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第二章 公爵は身代わりの花嫁に接近したい
⑤
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「あっ。恵麻様っ。おはようございます!昨日の事故でお怪我がないようで安心しました」
「恵麻様っ。ご無事で何よりです!」
領民は恵麻に気軽に声を掛ける。
笑顔でお礼を言う恵麻に領民はほっと息をつく。
「恵麻様。あのね!あのね!その人は誰?」
近寄って来た子供は龍迫を見上げると、尋ねた。
孤児院など有栖川家が運営する公共機関の関係者は恵麻が結婚していることは知っているが、一般家庭の言葉を覚えた手の子供は知らない子が多い。
「夫だ」
龍迫は子供の前にしゃがむと、静かに言い放つが・・・。
なにぶん、圧が凄い。
周囲の大人は3歩下がるのだが、子供は時に鈍感だ。
「恵麻様って、結婚してたの?」
「ええ。していたわ」
「恵麻様はこの人が好きなの?」
その問いには恵麻は微笑むだけだった。
そう。
私はこの人の・・・。
同性愛者だの女嫌いだの噂を断ち切るために姉の代わりに嫁いだ女。
利用されて、解放される。
何度、能津家で甘い囁きをされ、信じたことで裏切られ、打ちのめされたか。
信じられるものは自分だけ。
期待は落胆を生む悲しいだけのもの。
信じる者は救われない。
信じる者は裏切られる。
だけれど、それを前面にだして悟られればもっと酷い事が待っている。
恵麻はにっこり微笑みながら、ちゃんと傷つかないように心のシャッターを下ろす。
龍迫は何か話しかけようと思うが、そんな隙はない。
「恵麻様、公爵様。こんにちは。暮らしを良くしていただきありがとうございます」
子供の母親は近寄ってくると、子供を抱き上げながら丁寧に挨拶をする。
恵麻の良い行いは、恵麻のモノではない。
恵麻の手柄は、恵麻の手柄ではない。
恵麻が悪い行い、マイナスだけが恵麻のモノ。そういう風に立ち振る舞っていたので、龍迫にも感謝をする者は多い。
「私の行いでは・・」
私のは行いではございません。全ては、旦那様のなさったことですと一歩下がろうといつものようにしようとした恵麻だったが。
「恵麻は公共施設を整える天才だ」
龍迫は恵麻の言葉を遮った。
今日、龍迫がここに来た目的は、恵麻が領民達に愛されている声を自分の耳で聞くためだった。
王宮での会議に参加した際。
民間調査の住みたい領地ランキングに元々有栖川公爵領は一位だったが、国民の幸せランキングは常に20前後と100以上ある領地の中では上位だが・・・。今回は5位。10位以内になった事がなかったのだ。
恵麻が政策を行っているのは知っていた。そして。頻繁に領地に行っているのも知っていた。
だから、本当に恵麻のおかげなのか恵麻を連れていくことで確認しようと思っていたのだった。
「公爵様。本当に素晴らしい奥様をお迎えくださりありがとうございます。感謝します」
あんな酷いことを言った俺を領民の前で俺を立ててくれていたんだな。
「酷い事を言った俺を立て、政策を命じていないのに自発的にしてくれてありがとう」
龍迫は恵麻の耳元で、分かりやすく端的に言う。
言葉に出さないと伝わらない。
恵麻は賢いが、自己肯定感は恐ろしく低い。
龍迫の声に恵麻の頬は赤く染まった。
―――初めての二人での視察から数日後。
2人は昼下がりにテーマパークに視察に来ていた。
前々から、有栖川公爵領の良い財源であるこのテーマパークを除いてみたかったのだが、なにせ、龍迫一人では恥ずかしくて気にはなっていたが来れなかった所。
しかし、恵麻を同行ると来やすいし。領民の緊張していない姿を見ることができ、更に領民が困っている事、望んでいることを聞き出しやすかったからだ。
なにせ、地獄の番人と言われるほど。
物事の判断は厳しく。適格で妥協のない性格だ。
そして、人一倍負けず嫌いの龍迫は国民の幸せ度ランキングも1位をとるつもりだったのだ。
「町が一望できますね」
「あぁ」
テーマパークの人気アトラクションの1つ。
大観覧車に乗り込み、あたりを見渡す恵麻の呟きに頷く。
少しずつ、雑談をしてくれるようになった恵麻に龍迫はポケットから箱を取り出した。
「恵麻、“愛している”。これを受け取って欲しい」
“愛”って何?
愛された記憶のない恵麻は、愛しているといわれても実感がなく婚約指輪を見る。
こんな高価なものは受け取れないと、断ろうとするのだが。
“愛している”との言葉。
目の前に出された綺麗な指輪に完全に恵麻の思考回路はフリーズした。
そして、フリーズした恵麻に龍迫もフリーズした。
フリーズしているっっ。
恵麻がフリーズしているっっ。
そうだよな。
当然といえば当然だよな。
酷い事を恵麻がどういう人間かしらずに罵倒した男が何をいまさら・・・だよな。
顔には一切出さないが、心の中で激しく動揺し、気にしないでくれっ。
これは、なんでもないと龍迫が指輪を引っ込め。観覧車に2人きりという状況をどう切り抜けようか考えた時だった。
「綺麗」
目の前にある事実を恵麻は口にする。
“愛している”との言葉に“私は違います”“ありがとうございます”と否定的な言葉、業務的な言葉を返されれば、観覧車から飛び降りる覚悟で挑んだ龍迫だったが。
綺麗という事は、気に入ったという事だ・・・よな?
趣味に合わないというわけではないよな?
気に入ってもらえるかドキドキしていた龍迫は綺麗という言葉に恵麻の左手をとると、そのまま左の薬指に龍迫はめる。
「サイズがぴったりですね」
「あぁ」
何度も恵麻の指を眺めて、同じような大きさの指のメイド達に号数を聞きまくっていたのだ。
勿論彼女達は・・・。
「お前の薬指の号数はなんだ!とっとと答えろ」
そう威圧感たっぷりに龍迫に言われ。
「7号でございます!命だけはお助け下さい!」
と彼女達が無駄に命乞いをするというやり取りが何度もあったかいがあった。
「夜会の前に渡そうと思っていたんだが、あんなことがあったから遅くなった」
「ありがとうございます」
本当に綺麗。
こうやって、直接誰かに宝石を貰うなんて初めてだわ。
指輪を眺める恵麻に龍迫はふわりとほほ笑む。
“私も旦那様の事をお慕いしています”
そう答えてもいいのだろうか?
本当に私の事を好いてくれているのだろうか?
裏切られるのが怖い。
どう答えたらいいか分からない。
少し途方に暮れる恵麻だったが。
「俺は恵麻を愛している。初対面のあの日、噂を鵜呑みにして酷い事を言って後悔している。翌日、恵麻の態度で恵麻が噂のような女でないことは直ぐに分かったにも関わらず、俺は人に人生において謝った事経験がなく、謝罪がすぐにできなかった。すまない。愛してくれとは言わない。恵麻が我慢できるうちは側にいてほしい」
「我慢なんてしていません。初日の事は何度もお謝りにならなくて大丈夫ですよ」
恵麻は指輪を見ながら俯く。
「あの・・・。本当に、素敵な指輪をありがとうございます。・・・私も旦那様を・・・お慕いしています」
龍迫は飛び上がりそうになるほど、嬉しいのだが。
無表情で黙る。
どう反応をしたらいいのか分からない。
「私は愛された経験がありません。なので、愛がどういうものなのか分かりません。ただ、裏切られても旦那様の側にいたいと思います」
悲しい告白に龍迫は胸が締め付けられそうになるが、形ない物。
目で見ることのできない感覚的なモノを理解するのは時間が掛かるし、仕方がない。
「十分だ。・・・この後、少し寄り道をしていいか?」
「寄り道ですか?」
領地の中はどこにいけど、それは視察対象になる。
なので、寄り道など存在しないのだが?
そんな事を思いつつ恵麻は頷いた。
―――今朝
「婚約指輪はいつ渡されるんですか?」
飯田は龍迫に声を掛けた。
「・・・タイミングが」
「タイミングなんていつでもいいんですよ。思い立ったが吉日でございます。そんな事を言っていて、次の夜会。5日後にもまたハプニングがあるかもしれませんよ。そしたら永遠に渡すことができないですし。恵麻様は残念ながら、愛された経験の少ない方とお見受けします。ご主人様に悪く思われていないと思っている程度で、愛されているという自覚は恐らくないでしょう」
「・・今日渡す」
「さくっと良い場所で渡してください」
「・・・良い場所?具体的には」
「お洒落なレストラン、綺麗な場所、静かな所です。間違っても信号待ちをしている時に渡したらいけませんよ」
「信号待ちをしている時に渡す奴がいるのか?」
「ここにいます」
飯田は自分を指さした。
「ふっと、若かりし時。何を思ったのか、信号待ちを妻として言う時に。このままの日常が続いて欲しいと思い、結婚しようとプロポーズをして。そのままその日の夜に渡そうと思ってた指輪を渡してしまい・・・。まぁ、今では半分笑い話しですが。半分、やり直しだっと何度かプロポーズをさせられました」
「そうか」
お洒落なレストランは既に数回行っているし、領民だのの目がある。
綺麗な場所は・・・。
沢山あるが、どこも人がいる。
だからテーマパークの視察に行き、上から視察しようと観覧車に二人で乗り込み今に至るのだ。
「恵麻様っ。ご無事で何よりです!」
領民は恵麻に気軽に声を掛ける。
笑顔でお礼を言う恵麻に領民はほっと息をつく。
「恵麻様。あのね!あのね!その人は誰?」
近寄って来た子供は龍迫を見上げると、尋ねた。
孤児院など有栖川家が運営する公共機関の関係者は恵麻が結婚していることは知っているが、一般家庭の言葉を覚えた手の子供は知らない子が多い。
「夫だ」
龍迫は子供の前にしゃがむと、静かに言い放つが・・・。
なにぶん、圧が凄い。
周囲の大人は3歩下がるのだが、子供は時に鈍感だ。
「恵麻様って、結婚してたの?」
「ええ。していたわ」
「恵麻様はこの人が好きなの?」
その問いには恵麻は微笑むだけだった。
そう。
私はこの人の・・・。
同性愛者だの女嫌いだの噂を断ち切るために姉の代わりに嫁いだ女。
利用されて、解放される。
何度、能津家で甘い囁きをされ、信じたことで裏切られ、打ちのめされたか。
信じられるものは自分だけ。
期待は落胆を生む悲しいだけのもの。
信じる者は救われない。
信じる者は裏切られる。
だけれど、それを前面にだして悟られればもっと酷い事が待っている。
恵麻はにっこり微笑みながら、ちゃんと傷つかないように心のシャッターを下ろす。
龍迫は何か話しかけようと思うが、そんな隙はない。
「恵麻様、公爵様。こんにちは。暮らしを良くしていただきありがとうございます」
子供の母親は近寄ってくると、子供を抱き上げながら丁寧に挨拶をする。
恵麻の良い行いは、恵麻のモノではない。
恵麻の手柄は、恵麻の手柄ではない。
恵麻が悪い行い、マイナスだけが恵麻のモノ。そういう風に立ち振る舞っていたので、龍迫にも感謝をする者は多い。
「私の行いでは・・」
私のは行いではございません。全ては、旦那様のなさったことですと一歩下がろうといつものようにしようとした恵麻だったが。
「恵麻は公共施設を整える天才だ」
龍迫は恵麻の言葉を遮った。
今日、龍迫がここに来た目的は、恵麻が領民達に愛されている声を自分の耳で聞くためだった。
王宮での会議に参加した際。
民間調査の住みたい領地ランキングに元々有栖川公爵領は一位だったが、国民の幸せランキングは常に20前後と100以上ある領地の中では上位だが・・・。今回は5位。10位以内になった事がなかったのだ。
恵麻が政策を行っているのは知っていた。そして。頻繁に領地に行っているのも知っていた。
だから、本当に恵麻のおかげなのか恵麻を連れていくことで確認しようと思っていたのだった。
「公爵様。本当に素晴らしい奥様をお迎えくださりありがとうございます。感謝します」
あんな酷いことを言った俺を領民の前で俺を立ててくれていたんだな。
「酷い事を言った俺を立て、政策を命じていないのに自発的にしてくれてありがとう」
龍迫は恵麻の耳元で、分かりやすく端的に言う。
言葉に出さないと伝わらない。
恵麻は賢いが、自己肯定感は恐ろしく低い。
龍迫の声に恵麻の頬は赤く染まった。
―――初めての二人での視察から数日後。
2人は昼下がりにテーマパークに視察に来ていた。
前々から、有栖川公爵領の良い財源であるこのテーマパークを除いてみたかったのだが、なにせ、龍迫一人では恥ずかしくて気にはなっていたが来れなかった所。
しかし、恵麻を同行ると来やすいし。領民の緊張していない姿を見ることができ、更に領民が困っている事、望んでいることを聞き出しやすかったからだ。
なにせ、地獄の番人と言われるほど。
物事の判断は厳しく。適格で妥協のない性格だ。
そして、人一倍負けず嫌いの龍迫は国民の幸せ度ランキングも1位をとるつもりだったのだ。
「町が一望できますね」
「あぁ」
テーマパークの人気アトラクションの1つ。
大観覧車に乗り込み、あたりを見渡す恵麻の呟きに頷く。
少しずつ、雑談をしてくれるようになった恵麻に龍迫はポケットから箱を取り出した。
「恵麻、“愛している”。これを受け取って欲しい」
“愛”って何?
愛された記憶のない恵麻は、愛しているといわれても実感がなく婚約指輪を見る。
こんな高価なものは受け取れないと、断ろうとするのだが。
“愛している”との言葉。
目の前に出された綺麗な指輪に完全に恵麻の思考回路はフリーズした。
そして、フリーズした恵麻に龍迫もフリーズした。
フリーズしているっっ。
恵麻がフリーズしているっっ。
そうだよな。
当然といえば当然だよな。
酷い事を恵麻がどういう人間かしらずに罵倒した男が何をいまさら・・・だよな。
顔には一切出さないが、心の中で激しく動揺し、気にしないでくれっ。
これは、なんでもないと龍迫が指輪を引っ込め。観覧車に2人きりという状況をどう切り抜けようか考えた時だった。
「綺麗」
目の前にある事実を恵麻は口にする。
“愛している”との言葉に“私は違います”“ありがとうございます”と否定的な言葉、業務的な言葉を返されれば、観覧車から飛び降りる覚悟で挑んだ龍迫だったが。
綺麗という事は、気に入ったという事だ・・・よな?
趣味に合わないというわけではないよな?
気に入ってもらえるかドキドキしていた龍迫は綺麗という言葉に恵麻の左手をとると、そのまま左の薬指に龍迫はめる。
「サイズがぴったりですね」
「あぁ」
何度も恵麻の指を眺めて、同じような大きさの指のメイド達に号数を聞きまくっていたのだ。
勿論彼女達は・・・。
「お前の薬指の号数はなんだ!とっとと答えろ」
そう威圧感たっぷりに龍迫に言われ。
「7号でございます!命だけはお助け下さい!」
と彼女達が無駄に命乞いをするというやり取りが何度もあったかいがあった。
「夜会の前に渡そうと思っていたんだが、あんなことがあったから遅くなった」
「ありがとうございます」
本当に綺麗。
こうやって、直接誰かに宝石を貰うなんて初めてだわ。
指輪を眺める恵麻に龍迫はふわりとほほ笑む。
“私も旦那様の事をお慕いしています”
そう答えてもいいのだろうか?
本当に私の事を好いてくれているのだろうか?
裏切られるのが怖い。
どう答えたらいいか分からない。
少し途方に暮れる恵麻だったが。
「俺は恵麻を愛している。初対面のあの日、噂を鵜呑みにして酷い事を言って後悔している。翌日、恵麻の態度で恵麻が噂のような女でないことは直ぐに分かったにも関わらず、俺は人に人生において謝った事経験がなく、謝罪がすぐにできなかった。すまない。愛してくれとは言わない。恵麻が我慢できるうちは側にいてほしい」
「我慢なんてしていません。初日の事は何度もお謝りにならなくて大丈夫ですよ」
恵麻は指輪を見ながら俯く。
「あの・・・。本当に、素敵な指輪をありがとうございます。・・・私も旦那様を・・・お慕いしています」
龍迫は飛び上がりそうになるほど、嬉しいのだが。
無表情で黙る。
どう反応をしたらいいのか分からない。
「私は愛された経験がありません。なので、愛がどういうものなのか分かりません。ただ、裏切られても旦那様の側にいたいと思います」
悲しい告白に龍迫は胸が締め付けられそうになるが、形ない物。
目で見ることのできない感覚的なモノを理解するのは時間が掛かるし、仕方がない。
「十分だ。・・・この後、少し寄り道をしていいか?」
「寄り道ですか?」
領地の中はどこにいけど、それは視察対象になる。
なので、寄り道など存在しないのだが?
そんな事を思いつつ恵麻は頷いた。
―――今朝
「婚約指輪はいつ渡されるんですか?」
飯田は龍迫に声を掛けた。
「・・・タイミングが」
「タイミングなんていつでもいいんですよ。思い立ったが吉日でございます。そんな事を言っていて、次の夜会。5日後にもまたハプニングがあるかもしれませんよ。そしたら永遠に渡すことができないですし。恵麻様は残念ながら、愛された経験の少ない方とお見受けします。ご主人様に悪く思われていないと思っている程度で、愛されているという自覚は恐らくないでしょう」
「・・今日渡す」
「さくっと良い場所で渡してください」
「・・・良い場所?具体的には」
「お洒落なレストラン、綺麗な場所、静かな所です。間違っても信号待ちをしている時に渡したらいけませんよ」
「信号待ちをしている時に渡す奴がいるのか?」
「ここにいます」
飯田は自分を指さした。
「ふっと、若かりし時。何を思ったのか、信号待ちを妻として言う時に。このままの日常が続いて欲しいと思い、結婚しようとプロポーズをして。そのままその日の夜に渡そうと思ってた指輪を渡してしまい・・・。まぁ、今では半分笑い話しですが。半分、やり直しだっと何度かプロポーズをさせられました」
「そうか」
お洒落なレストランは既に数回行っているし、領民だのの目がある。
綺麗な場所は・・・。
沢山あるが、どこも人がいる。
だからテーマパークの視察に行き、上から視察しようと観覧車に二人で乗り込み今に至るのだ。
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