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13.キスマーク?
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「俺が、乾かす」
「あ、そう? 助かるー。さっきも洗っている時にじっとせぇへんくて大変やってん。一人で大丈夫か?」
ゼロは心得たとばかりに雷太をタオルで包んで風呂場を出て行った。どうやらゼロは仕事で嫌なことがあったらしい。いつになく不機嫌だ。これは、おかずを大盛りにしてやらねばと思い、慌てて体についたままだった雷太の毛を洗い流した。
バスタオルで肌の水滴を拭いていると、ドライヤーの騒音が始まった。曇りガラスにゼロの姿が見えた。しゃがみ込み、雷太の体を乾かしている。意外だが、世話好きな一面もあるようだ
「……だ。おかしい、……聞いている……?犬、──しろ」
ドライヤーを掛けながら何かを呟いている。聞き取れないが、雷太に話しかけているようだ。
「お前と……許さ……。……ったな……、約束──いいな?」
説教中……らしい。
雷太が風呂上がりでテンションが上がって暴れたのだろう。
ドライヤーの音が止み、ゼロが立ち上がったのが見えた。京は扉を開けて笑い掛けた。
雷太はマイクロファイバー製のタオルに頭から覆われ、ゼロに抱かれていた。
顔に皺が多い分、異世界の賢者がローブを被っている。不思議と貫禄があるように見えるのが面白い。
「雷太ー、ええ子にしてたか? ゼロ、悪いな、疲れてんのに」
「……大丈夫だ。それより、下着をはけ、今すぐに」
ゼロに視線を逸らされ、ようやく自分が全裸であることを認識する。慌てて洗濯機の上に置いていた下着をむんずと掴む。
確かに男同士でも礼儀はある。温泉の中ではちゃんと前を隠すのが礼儀だと教えられた事を思い出した。
先日のオナニー事件のことなどすっかり頭から消えている京だった。
「まぁ、せやな……あ、そうや。それより、これ見てや、ダニに噛まれてもうた。ココも、あ、ココも……」
京は出て行こうとするゼロを引き止め、ボクサーパンツを履くと股を開いて内腿を見せた。更に京は振り返り、うなじ、顎の下、脇腹を次々と見せる。ゼロは瞠目し、網膜に焼き付けんばかりに睨む。ゼロは診察するように指で触れ、微かな痕を優しく撫でた。
「結構赤くなってるやろ? 今日はシーツも洗ったし、大丈夫やと思うけど。お前も何箇所か噛まれてへん?」
「……大丈夫だ」
「ほんま?──んぅ?」
ゼロの厚みのある手が首に触れる。大きな手。片手ですっぽりと埋まってしまうほど大きい。指も太くて京は自分が子供に戻った気持ちになった。
少しカサついた親指が円を描くように触れるのがくすぐったい。思わず肩を窄めると刹那にその手は離れていった。
「痒みはないんやけど、赤みがな……ちょっと赤くなってて……ええ年してキスマークみたいやろ、ハハ。虫刺されの薬がどっかに──」
「見ろ」
ゼロは鏡に向かうように京を立たせると、微かに見えるダニの噛まれた痕を指差した。ゼロが背中にぴったりと張り付く。相変わらず疲れマラなのかゼロのムスコの存在を感じたが、そこはスルーだ。
「っ⁉︎」
「これが、本物だ」
ゼロの顔が肩に埋もれると、引き攣る感覚と共に、ゼロの唇が音を立てて離れた。
柔らかい唇と、熱い舌の感覚が残っている。わざとらしく耳元で囁かれたゼロの声は掠れていて、膝が崩れ落ちてしまいそうだった。
京はただ、じっと鏡を見続けていた。
うなじを滑り降りた裾野あたりに小梅ほどの赤い点が見えた。鏡越しに見ているが、確かにダニの噛まれた痕とは全く異なる、血が外へ出たがっているような赤色。
キスマークをつけられた。
男に。
ゼロに。
ゼロは鏡越しに京を見つめていた。背後に立っているだけなのに、どうして被食者のような気分になるのだろう。京はキスマークに負けないほど顔を真っ赤に染めていた。日に焼けていない白い肌に浮いた赤い点は、淫靡で我ながら色香を感じた。
「ほ、ほんま、やなぁ。全然ちゃうやんなぁ。うん、これが本場のキスマーク……やな」
「そうだ……もう服を着ろ」
京にTシャツを手渡すとゼロは雷太を連れて脱衣所を出て行った。
その後、京お手製のトンテキを振る舞ったらいつものようにゼロは目を輝かせていた。脱衣所での一件が嘘のようだ。
だけれど、服に擦れて感じるキスマークの違和感が現実を突きつけてきた。
確かに、さっきここにゼロの唇が触れていたのだと。
ダニ対策が功を奏したのかダニに噛まれる事はなくなった。変わったことといえば、ゼロが雷太のお風呂担当になったことだ。よく分からないが、洗い方にムラがあるのが気になるらしい。
すみませんね、下手くそで。
「あ、そう? 助かるー。さっきも洗っている時にじっとせぇへんくて大変やってん。一人で大丈夫か?」
ゼロは心得たとばかりに雷太をタオルで包んで風呂場を出て行った。どうやらゼロは仕事で嫌なことがあったらしい。いつになく不機嫌だ。これは、おかずを大盛りにしてやらねばと思い、慌てて体についたままだった雷太の毛を洗い流した。
バスタオルで肌の水滴を拭いていると、ドライヤーの騒音が始まった。曇りガラスにゼロの姿が見えた。しゃがみ込み、雷太の体を乾かしている。意外だが、世話好きな一面もあるようだ
「……だ。おかしい、……聞いている……?犬、──しろ」
ドライヤーを掛けながら何かを呟いている。聞き取れないが、雷太に話しかけているようだ。
「お前と……許さ……。……ったな……、約束──いいな?」
説教中……らしい。
雷太が風呂上がりでテンションが上がって暴れたのだろう。
ドライヤーの音が止み、ゼロが立ち上がったのが見えた。京は扉を開けて笑い掛けた。
雷太はマイクロファイバー製のタオルに頭から覆われ、ゼロに抱かれていた。
顔に皺が多い分、異世界の賢者がローブを被っている。不思議と貫禄があるように見えるのが面白い。
「雷太ー、ええ子にしてたか? ゼロ、悪いな、疲れてんのに」
「……大丈夫だ。それより、下着をはけ、今すぐに」
ゼロに視線を逸らされ、ようやく自分が全裸であることを認識する。慌てて洗濯機の上に置いていた下着をむんずと掴む。
確かに男同士でも礼儀はある。温泉の中ではちゃんと前を隠すのが礼儀だと教えられた事を思い出した。
先日のオナニー事件のことなどすっかり頭から消えている京だった。
「まぁ、せやな……あ、そうや。それより、これ見てや、ダニに噛まれてもうた。ココも、あ、ココも……」
京は出て行こうとするゼロを引き止め、ボクサーパンツを履くと股を開いて内腿を見せた。更に京は振り返り、うなじ、顎の下、脇腹を次々と見せる。ゼロは瞠目し、網膜に焼き付けんばかりに睨む。ゼロは診察するように指で触れ、微かな痕を優しく撫でた。
「結構赤くなってるやろ? 今日はシーツも洗ったし、大丈夫やと思うけど。お前も何箇所か噛まれてへん?」
「……大丈夫だ」
「ほんま?──んぅ?」
ゼロの厚みのある手が首に触れる。大きな手。片手ですっぽりと埋まってしまうほど大きい。指も太くて京は自分が子供に戻った気持ちになった。
少しカサついた親指が円を描くように触れるのがくすぐったい。思わず肩を窄めると刹那にその手は離れていった。
「痒みはないんやけど、赤みがな……ちょっと赤くなってて……ええ年してキスマークみたいやろ、ハハ。虫刺されの薬がどっかに──」
「見ろ」
ゼロは鏡に向かうように京を立たせると、微かに見えるダニの噛まれた痕を指差した。ゼロが背中にぴったりと張り付く。相変わらず疲れマラなのかゼロのムスコの存在を感じたが、そこはスルーだ。
「っ⁉︎」
「これが、本物だ」
ゼロの顔が肩に埋もれると、引き攣る感覚と共に、ゼロの唇が音を立てて離れた。
柔らかい唇と、熱い舌の感覚が残っている。わざとらしく耳元で囁かれたゼロの声は掠れていて、膝が崩れ落ちてしまいそうだった。
京はただ、じっと鏡を見続けていた。
うなじを滑り降りた裾野あたりに小梅ほどの赤い点が見えた。鏡越しに見ているが、確かにダニの噛まれた痕とは全く異なる、血が外へ出たがっているような赤色。
キスマークをつけられた。
男に。
ゼロに。
ゼロは鏡越しに京を見つめていた。背後に立っているだけなのに、どうして被食者のような気分になるのだろう。京はキスマークに負けないほど顔を真っ赤に染めていた。日に焼けていない白い肌に浮いた赤い点は、淫靡で我ながら色香を感じた。
「ほ、ほんま、やなぁ。全然ちゃうやんなぁ。うん、これが本場のキスマーク……やな」
「そうだ……もう服を着ろ」
京にTシャツを手渡すとゼロは雷太を連れて脱衣所を出て行った。
その後、京お手製のトンテキを振る舞ったらいつものようにゼロは目を輝かせていた。脱衣所での一件が嘘のようだ。
だけれど、服に擦れて感じるキスマークの違和感が現実を突きつけてきた。
確かに、さっきここにゼロの唇が触れていたのだと。
ダニ対策が功を奏したのかダニに噛まれる事はなくなった。変わったことといえば、ゼロが雷太のお風呂担当になったことだ。よく分からないが、洗い方にムラがあるのが気になるらしい。
すみませんね、下手くそで。
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