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第22章 激昂する空
第135話 怒りと拒絶と侮蔑
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9時頃東京に到着したはやぶさから下車してこの出版社に行ける地下鉄を探る。どうして東京はこんなに電車が走ってるんだ。意味が解らない。僕は初めての大都市東京に困惑していた。
ようやくの思いで出版社に辿り着く。入り口の受付で高月七恵さんに会いたいと言って彼女の名刺を見せるとすんなり通された。雑然としたオフィスに通され小さな椅子に座らされる。
僕のそばで忙しそうにしていた社員が立ち上がってオフィスに入って来た高月七恵に大きな声で声をかける。
「ナナちゃんお客さーん! あれでしょ、ミノシマ君って一昨日の持ち込みの人だよね?」
言っていることが判らないが、とりあえず高月七恵の姿を見つける。彼女は怪訝そうな顔をしていたが、僕と眼が合うと心底驚いた顔をした。そして怒りで顔を真っ赤にしてこっちまで来ると僕の袖を雑巾でもつまむように引っ張って立ち上がらせて、混沌この上ないオフィスから引きずり出す。廊下をつかつかと歩いて、空いてる会議室を見つけるとそこに僕を引っ張り込んだ。椅子に座るでもなく突っ立ったまま僕に怒りの言葉をぶつけてくる。
「どういうことですかっ」
「いえ、それが受付でお名前をお話したらすんなり通されまして……」
あきれ果てた顔で天を仰ぐ七恵さん。がすぐに会議机に手をつき、頭をこちらに向けあからさまな敵意でぎらつく視線を僕に向ける。これは選択を誤ったかも知れない。
「でなんの用なんですか」
「みさきともえさんと連絡が取りたいんです」
「なんで」
刺々しく吐き捨てる。
「僕たち二人のプライバシーに関することです。お答えいたしかねます」
「ではお教えしません」
「お話すれば教えていただけるんですか」
「場合によっては」
「場合とは」
「お答えいたしかねます」
だめだ、この敵意剥き出しの彼女から何かを訊き出すのは難しいだろう。
「おおかたあそこに帰って来いって言うんでしょっ」
怒りと敵意と呆れが入り混じった顔で七恵さんは言う。
「ええ、それもあります」
「それも?まだほかになにか?」
怒りと敵意と呆れに今度は侮蔑が加わった表情で問いかける七恵さん。
「僕は彼女に言えなかったことがあります。それをはっきり伝えたくて」
「は?」
「それは僕にとっても、そ――みさきさんにとっても大事な言葉だと思っています」
「は? は? は?」
ここで言う僕の「言葉」とは何なのか、七恵さんにはあらかた察しがついたようだ。侮蔑と驚きと呆れのニュアンスを更に強くさせて同じ言葉を繰り返す。こういうのを言葉が出ないとか、二の句が継げないとか言う状態なのだろうなと僕は妙に冷静になって観察する。
【次回】
第136話 身の程
ようやくの思いで出版社に辿り着く。入り口の受付で高月七恵さんに会いたいと言って彼女の名刺を見せるとすんなり通された。雑然としたオフィスに通され小さな椅子に座らされる。
僕のそばで忙しそうにしていた社員が立ち上がってオフィスに入って来た高月七恵に大きな声で声をかける。
「ナナちゃんお客さーん! あれでしょ、ミノシマ君って一昨日の持ち込みの人だよね?」
言っていることが判らないが、とりあえず高月七恵の姿を見つける。彼女は怪訝そうな顔をしていたが、僕と眼が合うと心底驚いた顔をした。そして怒りで顔を真っ赤にしてこっちまで来ると僕の袖を雑巾でもつまむように引っ張って立ち上がらせて、混沌この上ないオフィスから引きずり出す。廊下をつかつかと歩いて、空いてる会議室を見つけるとそこに僕を引っ張り込んだ。椅子に座るでもなく突っ立ったまま僕に怒りの言葉をぶつけてくる。
「どういうことですかっ」
「いえ、それが受付でお名前をお話したらすんなり通されまして……」
あきれ果てた顔で天を仰ぐ七恵さん。がすぐに会議机に手をつき、頭をこちらに向けあからさまな敵意でぎらつく視線を僕に向ける。これは選択を誤ったかも知れない。
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刺々しく吐き捨てる。
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「場合によっては」
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だめだ、この敵意剥き出しの彼女から何かを訊き出すのは難しいだろう。
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「は?」
「それは僕にとっても、そ――みさきさんにとっても大事な言葉だと思っています」
「は? は? は?」
ここで言う僕の「言葉」とは何なのか、七恵さんにはあらかた察しがついたようだ。侮蔑と驚きと呆れのニュアンスを更に強くさせて同じ言葉を繰り返す。こういうのを言葉が出ないとか、二の句が継げないとか言う状態なのだろうなと僕は妙に冷静になって観察する。
【次回】
第136話 身の程
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