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第32話このレイドという男は意外と抜け目ない……

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 女性たちを連れてキューべ村に帰還すると、他の村人たちも避難していた鉱山から戻っていた。再会した家族が抱き合い、涙を流して喜んだ。
「勇者様、村の娘たちを救い出してくださり、感謝申し上げます」
 一人の老人が地面に膝をついて俺にひれ伏した。
「勇者様、ありがとうございます」
 村人たちもそれに合わせてその場に膝をついて頭を下げる。
「やめてください。皆さんのお気持ちだけで十分です。頭あげて下さい」
 俺はしゃがんで老人の体を起こした。
「おお、もったいないお言葉。わたくし、村長のサドと申します」
「俺はユージです。マリアから村のことを聞いて来ました。森の洞窟にいたゴブリンはせん滅しました。安心してください」
 村人たちから驚きの声と歓声が上がった。
「勇者様、たいしたもてなしは出来ませんが、村総出で感謝の宴を開きたいと思います。準備ができるまで、しばしお待ちいただけますかな?」
「それじゃ、お言葉に甘えて……」
 村人たちの期待のこもった視線を受け、断りづらい空気に負けて俺は首を縦に振った。
 ジェイソンは軽症者を含めると全員が負傷していると言っていたし、荒らされた家の片付けとかもあるのに、俺のために宴を開いてもらうのは心苦しいな……。
「勇者様、宴の準備が整うまで、うちでどうぞ、おくつろぎください」
 ジェイソンが声をかけてくれた。
「勇者様、本当にありがとうございました。マリアの母、エマと申します。どうぞこちらへ」
 アリアの母親が改めて自己紹介する。エマもマリアと同じく小柄で細身の体型である。童顔なので、すごく若く見える。
 俺はエマとマリアに案内され、自宅に招かれた。
 ゴブリンの襲撃のせいで散らかっているだろうと思われた室内は、綺麗に片付けられていた。奥から1人の女性が出てくる。エマに似た童顔の美人だ。エマの姉妹だろうか?
「母さん、勇者様よ」
 母さん!?
 エマの言葉に耳を疑った。エマの母親ということは、マリアの祖母ということになる。その外見からはとても信じられない。
「マリアの祖母のサラと申します。よくお越しくださいました。狭い家で申し訳ありませんが、どうぞ中へ」
 ぽっかり口を開けて驚く俺に、サラが笑顔であいさつする。
 ジェイソンとエマは俺に「ごゆっくり」と言い、宴の準備のため自宅をあとにした。サラの入れてくれたお茶を飲み、マリアが運んでくれたお菓子をいただく。お茶はノンシュガーの紅茶みたいで、甘めのクッキーと相性抜群だ。クッキーは手作りだろうか、素朴で家庭的な味がする。
 戦闘で体力を消耗したせいか、無性にお腹の空いていた俺は一気にお菓子を平らげた。
「お腹、空いてたんですね」
 マリアがクスクス笑われてしまった。
「このクッキーすごくおいしくて」
「それ、私が作ったんです。良かった。まだまだありますよ。持ってきますね」
 手作りクッキーを褒められたマリアは嬉しそうに言った。
「すんませーん。こっちに勇者のアニキがいるって聞いたんすけど」
 家の入口で男の声がした。
 ほぼ間違いなく俺のことだろう。
 席を立ち、扉を開けると見たことのある大柄な男が立っていた。
「おぉ、アニキ!」
「えっと俺、あなたのお兄さんじゃないですけど……」
「ハハハハッ。アニキは冗談も一流っすね。俺はルイス。マスターの指示で来たっす」
 思い出した。ギルド『ドラゴンブレス』のメンバーだ。
 ルイスが背負っていたバッグを下ろし、ひもをほどく。中にはたくさんのポーションが入っていた。
「これは?」
「マスターが、役に立つからアニキに届けろって」
 話を詳しく聞くと、俺が町を出たあとローザがスキルバに成り行きを話したそうだ。スキルバは作成したポーションをレイドに託し、指示を受けたルイスがキューべ村まで運んできたというわけだ。
「ありがとう! ちょうど良かった。ゴブリンの襲撃でけが人がたくさんいるんです」
「んじゃ、けが人にポーションを配ればいいっすね?」
「はい、お願いします」
「了解したっす。相談役」
 ん? 今なんて言った?
「あの、ルイスさん。相談役って……」
 歩き出したルイスを呼び止める。
「あれ、マスターから聞いてないっすか?」
 すごく嫌な予感がする。
「……えっと、なんのことです?」
「アニキは『ドラゴンブレス』の統括兼相談役に就任しんすよ! おめでとうございやっす!」
 めでたくねーよっ!
「え? なんで? 誰がいつ、どうやって決めたんです?」
「今日、マスターが決定したっす。これから、お願いしゃっーす」
 深々とお辞儀をすると、ルイスは村人たちにポーションを配りに行った。
 しまった……確かに俺はレイドに言った。ギルマス就任以外なら、なんでも協力すると。まさか、ギルドの幹部にされてしまうとは……。
 まあ、俺がギルドに入ることでレイドたちの助けになるなら、それもありかな?
 俺は苦笑いしながら、茜色に染まり始めた遠くの空を見つめた。
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