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46.ご指導ご鞭撻①
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「ふん、ふんふん、ふん……んがっ!」
「あ、アカンで、砂利を食ったらアカン!」
いつものように京はマンションに併設された公園に散歩に来ていた。秋めいてきたこの頃、雷太も散歩が楽しくて仕方がないようだ。夕方の今頃は少し肌寒さを感じる。
初めてきた頃は夏、日陰のベンチでも流れる汗が止まらなかった。今は日陰であれば心地よく感じる。雷太の散歩がなければ足を踏み入れることもなかっただろうこの公園、今は四季を感じる重要な場となっていた。
小さな公園だが、入り口に桜の木、ベンチのそばにはもみじの木と名前の知らない常緑樹がある。もう少しすれば、もみじの紅葉が楽しめるだろう。
「京さん、雷太のやつ、ヨダレが酷くて口の周り砂だらけっす。あぁ、近寄んなよ! 雷太、この、てめー、この服幾らすると思ってんだ!」
壱也が雷太から逃げようとするが、雷太は遊んでいると思い壱也の裾を追う。
微笑ましい光景だ。
ここ最近は平和な日々が続いている。
所沢曰く、懸賞金目当てに狙っていた奴らがほとんど消えたそうだ。そう、消えたらしい。殺してはいないけれど、何人か返り討ちついでに再起不能にしたとゼロは言っていた。復讐されるのではと危惧したものの、刺客たちは二度とゼロに関わり合いを持ちたくないはずだと所沢は愉快そうに話していた。
そのことも有り、京の警護のレベルは引き下がった。いつも二人体制で警護していたけれど、一人体制になった。
もちろん、晩御飯の時間は相変わらず食卓を囲んでいる。
この人たち、懸賞金の件がなくなっても、食べにくるかも……と京は思っている。でも、それが嬉しいし、そうなってくれたら良いと思う今日この頃だ。
「ひっでー、くそ、セイント・フランチェスカのくせに……」
「あらー、神聖な粉を賜りましたな。雷太もすっかり壱也くんに慣れたなぁ」
「犬に懐かれたのは初めてっす」
壱也はまんざらでもない様子だ。
この数ヶ月で壱也はすっかりフランチェ──いや、雷太の虜だ。
「あ、そうそう。一応なんすけど、人数を減らした分、盗聴器つけさせてもらっていいっすか?」
「盗聴器? え、どこに?」
「とりあえず、雷太の首輪のタグあたりに……基本自宅ですし、雷太と京さんはニコイチなんで。あ、京さんの携帯か靴に発信機も付けさせてください──いや! 万が一っすよ? 万が一。保険みたいなもんすから!」
縁のないものだけに、京が反応に困っていると、壱也が慌ててフォローした。
ドラマの中でしか見聞きしないけれど、こんな小さなものに取り付けられるほど盗聴器も発信機も進化したらしい。
もちろん、嫌がる理由はない。感謝しかない。
「ま、発信機はともかく、盗聴器はいつも通信オンにしてないっすから。多分いざと言う時だけなんで安心してください! 俺も、雷太のひどいイビキとか聞きたくないっす……」
壱也が雷太の頭を撫でていると、公園の入口からスケが現れた。
ぼうっとした様子だが、壱也曰くあれが通常運転らしい。最近スケはサングラスを外すことも多くなった。表情を読まれないためによく掛けているらしいが、俺は身内認定されたらしい。地味に嬉しい。
「おーい、お疲れ」
スケに気付いた壱也が呼びかけると、スケが微かに笑った。その瞳があまりにも愛情たっぷりで甘い。相変わらず、この二人はお熱い……羨ましい。
「じゃ、京さん、コイツと交代しますね」
「あ、あの……ちょっと、二人に話したいことがあるんやけど」
「え? 俺らに?」
壱也とスケが不思議そうな顔でこちらを見る。
注目されると、言いづらい……けれど、このことを相談するのなら、この二人にするしかない。
「男同士の恋愛について、詳しく聞きたい……んやけど」
「「…………」」
俺の告白に二人が固まるのが分かった。
壱也に至っては、一瞬で唇の色まで変わってしまった。寒い日にプール参加した時みたいな紫色だ。スケは相変わらずというか、真顔のままだ。だけど、目の前で手を振ってみたけれど反応がないから、もしかしたら、視界がゼロなのかも。
気軽な気持ちで尋ねてはいけなかったのかも知れない。
二人が恋人同士だという報告は受けたものの、そこを突っ込んで話を聞けるほど、俺との関係が構築されていなかったという可能性もある。
そう考えると二人の反応も当然だ。
「あ、いや、ごめんな。いや、やっぱりええわ! 命に関わる時に何言うてんねんって感じやんな。ごめん、そんなつもりやなかってん。ただ、ネットとかで見てもほんまかなーって、思うし。いや、違うで? その、そういうのを面白がってる訳じゃなくて。真剣にケツに入れるとか、そう言うのも含めて、どうなんやろうって……その……」
そうだ。まさしくその通り。正論だ。
しかし、その命に関わる時に要らぬことを推し進めている連中がいて、さらに自分が巻き込まれていることを、京は知らない。
そして、命に関わる一大事だというのに、恋人のフリをさせられている人間が目の前にいることも。
「ケツって、京さん、男同士のセックスのやり方調べたんっすか⁉︎ マジで⁉︎」
「え? あ……うん。今日、ちょっとだけ」
「なんでそんなこと……まさか、京さん、恋してる、とか? 男に?」
「え? あ。いや、二人が知っている人じゃないですけどね!」
「知らない人っすか……? どこで出会ったんすか?」
「う、うん、その……可もなく不可もないような、そういった類の、店の、奥の、手前です‼︎」
慌てる京にスケが「分かりやすい」と呟くと、それを打ち消すように壱也が大笑いしてスケの背中を太鼓のように叩いた。
幸いスケの呟きは京の耳には届かなかった。
「あははは、そうなんっすね。そっかそっか……俺たちで良かったら、相談に乗りますけど……俺たちもそんなに、ってか、全く詳しくないっすよ?」
「いやいや、実際のカップルに話を聞けるんやから。何よりも勉強になるわ、ありがとう」
「うー、あー、ハイ」
「俺たちで良ければ何でも」
困ったように笑う壱也に対して、スケは頼もしい返事をくれた。壱也はそんなスケを見てぎょっとした顔をしていたけれど。
「あ、アカンで、砂利を食ったらアカン!」
いつものように京はマンションに併設された公園に散歩に来ていた。秋めいてきたこの頃、雷太も散歩が楽しくて仕方がないようだ。夕方の今頃は少し肌寒さを感じる。
初めてきた頃は夏、日陰のベンチでも流れる汗が止まらなかった。今は日陰であれば心地よく感じる。雷太の散歩がなければ足を踏み入れることもなかっただろうこの公園、今は四季を感じる重要な場となっていた。
小さな公園だが、入り口に桜の木、ベンチのそばにはもみじの木と名前の知らない常緑樹がある。もう少しすれば、もみじの紅葉が楽しめるだろう。
「京さん、雷太のやつ、ヨダレが酷くて口の周り砂だらけっす。あぁ、近寄んなよ! 雷太、この、てめー、この服幾らすると思ってんだ!」
壱也が雷太から逃げようとするが、雷太は遊んでいると思い壱也の裾を追う。
微笑ましい光景だ。
ここ最近は平和な日々が続いている。
所沢曰く、懸賞金目当てに狙っていた奴らがほとんど消えたそうだ。そう、消えたらしい。殺してはいないけれど、何人か返り討ちついでに再起不能にしたとゼロは言っていた。復讐されるのではと危惧したものの、刺客たちは二度とゼロに関わり合いを持ちたくないはずだと所沢は愉快そうに話していた。
そのことも有り、京の警護のレベルは引き下がった。いつも二人体制で警護していたけれど、一人体制になった。
もちろん、晩御飯の時間は相変わらず食卓を囲んでいる。
この人たち、懸賞金の件がなくなっても、食べにくるかも……と京は思っている。でも、それが嬉しいし、そうなってくれたら良いと思う今日この頃だ。
「ひっでー、くそ、セイント・フランチェスカのくせに……」
「あらー、神聖な粉を賜りましたな。雷太もすっかり壱也くんに慣れたなぁ」
「犬に懐かれたのは初めてっす」
壱也はまんざらでもない様子だ。
この数ヶ月で壱也はすっかりフランチェ──いや、雷太の虜だ。
「あ、そうそう。一応なんすけど、人数を減らした分、盗聴器つけさせてもらっていいっすか?」
「盗聴器? え、どこに?」
「とりあえず、雷太の首輪のタグあたりに……基本自宅ですし、雷太と京さんはニコイチなんで。あ、京さんの携帯か靴に発信機も付けさせてください──いや! 万が一っすよ? 万が一。保険みたいなもんすから!」
縁のないものだけに、京が反応に困っていると、壱也が慌ててフォローした。
ドラマの中でしか見聞きしないけれど、こんな小さなものに取り付けられるほど盗聴器も発信機も進化したらしい。
もちろん、嫌がる理由はない。感謝しかない。
「ま、発信機はともかく、盗聴器はいつも通信オンにしてないっすから。多分いざと言う時だけなんで安心してください! 俺も、雷太のひどいイビキとか聞きたくないっす……」
壱也が雷太の頭を撫でていると、公園の入口からスケが現れた。
ぼうっとした様子だが、壱也曰くあれが通常運転らしい。最近スケはサングラスを外すことも多くなった。表情を読まれないためによく掛けているらしいが、俺は身内認定されたらしい。地味に嬉しい。
「おーい、お疲れ」
スケに気付いた壱也が呼びかけると、スケが微かに笑った。その瞳があまりにも愛情たっぷりで甘い。相変わらず、この二人はお熱い……羨ましい。
「じゃ、京さん、コイツと交代しますね」
「あ、あの……ちょっと、二人に話したいことがあるんやけど」
「え? 俺らに?」
壱也とスケが不思議そうな顔でこちらを見る。
注目されると、言いづらい……けれど、このことを相談するのなら、この二人にするしかない。
「男同士の恋愛について、詳しく聞きたい……んやけど」
「「…………」」
俺の告白に二人が固まるのが分かった。
壱也に至っては、一瞬で唇の色まで変わってしまった。寒い日にプール参加した時みたいな紫色だ。スケは相変わらずというか、真顔のままだ。だけど、目の前で手を振ってみたけれど反応がないから、もしかしたら、視界がゼロなのかも。
気軽な気持ちで尋ねてはいけなかったのかも知れない。
二人が恋人同士だという報告は受けたものの、そこを突っ込んで話を聞けるほど、俺との関係が構築されていなかったという可能性もある。
そう考えると二人の反応も当然だ。
「あ、いや、ごめんな。いや、やっぱりええわ! 命に関わる時に何言うてんねんって感じやんな。ごめん、そんなつもりやなかってん。ただ、ネットとかで見てもほんまかなーって、思うし。いや、違うで? その、そういうのを面白がってる訳じゃなくて。真剣にケツに入れるとか、そう言うのも含めて、どうなんやろうって……その……」
そうだ。まさしくその通り。正論だ。
しかし、その命に関わる時に要らぬことを推し進めている連中がいて、さらに自分が巻き込まれていることを、京は知らない。
そして、命に関わる一大事だというのに、恋人のフリをさせられている人間が目の前にいることも。
「ケツって、京さん、男同士のセックスのやり方調べたんっすか⁉︎ マジで⁉︎」
「え? あ……うん。今日、ちょっとだけ」
「なんでそんなこと……まさか、京さん、恋してる、とか? 男に?」
「え? あ。いや、二人が知っている人じゃないですけどね!」
「知らない人っすか……? どこで出会ったんすか?」
「う、うん、その……可もなく不可もないような、そういった類の、店の、奥の、手前です‼︎」
慌てる京にスケが「分かりやすい」と呟くと、それを打ち消すように壱也が大笑いしてスケの背中を太鼓のように叩いた。
幸いスケの呟きは京の耳には届かなかった。
「あははは、そうなんっすね。そっかそっか……俺たちで良かったら、相談に乗りますけど……俺たちもそんなに、ってか、全く詳しくないっすよ?」
「いやいや、実際のカップルに話を聞けるんやから。何よりも勉強になるわ、ありがとう」
「うー、あー、ハイ」
「俺たちで良ければ何でも」
困ったように笑う壱也に対して、スケは頼もしい返事をくれた。壱也はそんなスケを見てぎょっとした顔をしていたけれど。
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