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第21話この異世界の分岐点は俺の頭を悩ませる……

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 ガーゴイルは傷ついた翼を羽ばたかせ、凄いスピードで中央広場を通過した。俺は、ヤツの背中に追いつくことだけを考え意識を集中させた。加速してガーゴイルの後ろに張り付く。こちらを振り返りもせず、ガーゴイルはさらにスピードを上げて俺を引き離した。

 アイツ、まだ余力があるのかよっ。

 認めたくないが飛行に関しては、やはりガーゴイルの方が一枚上手のようだ。
 クレアの飲食店を通過したところで、町の外に避難している住民たちが見えた。住民たちは開けた丘の一か所に集まり、そこから見下ろす形で自分たちの町を見つめている。

 あれじゃ、ガーゴイルの格好の餌食だ。

 ガーゴイルが住民たちめがけて急降下していく。
「みんな逃げろぉぉぉぉぉ!」
 俺は大声で叫びながら、イメージした剣を空中で振り下ろした。ガーゴイルの翼の一つが切り落とされ、ヤツはバランスを崩してクルクル回転しながら、住人達から少し離れた場所に落下した。
「ユージ君、無事だったのね」
 ローザさんが駆け寄って来た。
「エリーに会えましたか?」
「ええ、会えたわ。あなたのお陰よ。エリーを助けてくれ本当にありがとう」
 ローザが俺の手を取りポロポロと涙をこぼした。
「ローザさん、ここは危険です。エリーを連れて離れてください。町の皆さんも、ここから離れてください! モンスターです」
 住民たちからどよめきが起こった。
「おい人間よ! 私の翼を斬った人間よ!」
 舞い上がる土埃の中からヤツの高飛車な声が聞こえた。
「お前の翼を斬った人間の名は雄二だ。よく覚えとけ。まあ、お前ここで死ぬから覚えても意味ないか」
「ユージよ。この私にここまでダメージを負わせた人間はお前が初めてだ」
 徐々に土埃が消えてガーゴイルの影が見えてきた。
「お前が弱いものイジメばっかりしてたんだろ? 自分より強いヤツと戦って負ける感想を聞かせてくれよ。まあ、負ければ死ぬから感想も聞けないか」
「強き人間、ユージよ。今こそ貴様に問おう。強さとはなんだ!」
「お前と言葉遊びしてる暇は――」
 俺は言葉を失った。
 土埃の中から姿を現したのは、クレアの頭を片手で鷲掴みにするガーゴイルだった。
「おいっ! お前っ。クレアさんを傷つけたらぶっ殺すぞ!」
「お兄ちゃん……お姉ちゃんを助けてぇ」
 クレアにしがみついたまま、エリーが泣き出した。
「ねぇ、エリー。お姉ちゃんは大丈夫だから、お母さんのところへ行って。ね、お願いだから」
 クレアの説得に応じず、エリーはただ首を横に振って泣き続ける。
「おい、俺が身代わりになるからクレアさんを放せ」
 正解はこれしかない。強さがどうとか俺には全然興味ないけど、クレアの命より大事なものなんて他にはない。
「来ちゃダメ!」
「クレアさん……」
 ゆっくり足を踏み出した俺をクレアが制止する。
「モンスターに勝てるのは君だけなんでしょ? スキルバから聞いたわ。レジェンドの力は本物だって」
「そ、それはそうだけど……今はクレアさんの命が」
「君が死んだら、誰がモンスターを倒すの? 町のみんなはどうなるの? この町だけじゃない、他の町だって。君のこと、信じてるから! だから、お願い。モンスターを倒してっ」
 クレアが涙を流しながら訴えかける。

 クレアを助けたら町のみんなが死ぬ。クレアを見捨てれば町のみんなが助かる。人生最悪の二択だ。どうすりゃいいんだ?

「強き人間ユージよ。さあ、答えを示せ!」

 俺は――。
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