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第15章 集中豪雨
第67話 シエロ発見、そして空は……
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時折前が見えなくなるほどのひどい豪雨にもかかわらずメイは頑張って走りとおしてくれた。南西で目ぼしいものと言えば、あとはもう昭和時代の廃寺くらいしかない。ここは泉と同じく空さんが発見した場所なので、ほかのメンバーはほとんどが知らない場所だろう。空さんは二度ほどここをスケッチしている。が、それほど気にいった様子ではなかった。そこに行く可能性は低いと思いながらも念のため僕は向かう。場合によっては空さんとシエロがそこに避難しているかもしれない。だったらいいのだが。
たまに息が苦しくなるほどの暴風雨に難渋しながらメイはゆっくり歩みを進める。
突然メイが高くいななく。落ち着きがなくなる。僕は驚いた。
「どうした、メイ」
暴風雨の轟音にかき消されそうな微かないななきが聞こえてくる。シエロだ、シエロの声だ。間違いない。僕はその声のした方へ向かってメイを急がせる。ほっとした僕は泣きそうになった。このすぐ先に廃寺がある。そこに、きっとそこに空さんとシエロがいるに違いない。雨風をしのいで避難していればいいのだが。僕たちの前進を邪魔しようとするような豪雨に負けず、僕たちは急ぎながらも着実に歩みを進めた。廃寺に辿り着く。オグラメイコーを風雨から守るため軒に繋いだところ、今度はかなり近いところでシエロのいななく声が聞こえた。メイもそれに応えいななく。僕はシエロの声がした場所を探したところ反対側奥の木の柱にシエロが括り付けられているのを見つけた。
「シエロ!」
思わず声が出る。シエロはひどく濡れている。僕は思わずシエロに語りかけた。
「空さんはどこだ、なあシエロ。空さんはどこにいるんだ、教えてくれ」
その時背後で水の跳ねる音がしたような気がした。振り向くと薄暗がりの中、力を失い両腕を広げてうつ伏せに倒れた人影が見える。その不自然な倒れ方はまるで死体のようだ。僕の体内の全身の血の気が音を立てて引いていく。顔は豪雨に邪魔されよく判らない。だがセミロングの濡れてくしゃくしゃになった髪。泥だらけのグレーのサマーセーターに細いデニムパンツ。見慣れたいつもの服装だった。
「空さんっ!」
僕は慌てふためいて駆け寄る。恐怖で身体に力が入らない。だがその時僕の中に炎がたぎる。僕は負けない。必ず、必ず絶対空さんを救い出す。絶対に。ポンチョを被った僕は力尽きた空さんを抱き起す。なんて軽い。初めて抱き上げた時と比べてもほとんど変わらない。それは死を予感させるに充分な重さ。
「空さんっ!」
真っ青というより白い顔と紫の唇をした空さんは雨に打たれながらも何か呟くが、雨音がうるさいのと空さんの声が小さいのとで、何を言っているかは判らない。身体は弱々しく震え力が入らないようだ。に避難しようとして間に合わなかったのか。細い首筋に手を当てると心臓の鼓動がひどく遅く、その首筋はぞっとするほど冷たい。やはり低体温症にかかっている。それもかなりの症状だ。中等症以上かもしれない。いや間違いない。僕はそう確信した。
すぐにでも身体を温めないと、空さんは死ぬ。
【次回】
第68話 深刻な病状の空に
たまに息が苦しくなるほどの暴風雨に難渋しながらメイはゆっくり歩みを進める。
突然メイが高くいななく。落ち着きがなくなる。僕は驚いた。
「どうした、メイ」
暴風雨の轟音にかき消されそうな微かないななきが聞こえてくる。シエロだ、シエロの声だ。間違いない。僕はその声のした方へ向かってメイを急がせる。ほっとした僕は泣きそうになった。このすぐ先に廃寺がある。そこに、きっとそこに空さんとシエロがいるに違いない。雨風をしのいで避難していればいいのだが。僕たちの前進を邪魔しようとするような豪雨に負けず、僕たちは急ぎながらも着実に歩みを進めた。廃寺に辿り着く。オグラメイコーを風雨から守るため軒に繋いだところ、今度はかなり近いところでシエロのいななく声が聞こえた。メイもそれに応えいななく。僕はシエロの声がした場所を探したところ反対側奥の木の柱にシエロが括り付けられているのを見つけた。
「シエロ!」
思わず声が出る。シエロはひどく濡れている。僕は思わずシエロに語りかけた。
「空さんはどこだ、なあシエロ。空さんはどこにいるんだ、教えてくれ」
その時背後で水の跳ねる音がしたような気がした。振り向くと薄暗がりの中、力を失い両腕を広げてうつ伏せに倒れた人影が見える。その不自然な倒れ方はまるで死体のようだ。僕の体内の全身の血の気が音を立てて引いていく。顔は豪雨に邪魔されよく判らない。だがセミロングの濡れてくしゃくしゃになった髪。泥だらけのグレーのサマーセーターに細いデニムパンツ。見慣れたいつもの服装だった。
「空さんっ!」
僕は慌てふためいて駆け寄る。恐怖で身体に力が入らない。だがその時僕の中に炎がたぎる。僕は負けない。必ず、必ず絶対空さんを救い出す。絶対に。ポンチョを被った僕は力尽きた空さんを抱き起す。なんて軽い。初めて抱き上げた時と比べてもほとんど変わらない。それは死を予感させるに充分な重さ。
「空さんっ!」
真っ青というより白い顔と紫の唇をした空さんは雨に打たれながらも何か呟くが、雨音がうるさいのと空さんの声が小さいのとで、何を言っているかは判らない。身体は弱々しく震え力が入らないようだ。に避難しようとして間に合わなかったのか。細い首筋に手を当てると心臓の鼓動がひどく遅く、その首筋はぞっとするほど冷たい。やはり低体温症にかかっている。それもかなりの症状だ。中等症以上かもしれない。いや間違いない。僕はそう確信した。
すぐにでも身体を温めないと、空さんは死ぬ。
【次回】
第68話 深刻な病状の空に
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