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第五章 番外編

① 龍迫と呼ぶようになった話

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「もう!陽子様ったら」
「もう!恵麻ちゃんったら!」
屋敷の玄関まで笑い声が届く。
陽子?あぁ、この国の次期国王晴海の妻であり龍迫の幼馴染の1人。
「おかえりなさいませ。ご主人様。お二人で教育改定の打ち合わせの後、皇太子妃様に入室禁止を言い渡され・・・。気が付いたら・・・」
岬は少し言いづらそうに玄関の隣の応接室に入る龍迫に状況を伝える。

龍迫はこの屋敷の主人。
いくら、皇太子妃とはいえ入室禁止を家主には言い渡せない。部屋の中に入ると、机を挟んでソファーに向かい合って座る恵麻と陽子がいるのだが。2人とも顔が真っ赤。
その原因は机の上に置いてあるシャンパンボトルが1本、2本・・・6本並んでいるのですぐにわかった。
「おっ帰りなさい。龍迫」
「お帰りなさいませ。旦那様!」
2人とも酔っている事は明らかで。
「よしっ!それじゃあ。腕相撲、一本マッチするわよ!」
「やりましょう!さぁ、旦那様、私と腕相撲をしてください。早く。私と旦那様の逞しい手を繋ぎましょう。そして、私に完膚なきまでに惨敗し、私に龍迫と呼ぶ権利をください!賞金はいりません。権利が欲しいです」
唐突に2人はハイテンションで言い。
龍迫は晴海に5分以内に妻である陽子を迎えに来るようメールを送ると、2人にならって机の前にぺたんと座る。
いつも見せる妻の顔ではない、少女の顔をする恵麻に水をさすまいと不本意であるが従うことにした。
名前で呼びたければ、勝負なんてせずに好きに呼べばいいのにそう思いつつ龍迫は手を出すか悩むのだが。
「さっ!ダーリン!はやくっ!」
ダーリン?
ダーリンだと!今、俺の恵麻は俺の事をダーリンと呼んだか?
―――酔っ払い。最高だ。
酔っ払う恵麻も珍しいので、少しこのまま様子を見るかと恵麻と手を繋ぐ。

「俺の愛しの恵麻。名前で呼ぶのは良いが、どんな勝負であったとしても俺は負ける気はない」
様子を見るのと、従うのと、勝負に負けるのは違う。
「秘策があるわ」
そんな龍迫に恵麻は不易な笑みを浮かべ、自信満々。
「よーいどん」
陽子の合図では思いっきり恵麻は全体重を肘に掛けるが。
龍迫にとっては顔色一つ変えることもない程度の力。
「俺の恵麻。やっぱり、俺が勝ってしまうよ。俺は負けるという事が何よりも嫌いなんだ。例え懇願されたとしても・・・」
パタンッ。
龍迫の手は思いっきり机につけられた。
なぜなら・・・。
恵麻が龍迫の唇に自分の唇を重ねたのだった。

「勝ったわ!勝ったわよ!陽子様」
「さすが恵麻ちゃん。言った通りでしょう!夫なんてキスの1つでもかましたら、惚れた弱みで負けるのよ。人間、惚れたもの負け!龍迫がどんな勝負にも負ける気はないだのほざいたところで、龍迫は恵麻ちゃんに既に全ての事柄において全敗しているのよ。しっかり、龍迫が負ける動画を撮ったわ」
「わぁー!ありがとうございます。その動画、私の携帯にも送ってください」
「勿論よ。龍迫はやり手だからね。動画をありとあらゆる手段で消そうとしてくるはずよ!絶対にそうならないように沢山、色んなところに保存するんだからね」
「陽子様っ!嬉しいわ」
恵麻は陽子に抱き着く。
そして、2人は抱き合ったままシャンパンボトルを掴むと直接飲む。
「やっぱりコレ。美味しいわね」
「本当に最高ですよね。何本飲んでも全く酔いません」
完全に酔っ払ってるぞ?おいおい。
俺に以外の人間に抱き着くなんて、どういうつもりだ。
しかし・・・。
「妹が欲しかったのよ」
「私も陽子様のように優しくて、綺麗で、ふわふわなお姉様が欲しかったです」
そういうと恵麻は陽子の胸に顔を埋める。
「気持ちいい。柔らかい。”龍迫”が良く私にしてくるのが分かるわ」
おいおい。
確かにするが、否定はしないが。
胸に顔を埋めるな。

「陽子様、良い匂い」
そんな様子に龍迫はため息をつくと。
晴海が到着し、陽子を抱き上げる。
「べろべろだな」
「べろべろだ」
晴海に龍迫は相槌を打つ。
「回収完了。じゃあ、またな」
「あぁ」
龍迫は返事をすると、晴海は帰りたくないという陽子を連れて部屋を出た。

「私は勝ちました。なので、今から恵麻”の”大切な旦那様の事を今日この日、この場を持って二人きりの時は”龍迫”と呼びます」
”龍迫”
名前を呼び捨てで呼ばれ、龍迫は思わず携帯を取り出し動画を取る。
「俺を呼んでくれ」
「”龍迫”」
おぉ。
酔っ払い。最高じゃないか。
なるほどな。シャンパン3本で酔っ払う。
これは覚えておこう。
そして、これ以上飲ませると泥酔してしまい危険ということも覚えておこう。

「ねぇ。龍迫。恵麻の龍世。強くて、かっこよくて、優しくて、力持ちで、賢くて、たまに閻魔大王よろしく地獄の番人になっちゃう龍迫。凄く、凄く、愛しています。世界中の人間の中で龍迫が大好きです。私にもっと、愛を囁いてください。龍迫の低い声が凄く好き。もっと、恵麻を見てください。龍迫のたまに怖い瞳が好き。龍迫の私の斜め上、斜め下を行く思考回路がたまらなく好き。ねぇ、龍迫」
「なんだ」
いつもの自分と立場が反転している恵麻を動画で撮影しながら、呼びかけに応じる。
「龍迫は私の頭のてっぺんから、足の指先まで愛してくださっています。以前、龍迫は自分をを照らしてくれと仰っていたのを思い出しました。私は龍迫の耳の穴から、鼻の穴、お尻の穴、穴という穴。全ての穴を照らします」
いや、そこは照らさなくていい。世の中には、照らさず暗いままで良い所もある。
照明を当てる価値がないところもある。
例えば、恵麻の父親。
能津伯爵がいる所とか・・・。
「龍迫。夜が明けるまで、6時間以上ございます。今宵は龍迫の事をいかに私が愛し、尊敬し、お側にずっといたいか。言葉を尽くして、夢の中でお話ししましょう」
恵麻はそういうと龍迫の腕の中で眠り込んだ。

***
翌日。
朝起きると、恵麻は龍迫の眠るベッドの隣に居なかった。
屋根裏部屋かなと探しに行くと。
「うわぁ。・・・旦那様、私にキスされてる。うわぁ。・・・勝負に負けてる。でも、龍迫と呼ぶ権利は獲得したのね。私、偉いわ」
至極嫌そうな声を上げる恵麻に龍迫は携帯を取り出す。
「昨日は楽しかったな」
「おはようございます。りゅ、龍迫」
「それだけか?」
「え?昨日のように熱烈に俺に愛を囁いてくれて構わないぞ」
「愛を囁く?私が?龍迫に?」
「あぁ。記憶がないのか?俺はきちんと証拠動画を見せてやろう。俺の愛しい恵麻が俺を熱烈に愛する我が家の新しい家宝」
なんてものを家宝にするつもりよ。
こんなもの。次世代に受け継がせてなるものか。
恵麻は龍迫に襲い掛かる勢いで消そうとするのだが。
「SDカード、USBメモリー、CD、フロッピー。DDR(パソコン本体のメモリー)。インターネット上のクラウド保存。レコード。考えられるありとあらゆるものに保存している」
「なっ!」

「俺の愛しい恵麻。愛してる」

ひぃぃぃ。怖い。猟奇的だわ。恵麻は顔を引き攣らせながら。
「龍迫」
っと愛しの人の名前を呼び。
似た者同士だなっと屋根裏部屋を除いていた使用人達は立ち去った。
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