45 / 160
第10章 空と原沢
第44話 原沢と車
しおりを挟む「おおい」
僕と空さんが牧草ロールの展開作業から帰る時、誰かが誰かを呼ぶ声がした。
ぐるっと見回してみると今年82歳で最高齢スタッフの伊田さんがこっちに向かって手を振っている。傍らには47年前納車という骨董品級でどこかユーモラスなデザインの360cc軽トラが停まっていた。どうも後輪が泥にハマってってスタックしているようだ。僕たちは伊田さんのところに駆け寄る。
「ああすまねえ。後ろから押してくれねえかなあ」
「お安い御用ですよ」
「はい」
僕と空さんで車を後ろから押しながら伊田さんがアクセルを踏む。が車は泥を撒き散らして僕を泥だらけにするばかりで、抜け出すことはできない。
僕たちが途方に暮れ立ち尽くしているとそこに原沢がやって来た。泥だらけの僕を見て呆れた顔をしている。
「センパイ何やってんすか」
「見てわからんか」
「まあわかります。その泥だらけのセンパイを見たら…… ぷぷっ」
「おまえな……」
僕は一気に不機嫌になった。原沢は僕らを無視して軽トラの周りをうろうろと歩き回り足回りを観察する。
「ふんふん、ふむふむ」
「何してんだ」
僕が不機嫌なまま問いかける。
「まあまあ、あたしにまかせて下さいよ」
とどこか楽し気な顔をしてまともに取り合ってくれない。
「あーなるほどお、うんうん、これならまあ簡単すね」
と言った原沢は倉庫へ駆け込み色々物色したあと、不用品のゴザを見つけ走って持って来る。それを泥に埋まった後輪の前に敷く。
「あたしが少しバックさせますから、そこにゴザを突っ込んでください。おじいちゃん、ちょっと乗さしてもらうね」
原沢が少しバックしてタイヤの開いた空間にゴザを敷いていく。それを数回繰り返す。
「センパイも空も今からゆっくり前進させるんで後ろからそおっと押してくださいよ」
「そおっとってどんな感じだよ。そおっとだけじゃわからん」
「だからそおっとですってば。いい女を優しく抱くみたいにそおっとですよっ。センパイ優男だから簡単でしょ?」
どこかトゲのある原沢の嫌味にまた僕は腹を立てたが、ここはあえて言い返さないでおいた。
原沢がゆっくりアクセルを踏むと僕たちも軽トラをゆっくりと押す。軽トラは少しずつ前進していった。
「おっいけそうだ!」
軽トラはさらに少しずつ前進して遂に泥から抜け出す。軽トラのエンジンを切って降りる原沢を僕は素直に称賛した。
「いやすごいな、見事見事」
伊田さんも賛辞を贈る。
「いやあほんとに助かったよお、大したもんだあ」
相変わらず表情をあまり見せないながらも、空さんでさえ称賛の言葉を送る。
「すごい。私にはできない」
だが今ひとつさえない表情の原沢。
【次回】
第45話 原沢の特技
僕と空さんが牧草ロールの展開作業から帰る時、誰かが誰かを呼ぶ声がした。
ぐるっと見回してみると今年82歳で最高齢スタッフの伊田さんがこっちに向かって手を振っている。傍らには47年前納車という骨董品級でどこかユーモラスなデザインの360cc軽トラが停まっていた。どうも後輪が泥にハマってってスタックしているようだ。僕たちは伊田さんのところに駆け寄る。
「ああすまねえ。後ろから押してくれねえかなあ」
「お安い御用ですよ」
「はい」
僕と空さんで車を後ろから押しながら伊田さんがアクセルを踏む。が車は泥を撒き散らして僕を泥だらけにするばかりで、抜け出すことはできない。
僕たちが途方に暮れ立ち尽くしているとそこに原沢がやって来た。泥だらけの僕を見て呆れた顔をしている。
「センパイ何やってんすか」
「見てわからんか」
「まあわかります。その泥だらけのセンパイを見たら…… ぷぷっ」
「おまえな……」
僕は一気に不機嫌になった。原沢は僕らを無視して軽トラの周りをうろうろと歩き回り足回りを観察する。
「ふんふん、ふむふむ」
「何してんだ」
僕が不機嫌なまま問いかける。
「まあまあ、あたしにまかせて下さいよ」
とどこか楽し気な顔をしてまともに取り合ってくれない。
「あーなるほどお、うんうん、これならまあ簡単すね」
と言った原沢は倉庫へ駆け込み色々物色したあと、不用品のゴザを見つけ走って持って来る。それを泥に埋まった後輪の前に敷く。
「あたしが少しバックさせますから、そこにゴザを突っ込んでください。おじいちゃん、ちょっと乗さしてもらうね」
原沢が少しバックしてタイヤの開いた空間にゴザを敷いていく。それを数回繰り返す。
「センパイも空も今からゆっくり前進させるんで後ろからそおっと押してくださいよ」
「そおっとってどんな感じだよ。そおっとだけじゃわからん」
「だからそおっとですってば。いい女を優しく抱くみたいにそおっとですよっ。センパイ優男だから簡単でしょ?」
どこかトゲのある原沢の嫌味にまた僕は腹を立てたが、ここはあえて言い返さないでおいた。
原沢がゆっくりアクセルを踏むと僕たちも軽トラをゆっくりと押す。軽トラは少しずつ前進していった。
「おっいけそうだ!」
軽トラはさらに少しずつ前進して遂に泥から抜け出す。軽トラのエンジンを切って降りる原沢を僕は素直に称賛した。
「いやすごいな、見事見事」
伊田さんも賛辞を贈る。
「いやあほんとに助かったよお、大したもんだあ」
相変わらず表情をあまり見せないながらも、空さんでさえ称賛の言葉を送る。
「すごい。私にはできない」
だが今ひとつさえない表情の原沢。
【次回】
第45話 原沢の特技
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜
湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」
「はっ?」
突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。
しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。
モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!?
素性がバレる訳にはいかない。絶対に……
自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。
果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる