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第18章 二人と亡霊
第104話 空の非力、空の期待
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若く眼鏡をかけた繊細な顔立ちに頼りない印象の沼屋先生は、僕の胸をレントゲン撮影すると、診察室でその画像を見て言った。
「ほぼ無傷だね」
「え?」
「そんな……」
空さんはショックを隠し切れない。
「いや、全員が全員胸骨を骨折するわけでもありませんし、簑島さんの骨が丈夫だったっていうのもあると思いますよ。……そうだ、空さん私の手を押してみてください」
沼屋先生がかざした手のひらを空さんが手のひらで力いっぱい押す。沼屋先生の手は微動だにしない。空さんは真剣な顔で顔を赤くし歯を食いしばって押すがそれでも沼屋先生の細い腕はピクリとも動かない」
「はぁはぁ……」
息を荒くして空さんが手を下す。
「まあ、これが一番の要因かな。こうしてちゃんと五センチ沈み込ませられました? 空さんの今の筋力だと相当きついと思いますが」
沼屋先生が胸骨圧迫のゼスチャーをする。
「できるだけのことはしたと思っていたのですが……」
「筋トレした方がいいと思いますよ。仕事でも大変でしょう?」
力なくうなずく空さん。
「まあ、胸はまだ少々痛くとも骨の方は心配いりませんから。あと体温もさっき検温したら平熱でしたから心配はいらないでしょう」
僕は胸をなでおろした。すぐ後ろにぴったりついて座っていた空さんもほっと溜息を吐くのが聞こえた。
「せっかくのお休みなんですから、これからデートなりなんなり行ってきたらいかがですか? 天気もいいし」
沼屋先生は真顔でそんなことを言った。僕と空さんはぎょっとする。
「せっ先生っ」
「冗談です。じゃあこれで診察終了で。お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
「お世話になりました」
会計を済ますと僕らはもうこれで自由の身だ。まだ半日はある。さてどうしようか。駐車場に行くまで僕は考えていた。映画館通りに行って映画でも観てカフェにおしゃべりをして、どこかおしゃれな店でご飯を食べて帰るという定番のデートコースを思い浮かべた。だがあまりにもありきたりすぎるのと、僕の方からデートに誘う自信がなかった。そんなこんなで色々悩む僕を空さんは横から不思議そうな顔でのぞき込んでいた。そしてその眼には何かを期待し待ち受けているかのような輝きも隠されていた。
【次回】
第105話 じゃじゃ麺
「ほぼ無傷だね」
「え?」
「そんな……」
空さんはショックを隠し切れない。
「いや、全員が全員胸骨を骨折するわけでもありませんし、簑島さんの骨が丈夫だったっていうのもあると思いますよ。……そうだ、空さん私の手を押してみてください」
沼屋先生がかざした手のひらを空さんが手のひらで力いっぱい押す。沼屋先生の手は微動だにしない。空さんは真剣な顔で顔を赤くし歯を食いしばって押すがそれでも沼屋先生の細い腕はピクリとも動かない」
「はぁはぁ……」
息を荒くして空さんが手を下す。
「まあ、これが一番の要因かな。こうしてちゃんと五センチ沈み込ませられました? 空さんの今の筋力だと相当きついと思いますが」
沼屋先生が胸骨圧迫のゼスチャーをする。
「できるだけのことはしたと思っていたのですが……」
「筋トレした方がいいと思いますよ。仕事でも大変でしょう?」
力なくうなずく空さん。
「まあ、胸はまだ少々痛くとも骨の方は心配いりませんから。あと体温もさっき検温したら平熱でしたから心配はいらないでしょう」
僕は胸をなでおろした。すぐ後ろにぴったりついて座っていた空さんもほっと溜息を吐くのが聞こえた。
「せっかくのお休みなんですから、これからデートなりなんなり行ってきたらいかがですか? 天気もいいし」
沼屋先生は真顔でそんなことを言った。僕と空さんはぎょっとする。
「せっ先生っ」
「冗談です。じゃあこれで診察終了で。お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
「お世話になりました」
会計を済ますと僕らはもうこれで自由の身だ。まだ半日はある。さてどうしようか。駐車場に行くまで僕は考えていた。映画館通りに行って映画でも観てカフェにおしゃべりをして、どこかおしゃれな店でご飯を食べて帰るという定番のデートコースを思い浮かべた。だがあまりにもありきたりすぎるのと、僕の方からデートに誘う自信がなかった。そんなこんなで色々悩む僕を空さんは横から不思議そうな顔でのぞき込んでいた。そしてその眼には何かを期待し待ち受けているかのような輝きも隠されていた。
【次回】
第105話 じゃじゃ麺
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