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第四章 過度に許しはしないけど、過度に仕返しもしません。

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恵麻は倉庫に着くと鉄筋の上を歩きだした。
資材の強度や材質の良さは、目で見て触って確かめなければ国によって基準が異なり分からない。世界産業規格を作ろうかしら?WLSっとかどうだろう?
それとも、自国産業規格でJISもありね。
そんな事を思っている時だった。
「公爵夫人が鉄筋の上を歩くなんて、前代未聞だよ。有栖川公爵が見たら何を言われるか」
ルーテは止めるが、止めたところで恵麻は聞かない。

困ったなぁ。
転倒して、怪我でもされて国際問題に発展なんて僕はごめんだよ。
ルーテは恵麻の姿を携帯で写真を撮り、龍迫に送るように岬に指示を出す。
自分が止めても聞かないのであれば、聞く相手に止めて貰うしかない。
ルーテが恵麻を羽交い絞めにして、下ろすこともできるが。
そんな事をしたら「俺の恵麻に触れたな」と後々、龍迫に詰め寄られかねない。
岬は龍迫の側にいるだろう飯田に写真を添付すると飯田は直ぐに龍迫に写真を見せた。
「おいおい。俺の大切な恵麻は、どこを歩いているんだ。そこは、道じゃないぞ」
身体能力が並みの女性よりいい事は分かっているが・・・。
だからって、こんな高さ10メートルほどの資材の上を平気で歩くなんて。
唯一の救いはピンヒールではなく運動靴なことだけ。
「どうなさいますか?」
心底心配したように頭を抱える龍迫に飯田は訪ねる。
「どうもこうも、さっさと仕事を終わらせて斎凛国に行く。全員、呼吸を止めて仕事を極限状態でしろ!」
「「「「かしこまりました」」」」
部屋にいた人間全員が無理難題だと思うが、龍迫があまりにも危機迫る声で頷いた。
「あぁ。なぜ、俺の恵麻は"未知の道"を歩くんだ」
自分で道を切り開くタイプではあるが、今はもうそんな事をしなくとも俺が恵麻の道を切り開いてあげるし。
なんだったら、抱っこで運んでもあげられる。
「奥様に電話を掛けますか?」
「電話をかけて道以外は歩くなと言ったところで。"私の後ろに道ができる”とか謎な名言を俺の恵麻は言い切るだろう。心配だったら、実力行使で止めてみたら?とかも言いそうだ」
「確かに。最近の奥様なら、仰りそうですね」
飯田は苦笑すると、仕事が終わり次第、龍迫も行けるように小型飛行機の手配を行った。

「これだけの資材をお持ちという事は、加工する機械、技術者も沢山この国にはいらっしゃるのですよね?」
「いてるよ」
「ぜひ、我が国に出張をお願いしたいです」
「構わないけど。責任者とは友達で、今日は地方に行っていて帰りが遅いはずだから。明日の朝で構わないかい?」
「はい」
「そうなると。今夜、君はこの国に泊まることになるね。有栖川公爵は許すかな?」
「心配ありません。さっき、資材の上を歩く私の写真を岬に送らせましたよね?」
「よく見ていたね」
「だとしたら、きっと仕事を終わりに来ると思います」
旦那様は、私が危ない事をしない“自信がない”もの。
あぁ。そうか。
恵麻は苦笑する。
「今、ルーテ様から言われていた。“旦那に自信をつけさせて欲しい“と言っていたことの謎が解けました。私が危ない事をしないという自信をつけさせて欲しいという意味ですね」
「君は賢いね。そうだよ。君は君を攻撃していた琴美がいるこの王宮に使用人と一緒とはいえ、1人で来た。そして、今も10メートルの高さから落ち危険性があるのに登っていた。君は危なっかしいからね。有栖川公爵は心配で心配で仕方が無いのが琴美の事を調べているうちに分かってね」
ルーテは苦笑すると、恵麻もつられて苦笑いをした。

***
斎凛王宮に用意された恵麻の部屋に龍迫が到着したのは、夜の20時。
「無事で良かったよ。俺の愛しの恵麻に何かあったら、どうしようかと思うと気が気ではなかった。散々危ない事を平気でするからね。飛行機の中で、恵麻がどうやったら危険な事をしないで済むか考えて1つの結論に至った。恵麻の右手首と俺の左手首を手錠で繋ごう」
龍迫が部屋に入ってくるなり、ソファーから立ち上がり近づいていた恵麻は本当に手錠で手首を繋ぎかねない龍迫に回れ右をするのだが。
遠ざかることはしない。
すると、回れ右はするが、逃げしない恵麻に龍迫は後ろから抱きしめ恵麻の首に自分の顔を埋める。
「旦那様。私は右利きです」
「とうに知っている」
「万が一、繋いだ場合。お仕事はどうするつもりなの?」
「恵麻の仕事は俺の隣で笑っている事だ」
「嫌です。頑張って左手でやります」
「本当に仕事熱心だなぁ。そういう恵麻も大好きだよ」
龍迫はネクタイを外すと、左手首と右手首を軽く結ぶ。
そのネクタイを緩める動作に色気を感じて恵麻は目を逸らすと龍迫の思う壺。
「何を照れているんだい?まさか、このまま脱ぐとでも思ったのかい?あぁ。右手が塞がっているから、恵麻は俺が脱がしてやろう」
「仕事もせず、着替えも旦那様なら。私は何もしないぐーたら、ダメ人間になるわよ」
「それは素敵だ。そうなっておくれ。歩くことも放棄して欲しい。恵麻は美味しいものを食べて、ずっと俺の側にいてくれたら俺は幸せだ。それで?恵麻は俺のいない間、何を考えていたんだい?」

「え?」
俺の事を考えていたんだよなっという龍迫に「仕事ですよ」っとはいえず。
「え・・っと。えっとですね。サプライズです!」

「へぇ。サプライズをしようとしてくれていたのか。それは、嬉しいなぁ。それが本当であれば、飛び上がって小躍りしてしまう。へぇ。机に上に大量の仕事の書類をおいて、俺に対するサプライズを考えていたんだな」
龍迫はニヤニヤすると、恵麻の首に噛み付いた。
「ぎゃっ!人喰い大魔王」
「恵麻が生きてる間は食べないよ。食べてしまったら、その可愛い声も聞けないし。可愛い顔も見られない。奇想天外摩訶不思議な言行に驚き、心が乱されることのない日々にはもう戻れない」
いやいやいや。
奇想天外摩訶不思議な言行はご主人様ですから!
死んだら食べられるのだろうか?
私も奇想天外摩訶不思議な行動をすることは多いが、間違いなく旦那様のほうがその頻度と確率は高い。
「俺の恵麻。サプライズ。よろしく頼むぞ?」
「え、ええ。はいっ!でも、今日は後、10秒くらいで夢の国に旅立ちそうです」
「その旅は俺も行っていいか?」
駄目とは言わせないよという物凄い圧力を出す龍迫に恵麻は首を大きく縦に振る。
「旦那様はどこでも付いて来ていいです!」
「じゃあ。トイレと風呂も今日、この時、この場を持って付いて行こう。片時も放さない」
「それは、言葉のあやです!語弊です!」
恵麻の悲鳴は虚しく。
龍迫は恵麻をお姫様抱っこをすると・・・。
行動を開始した。
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