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第9話この異世界では女児まで平気で精液とか言う……

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 スキルバの薬屋をあとにして中央広場まで戻ってきた俺たちは、少し早めの昼食をとることにした。広場にはたくさんの屋台が出店され、朝通った時とは違う、まるでお祭りのようなにぎやかさを感じた。
「あの屋台のサンドイッチ、最高においしいのよ」
 クレアが指さすお店を見ると、長い行列ができていた。
 なるほど、確かに人気店らしい。
「少し時間かかりそうですね。俺、並んできます。クレアさん、ベンチで待っていてください」
「君、お金持ってないでしょ。私が並ぶわ。あそこのベンチで待っていて」
 忘れてた……俺、一文無しだった。
 クレアが行列の最後尾に並んだのを見届けて、俺は席を確保しにベンチへ向かった。中央広場に設置されているベンチの半分はすでに先客がおり、皆おいしそうに食事をしている。ベンチに腰を下ろした俺は、まだ列の最後尾に立つクレアに視線を向けた。
 早く仕事を見つけて、今度は俺がクレアにご馳走しなきゃな。そのときは屋台じゃなくて、ちょっとオシャレなお店とかに誘ってみようかな。クレア、喜ぶかな?
 クレアをデートに誘う想像をして、1人でニヤニヤする。
「お兄ちゃん、ねえお兄ちゃんっ」
 すぐそばで、小学校低学年くらいの女の子が俺に向かって声をかけていた。
「え、あぁ、ごめん。どうしたの?」
「お兄ちゃんは、勇者様なんだよね?」
「!?」
 女の子の言葉に驚き、声を失う。
 この子、なんで知ってるんだ? 落ち着け。この異世界で魔王討伐任務にあたるランカーは英雄だ。子供の憧れだ。冒険者ごっこみたいな何かの遊びかもしれない。
「そういう君も、魔王討伐に向かうために仲間を探している勇者様かな? 俺とパーティー組まないか?」
「お兄ちゃん、ふざけないで! 真面目に話してるの!」
 女児に怒られてしまった……。
「えっと、なんで君は俺が勇者だと思うの?」
「だって、あのお姉ちゃんが話してるの聞いたもん。お兄ちゃん、レジェンドの勇者様なんでしょ?」
 女の子は屋台の行列に並んでいるクレアを指さし、俺に詰め寄った。
 しまった……クレアの話を聞かれたのか。しかし相手は子供。適当にごまかそう。
「いやいや、あのお姉さんが言ってたのは、そういう意味じゃ――」
「お母さんを助けてほしいの……」
 ついさきほどまで強気な口調で話していた女の子の表情が一変した。今にも泣きだしてしまいそうだ。
「えっと、お母さんがどうしたの? 体の具合が悪いとか?」
「そうじゃないの。私のお母さん、腕のいい武具職人なんだけど、悪い人たちに邪魔されて、お仕事できないの……」
 俺は女の子から事情を聞いた。
 彼女の名前はエリー、母親の名前はローザ。早くに夫を亡くしたローザは女手一つでエリーを育てながら武具職人をしているそうだ。ローザの腕を見込んだこの町最大手ギルドのマスターが、専属契約を持ち掛けたところ断られ、それを逆恨みして仕事の邪魔をしているらしい。
「ギルド『ドラゴンブレス』のマスターが意地悪して、うちのお店が精液を仕入れできないようにしているの。だからお願い。お兄ちゃんの精液をちょうだい!」
 エリーが俺の手を強く握りしめ懇願する。
 うわぁ……女児に精子ちょうだいとか言われた。この異世界、ドン引きだわ……。
 しかしながら、エリーの顔は真剣そのもので、もちろん俺をからかってる様子は一欠けらも見えない。純粋に母親を心配し、一人で悩んでいたのだろう。思いがけず勇者に遭遇し、わらをもすがる思いで勇気を振り絞って俺に声をかけたのだろう。そんな小さな女の子の頼みをむげに断ることはできない。まずは、母親に事情を確認してから、クレアやスキルバに協力をあおごう。
「エリーの話は分かったよ。まず一回、お母さんに会って話を聞いて、どうすればお店を助けられるか考えよう」
「ホント? 嬉しい! ありがとう勇者様!」
 さっきまで泣き出しそうだったエリーの顔はパァーっと明るくなり、俺に飛びついてきた。
「おわっ」
「じゃ、行こう! うちはこっちよ勇者様」
「えっ! ちょ、ちょい待ち。エリー待って」
 エリーがものすごい勢いで俺の腕を引っ張っていく。その流れに逆らえず、俺は引きずられるような形で、エリーについていった。
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