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第13話この異世界のサンドイッチはマスタードがきいている……
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歩きながら俺は、別れ際のローザの言葉を何度も思い返していた。
「君までつらい思いをすることになるわ。きっと、君の周囲の人まで傷つけることになる」
きっとローザの言う通りなのだろう。俺がつらいのは我慢すればいい話だが、クレアやスキルバまで巻き込んでしまうのは、間違いなのでは? 俺は、親切な彼女たちに、ただ甘えてるだけじゃないのか? じゃあ、このまま何もせず、ローザとエリーが困っているのを見て見ぬふりするのが正しいのか? そんなはずない。放置していいはずがないんだ。それなのに俺1人の力じゃ何もできない……。
自分の非力さが情けなくて、深いため息をついた。
「ゆぅぅぅぅじぃっ!」
うわっ。
突然後ろから肩を鷲掴みされて驚いた。
振り返るとそこには、鬼の形相をしたクレアが立っていた。
「ひぃぃっ。ごめんなさい、すみません、どうかお助けを」
「ちょっと、やめなさいよ。まるで私が君を脅迫してるみたいじゃない」
クレアがいっそう怖い顔をする。
「心配かけて、すみませんでした」
「ホント心配したんだからね。でも、君が無事でよかった。で、何があったのかちゃんと説明してくれるわよね?」
クレアが安心した様子で、普段の優しい表情に戻った。
俺は正直にこれまでの経緯を説明した。俺が話し終えるまで、クレアは静かに黙って耳を傾けてくれた。
「……とまあ、俺的にはローザやエリーの力になりたいんだけど、俺が関わると必然的にクレアにも迷惑かけてしまいそうで」
クレアが突然、俺の背中を力いっぱい叩いた。
あ痛たぁ……。
「迷惑なわけないじゃない! ローザはこの町の大事な仲間、商工会の同志なんだからっ。店長の私が無視したら、店の名が泣くわ」
「……クレアさんて、店長さんだったんですか?」
クレアが俺にギロリと鋭い視線を向ける。
「今まで君は、私のことをなんだと思っていたのかしら?」
そんなの言われなきゃ分からないじゃん!
「そ、そりゃあもう綺麗なウェイトレスさんだなぁって……」
「ま、まあいいわ。そういうことにしといてあげる」
クレアが顔を赤らめ視線をそらした。
「ローザさんが営業妨害を受けてること、他に知ってる人っていないんですかね?」
「冒険者は知っていても、『ドラゴンブレス』が怖くて何もできないでしょうね」
「商工会の人たちは?」
「ローザのことだから、迷惑をかけたくなくて、きっと誰にも相談してないと思う。現に私でさえ知らなかったんだから」
クレアは残念そうに首を横に振った。
俺とクレアは中央広場に戻り、ベンチに座って少し遅めの昼食にありついた。クレアが行列に並んで買ってくれたサンドイッチは、食パンを使用したものではなく、切り込みを入れたフランスパンに具を挟んでカットしたものだった。その形態が斬新でめずらしく、俺がなかなか食べようとせずに眺めているものだから、クレアに笑われてしまった。具はハムとチーズ、そしてレタスとトマトという一般的なものだったが、マスタードがきいていて少し辛めの味が非常においしかった。
サンドイッチを食べながら、2人でローザのことを話した。彼女に心配をかけないようにするため、改めて話しに行くのはやめることにした。ローザに接触はせず、クレアが商工会会長はじめメンバーに相談し、ギルド協会へ正式な苦情を提言するのがベストだと結論が出た。
「やっぱり個人でどうにかできる問題ではないもの。商工会やギルド協会を味方につけるのが一番よ」
「さすが店長!」
「さっきまでウェイトレスだと思ってたくせに。調子いいんだから」
クレアに人差し指でおでこを小突かれた。
「やっと見つけたぜぇ。こんなとこで女といちゃついて、いい身分じゃねぇか」
声の主は見覚えのある大男だった。
ギルド『ドラゴンブレス』のマスター、レイドである。
いつの間にかベンチを囲むようにして、数十人の屈強な男たちが立っていた。
「君までつらい思いをすることになるわ。きっと、君の周囲の人まで傷つけることになる」
きっとローザの言う通りなのだろう。俺がつらいのは我慢すればいい話だが、クレアやスキルバまで巻き込んでしまうのは、間違いなのでは? 俺は、親切な彼女たちに、ただ甘えてるだけじゃないのか? じゃあ、このまま何もせず、ローザとエリーが困っているのを見て見ぬふりするのが正しいのか? そんなはずない。放置していいはずがないんだ。それなのに俺1人の力じゃ何もできない……。
自分の非力さが情けなくて、深いため息をついた。
「ゆぅぅぅぅじぃっ!」
うわっ。
突然後ろから肩を鷲掴みされて驚いた。
振り返るとそこには、鬼の形相をしたクレアが立っていた。
「ひぃぃっ。ごめんなさい、すみません、どうかお助けを」
「ちょっと、やめなさいよ。まるで私が君を脅迫してるみたいじゃない」
クレアがいっそう怖い顔をする。
「心配かけて、すみませんでした」
「ホント心配したんだからね。でも、君が無事でよかった。で、何があったのかちゃんと説明してくれるわよね?」
クレアが安心した様子で、普段の優しい表情に戻った。
俺は正直にこれまでの経緯を説明した。俺が話し終えるまで、クレアは静かに黙って耳を傾けてくれた。
「……とまあ、俺的にはローザやエリーの力になりたいんだけど、俺が関わると必然的にクレアにも迷惑かけてしまいそうで」
クレアが突然、俺の背中を力いっぱい叩いた。
あ痛たぁ……。
「迷惑なわけないじゃない! ローザはこの町の大事な仲間、商工会の同志なんだからっ。店長の私が無視したら、店の名が泣くわ」
「……クレアさんて、店長さんだったんですか?」
クレアが俺にギロリと鋭い視線を向ける。
「今まで君は、私のことをなんだと思っていたのかしら?」
そんなの言われなきゃ分からないじゃん!
「そ、そりゃあもう綺麗なウェイトレスさんだなぁって……」
「ま、まあいいわ。そういうことにしといてあげる」
クレアが顔を赤らめ視線をそらした。
「ローザさんが営業妨害を受けてること、他に知ってる人っていないんですかね?」
「冒険者は知っていても、『ドラゴンブレス』が怖くて何もできないでしょうね」
「商工会の人たちは?」
「ローザのことだから、迷惑をかけたくなくて、きっと誰にも相談してないと思う。現に私でさえ知らなかったんだから」
クレアは残念そうに首を横に振った。
俺とクレアは中央広場に戻り、ベンチに座って少し遅めの昼食にありついた。クレアが行列に並んで買ってくれたサンドイッチは、食パンを使用したものではなく、切り込みを入れたフランスパンに具を挟んでカットしたものだった。その形態が斬新でめずらしく、俺がなかなか食べようとせずに眺めているものだから、クレアに笑われてしまった。具はハムとチーズ、そしてレタスとトマトという一般的なものだったが、マスタードがきいていて少し辛めの味が非常においしかった。
サンドイッチを食べながら、2人でローザのことを話した。彼女に心配をかけないようにするため、改めて話しに行くのはやめることにした。ローザに接触はせず、クレアが商工会会長はじめメンバーに相談し、ギルド協会へ正式な苦情を提言するのがベストだと結論が出た。
「やっぱり個人でどうにかできる問題ではないもの。商工会やギルド協会を味方につけるのが一番よ」
「さすが店長!」
「さっきまでウェイトレスだと思ってたくせに。調子いいんだから」
クレアに人差し指でおでこを小突かれた。
「やっと見つけたぜぇ。こんなとこで女といちゃついて、いい身分じゃねぇか」
声の主は見覚えのある大男だった。
ギルド『ドラゴンブレス』のマスター、レイドである。
いつの間にかベンチを囲むようにして、数十人の屈強な男たちが立っていた。
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