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第23章 空の賭け、裕樹の賭け

第145話 大人への階(きざはし)

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 はやぶさが盛岡駅に到着し、これからどう帰ろうか思案していると、軽くクラクションが鳴る。見てみると古ぼけた軽四駆が一般車エリアに止まっていて、原沢がウィンドウから顔を覗かせていた。

「うす」

「おお」

「乗んないんすか?」

「あっ、あああ、の、乗る」

「じゃ早く乗って下さい、つかえてるんで」

「ああ、すまん」

 助手席に乗り込んだ。車に載ってる間原沢は気味が悪いほどおとなしく終始無言だった。少し不貞腐れた様な顔にも見える。ちらっと横目で見るとウィンドウに肘を乗せて運転するショートボブの原沢の横顔が目に入った。そこには十八のあどけない初々しさだけではない、昨日までは見ることのなかった大人の女性の影が差しこんでいた。

 僕が車を降りると本館入り口の下駄箱でムネさんと会った。

 ムネさんはぶっきらぼうな顔で僕をひと睨みする。

「いい度胸してんじゃねえか。原沢から聞いた。今日の分は給料から引いとくからな」

「はいっ!」

 すれ違いざまムネさんは僕の背中を黙って叩く。

 僕はシエロの馬房に行った。

「ごめんなシエロ。どうやら空さんはもう帰ってこなさそうなんだ。覚悟してくれよ。な」

 シエロはいななきながら不満げに床をかく。

「そう言うなよ。僕だって、つらいん、だ……」

 僕とシエロは空さんを思って少し泣いた。



【次回】
第146話 目前の空
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