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第三章 溺愛しだしたら、止める事はできません。暴走開始です。

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王宮のパーティー会場に入ると、誰もが2人に注目した。
龍迫といえば、地獄の番人と異名を取るほど冷静かつ的確に物事を判断し、仕事をさばくやり手公爵。
そんな彼が、28歳の今まで女の気配がなく、この国一、美しいといわれるバツイチ出戻りの恵莉をめとろうとしたら。
男癖が悪く、阿婆擦れと評判の妹を書類の手違いで娶った。
そして、その妻は結婚後も毎夜、遊び歩いているという根の歯もない話を能津一族が会場全体に広げており。
それを信じた者は完璧人間な龍迫がどんな顔をして、会場にやってくるのか興味があり。

恵麻に関しては、悪い噂に加え。
有栖川公爵領のさらなる繁栄に貢献、街で子供達とジーパンにTシャツ姿で遊ぶ目撃情報。
ビシッとスーツを着て龍迫と共に公務に勤しんでいる目撃情報も耳に入りどちらも女神のような美しさという話。
恵麻はいつも夜会ではダボッとした服で、無表情で会場の隅におり人の印象に残らず何が真実で、何が嘘なのか誰もが興味があった。

龍迫が大切に大切にエスコートしながら会場入りすると、誰もが恵麻に目を奪われた。
漆黒の黒髪に透き通るような真っ白の肌。
大きな瞳にリンとした瞳。
王族達はこの春まで王族専用の高価な宝石や家具の載っている雑誌でみていた伝説のモデルだと見入った。

「英雄色を好むとは昔から言いますし。仕事、家庭、遊びと恵麻は上手く両立していようね。お母様」

恵莉はいつも以上に恵麻を攻撃する気満々だった。なぜなら、恵莉は恵麻が美しい事は知っていた。
しかし、ここまでだとは思わなかった。
それに、悔しい!噂を信じ嫁に行かなかったが、そうでなければ今、龍迫に大切にされ、着飾れたのは自分だ。
「本当に!結婚して堂々と魔性を隠さなくなったわね。夫公認で男を漁るつもりなのね!全くっはしたない。今までは、地味を装いこっそりしていたのに堂々となんて」
継母は着飾っていなかったのは、恵麻の策略。
能津一家がいじめで、みすぼらしい服、化粧をさせていたわけでではないと否定するように叫ぶ。
本当に口が上手いというか、頭の回転が速いというか。
夫公認で男をあさるって・・・。そこまでなったら、もはやそういう家庭なのだろう。放っておいてやれよ。
龍迫は地獄耳で、微かに聞こえる2人の声に心の中で突っ込む中。
能津伯爵家は派手を好み。
機嫌を取っておいた方が、有益になる貴族達は・・・。
「英雄色を好む。私も聞いたことがありますわ」
「本当に。あの容姿だと、殿方は全員、騙されますよね。あんなに美しい人が悪い女だなんて、考えたくないもの」
2人の言っている事は、本当なのだろうかと思いつつも加勢した。

「凄い視線ね。旦那様は本当にオモテになる」
不満を口にする恵麻に龍迫が恵麻の腰に当てた手は少し力が入る。
可愛い。可愛すぎる。
妬いているのか?可愛い。とにかく可愛い。叫びたい。このまま、可愛いと心のたけを叫びたい。
「この視線は恵麻が集めている。だって、恵麻はこの世の者とは思えないほど、美しいのだから。本当に、どうしてこんなに”俺”の恵麻は美しいのだろう。僕の為に生まれてきてくれてありがとう。あぁ、世の中には”女房の妬くほど亭主もせず”ということわざはあるが”亭主妬くほどく女房モテる”ということわざも作るべきだな。恵麻が奪われないか心配だ。本当に心配だ。心配で、剥げてしまいそうだ」
「旦那様がチビ、デブ、禿に変身しても大丈夫ですよ。どうぞ、安心して禿げてください」
「それは、安心したよ。将来、禿げて恵麻に愛想とつかされたどうしようと最近悩んでいたんだ。禿散らかしても、今のように愛してくれるのか。そうか、そうか安心したよ」
本当に禿げたらどうしようと悩んでいたのかしら?
そんな事を思う恵麻に龍迫は携帯をポケットから取り出す。
「チビ、デブ、禿に俺が変身しても変わらずに愛してくれるということは。恵麻は俺の中身が好きで、この上なく愛してくれているという事だ。人間は美男美女に惹かれる。それはDNAが傷ついていない。人間の強く優秀な種を残そうという本能から至極当然の事。それを否定するということは、俺には容姿ではない素晴らしい人間性が備わっているという事。恵麻、嬉しいよ。君は俺をそんなに愛していたんだね。さぁ、録音ボタンを押した。俺の中身が大好きだっと言うんだ。音声データを保存用、普段使い用に複製して楽しみたい」
凄い肺活量ね。
これだけ長い言葉を1度も呼吸をせずに言い切るなんて。
恵麻が感動した時だった。

「恵麻。娼婦活動が上手くいって嬉しいわという連絡を姉に毎日してこないでくださいます?」

「連れていけ」
含み笑いをしながら、口元を手で隠し、声を掛けて来た恵莉に龍迫は一瞥することもなく連れて来た護衛隊長の堤下に命じる。
今は恵麻に愛しているという言葉を録音することが最優先、最重要事項だ。
「御意」
筒下は一礼すると、自分達に優しい女主人を侮辱されたことに怒りを露わにして、ぞんざいに恵莉の腕を掴んだ。
「放しなさい!無礼な!平民無勢が、私に触るだなんて!恵麻も本当の事を言われて焦っているのね!ふっ私が正しい事を言っているからって、乱暴をさせないで!」
恵莉は声を荒げる。
「ここ最近。毎日。3人の男といい事をして、7万円せしめたといって高笑いをしていたじゃない。録音しているのよ!」

恵麻は今までの経験から声が出ない。
恵莉の言葉を否定して、数日間、毎日手を上げられ続けた記憶が蘇る。
”娼婦活動なんてしていない”
言い返えしたところで、龍迫は信じてくれるだろうか?
龍迫にプレゼントのネクタイを作る為、使用人を従え、ここ数日は頻繁に外出をしていた。
その時に逢引きをしていたと・・・誤解を・・・・されないかしら?
恵莉と恵麻は声が似ている。
録音データの捏造は簡単だろう。
「何を不安な顔をしている。ここ最近、仕事三昧でお昼ご飯も食べずに働いていることを俺は良く知っているし。夜は毎晩、毎晩、俺と甘い夜を過ごしているんだ。娼婦活動をする暇と体力がないのは俺が一番よく知っている。人間として恵麻は体力があるが、娼婦活動をできるくらいに体力を付けてくれると、俺はもっと気兼ねなく恵麻を堪能できてありがたいと思ってしまうくらいだ」
恵麻の不安な心を見透かしてか、龍迫は恵麻を抱き寄せながら真剣にもっと”夜、大人の遊びをしよう!”とさくさに紛れて要求してくる龍迫に恵麻は顔を赤くする。
「こ、公式の場ですよ」
「すまない。3人の男で7万という金額はあまりにも安すぎて、怒る気にもならなくてな。恵麻であれば1人で俺の月収分、数億円を支払ってやろうという人間は吐いて捨てるほどいるだろうし。王国の一つくらいホイホイ献上されてもおかしくはない。まぁ、それをしてきたところで俺の人生をかけてぶっ潰す。あいにく、一国程度ぶっ潰せる程度の武器を買う財産は有栖川公爵家にはある」
「旦那様っ!」
「俺の可愛い妻、恵麻。人の事は言えないが、お昼ご飯は大切だ。ちゃんと食べよう。俺もついつい、食べるのを忘れてしまうが、恵麻は細すぎる。もっと太った方がいい。もし100キロを超えるふくよかな女性になっても俺は変わらず恵麻を愛そう。筋トレを頑張り、今と変わらず抱っこも可能だ。俺も恵麻がチビ、デブ、禿に変身してしまっても変わらぬ愛を注ごう。むしろ、滲み出る恵麻の内面、外面の魅力を抑える為には変身したほうがいいかもしれない。約束をするよ。俺は恵麻のその美しい顔、髪、胸、手足。全て好きだが見かけだけで惚れたわけではないんだ」
恵麻は真っ赤になりそれ以上口を開くなと、龍迫の口を手で塞ぐ。
「おいおい。いい大人なのだから、口を塞ぐのは手ではないだろう?」
お黙り下さい。
この変態惚気大王。
初めてだわ。
恵莉と対話しながら、こんなに気恥ずかしい気持ちになるなんて。
「僕の聡明な恵麻。口は口で塞ぐものだ」
少し屈み小さな子供に社会のルールでも教えるような真剣な龍迫に恵麻は真っ赤になると顔を背けた。

これくらいにしておくか。
真っ赤になって恥ずかしがる妻は可愛いが。
今、半径10メートルほどの人が恵麻を見ている。
こんな可愛い恵麻の姿を見せ続けるのは癪に障る。
龍迫は恵麻を周囲に愛しの妻が見られないように抱き込み、声のする方を見る。
「まぁ、随分と阿婆擦れ女は地獄の番人をたぶらかしたわね」
「地獄の番人と呼ばれる有栖川公爵様も判断能力が落ちたのではないかしら?」
「本当の事を恵莉様がおっしゃっているから、護衛に恵莉様を連れて行かせようとしているのね」
龍一は視線で飯田に囁いている者の名前、爵位を調べろと視線で合図をする。
「前に足蹴にした兄もそうだが。どうしても、能津のアホ共と無能な取り巻きは我が愛しき妻を淫乱女にしたいようだ。恵麻が行っている政策、業績を見ればそんな時間がない事は一目瞭然だろう」
ギロリっと鋭い射殺すような視線、破棄にヒソヒソと恵莉を擁護していた者は黙り込んだ。
有栖川公爵を敵に回せば、明日からの暮らしの保証はない。
そんな中、継母はクスクス笑いながら近づいて来た。
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