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⑥ 不安・恐怖の対処

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薫は夕食を作りながら、なんとも言えない恐怖心、不安感に心を支配され携帯電話で仁美に電話を掛けた。
「はーい。仁美でーす」
娘の明るくお気楽な声に少しだけ、心が軽くなる。
「仁美ちゃん。お母さん、凄く不安なんだ」
そんな電話が掛かってきた電話に一人暮らしのマンションのベッドの上で仁美はスマートフォンで検索を始める。
「そりゃそうでしょう。癌は今や治る病気になりつつあるけれど、お母さんの癌の種類はちょっと強力。不安だし、恐怖を感じないほうがおかしいでしょう?」
大丈夫!
何も不安に思う事なんて無いよっなんて、いい加減な事は仁美は言わない。
いや、言えないのかもしれない。

「心療内科行こう。今、口コミがいい心療内科を探して予約とった。2,3回は付き合うよ」
そんな仁美に薫は電話の先で押し黙る。
「お母さん・・・。心まで癌になっちゃった?」
体ばかりではなく、心も病気になってしまったんだろうか。
病気に侵されていても、心だけは元気だと思っていたかった。
どこか一つくらいは元気だと・・・。
「お母さんさ。どんな明るく元気で屈強な人間でも、睡眠不足がたまったらイライラして元気いっぱいじゃないでしょ?今の足を切って、腕を切って、削ってさ。怖くない人間なんていないでしょう?だって、手があって足があるのが人間の普通。オーソドックスなんだから」
そんな言葉に薫は少しだけ、心のもやもやが軽くなるような気がする。
「そのうち、私からも提案をしようと思ってたの」
「え?」
「だって、当事者でない私だって。・・・恋愛っていう最高級のアニマルセラピーに頼ってみたり。運動して血流を良くして、もやもやを発散してみたりさ。色々してるんだよ?」
「そうなんだ。ごめんね」
心配かけてごめんね。
薫は大切な娘に唇を噛み締める。
「心療内科、行こう。しかも、凄く身はたらしのいい高層ビルの上だよ?」
「何それ」
「美味しいレストランもビル内に入ってる」
「わぁ~」
「11時から診療受けて、その後はランチだね」
「楽しみ」
「でしょう~!」
仁美はそういうと、電話を切った。

―――心療内科はどこも人気で、何人もの人がいた。
皆さん、どうみても・・・。
心身ともに健康そうに見える人が多く、薫も足がない以外は元気そうに見える。
「明細胞肉腫という希少癌で、切断しか方法がないため。足を切って、腕を削って。不安と恐怖に心が支配されているので来ました」
主治医に自分の状況を伝えづらそうな薫に仁美はさくさくっと状況を説明する。
「なるほど」
希少癌。聞いたことのない癌に医師は少しだけ表情を固まらすと、母を見る。
「はい。体を切り刻むのが・・・怖くて」
”体を切り刻むのが怖い”か。
仁美は母親の手を握る。
初めて聞いた。お母さんの、泣き言。
・・・お母さん。怖いにずっと、向き合い続けるのもよくないけど。
ちゃんと、向き合って、打ちのめされて泣くことも大切なんだよ。
強力な薬を処方してもらい薫と仁美は美味しいランチを食べるべく、お店に入る。

「美味しい~!」
「本当に。美味しい!」
「世の中は美味しい物で満ち溢れてるよね」
「本当だね。・・・お薬貰ったし、これで、不安になってもへっちゃらだわ」
そんな薫に仁美はそうだねっと相槌を打つ。
「薬飲んで、それでも、不安な時はお電話をお待ちしています。もう、泣き叫んで、暴れ来るっていいんじゃない?」
「いいの?」
「だって、それが向き合っているってことでしょう」
そうだよね。
薫は頷く。
自分の気持ちに向き合うからこその体の反応だ。
「壊していいものをしっかり、選んで破壊活動をするときはします」
「え・・・。暴力行動ですか?」
「100円ショップで梱包資材のプチプチでも買って。潰しまくろうかしら?」
「あはははは。なんか、凄い、地味!」
薫と仁美は笑いながら、少しリッチなランチを頬張る。
「美味しい、楽しい、嬉しい。言霊ってあるじゃない?」
「言葉に魂が宿ってるっていうやつ?」
「そうそう。ため息をついたら、ついたぶんだけ息を吸い込めばいいし。吐き出した不と同じ量の正を吸い込む。プラスの言霊で自分の体を包んで、頭も自分自身でプラスの言葉で占拠しつつだね」

カウンセリングも薬もお助けマンでしかない。
やはり、本人がどう生きたいか。
どうしたいか。
本人が大切だと思う。
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