいたら学校が終わっていた。教室には俺一人だ。
何かをしなければ、前に進まなければ。そう言う気持ちが漠然と浮かんできて、でもどうすればいいか分からなかった。
知っていると思っていた人たち。みんな変わっていく。俺も変わらなければ。だからとにかく勉強をした。嫌いだったのに、今はそれだけが俺の拠り所になっていた。
「お兄ちゃん。ミサキちゃんに彼氏が出来たって本当だったんだね」
「ああ」
「お兄ちゃんってさ、ミサキちゃんのこと好きだったでしょ?」
「…そうだな。好きだった」
「気づいたのが遅かったんだね」
「遅かったよ。遅すぎた」
ある日の妹との会話だ。妹の顔はすごく優しい表情をしていた。まさか妹に慰められる日が来るとは思わなかった。なんて情けなくて弱い人間なんだろう、この時の俺は自分に対してこう思っていた。
思えば自分には何も無い。やりたい事も何も。熱意と呼べるものがない。だから弱いのか、だから情けないのか。俺は分からなくなった。自分が本当に人間なのかどうかも。
空っぽだ。
「どうしたんだよ朝からボーッとして。ゲームのやりすぎで寝不足か?」
「いや、むしろ寝過ぎた。だから朝早く起きちゃって変な感じになってんだ」
本当のことは言わない。と言うか言えなかった。
「ほーん、だから今日はミサキちゃんと一緒じゃ無いのか? せっかくあんなに可愛い子が起こしに来てんのにもったいねー」
「まあ、な。それより今日は放課後遊びに行かないか? 久しぶりにゲーセンとか」
「お前がそんなこと言うなんて珍しいな。けどごめん、俺他に用事あって行けねぇわ」
マイトを遊びに誘ったのは、気分転換がしたかったってのが大きかった。とにかく今は別のことを考えていたかったからだ。気持ちの整理をつけたかったんだと思う。しかし、いつもなら二つ返事でOKしてくるマイトが珍しく断ってきた。帰宅部で放課後何をするでも無く暇な時間の方が多いと自分で言っていたのに、珍しいこともあるものだ。だから聞いた。聞いてしまった。一体どんな用事なのかと。
「用事なんて珍しいな。どんな用事なんだ?」
「あー、まあお前ならいいか。誰にも言うなよ。実は俺、志崎さんと付き合うことになったんだ!」
「え?」
予想外だった。俺と同じで持てる方でもなかったマイトが、美人と噂の志崎さんと付き合うだなんて。一瞬コイツは騙されてるんじゃ無いかと思った。よくあるだろ嘘告白ってやつだ。
「俺から告白してさ。そしたらあっちも俺のこと気になってたみたいで、顔真っ赤にしてOKしてくれたよ」
違った。それに志崎さんの方を見てみると、若干顔を赤らめながらこちらをチラチラ見ていた。あんな顔を見れば流石に分かる。あれは本気の顔だ。
「てわけでさ、遊びに行くのはまた今度で頼むわ」
「わかった」
「んじゃ、俺は彼女に挨拶してから席戻るわ。あ、そうそう。お前も誰かに取られる前にミサキちゃんにちゃんと告っとけよ」
「ああ」
もう違う誰かの恋人になってしまっただなんて言えるわけがない。頷くことしか出来なかった。
俺の周りには誰も居ない。灰色の世界は、やっぱり灰色のままで。うるさいくらいに聞こえてくる周りの声は、恋愛の話、勉強の話、スポーツの話、そして受験の話もちらほら。
一人置いて行かれた気がした。周りは動いているのに、俺だけ一人止まっている、そんな感覚。なんとなくこの速さはこれからもどんどんスピードを上げていく気がした。俺を置いて、俺だけ残して。
気づいたら学校が終わっていた。教室には俺一人だ。
何かをしなければ、前に進まなければ。そう言う気持ちが漠然と浮かんできて、でもどうすればいいか分からなかった。
知っていると思っていた人たち。みんな変わっていく。俺も変わらなければ。だからとにかく勉強をした。嫌いだったのに、今はそれだけが俺の拠り所になっていた。
「お兄ちゃん。ミサキちゃんに彼氏が出来たって本当だったんだね」
「ああ」
「お兄ちゃんってさ、ミサキちゃんのこと好きだったでしょ?」
「…そうだな。好きだった」
「気づいたのが遅かったんだね」
「遅かったよ。遅すぎた」
ある日の妹との会話だ。妹の顔はすごく優しい表情をしていた。まさか妹に慰められる日が来るとは思わなかった。なんて情けなくて弱い人間なんだろう、この時の俺は自分に対してこう思っていた。
思えば自分には何も無い。やりたい事も何も。熱意と呼べるものがない。だから弱いのか、だから情けないのか。俺は分からなくなった。自分が本当に人間なのかどうかも。
空っぽだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】お前とは結婚しない!そう言ったあなた。私はいいのですよ。むしろ感謝いたしますわ。
まりぃべる
恋愛
「お前とは結婚しない!オレにはお前みたいな奴は相応しくないからな!」
そう私の婚約者であった、この国の第一王子が言った。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる