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第6章 乗馬訓練・ささやかな嫉心と焦り

第31話 湧き上がる微かな妬心

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 翌日の午後、ちょうど空さんが練習場へ行くのに僕も同行した。空さんはちょっと元気がなさそうにも見えた。それでもシエロの話を振るとかすかな笑みを浮かべ少しうれしそうに話をする。こうして声にも表情にもほんの少しとは言え明るさが戻って来たのは良いことだと思い、僕も気持ちが安らいだ。その時はそれ以外の理由でも気持ちが安らいでいたことに僕は気付いてなかった。

 練習の途中、少し離れたところで空さんと小坂部おさかべさんが何やら話し込んでいた。僕もそっちに行こうかとしたところ僕に声をかけてくる人がいた。大城おおきさんだ。大城おおきさんは馬から降り僕に日に焼けた爽やかで人好きのする笑顔を向ける。

「午後の練習も任せてもらって助かったよ」

 僕は昨日空さんから聞いた「間違い」の一言が引っ掛かっていて、少し嫌な顔をしていたかも知れない。それでもそつのない返事はできたと思う。

「ええ、まあ……」

「空は筋がいい。教え甲斐がある」

「空」? 僕は耳を疑った。たった四日で少し馴れ馴れし過ぎるのではないか。自信に満ちたその態度に突然僕の中で黒雲のようなもやもやが立ち上った。

「午後の練習も俺がみることで空の上達速度はもっと上がるぞ。楽しみにしていてくれ」

 自信満々の陽に焼けた笑顔を見せる大城さん。僕に向けるその表情は勝利を確信しているものの顔だった。

「……はい」

「それに、俺としても嬉しいしな。こうしてあいつといる時間が少しでも増えるんだから」

 今度はか。そういう性格の人なんだから気にしないようにしようと頭で考えても胸のもやもやはどうやっても消え去らない。それに「空さんといる時間が増えて嬉しい」というのもなんだか気になる。大城おおきさんは空さんい何がしかの想いを抱いているのではないか。そしてシェアト一のイケメンの彼のことだ、きっとやすやすと空さんの心を射止めるのだろう。そう思うと僕の中に上手く言葉にできない嫌な気持ちが真夏の積乱雲のようにむくむくとわき上がってきた。

「あいつが上達したら三人で遠出してもいいな。いや、原沢も連れていくか。その時はよろしくな、裕樹ひろき

裕樹ひろき」? 会ったのは1度目でしかも言葉を交わしたのはこれが初めてだぞ。明らかに見下されている。そう思い少し腹が立った。が、ここも僕は大人な態度で切り抜けた。それになんで原沢が出てくるんだ。僕には突っ込むところが多すぎてすっかり気分が悪くなってしまった。いきおい返答もぞんざいになる。

「ええそうですね」

 陽に焼けてたくましく見える大城おおきさんは馬を引いたまま空さんのもとへ向かい、空さんがシエロにまたがるのを慣れた手つきで紳士的にエスコートする。


【次回】
第32話 心中を見透かされからかわれる裕樹
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