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第三章 溺愛する皇子(最終章

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誠一は女性にはべたべたされると、気がなくなるのかしら?
もう少し、気に入られていなければ貿易は順調であるが確実なモノではない。
今、婚約者を解任されれば婚約者という立場を利用して広げていっている貿易だの領地は勿論、国全体の公共施設のプログラムだのがたちまち憤るだろう。
それは困る。

沢山の人もお金も動いている。

「傷つく前に婚約者をやめろ」

潤は志麻子を見送る誠一を振り返ることなく、前を向いたまま静かに言う。
志麻子は今まで潤の低くて落ち着いた声を聴いたことはなかった。
驚くように潤の背を見るが、彼が振り返ることはない。

「お前、殿下に惚れてるだろう」

「否定はしないわ」
そう。私は誠一に惚れている。
けれども、認めたくはない。
認めてしまうと、婚約を破断されるかもしれない。それは避けたい。
「あの殿下は常に数週間から数か月で婚約者を解任していっている。どの婚約者達も解任後は殿下に近づかないほど傷ついている。お前も絶対に捨てられる」
それも否定しない。
指さしをされた時に比べて、物凄く優しく?むしろ、付きまとわれている感じもあるが・・・。

誠一の歴代の婚約者は全員が誠一の側近が選び抜いただけあり、どの女性も志麻子よりも美しいか。可愛いか。
位は最低でも公爵で、ほとんどが王位継承権を持つ王族の姫ばかり。
黙りこむ志麻子に潤は少しだけ息を吐いた。
「殿下に思いっきり甘えろ。そしたら解任される」
「今やってる仕事が・・・」
「時間は立てばたつほど、状況は重くなる。時間が経てばたつほど、お前の仕事は軽くなるのか?」
それを言われると、絶対に否定はできない。
時間が経てばたつほど。
今も関係各所で人、お金が動いている。
傷は一秒でも早く別れて浅いほうがいいわね。
志麻子は悲しそうに俯き微笑んだ。

―――いい夢を見れた。

素敵な人の婚約者。
考え方を変えたら、家族令嬢のほとんどが恋愛なんて経験せずに好きでもない男性と結婚して行く。
それが、良い暮らしを領民にさせてもらってる代償。

***

さぁ。
一週間、どうやって分かりやすく甘えるか計画を練りまくったわ。
完璧。
志麻子は日曜の昼下がり。
思いっきりお洒落をすると王宮を初めて訪れていた。

「誠一」

ひょこっと執務室に現れた志麻子に誠一は幽霊でも見たかのように硬直する。
「昼間から幽霊でも見ているような顔ね」
クスクス笑いながら志麻子は少しだけ部屋の中に入るか迷ったようなしぐさをしてから、中に入る。
「どうした」
誠一は書類を机にぞんざいに置くと立ち上がった。
「顔を見たくて」
「そうか」
誠一は口元を思いっきり緩めると、志麻子に手を差し出した。

「おいで」

前回、潤が志麻子にそう言っていたのをやはり嫉妬していたのだ。
「うん」
志麻子は頷くと、差し出された手を取る。

もう。
こんなことをされたら、私に好意があると思って。
今からやることができなくなるじゃない。
でも、いけないわ。
恋を優先して、仕事や沢山の人の生活を脅かすなんていけないわ。
誠一は志麻子を自分の椅子まで導くと、膝に志麻子をひょいっと持ち上げた。
えぇぇぇ!!!!
この展開は聞いてないって。
思いっり目が泳ぐと、机の上に置いてある書類を見つめる。
冷静になるには、今の状況から思考回路を止めて何かに一瞬でも集中しよう。
「脱字」
志麻子は机に置かれた、書類を指さすと誠一は赤ペンでさされたところに印をつけた。
誠一は志麻子の首に自分の顔を埋める。
「あったかい」
「そりゃ、血の通った人間ですから」
「良い匂い」
「そりゃ、香水を今日はつけてますから」
「俺の為に?」
「・・・そうじゃないと言えばうそになりますが。でも、誠一の為だけかといわれれば違うかもしれません。汗臭いのを嗅がせるのは申し訳ないけど、嗅がせてしまえば恥ずかしいから」
自分の為であり、誠一の為である。
志麻子はそこで思考を止めると、誠一を見る。
今日は私が完全に惚れこむ前に婚約破棄。
婚約者を解任されるためにべたべたしに来たのだ。
「仕事と私・・・仕事の方が大切ですよね」
「志麻子の方が大切だ」
仕事と私。どっちが大事なの?
私をかまって!っと歴代の婚約者達のように振舞おうとするが、仕事と恋愛だと仕事をとってしまう志麻子にとってそのセリフは国民の顔も浮かぶと言い切ることができない。
誠一はそんな志麻子に何があったんだろうと不思議そうにしながらも、パソコンの電源をコンセントから引き抜いた。
「えっ!データが消える!」
「仕事よりも志麻子が優先だ。さぁ、何をする?」
ニコニコ言った時だった。
トントンッ。
歯切れのいいノックオンと共にドアが開かれる。
「殿下、至急見ていただきたい書類が・・・ございません!」
それは、この国の経済大臣。
しかし、上機嫌で志麻子を膝の上に乗せる誠一に大臣は言葉を切ると思いっきりその場で一礼する。
「大変っ失礼いたしました!ごゆっくりどうぞ!」
叫ぶように言う大臣に志麻子の顔は真っ赤になる。
「待ってっ!全然大丈夫!大至急書類を・・・」
立ち去ろうとする大臣を志麻子は呼び止めようとするが、志麻子の口は誠一の手によって塞がれる。
「見ない。去れ。オヤジに言え!」
淡々と誠一は言うと、大臣はその場に土下座をする。
「はいっっ。国王陛下にお頼み申し上げますっっ」
叫ぶように言うと、そのまま這うように大臣は部屋を出た。
「部屋は封鎖しておきます」
大臣のそんな様子を見ていた淳二は誠一に声を掛けると、ドアが閉められた。
誠一は少し足を開き、志麻子をより安定して膝に乗せ。
志麻子の顔を覗き込む。
「な、なに?」
「次はどう出て来るかなって」
「・・・仕事をしてください」
「俺がいなきゃいけない仕事なんて、災害時の指揮、戦争の判断だけだ。今はどちらもない。明日、階段から落ちて死ぬかもしれない。そうなっても国が回るようにしておくことも皇子の務めだ」
誠一は穏やかに言うと、志麻子を見る。
「そう」
志麻子のシナリオでは・・・。

「仕事と私、どっちが大切なの?!相手をしてください!構って!」
っと執務室で叫び狂い。
誠一に執務室を追い出されるっというのがシナリオだった。
そして、つまみだされた後は執務室のドアの前でドアをどんどん叩きながら中に入れろと叫び。
淳二をはじめとする家臣たちを死力を尽くして責め立て、罵る予定にしていた。
既にシナリオが崩れており立ち行かない。
「お、お、お散歩したいです」
「良いよ」
誠一はそういうと、志麻子をそっと膝から下ろして腕を差し出す。
「や、山をお散歩したいです」
「分かった。ヘリを用意する」
「結構です!」
「歩いていく?疲れたら言えよ。抱っこするから」
誠一はまるで小さな子供の面倒でも見るように穏やかに言うと、腕をとらない志麻子の手を取り歩き出す。
指と指を絡めて手を繋ぐその姿はまさに恋人同士。
カッターシャツにスラックスと言うラフな格好の誠一は王宮を堂々と出る。
「あっ。王子様だ!」
「志麻子様と王子様だ!志麻子様っ図書館綺麗にしてくれてありがとう」
「王子様っ志麻子様っ。コーヒーとても美味しいです」
街の人たちは誠一と志麻子を見ると声を上げる。
志麻子はニコニコと手を振りながら、誠一とつないだ手を解こうとするが・・・。
誠一は絶対に解かない。
「山まで歩くと、3時間ほどかかるけど?」
「・・・交通公共機関を・・・使います」
「タクシーも含まれるよな?」
「え、えぇ」
苦笑した時だった。
「殿下~!」
ヘリコプターが頭上に現れる。
「えっ!ヘリコプターはタクシーとは言いません」
「別に車とは言ってないだろう?料金を払って乗る乗り物には相違ない」
誠一はそういうと、降りて来たロープに器用に足をひっかけ手を取ると開いている手で志麻子をしっかり抱きしめ飛行機に乗り込んだ。
「時間がなかったので、リクエストを全ては用意できませんでしたが・・・」
そういって淳二は誠一に籠のバスケットを差し出す。
中には美味しそうな紅茶の入った水筒、ビスケット、キャラメル、ゼリーが入っていた。
「美味しそう」
志麻子は思わず声を出すと誠一は籠を志麻子に差し出す。
「お散歩の休憩は大切だろ?」
「え、ええ」

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