69 / 92
69.工場跡②
しおりを挟む
所沢から説明を受けた後、負傷したカクとその看病をしていた雅美を残し、全員は工場跡にいた。
所沢を中心に周囲を陣取るように壱也、マリナ、ゼロが腰掛けている。
マリナの携帯電話を手に、所沢がほくそ笑む。有意義な通話を終えた所沢はご機嫌だ。
壱也の持っているタブレットで地図を開き、聞き得た情報を確認する。
「最後の支払いはやはりこの辺りの……あぁ、このコンビニです。その前はこのネットカフェ。どうやら誰かとそこでやり取りをしたようです。……まぁ酒井幹事長の秘書の一人が銀行へ駆け込んだところを見ると、彼らは無謀にもかなりの額を要求した、と見た方がいいでしょうね」
「カモネギってやつっすね。馬鹿な女だなー、騙されてやんの」
所沢が情報を整理していく。壱也はみちるの間抜けさに呆れ顔だ。
マリナを通じて酒井と直接やりとりをすることができ、ようやくこの事件の全貌が見えてきた。どうやらみちるは裏切られ、身代金目当てに誘拐された。酒井は誘拐の事実を認め、みちるの救出を黒龍会に要求した。
厚顔無恥の親バカぶりに所沢は逆に冷静になれた。クズにはクズの対応をするだけだ。
「酒井先生の出世もこれまでか……良い金ヅルだったんですが……」
と、マリナが肩を竦める。当然だ。黒龍会に弱みを見せた政治家にまともな生活が待っているはずはない。所沢が聞こえなかったフリをして話を戻した。
「酒井にとってスキャンダルはNGでしょうしね。しかも可愛い愛娘のためなら言い値を出すでしょうけど……あの男もなかなか苛烈な性格ですから誘拐犯には相当な制裁を与えたいでしょうね」
「じゃあ、誘拐犯の処理の請求は酒井から頂くって感じで良さそうっすねー。良かった。最近稼ぎが悪かったんすよー」
壱也の瞳が金貨のように輝いた。
壁に寄りかかり、黙って話を聞いていたゼロが口を開く。
「マリナ、あの女の居場所に心当たりがあるか?」
「いえ、難しいですね。僕は蝋人形化計画をのらりくらりとかわしていましたから。まさか、僕を出し抜いてこんなまねをするとは思ってもみなかったです」
錆びついた一斗缶に腰掛けたマリナは力無く首を振る。
「ゼロのストーキングに忙しい貴方を出し抜くのは容易だったのでは?」
「あんなに大勢で守っていたのにあっけなく姫を攫われたくせに、何を威張っているんです若頭さま」
「どうでもいい。今は情報が欲しい」
所沢とマリナの不毛な言い合いにゼロが終止符を打つ。
時間が惜しかった。
京が居る可能性がある街は特定した。しかし、あれほど目立っていた男たちの足取りが一向に掴めない。まるで、足跡を消すように誰かが小細工をしているようだ。
ゼロはハッキングをして駅周辺や、大手ホテルの監視カメラを確認したが有力な情報を得ることは出来なかった。ただ、京がいなくなった日、あの時間に通信障害や、機械のメンテナンスを行った企業が多々あった。公にせず秘密裏に処理を行ったようだが、明らかにおかしい。
「調べている奴らの話じゃ、あの界隈にいる情報屋も軒並み姿を消しているらしいっす。何すかね、この気味が悪い感じ」
「ゼロ?」
「……」
「ゼロ、どうしました?」
「大丈夫だ」
ゼロはどこかへと電話をかけた。長いコール音の後、相手はようやく電話に出た。
いくつもの言語を用いて淡々と語るゼロだったが、少し長い間の後小さな声で「Got it.」と呟いた。
京の居場所が掴めたというゼロの言葉に全員が歓喜の声をあげた。しかしマリナはゼロの顔が先程よりもずっと強張っていたことに気が付いた。
怒りよりも、もっと深い仄暗いものを抱えた人間の顔だった。
所沢を中心に周囲を陣取るように壱也、マリナ、ゼロが腰掛けている。
マリナの携帯電話を手に、所沢がほくそ笑む。有意義な通話を終えた所沢はご機嫌だ。
壱也の持っているタブレットで地図を開き、聞き得た情報を確認する。
「最後の支払いはやはりこの辺りの……あぁ、このコンビニです。その前はこのネットカフェ。どうやら誰かとそこでやり取りをしたようです。……まぁ酒井幹事長の秘書の一人が銀行へ駆け込んだところを見ると、彼らは無謀にもかなりの額を要求した、と見た方がいいでしょうね」
「カモネギってやつっすね。馬鹿な女だなー、騙されてやんの」
所沢が情報を整理していく。壱也はみちるの間抜けさに呆れ顔だ。
マリナを通じて酒井と直接やりとりをすることができ、ようやくこの事件の全貌が見えてきた。どうやらみちるは裏切られ、身代金目当てに誘拐された。酒井は誘拐の事実を認め、みちるの救出を黒龍会に要求した。
厚顔無恥の親バカぶりに所沢は逆に冷静になれた。クズにはクズの対応をするだけだ。
「酒井先生の出世もこれまでか……良い金ヅルだったんですが……」
と、マリナが肩を竦める。当然だ。黒龍会に弱みを見せた政治家にまともな生活が待っているはずはない。所沢が聞こえなかったフリをして話を戻した。
「酒井にとってスキャンダルはNGでしょうしね。しかも可愛い愛娘のためなら言い値を出すでしょうけど……あの男もなかなか苛烈な性格ですから誘拐犯には相当な制裁を与えたいでしょうね」
「じゃあ、誘拐犯の処理の請求は酒井から頂くって感じで良さそうっすねー。良かった。最近稼ぎが悪かったんすよー」
壱也の瞳が金貨のように輝いた。
壁に寄りかかり、黙って話を聞いていたゼロが口を開く。
「マリナ、あの女の居場所に心当たりがあるか?」
「いえ、難しいですね。僕は蝋人形化計画をのらりくらりとかわしていましたから。まさか、僕を出し抜いてこんなまねをするとは思ってもみなかったです」
錆びついた一斗缶に腰掛けたマリナは力無く首を振る。
「ゼロのストーキングに忙しい貴方を出し抜くのは容易だったのでは?」
「あんなに大勢で守っていたのにあっけなく姫を攫われたくせに、何を威張っているんです若頭さま」
「どうでもいい。今は情報が欲しい」
所沢とマリナの不毛な言い合いにゼロが終止符を打つ。
時間が惜しかった。
京が居る可能性がある街は特定した。しかし、あれほど目立っていた男たちの足取りが一向に掴めない。まるで、足跡を消すように誰かが小細工をしているようだ。
ゼロはハッキングをして駅周辺や、大手ホテルの監視カメラを確認したが有力な情報を得ることは出来なかった。ただ、京がいなくなった日、あの時間に通信障害や、機械のメンテナンスを行った企業が多々あった。公にせず秘密裏に処理を行ったようだが、明らかにおかしい。
「調べている奴らの話じゃ、あの界隈にいる情報屋も軒並み姿を消しているらしいっす。何すかね、この気味が悪い感じ」
「ゼロ?」
「……」
「ゼロ、どうしました?」
「大丈夫だ」
ゼロはどこかへと電話をかけた。長いコール音の後、相手はようやく電話に出た。
いくつもの言語を用いて淡々と語るゼロだったが、少し長い間の後小さな声で「Got it.」と呟いた。
京の居場所が掴めたというゼロの言葉に全員が歓喜の声をあげた。しかしマリナはゼロの顔が先程よりもずっと強張っていたことに気が付いた。
怒りよりも、もっと深い仄暗いものを抱えた人間の顔だった。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
秋良のシェアハウス。(ワケあり)
日向 ずい
BL
物語内容
俺は...大学1年生の神代 秋良(かみしろ あきら)。新しく住むところ...それは...男ばかりのシェアハウス!?5人暮らしのその家は...まるで地獄!プライバシーの欠けらも無い...。だが、俺はそこで禁断の恋に落ちる事となる...。
登場人物
・神代 秋良(かみしろ あきら)
18歳 大学1年生。
この物語の主人公で、これからシェアハウスをする事となる。(シェアハウスは、両親からの願い。)
・阿久津 龍(あくつ りゅう)
21歳 大学3年生。
秋良と同じ大学に通う学生。
結構しっかりもので、お兄ちゃん見たいな存在。(兄みたいなのは、彼の過去に秘密があるみたいだが...。)
・水樹 虎太郎(みずき こたろう)
17歳 高校2年生。
すごく人懐っこい...。毎晩、誰かの布団で眠りにつく。シェアハウスしている仲間には、苦笑いされるほど...。容姿性格ともに可愛いから、男女ともにモテるが...腹黒い...。(それは、彼の過去に問題があるみたい...。)
・榛名 青波(はるな あおば)
29歳 社会人。
新しく入った秋良に何故か敵意むき出し...。どうやら榛名には、ある秘密があるみたいで...それがきっかけで秋良と仲良くなる...みたいだが…?
・加来 鈴斗(かく すずと)
34歳 社会人 既婚者。
シェアハウスのメンバーで最年長。完璧社会人で、大人の余裕をかましてくるが、何故か婚約相手の女性とは、別居しているようで...。その事は、シェアハウスの人にあんまり話さないようだ...。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる