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第四章 過度に許しはしないけど、過度に仕返しもしません。

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―――深夜2時
「有栖川家の権力を総動員し、恵莉、琴音、琴美が恵麻の視界に入ることも、手出しができないよう・・・。そうだな、この地から遠くに嫁がせろ」
これほど権力を持っていることを便利だと思ったことはない。
龍迫は飯田を筆頭に情報収集、工作、スパイなどを行う執事数名を書斎に集めた。
「恵麻様に害をなすもの。害をなしたものを懲らしめるのは、気合が入りますね」
「勿論でございます。ご主人様」
恵麻がされてきた10㎝に及ぶ報告書に誰もが怒りを抱いていた。

***
2日後。
恵麻がエステを受けている時、再び書斎に龍迫達は集まっていた。
「最良の男性を用意しました。1人目は48歳の度重なる窃盗、暴行で島流しになった王族。結婚すれば島で暮らすことになるでしょう。2人目は32歳のこちらはモラルハラスメントが酷く5度の離婚経験があり、前妻たちは全員、お心を負傷し心療内科通いの伯爵家の子息。きっと、嫁げば病院送りになるでしょうね。3人目は平民の女性をパートナーに持ち、お飾りの妻を求める貧乏子爵」
「1人目を恵莉、2人目を琴音、3人目を琴美にあてがえ。伝える際には”位”だけ伝えろ。喜んで奴らはサインする」
龍迫は指示を出す。
「伯爵夫人の一番嫌いな事は労働。晴海に頼んで、王国の暗殺特殊部隊の下働きを探していたようだから、そこで働かせることにした」
危険な相手であればあるほど、遠くに追いやるよりも近くに置き、龍迫自身で監視する。
冬の寒空の下、素足で恵麻にお使いに行かせたり。
腐ったものを食べさせたり、はたまた餓死寸前に追い込んだことは重罪。
それ相応の報いは受けさせる。
「伯爵はどうされますか?」
「それは既に実行済みだ」
「義成はいかがなさいますか?ご主人様に不遜を働いた件で牢にぶち込んでおりましたが、そろそろ釈放かと」
あぁ。あいつは、恵麻に良く暴行を与え、恵麻は何度も骨折をさせた奴だ。
「追加で2,30年ほどぶち込んでおけ」
「かしこまりました。窃盗、詐欺、恐喝、強姦と様々な罪をでっちあげ放り込んでおきます」
「頼んだ」
龍迫は不敵な笑みを浮かべると、立ち上がる。
そろそろ恵麻のエステが終わる。
あまり書斎に長く籠っていると、仕事が溜まっているのかと心配して恵麻は手伝おうと行動を起こし、ばれかねない。
これは恵麻に手伝ってもらう内容でも、知られたい内容でもない。

「岬さん。エステは毎日、本当に必要なのかしら?」
龍迫は書斎から寝室に移動し、ソファーに座っていると、廊下の遠くから恵麻の微かな声が聞こえた。
「必要でございます。30歳がお肌の曲がり角と言いますし、後8年もすれば恵麻様も実感されます」
「そういうものなの?」
「そういうものです。今日のメンテナンスで昨日よりも若返りましたよ」
「人間は日々老けていくはずよ。その理論で行くと、1年で1歳若くなって22年後には赤ちゃんになっちゃうわ」
「奥様、その気合です!老化にも重力にも逆らうのです。シミ、皺、たるみという女の3大強敵に打ち勝つのです!」
美しく歳を取れれば、私はそれでいいわっと楽しげに岬と話しながら恵麻は部屋に入る。
「いい匂いだな」
「鼻が効くわね。今日は薔薇のオイルエステだったの」
「薔薇か。恵麻の匂いかと思った」
「人間から花の匂いなんてしないわよ。・・・旦那様」
「なんだい?俺の可愛い恵麻」
「仕事で何かトラブル?」
「トラブルは無いが。どうして?」
「なんとなく」
”なんとなく”か。
やはり、恵麻は鋭い。
龍迫は俺が何か恵麻の知らない水面下で動いていることを勘づいたな。
上手く隠さなければと龍迫が思う一方で。

何か私、関連。
きっと、能津家関連で動いているのね。
龍迫は切り替え上手で、仕事を私と二人で凄く時間の時には一切、持ち込まない。
そんな彼が仕事モードのようなピリ付いているのは、私に関する事で間違いなく能津家の事だろう。
隠されると、知りたくなるのが人間の性なのにね。
暴こう。恵麻はにっこり微笑み心に誓った。

***
龍迫が能津家に対して行動を起こしてから1か月経った頃の昼下がり。
「恵莉が来ました」
能津一族が家にやってきた場合、恵麻には絶対に知らせるな。会わせるなと指示を出していた。

明日、明後日には王族、侯爵、子爵の家に3人は位だけ聞き判を押した“素晴らしい”相手に嫁ぐ日が迫り。
そこまで馬鹿にではない。
嫁ぎ先を調べ3人の内、1人くらいは来る頃だろうとは思っていたが・・・。
恵莉が来たか。
書斎で飯田に耳打ちされ、龍迫は立ち上がる。
「頼んでいた菓子が着いたようだ」
「お菓子?」
隣で仕事をしていた恵麻は首を傾げる。
「あぁ。恵麻が好きそうな菓子を見つけて、取り寄せていたんだ」
あれ?”恵麻だけ?”仕事中であっても、私的な話をする前に”俺の恵麻・愛しの恵麻・可愛い恵麻”となにかしら名前に何かをつけて呼ばれないのは初めて。
違和感を感じてしまうのは日々の習慣だろう。
「へぇ。どんなお菓子?」
「それは、見てのお楽しみだ。気分転換に庭に行こう」
この暑いのにわざわざ庭。
この部屋に誰か私に会わせたくない人が来るのね。
龍迫にエスコートされ恵麻は大人しく部屋を出ると、堤下護衛隊長は口にしっかりとガムテープを張った恵莉を書斎入れて椅子に縛りつけた。

「わぁ。可愛い」
庭に行くと、キラキラと宝石のように光るゼリーの載ったクッキーが東屋に運ばれてきた。
「恵麻の可愛さに比べたら、月と鼈。もちろん、鼈がクッキーだけど確かに恵麻の100分の1くらいは可愛いと思う。たくさん取り寄せたから、孤児院の子供達にも持って行ってあげたらどうかな?」
「賛成だわ」
「俺は国王陛下に電話を掛けるよう言われていたのを忘れていてな。電話が終わってから追いかけるよ。今なら3時のおやつにギリギリ間に合う」
電話なんて、私の隣でしたらいいじゃない。
どれだけ、私に隠したいのかしら?
「少しの間、離れるけど気を付けるんだよ。寂しい思いをさせてしまって悪い」
「ええ。待っているわ。待ちくたびれたら、迎えに行くわね」
ふふふっと恵麻頷くと、龍迫に見送られ車に乗り込んだ。
龍迫は恵麻の乗った車を見送ることなく屋敷の中に入る。

隠されれば、暴きたくなる。知りたくなるのが人間の性だろう。
恵麻は龍迫が屋敷に入るのを確認すると、膝に乗せていたクッキーを隣に乗っていた岬の隣に置く。
「車を止めて。お腹が痛いわ。トイレ」
「え?あ、はい」
運転手はそういうと、車を大急ぎで止める。
「奥様っっ」
岬は声を上げるが、恵麻はドアを開けると走って正門ではなく使用人の通用口から敷地に入る。
そして、開いている屋敷の1階の窓から中に入ると、2階に駆け上がり。書斎の隣の部屋に移動するとテラスにでた。
テラスとテラスの感覚は1~2メートルほど。
楽勝だわ。
恵麻はテラスの柵に登ると、書斎のテラスに飛び移った。
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