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67.なんで俺?
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みちるは罵倒する言葉を発しながら、京の手を握り返した。整えられた美しい爪が食い込んで、血の気がなくなり胃指先の色を無くなっても。二人は手を離さなかった。
やがて全ての感情を吐き出し、涙が尽きた頃、みちるは吹き出すように笑った。
「やだぁ、化粧剥がれちゃったぁ。まだ、可愛い?」
「……うーん、外には出られへんやろな。お化けと間違われて霊能力者呼ばれるんちゃう?」
「フフ、そっかぁ」
「うん、せやな」
顔を見合わせて微笑み合う。みちるは憑き物が取れたようにすっきりとしていた。京の手を握りなおすとみちるは大袈裟な握手をする。
「酒井みちる。金持ちの娘で超わがままなのぉ。惚れた男には尽くすタイプ」
「照国京。瀕死レベルの不眠症に悩む平凡な男。ちなみに肉食系女子は苦手で、暗殺者を送り込まれた、二千万円の価値のある男やで?」
「あらぁ、素敵な経験をお持ちねぇ?」
「どうも」
二人が照れ臭そうしていると突如部屋の扉が開いた。三人の男たちが部屋の様子を見て、面倒臭そうに顔を顰めた。
「何だよぉ、目覚めちゃったじゃん……お前の段取りが悪いから……」
「大人のおもちゃがあった方が良いって言うから買いに走ったのに。まぁ、後撮りで良いじゃん?」
三人はキャビネットの上にいやらしく、暴力的なフォルムの大人のおもちゃを乱雑に放り投げる。実際に見るのは初めてだが、派手な色使いの棒状のものは、明らかに男のアレそのものだ。中にはどうやって使うのか見当もつかないものまである。
「やだ、嘘でしょ……」
みちるは恐怖のあまり逃げるように後退り、京の背後に隠れた。京も竦然としながらもみちるを背中に隠す。スマートフォンを片手に近づく男を牽制しつつ、京は毅然と男たちに向き合った。
「卑怯やろうが! 強姦するなんて、何考えてんねん‼︎」
「いやいや、まぁ、これから脅す材料作りっていうか、口止めっていうか……ね? 最後には気持ちよくて腰振るんだし、良いじゃん? お互いウィンウィンだし」
「こんな可愛い子とやれるなんて、マジ、良い仕事ぉ。白い肌にしゃぶりつきたいね」
「ずっとお預け食らってたしー。え、誰からヤる?」
お前の後は嫌だとか、俺はキツめより緩んでる方が好きだとか、好き放題言う男どもを横目にみちるの様子を窺う。
これから自分の身に起こることを想像し、すっかり血の気が失せている。
「確かに、私、可愛いけどぉ、こんなのはイヤ……」
「くっそ……アカン、どうしたらええんや……」
声を顰めて話していると、いつのまにか順番が決まった男たちがベッドの縁に立っていた。一人の男が撮影を、二人の男がやる気満々といった様子で舌舐めずりしてにじり寄る。
「さ、お楽しみお楽しみー」
京の抵抗も虚しく、みちるは甲高い悲鳴と共に男にベッドから引き摺り下ろされた。別室で犯されるのかもしれない。京が引き止めようとするが、もう一人の男の腕一本であっけなく拘束されてしまった。
「やめろや! みちるちゃんを離せっ!」
「京くぅーんッ!」
みちるはベッドと鏡台の隙間に放り投げられる。みちるといかがわしいおもちゃが一緒の視界に入る。まずい、このままではいけない。京がみちるの元へと向かおうとした──のだが。
「やっぱ可愛いー白いー良い匂いだな」
「…………へ?」
気がつくと、肝心のマリナを放って、男たちが京を取り囲んでいた。すでに撮影を始めているのか、男はスマートフォン越しに京に熱のこもった視線を送っている。
唖然としていると、男に押し倒され、もう一人には良い子だね、と褒められる。その手はベルトに伸びており、いつのまにか靴下は脱がされどこかへと葬られている。
「良い香りー、香水?」
「へ? え? ボディーソープ、かも、です」
「清潔感のある子で良かったー、ほら、舐める時困るし。髪もサラサラだしサイコー」
これ、アレ? 俺が、ヤられるパターンじゃない? 獣みたいな目してるし、ヤバくない?
みちるもあんぐりと口を開けていたが、やがて沸々と怒りが湧いてきたのか、男たちを指差して叫ぶ。
「アンタたち! その目は節穴ぁ⁉︎ こんな可愛い女を置いて、何で男を襲ってんのよぉ! 何が可愛い、白い肌よぉ!」
さっきまでの恐怖に震える様子はどこへ消えたのか。みちるは手を出さないだなんて、男としてどうなのかと怒り心頭だ。
女のプライドとやらを著しく傷つけてしまった。信じられないとばかりにこちらを見るけれど、俺だって可愛いとか言われても全く嬉しくない。
「化粧厚めの香水くさい女と、見目麗しい男──そりゃこっちだろッ」
「関西弁とかで鳴かれるとグッとくる」
「細くて白いうなじがエロいっ」
男どもの賛辞の嵐に固く口を閉ざす京。
嬉しくない。待ち遠しかったモテ期だが、絶対に今じゃない。
ベルトを取られ、あっという間に手首を掴まれる。着ていたTシャツはナイフで引き裂かれた。いやいや、それ、高かったんやぞ! とは言えない。組み敷かれて、無惨な姿にされる。脚を振り上げて抵抗するも敵わない。黒のボクサーパンツ一丁……恐怖のあまり震える京を見て、男たちが歓喜の声を上げる。
みちるは髪を振り乱し、京の名を呼ぶ。
犯す役の男が京の胸を撫で回し、感触を楽しむように臍の凹みをくすぐり、下着のゴムに指を引っ掛けた。
やがて全ての感情を吐き出し、涙が尽きた頃、みちるは吹き出すように笑った。
「やだぁ、化粧剥がれちゃったぁ。まだ、可愛い?」
「……うーん、外には出られへんやろな。お化けと間違われて霊能力者呼ばれるんちゃう?」
「フフ、そっかぁ」
「うん、せやな」
顔を見合わせて微笑み合う。みちるは憑き物が取れたようにすっきりとしていた。京の手を握りなおすとみちるは大袈裟な握手をする。
「酒井みちる。金持ちの娘で超わがままなのぉ。惚れた男には尽くすタイプ」
「照国京。瀕死レベルの不眠症に悩む平凡な男。ちなみに肉食系女子は苦手で、暗殺者を送り込まれた、二千万円の価値のある男やで?」
「あらぁ、素敵な経験をお持ちねぇ?」
「どうも」
二人が照れ臭そうしていると突如部屋の扉が開いた。三人の男たちが部屋の様子を見て、面倒臭そうに顔を顰めた。
「何だよぉ、目覚めちゃったじゃん……お前の段取りが悪いから……」
「大人のおもちゃがあった方が良いって言うから買いに走ったのに。まぁ、後撮りで良いじゃん?」
三人はキャビネットの上にいやらしく、暴力的なフォルムの大人のおもちゃを乱雑に放り投げる。実際に見るのは初めてだが、派手な色使いの棒状のものは、明らかに男のアレそのものだ。中にはどうやって使うのか見当もつかないものまである。
「やだ、嘘でしょ……」
みちるは恐怖のあまり逃げるように後退り、京の背後に隠れた。京も竦然としながらもみちるを背中に隠す。スマートフォンを片手に近づく男を牽制しつつ、京は毅然と男たちに向き合った。
「卑怯やろうが! 強姦するなんて、何考えてんねん‼︎」
「いやいや、まぁ、これから脅す材料作りっていうか、口止めっていうか……ね? 最後には気持ちよくて腰振るんだし、良いじゃん? お互いウィンウィンだし」
「こんな可愛い子とやれるなんて、マジ、良い仕事ぉ。白い肌にしゃぶりつきたいね」
「ずっとお預け食らってたしー。え、誰からヤる?」
お前の後は嫌だとか、俺はキツめより緩んでる方が好きだとか、好き放題言う男どもを横目にみちるの様子を窺う。
これから自分の身に起こることを想像し、すっかり血の気が失せている。
「確かに、私、可愛いけどぉ、こんなのはイヤ……」
「くっそ……アカン、どうしたらええんや……」
声を顰めて話していると、いつのまにか順番が決まった男たちがベッドの縁に立っていた。一人の男が撮影を、二人の男がやる気満々といった様子で舌舐めずりしてにじり寄る。
「さ、お楽しみお楽しみー」
京の抵抗も虚しく、みちるは甲高い悲鳴と共に男にベッドから引き摺り下ろされた。別室で犯されるのかもしれない。京が引き止めようとするが、もう一人の男の腕一本であっけなく拘束されてしまった。
「やめろや! みちるちゃんを離せっ!」
「京くぅーんッ!」
みちるはベッドと鏡台の隙間に放り投げられる。みちるといかがわしいおもちゃが一緒の視界に入る。まずい、このままではいけない。京がみちるの元へと向かおうとした──のだが。
「やっぱ可愛いー白いー良い匂いだな」
「…………へ?」
気がつくと、肝心のマリナを放って、男たちが京を取り囲んでいた。すでに撮影を始めているのか、男はスマートフォン越しに京に熱のこもった視線を送っている。
唖然としていると、男に押し倒され、もう一人には良い子だね、と褒められる。その手はベルトに伸びており、いつのまにか靴下は脱がされどこかへと葬られている。
「良い香りー、香水?」
「へ? え? ボディーソープ、かも、です」
「清潔感のある子で良かったー、ほら、舐める時困るし。髪もサラサラだしサイコー」
これ、アレ? 俺が、ヤられるパターンじゃない? 獣みたいな目してるし、ヤバくない?
みちるもあんぐりと口を開けていたが、やがて沸々と怒りが湧いてきたのか、男たちを指差して叫ぶ。
「アンタたち! その目は節穴ぁ⁉︎ こんな可愛い女を置いて、何で男を襲ってんのよぉ! 何が可愛い、白い肌よぉ!」
さっきまでの恐怖に震える様子はどこへ消えたのか。みちるは手を出さないだなんて、男としてどうなのかと怒り心頭だ。
女のプライドとやらを著しく傷つけてしまった。信じられないとばかりにこちらを見るけれど、俺だって可愛いとか言われても全く嬉しくない。
「化粧厚めの香水くさい女と、見目麗しい男──そりゃこっちだろッ」
「関西弁とかで鳴かれるとグッとくる」
「細くて白いうなじがエロいっ」
男どもの賛辞の嵐に固く口を閉ざす京。
嬉しくない。待ち遠しかったモテ期だが、絶対に今じゃない。
ベルトを取られ、あっという間に手首を掴まれる。着ていたTシャツはナイフで引き裂かれた。いやいや、それ、高かったんやぞ! とは言えない。組み敷かれて、無惨な姿にされる。脚を振り上げて抵抗するも敵わない。黒のボクサーパンツ一丁……恐怖のあまり震える京を見て、男たちが歓喜の声を上げる。
みちるは髪を振り乱し、京の名を呼ぶ。
犯す役の男が京の胸を撫で回し、感触を楽しむように臍の凹みをくすぐり、下着のゴムに指を引っ掛けた。
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