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第15章 集中豪雨

第69話 ケイ

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 一通り終わらせると僕はツエルト内で空さんに寄り添ったままスマホを見る。圏外だ。僕は苦虫を噛み潰した顔で舌打ちをして「くそっ」と独り言ちた。この状態で空さんを置いたままシェアトに戻って応援を呼ぶか。いや、まだまだ何があるか判らないからそれは無理だ。

 それでも少しだけなら大丈夫だろう、とツエルトを抜け出し、シエロとメイを連れてお寺のそばの倉庫らしい小屋を見つけて、そこに2頭を入れる。屋根がほんの少し破れているところがあってわずかに雨が吹き込んでくるが、雨ざらしよりははるかにましだ。ここなら2頭は安全だ。僕は2頭の身体も丹念に拭いてやってシエロにも馬着ばちゃくを着せ、二頭に蜜のつまった甘いリンゴを1つずつ食べさせた。

 急いで空さんのもとへ戻る。状態に変化はなさそうだ。このまま2人乗りして帰るか。いや、空さんの意識はまだ混濁こんだくしているし、風雨も全く収まっていない。復温は完全ではなく体温も低いままだ。今また空さんが雨風にさらされれば、状態は確実に悪化するだろう。だとするとここで皆に見つけてもらうか空さんの体調か天候がもっと回復するのを待つしかない。この廃寺はいじはほとんどの人が知らないけれど、僕がいつまでも帰ってこないことに気付けば、僕がどこかで空さんを看病していると思ってくれるだろう。だがそれまでカロリーと水分は持つだろうか。僕は不安に襲われる。それを打ち消すように僕は時折空さんに声をかける。空さんはその度うっすらと目を開けて何事かを呟く。大丈夫、きっとよくなる、大丈夫。僕は震えながら空さんの傍らで時折声をかけていた。

 空さんは苦しそうな、そして悲しそうな顔で何事かつぶやき始めた。僕はゆっくりとその顔に手を伸ばした。自分でも何をするつもりなのかよく判らなかった。ただその頬に触れたかった。僕は、僕は、空さんのせいでこんなにも苦しんでいるのに。なのに拭い去れないこの甘い感情はなんだ。

 僕の手が空さんの頬に今にも触れそうになった瞬間、空さんが僕の腕を掴む。弱々しい力だった。その小さな手の冷たい感触に僕は息を呑む。

「ケイ…… ケイ……」

 空さんは虚ろな瞳で僕を見つめ手首を掴みながらそう呟いて涙を流し始めた。

「ごめん…… ごめんねケイごめん……ごめんなさい……わたし、私……っ」

 と呟くと更に大粒の涙を溢れさせる。僕は空さんの細い手を掴んで寝袋の中に突っ込んで、涙を指で拭った。冷たい涙だった。髪をく。

 僕の心の中で自問自答の嵐が吹き荒れる。誰だ? 誰なんだ? ケイって。一体どんな関係なんだ? 恋人? 家族? 僕の中で疑念が浮かぶ。いや、誰でもいい。多分そのケイってやつのせいで、空さんはあんな状態になるまで苦しんだんだろう。僕はそのケイが許せなかった。怒りが沸きあがる。


【次回】
第70話 快復しつつある空と「ケイ」
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