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第6章 乗馬訓練・ささやかな嫉心と焦り
第32話 心中を見透かされからかわれる裕樹
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小坂部さんと二人で空さんの練習を眺めていると、すぐ隣でいきなり声がする。
「やっぱイケメンすねえ」
声や独特の口調ですぐに原沢だとわかった。僕は少し不機嫌になる。
「何しに来た」
「ご挨拶っすね。あいつの様子を見に来たんす」
「お前が? なんで?」
原沢は僕の問いかけには答えず続ける。
「大城さん、やっぱシェアト一のイケメンだけあってやることなすこといちいちかっこいいっすね」
「そうかな。普通だと思うけど」
馬上で少しバランスを崩した空さんの腕をさりげなく片手で掴んで助ける大城さん。確かにかっこいい。が、なぜかそれが無性に悔しい。僕にだってあれくらいのことは普通に、いやもっとカッコよくできる。
「ふふふふ、まセンパイの方がずっとずっといい男っすけどねえ」
原沢が猫なで声で僕にすり寄ってきたので僕は適切な距離を取った。不満げな声を出す原沢。
「ちぇっ」
不機嫌な僕は不機嫌な声で原沢に言う。
「だから、お前一体何しに来たんだって」
「や、あいつが大城さんにすっかりガチ恋だって言うから様子を見に来たんす」
僕はもっと不機嫌になった。なぜなんだろう。その理由は自問自答してもよくわからない。僕は原沢に反論した。
「どこがだ? あれのどこがガチ恋なんだ?」
「何から何までっすよ。センパイ女心がわかってないなあ。大城さんとは大違いっすね」
「うっさい。ほっとけ」
空さんは相変わらずの無表情だが、その中にも真剣さが見て取れる。だがどこにそんなガチ恋の様子があるのか全く理解できなかった。
「ほんと、お似合いっすね、大城さんとあいつ」
原沢が嬉しそうに言うと小坂部さんも同意する。
「確かに絵になるよなあ」
僕は素直には同意しかねた。
「そうでしょうか」
「あれだけの美男美女ならお似合いで絵になるのはあたりまえだろ」
小坂部さんがすかさず茶々を入れる。
「おっ、もしかして簑島君、大城君に妬いてる?」
「嫉妬はカッコ悪いっすよおセンパーイ」
いやらしい目で僕を笑う原沢。僕は慌てたし驚いた。
「嫉妬? え?嫉妬? 僕が嫉妬ですか? そんな、そんなわけないじゃないですかっ」
小坂部さんも原沢もいやらしい微笑みで僕を見つめる。
「だからあ、嫉妬なんかしなくってもセンパイには若くて可愛いあたしがいるって言ってるじゃないっすかあ、もおっ」
原沢が僕の腕に腕を絡めて密着してくる。僕はそれを振りほどいた。
「だっ、だからっ、僕は嫉妬も何も」
原沢はにんまりとする。
「じゃ、まだまだあたしにもチャンスがあるということっすね」
「なんのチャンスだ」
「それ本気で言ってんすか?」
原沢が少し呆れたように言う。
空さんの練習が終わると。まず大城さんが先に馬を降り、空さんが馬を降りようとすると大城さんが空さんの両脇を両手で抱えるようにして補助する。というか空さんが自分一人で降りようとしたところを強引に手を出したように僕には見えた。
「ああ、こういうとこっすよねえ。エスコート上手でジェントルな?とこ。センパイも少しは見習った方がいいっすよ」
原沢に横眼で睨まれたが僕は臆することはなかった。
「頼まれもしないのに無理矢理手を出しても仕方ないさ」
「ふふっ、やっぱり妬いてるね簑島君」
「小坂部さんまでからかわないで下さい」
空さんは僕に気付くと僕たちのいるところまでぱたぱたと小走りに走り寄ってきて馬柵をくぐり、僕の前に立つとあからさまにほっとした表情になる。さっき大城さんの前では見せてなかった心を開いた表情だ。その表情に僕はささやかな安心感を得て、優しく空さんをねぎらった。
「おかえりなさい、お疲れさまでした」
「ただいま」
【次回】
第33話 予兆
「やっぱイケメンすねえ」
声や独特の口調ですぐに原沢だとわかった。僕は少し不機嫌になる。
「何しに来た」
「ご挨拶っすね。あいつの様子を見に来たんす」
「お前が? なんで?」
原沢は僕の問いかけには答えず続ける。
「大城さん、やっぱシェアト一のイケメンだけあってやることなすこといちいちかっこいいっすね」
「そうかな。普通だと思うけど」
馬上で少しバランスを崩した空さんの腕をさりげなく片手で掴んで助ける大城さん。確かにかっこいい。が、なぜかそれが無性に悔しい。僕にだってあれくらいのことは普通に、いやもっとカッコよくできる。
「ふふふふ、まセンパイの方がずっとずっといい男っすけどねえ」
原沢が猫なで声で僕にすり寄ってきたので僕は適切な距離を取った。不満げな声を出す原沢。
「ちぇっ」
不機嫌な僕は不機嫌な声で原沢に言う。
「だから、お前一体何しに来たんだって」
「や、あいつが大城さんにすっかりガチ恋だって言うから様子を見に来たんす」
僕はもっと不機嫌になった。なぜなんだろう。その理由は自問自答してもよくわからない。僕は原沢に反論した。
「どこがだ? あれのどこがガチ恋なんだ?」
「何から何までっすよ。センパイ女心がわかってないなあ。大城さんとは大違いっすね」
「うっさい。ほっとけ」
空さんは相変わらずの無表情だが、その中にも真剣さが見て取れる。だがどこにそんなガチ恋の様子があるのか全く理解できなかった。
「ほんと、お似合いっすね、大城さんとあいつ」
原沢が嬉しそうに言うと小坂部さんも同意する。
「確かに絵になるよなあ」
僕は素直には同意しかねた。
「そうでしょうか」
「あれだけの美男美女ならお似合いで絵になるのはあたりまえだろ」
小坂部さんがすかさず茶々を入れる。
「おっ、もしかして簑島君、大城君に妬いてる?」
「嫉妬はカッコ悪いっすよおセンパーイ」
いやらしい目で僕を笑う原沢。僕は慌てたし驚いた。
「嫉妬? え?嫉妬? 僕が嫉妬ですか? そんな、そんなわけないじゃないですかっ」
小坂部さんも原沢もいやらしい微笑みで僕を見つめる。
「だからあ、嫉妬なんかしなくってもセンパイには若くて可愛いあたしがいるって言ってるじゃないっすかあ、もおっ」
原沢が僕の腕に腕を絡めて密着してくる。僕はそれを振りほどいた。
「だっ、だからっ、僕は嫉妬も何も」
原沢はにんまりとする。
「じゃ、まだまだあたしにもチャンスがあるということっすね」
「なんのチャンスだ」
「それ本気で言ってんすか?」
原沢が少し呆れたように言う。
空さんの練習が終わると。まず大城さんが先に馬を降り、空さんが馬を降りようとすると大城さんが空さんの両脇を両手で抱えるようにして補助する。というか空さんが自分一人で降りようとしたところを強引に手を出したように僕には見えた。
「ああ、こういうとこっすよねえ。エスコート上手でジェントルな?とこ。センパイも少しは見習った方がいいっすよ」
原沢に横眼で睨まれたが僕は臆することはなかった。
「頼まれもしないのに無理矢理手を出しても仕方ないさ」
「ふふっ、やっぱり妬いてるね簑島君」
「小坂部さんまでからかわないで下さい」
空さんは僕に気付くと僕たちのいるところまでぱたぱたと小走りに走り寄ってきて馬柵をくぐり、僕の前に立つとあからさまにほっとした表情になる。さっき大城さんの前では見せてなかった心を開いた表情だ。その表情に僕はささやかな安心感を得て、優しく空さんをねぎらった。
「おかえりなさい、お疲れさまでした」
「ただいま」
【次回】
第33話 予兆
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