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セピア色の写真

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 その写真は和紙で包まれ、包まれた上からさらに包まれ、幾重にも重ねられた和紙でちょっとした厚みになっていた。

 着物が隙間なく収められている和ダンスの底から見つかったセピア色のその写真には、緊張した面持ちでたたずむ着物姿の女性と、少し間を開けて浅黒い顔の白髪の男が立っていた。

「これは誰なんだろう。うちのご先祖かな…」

 使い古した雑巾のような臭いが漂う薄暗い蔵には、もう値が張るものはほとんどなく、いつしか遺された親族の思い入れが強すぎて捨てられず、とりあえず入れておこう的な代々の父母の遺品であふれかえっていた。

 卒業式が終わって大学に入学する間の暇な時間を使って、楠木くすのきあかねは蔵の中の膨大な価値のない日用品の仕分けをさせられていた。

 中でも、代々の母親たちが嫁入りに持ってきた桐タンスは、当時は価値あるものとして詰め込まれた着物とともに数棹もある。
 もう誰のものだったかもわからない一棹から出て来たのが、その写真だった。

 リビングで休んでいたあかねの母、真琴まことは受け取った写真にまじまじと見入る。

「ちょっとワイルドでイケメンじゃない。でも『激乱』にスカウトするには、少し顔が良すぎて生活感がないわね」

 スーパー銭湯で人気沸騰した中年アイドル『激乱』の追っかけをしている真琴には、男性の顔の良しあしは、見ようによってはイケメンだが、適度に垢抜けない『激乱』メンバーに加わっても違和感がないかどうかが基準らしい。

「そう、ちょっといい感じだけどよっぽど苦労したのね。若いのに白髪よ… って、そんなことどうでもいいの。これ誰よ」
「うーん…」としばらく考え込む。
「この女性の顔は平べったくて平凡よね」

 どうやら被写体の容姿にしか関心を示さないようだ。

「ママ、私はこれ誰って聞いてるのよ。真面目に答えてよ」
「それがわかればすぐに答えてるわよ。ただ、うちの家系にはない顔だなあと思って。ほら、お婆ちゃまも、ひいお婆ちゃまもみんな彫が深いほうでしょ。男はそろいもそろって岩石みたいだし」

 確かに、祖母の容姿や仏間に掲げられている遺影を見る限り、その女性に似ている顔はなかった。

「この男のほう、それが先祖の誰かだったら嬉しいけど… 岩石に訊いてみたら」

 真琴がニヤけた笑いを見せる。
 あかねは浅くため息を吐いた。

「岩石って… パパにわかると思う? お爺ちゃんと一緒に、何でもかんでも蔵に放り込んでる張本人なのに…」
「ホントよねえ。終活って必要よねえ」

 あかねは、その全く他人事のような口ぶりにイラついた。

「蔵の着物は今どき売れないし、タンスもろとも廃棄しましょ。時間の無駄だもん。ついでにクローゼットに溢れかえってるママの洋服と『激乱』グッズも仕分けしてすっきりしましょ。一つ50円くらいでは売れるかもよ」

 コーヒーを片手にゆったりと斜に構えていた真琴の背がビクンと伸び、目を丸くしてあかねをにらみつける。

「冗談言わないで。みんな必要なものばかりなの! ママのものに少しでも触ったら承知しないから!」

 あかねは冷めた視線で真琴を一瞥すると、呆れたようにフンと鼻をならして、ヒステリックにわめき出した真琴を背にリビングを出て行った。




picrewのお遊びです。
表紙を見つかった写真に近いイメージ(モノクロ)にしようと思って作ったのですが、やはり表紙は色あったほうが良いかなあと思いました。
なので、ボツになった表紙ですが載せちゃいます。
本文にあるような緊張した面持ちにはとても見えません(^◇^;)可愛いを優先してしまいました(^◇^;;)


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