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第52話この異世界で心に誓う
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死に対する恐怖心で体が震える。二体のドラゴンが地響きを鳴らしながら村に接近してくる。逃出さないといけないのに、体がうまく動かない。
「ユージっ!」
「勇者さまっ!」
クレアとマリアが走って来た。
「な、なんで? 村の人たちは避難したんじゃ……」
「鉱山へ避難しようとしたんですが、ゴブリンの群れが襲ってきて……」
「アイゼンが一人で戦ってるの。でも、すごい数で……」
鉱山がある南西側からも襲撃、北側ではレイモンドたちが応戦中、村にはドラゴンが迫ってる。
「騎士団の野営地がある東側へ逃げるんだ! さあ、行こう!」
二人の肩を借りて俺は立ち上がった。
「それがダメなんです。野営地は武装した山賊みたいな人たちに占拠されていて」
「ルイスが抵抗して斬られたの……」
「ルイスさんが!」
「手当はしたんだけど、血が止まらなくて……」
いつも強気なクレアが涙をこぼす。
もうどこにも逃げ場がない。けが人まで出てる。どうすりゃいいんだ?
「ユージ! 生きてたか!」
レイモンドが兵士を引き連れ歩いてきた。体はボロボロに傷つき足を引きずっている。兵士たちも満身創痍で今にも倒れてしまいそうだ。
「私の言った通りだろ? 賭けは私の勝ちでチャラだな」
アイゼンが剣を杖代わりにして歩いてくる。
「二人とも無事だったんですね!」
「このなりで無事とは言いづらいが、剣を振り回すくらいはできそうだ」
剣を構えてよろめくレイモンドをアイゼンが支える。
「少し敵をあなどっていた。ゴブリンゾンビに不死の呪術がほどこさえていた。黒幕は相当な魔術師だ」
「俺の倒したドラゴンも起き上がってきて。確かに死んでたのに……」
「ドラゴンゾンビか。おそらく不死の呪い付き。魔力も尽きてもう魔術は使えぬが、私たちにはこれがある」
アイゼンがボロボロの体で剣を抜く。
「ほらよっ。これ飲んで元気出せや」
「おっ」
レイモンドが投げたポーションを受け止める。
「私たちが時間を稼ぐ。その間に住民をなるべく逃がしてやってくれ。飛べるのはお前だけなのだから」
アイゼンがニッコリ微笑んだ。
「おっと、お客さんのお出ましだぜ。行くぞ、ソフィ」
「人前では団長と呼べと言っておるだろっ。バカ者!」
二体のドラゴンに向かって、レイモンドとアイゼンは歩き出した。
俺が逃げ出すことを考えている時、二人は戦うことを選択していた。自分たちを犠牲にして、村人たちを救おうと考えていた。
離れていく二人の背中を見つめる。
ただ見てるだけでいいのか?
いや、俺はアイゼンとレイモンドに託されたんだ。なるべく村人を逃がさないといけない。でも、なるべくって何だ? 俺が命の選択をするのか? 助ける命と、見捨てる命……。
「勇者さま、大丈夫ですか? 痛みますか?」
「ユージ、頑張って! ゆっくりでいいから歩いて」
マリアとクレアが両脇から俺を懸命に支える。
情けねぇ……。
異世界来て力を手に入れて強くなった気でいて。これじゃ元の世界となんにも変わらない。ルックスとか運動神経とか、生まれつき決まってるものは仕方ないとあきらめて。勉強とか大して努力してないのに、今回のテストは運が悪かったと言い訳して。出来の良い妹をひがんで嫉妬して……。
俺はこの異世界でも逃げることを選択するのか?
今まで何かに必死になって取り組んだことなんて一度もない。頑張ることは無駄なこと、一生懸命はバカらしいとすら思っていた。
――お前ほどの力があれば救えぬ者など一人もおらぬ。
アイゼンの言葉が頭に浮かんだ。
「勇者さま?」
「ユージ?」
立ち止まった俺の顔をマリアとクレアが見つめる。
「これをルイスさんに飲ませてあげて」
ポーションをマリアに手渡し、向きを変えて一人で歩きはじめる。
「ユージ! そんな体でどこ行くのよ!」
クレアが泣きそうな声で叫び、俺の腕を掴んだ。
「ちょっとドラゴン倒してくるよ。これ預かっていてください」
制服のネクタイを外してクレアに預ける。
「……うん、分かった。絶対戻ってきなさいよ」
クレアが涙ぐみながらネクタイをギュッと握りしめた。
「ユージっ!」
「勇者さまっ!」
クレアとマリアが走って来た。
「な、なんで? 村の人たちは避難したんじゃ……」
「鉱山へ避難しようとしたんですが、ゴブリンの群れが襲ってきて……」
「アイゼンが一人で戦ってるの。でも、すごい数で……」
鉱山がある南西側からも襲撃、北側ではレイモンドたちが応戦中、村にはドラゴンが迫ってる。
「騎士団の野営地がある東側へ逃げるんだ! さあ、行こう!」
二人の肩を借りて俺は立ち上がった。
「それがダメなんです。野営地は武装した山賊みたいな人たちに占拠されていて」
「ルイスが抵抗して斬られたの……」
「ルイスさんが!」
「手当はしたんだけど、血が止まらなくて……」
いつも強気なクレアが涙をこぼす。
もうどこにも逃げ場がない。けが人まで出てる。どうすりゃいいんだ?
「ユージ! 生きてたか!」
レイモンドが兵士を引き連れ歩いてきた。体はボロボロに傷つき足を引きずっている。兵士たちも満身創痍で今にも倒れてしまいそうだ。
「私の言った通りだろ? 賭けは私の勝ちでチャラだな」
アイゼンが剣を杖代わりにして歩いてくる。
「二人とも無事だったんですね!」
「このなりで無事とは言いづらいが、剣を振り回すくらいはできそうだ」
剣を構えてよろめくレイモンドをアイゼンが支える。
「少し敵をあなどっていた。ゴブリンゾンビに不死の呪術がほどこさえていた。黒幕は相当な魔術師だ」
「俺の倒したドラゴンも起き上がってきて。確かに死んでたのに……」
「ドラゴンゾンビか。おそらく不死の呪い付き。魔力も尽きてもう魔術は使えぬが、私たちにはこれがある」
アイゼンがボロボロの体で剣を抜く。
「ほらよっ。これ飲んで元気出せや」
「おっ」
レイモンドが投げたポーションを受け止める。
「私たちが時間を稼ぐ。その間に住民をなるべく逃がしてやってくれ。飛べるのはお前だけなのだから」
アイゼンがニッコリ微笑んだ。
「おっと、お客さんのお出ましだぜ。行くぞ、ソフィ」
「人前では団長と呼べと言っておるだろっ。バカ者!」
二体のドラゴンに向かって、レイモンドとアイゼンは歩き出した。
俺が逃げ出すことを考えている時、二人は戦うことを選択していた。自分たちを犠牲にして、村人たちを救おうと考えていた。
離れていく二人の背中を見つめる。
ただ見てるだけでいいのか?
いや、俺はアイゼンとレイモンドに託されたんだ。なるべく村人を逃がさないといけない。でも、なるべくって何だ? 俺が命の選択をするのか? 助ける命と、見捨てる命……。
「勇者さま、大丈夫ですか? 痛みますか?」
「ユージ、頑張って! ゆっくりでいいから歩いて」
マリアとクレアが両脇から俺を懸命に支える。
情けねぇ……。
異世界来て力を手に入れて強くなった気でいて。これじゃ元の世界となんにも変わらない。ルックスとか運動神経とか、生まれつき決まってるものは仕方ないとあきらめて。勉強とか大して努力してないのに、今回のテストは運が悪かったと言い訳して。出来の良い妹をひがんで嫉妬して……。
俺はこの異世界でも逃げることを選択するのか?
今まで何かに必死になって取り組んだことなんて一度もない。頑張ることは無駄なこと、一生懸命はバカらしいとすら思っていた。
――お前ほどの力があれば救えぬ者など一人もおらぬ。
アイゼンの言葉が頭に浮かんだ。
「勇者さま?」
「ユージ?」
立ち止まった俺の顔をマリアとクレアが見つめる。
「これをルイスさんに飲ませてあげて」
ポーションをマリアに手渡し、向きを変えて一人で歩きはじめる。
「ユージ! そんな体でどこ行くのよ!」
クレアが泣きそうな声で叫び、俺の腕を掴んだ。
「ちょっとドラゴン倒してくるよ。これ預かっていてください」
制服のネクタイを外してクレアに預ける。
「……うん、分かった。絶対戻ってきなさいよ」
クレアが涙ぐみながらネクタイをギュッと握りしめた。
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