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第17章 空の覚悟

第92話 空の救出

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 勝負は一瞬でついた。大城おおきさんの速くて重たいボディブローが一人に炸裂さくれつし、いぬいさんは二人相手に立て続けに側頭部へ拳と上段蹴りを繰り出し昏倒させた。

「さて、三体二、と」

「おっといぬい大城おおき、これ以上近づいたらこいつがどうなるかわかってるんだろうなあ」

 どこから取り出したのかサバイバルナイフを空さんののど元に突きつけ、まだ余裕の表情ですごむ川東に対しいぬいさんはポケットに手を突っ込んで相変わらずの無表情だ。

「さあな。わからん」

「ふざけやがって! こいつが死んでもいいのかってんだよ?」

 空さんは気丈な表情を見せているが、その眼には怯えの色がはっきり見えていた。僕はさらに怒りをたぎらせる。もう関係ない女性ひとのはずなのになぜだろう、僕はまた彼女をどうやっても救い出し守りたいと思っていた。

 いぬいさんが僕にささやく。

「俺が川東を止める。連中はお前をなめてかかってるからそんなに難しくないぞ。やってやれ簑島みのしま

 僕は黙ってやつらに気取られぬよう小さくうなずいた。乾《いぬい》さんはポケットに手を入れたまま一歩前に出て大仰な声で言う。

「それは困る。困るから、やめてもらう」

「なんだと?」

 いぬいさんはさっとポケットから手を抜き、親指で2回、素早く何かをはじく動作をした。銀色に光を反射する何かが川東の両眼に当たる。一瞬のことでみんな何のことだが分からなかったようだが、僕には分かった。あれは「指弾しだん」だ。いぬいさんはいったいどこでこんな技を。

「あっ! くそぉっ!」

「今だ簑島みのしまっ!」

 川東がナイフを落とし両眼を覆い、身をかがめてうめき声をあげると同時にいぬいさんが僕に向かって叫ぶ。僕は猛然と駆け寄り川東を一本背負いした。手加減なんてするつもりはなかった。今までで一番の技が決まった。背中から固い大地に振り下ろされた川東の後頭部から尾てい骨にかけて、そしてそれだけでなく肋骨と骨盤までもがきしむむ音が聞こえ川東は昏倒こんとうした。

「野郎っ」

 僕となら組しやすいと思ったのか、まずは手近にいる敵を一人でも、と思ったのか、今度は西岡がサバイバルナイフを持って僕につかみかかってきた。がこれはともえ投げで思い切り投げ飛ばしてやった。西岡も受け身を知らなかったようで顔を苦痛にゆがめのたうち回る。

 が西岡が投げ飛ばされた先に灯油のポリタンクがあった。そばにあったオイルランタンが倒れて発火したそれは見る間に廃倉庫に広がっていく。

「空さん!」

 僕の声で我に返った空さんは僕に駆け寄り勢いをつけて僕の胸に飛び込んでくる。僕も抱きしめ返す。ついこの間まで空さんを拒絶した自分のことなど完全に忘れていた。ただただ空さんを守りたかった。この腕で確かに抱きとめたかった。


【次回】
第93話 裕樹ひろきの死に場所
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