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第18章 二人と亡霊
第109話 Cafe
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以前の買い出しで寄ったことがあるという古くからあるカフェへ、空さんの全くあてにならないナビで散々迷いながらようやくたどり着く。
そこは少し古いが落ち着く雰囲気のカフェで、リラックスできそうだ。空さんは早速シフォンケーキとプリンアラモードとスイートポテトとコーヒーを頼む。相変わらずの大食漢ぶりだ。僕はコーヒーを頼もうとしたら、空さんは不思議そうな顔をする。
「コーヒーだけでいいの?」
実を言うと僕は甘いものが少々苦手だった。適当に誤魔化そうとする。
「あー、実は今おなかすいてなくて……」
「そ…… おごってあげようと思ったのに……」
「そんな、おごられる理由がありません」
「私にはあるからいいの。気にしないで」
少し上目づかいで恐る恐る僕を見ながらそう言う空さん。やはり一昨日の一件以来表情は穏やかになってきている。
「じゃ、ケーキセットのアイスコーヒーだけで……」
「ん……」
でもなんで急におごるだなんて。僕にはいまいちピンとこなかった。
「あの……」
「ん?」
巨大なシフォンケーキをフォークで切りながら空さんがこちらを見る。
「あ、食べたい?」
空さんが何の気なしにシフォンケーキとフォークを差し出す。そんなことをしたら間接キスになるのにまったく気にしてないようだ。
「ええっ、いやそうじゃなくて、そうじゃなくて…… どうしておごるだなんて言うのか……」
「判らないの?」
空さんにしては少し大きな、そして驚いたような声だ。
「え、あ、はい……」
「私のために都合3人も投げ飛ばしてくれたじゃない。そのお礼」
僕は一昨日川東と西岡を一本背負いしたことを今更ながら思い出した。
「まあ、もちろんこんなものではその対価に見合わないことはわかってるわ。だからいずれ本祝いはそのうちに、ねっ」
「あっ、あれは」
「仕方なく?」
からかうような目の空さんに僕はますます慌てる。
「ちっ、違いますっ。そんなことあるわけないじゃないですかっ。僕はっ」
はっと息をのむ。僕はまた口を滑らして分不相応な発言をしてしまうところだった。だが空さんはまるで次の言葉でも待つかのように僕の顔をじいっと見つめている。しばらく僕が固まったままでいると空さんは小さなため息をついてティーカップに目を伏せた。
「私…… 私ね…… 今回のこととこの間の集中豪雨の時、あなたのお陰で、ああこんなに死んでほしくないって強く強く思っている人がいるなら、自分みたいな人間でもちょっとは生きてていいのかな、ってほんの少しだけ思えるようになれたから」
「よかった。それは本当に良かった」
僕は少し泣きそうなほど嬉しくなった。よかった。僕のしてきたことは決して無駄じゃなかったんだ。空さんはわずか二ヶ月強の期間ですっかり回復したんだ。心の底から安堵する。
【次回】
第110話 姉
そこは少し古いが落ち着く雰囲気のカフェで、リラックスできそうだ。空さんは早速シフォンケーキとプリンアラモードとスイートポテトとコーヒーを頼む。相変わらずの大食漢ぶりだ。僕はコーヒーを頼もうとしたら、空さんは不思議そうな顔をする。
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「あー、実は今おなかすいてなくて……」
「そ…… おごってあげようと思ったのに……」
「そんな、おごられる理由がありません」
「私にはあるからいいの。気にしないで」
少し上目づかいで恐る恐る僕を見ながらそう言う空さん。やはり一昨日の一件以来表情は穏やかになってきている。
「じゃ、ケーキセットのアイスコーヒーだけで……」
「ん……」
でもなんで急におごるだなんて。僕にはいまいちピンとこなかった。
「あの……」
「ん?」
巨大なシフォンケーキをフォークで切りながら空さんがこちらを見る。
「あ、食べたい?」
空さんが何の気なしにシフォンケーキとフォークを差し出す。そんなことをしたら間接キスになるのにまったく気にしてないようだ。
「ええっ、いやそうじゃなくて、そうじゃなくて…… どうしておごるだなんて言うのか……」
「判らないの?」
空さんにしては少し大きな、そして驚いたような声だ。
「え、あ、はい……」
「私のために都合3人も投げ飛ばしてくれたじゃない。そのお礼」
僕は一昨日川東と西岡を一本背負いしたことを今更ながら思い出した。
「まあ、もちろんこんなものではその対価に見合わないことはわかってるわ。だからいずれ本祝いはそのうちに、ねっ」
「あっ、あれは」
「仕方なく?」
からかうような目の空さんに僕はますます慌てる。
「ちっ、違いますっ。そんなことあるわけないじゃないですかっ。僕はっ」
はっと息をのむ。僕はまた口を滑らして分不相応な発言をしてしまうところだった。だが空さんはまるで次の言葉でも待つかのように僕の顔をじいっと見つめている。しばらく僕が固まったままでいると空さんは小さなため息をついてティーカップに目を伏せた。
「私…… 私ね…… 今回のこととこの間の集中豪雨の時、あなたのお陰で、ああこんなに死んでほしくないって強く強く思っている人がいるなら、自分みたいな人間でもちょっとは生きてていいのかな、ってほんの少しだけ思えるようになれたから」
「よかった。それは本当に良かった」
僕は少し泣きそうなほど嬉しくなった。よかった。僕のしてきたことは決して無駄じゃなかったんだ。空さんはわずか二ヶ月強の期間ですっかり回復したんだ。心の底から安堵する。
【次回】
第110話 姉
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