32 / 160
第6章 乗馬訓練・ささやかな嫉心と焦り
第31話 湧き上がる微かな妬心
しおりを挟む
翌日の午後、ちょうど空さんが練習場へ行くのに僕も同行した。空さんはちょっと元気がなさそうにも見えた。それでもシエロの話を振るとかすかな笑みを浮かべ少しうれしそうに話をする。こうして声にも表情にもほんの少しとは言え明るさが戻って来たのは良いことだと思い、僕も気持ちが安らいだ。その時はそれ以外の理由でも気持ちが安らいでいたことに僕は気付いてなかった。
練習の途中、少し離れたところで空さんと小坂部さんが何やら話し込んでいた。僕もそっちに行こうかとしたところ僕に声をかけてくる人がいた。大城さんだ。大城さんは馬から降り僕に日に焼けた爽やかで人好きのする笑顔を向ける。
「午後の練習も任せてもらって助かったよ」
僕は昨日空さんから聞いた「間違い」の一言が引っ掛かっていて、少し嫌な顔をしていたかも知れない。それでもそつのない返事はできたと思う。
「ええ、まあ……」
「空は筋がいい。教え甲斐がある」
「空」? 僕は耳を疑った。たった四日で少し馴れ馴れし過ぎるのではないか。自信に満ちたその態度に突然僕の中で黒雲のようなもやもやが立ち上った。
「午後の練習も俺がみることで空の上達速度はもっと上がるぞ。楽しみにしていてくれ」
自信満々の陽に焼けた笑顔を見せる大城さん。僕に向けるその表情は勝利を確信しているものの顔だった。
「……はい」
「それに、俺としても嬉しいしな。こうしてあいつといる時間が少しでも増えるんだから」
今度はあいつか。そういう性格の人なんだから気にしないようにしようと頭で考えても胸のもやもやはどうやっても消え去らない。それに「空さんといる時間が増えて嬉しい」というのもなんだか気になる。大城さんは空さんい何がしかの想いを抱いているのではないか。そしてシェアト一のイケメンの彼のことだ、きっとやすやすと空さんの心を射止めるのだろう。そう思うと僕の中に上手く言葉にできない嫌な気持ちが真夏の積乱雲のようにむくむくとわき上がってきた。
「あいつが上達したら三人で遠出してもいいな。いや、原沢も連れていくか。その時はよろしくな、裕樹」
「裕樹」? 会ったのは1度目でしかも言葉を交わしたのはこれが初めてだぞ。明らかに見下されている。そう思い少し腹が立った。が、ここも僕は大人な態度で切り抜けた。それになんで原沢が出てくるんだ。僕には突っ込むところが多すぎてすっかり気分が悪くなってしまった。いきおい返答もぞんざいになる。
「ええそうですね」
陽に焼けて逞しく見える大城さんは馬を引いたまま空さんのもとへ向かい、空さんがシエロに跨るのを慣れた手つきで紳士的にエスコートする。
【次回】
第32話 心中を見透かされからかわれる裕樹
練習の途中、少し離れたところで空さんと小坂部さんが何やら話し込んでいた。僕もそっちに行こうかとしたところ僕に声をかけてくる人がいた。大城さんだ。大城さんは馬から降り僕に日に焼けた爽やかで人好きのする笑顔を向ける。
「午後の練習も任せてもらって助かったよ」
僕は昨日空さんから聞いた「間違い」の一言が引っ掛かっていて、少し嫌な顔をしていたかも知れない。それでもそつのない返事はできたと思う。
「ええ、まあ……」
「空は筋がいい。教え甲斐がある」
「空」? 僕は耳を疑った。たった四日で少し馴れ馴れし過ぎるのではないか。自信に満ちたその態度に突然僕の中で黒雲のようなもやもやが立ち上った。
「午後の練習も俺がみることで空の上達速度はもっと上がるぞ。楽しみにしていてくれ」
自信満々の陽に焼けた笑顔を見せる大城さん。僕に向けるその表情は勝利を確信しているものの顔だった。
「……はい」
「それに、俺としても嬉しいしな。こうしてあいつといる時間が少しでも増えるんだから」
今度はあいつか。そういう性格の人なんだから気にしないようにしようと頭で考えても胸のもやもやはどうやっても消え去らない。それに「空さんといる時間が増えて嬉しい」というのもなんだか気になる。大城さんは空さんい何がしかの想いを抱いているのではないか。そしてシェアト一のイケメンの彼のことだ、きっとやすやすと空さんの心を射止めるのだろう。そう思うと僕の中に上手く言葉にできない嫌な気持ちが真夏の積乱雲のようにむくむくとわき上がってきた。
「あいつが上達したら三人で遠出してもいいな。いや、原沢も連れていくか。その時はよろしくな、裕樹」
「裕樹」? 会ったのは1度目でしかも言葉を交わしたのはこれが初めてだぞ。明らかに見下されている。そう思い少し腹が立った。が、ここも僕は大人な態度で切り抜けた。それになんで原沢が出てくるんだ。僕には突っ込むところが多すぎてすっかり気分が悪くなってしまった。いきおい返答もぞんざいになる。
「ええそうですね」
陽に焼けて逞しく見える大城さんは馬を引いたまま空さんのもとへ向かい、空さんがシエロに跨るのを慣れた手つきで紳士的にエスコートする。
【次回】
第32話 心中を見透かされからかわれる裕樹
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない
美雨音ハル
恋愛
冷酷だと噂される魔王に仕えることになった、獣人の少女ショコラ。
けれどド田舎屋敷に住む魔王は、実は脱力系ゆるふわ男子だった!
おまけにショコラのお仕事は、魔王とピクニックをしたり、美味しいものを作って食べたり、庭でお昼寝をしたりとなんだかおかしくて…?
脱力系魔王(本当は高身長ハイスペックイケメン)に求婚&溺愛されているのに全く気づかないショコラの、ほのぼのふわふわスローライフが始まる!
※カクヨム様小説になろう様にも掲載中。
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
私、自立します! 聖女様とお幸せに ―薄倖の沈黙娘は悪魔辺境伯に溺愛される―
望月 或
恋愛
赤字続きのデッセルバ商会を営むゴーンが声を掛けたのは、訳ありの美しい女だった。
「この子を預かって貰えますか? お礼に、この子に紳士様の経営が上手くいくおまじないを掛けましょう」
その言葉通りグングンと経営が上手くいったが、ゴーンは女から預かった、声の出せない器量の悪い娘――フレイシルを無視し、デッセルバ夫人や使用人達は彼女を苛め虐待した。
そんな中、息子のボラードだけはフレイシルに優しく、「好きだよ」の言葉に、彼女は彼に“特別な感情”を抱いていった。
しかし、彼が『聖女』と密会している場面を目撃し、彼の“本音”を聞いたフレイシルはショックを受け屋敷を飛び出す。
自立の為、仕事紹介所で紹介された仕事は、魔物を身体に宿した辺境伯がいる屋敷のメイドだった。
早速その屋敷へと向かったフレイシルを待っていたものは――
一方その頃、フレイシルがいなくなってデッセルバ商会の経営が一気に怪しくなり、ゴーン達は必死になって彼女を捜索するが――?
※作者独自の世界観で、ゆるめ設定です。おかしいと思っても、ツッコミはお手柔らかに心の中でお願いします……。
〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?
藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。
セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。
あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。
呪い…解いてもいいよね?
美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。
ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」
そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。
真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。
「…………ぷっ」
姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。
当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。
だが、真実は違っていて──。
愛しのあなたにさよならを
MOMO-tank
恋愛
憧れに留めておくべき人だった。
でも、愛してしまった。
結婚3年、理由あって夫であるローガンと別々に出席した夜会で彼と今話題の美しい舞台女優の逢瀬を目撃してしまう。二人の会話と熱い口づけを見て、私の中で何かがガタガタと崩れ落ちるのを感じた。
私達には、まだ子どもはいない。
私は、彼から離れる決意を固める。
求婚書を返却してすみません!
有木珠乃
恋愛
余命三ヵ月を受けて死んだ私は、なぜかカティア・イーリィ伯爵令嬢の体に入っていた。それに慣れる間もなく、求婚書を送り返してしまう。その相手スティグ・ギルズ伯爵令息は、カティアの幼なじみであり。さらに政略結婚ではなく、ちゃんと互いに思い合う仲だった。知らなかったとはいえ送り返してしまうなんて! 転生早々やらかしてしまった!
しかも、カティアの性格を把握していないまま、スティグがやってきてしまい、又々やらかします。
その後も、色々と主人公がやらかす話です。
※カクヨム、ベリーズカフェ、エブリスタでも投稿しています。
初恋の幼馴染に再会しましたが、嫌われてしまったようなので、恋心を魔法で封印しようと思います【完結】
皇 翼
恋愛
「昔からそうだ。……お前を見ているとイライラする。俺はそんなお前が……嫌いだ」
幼馴染で私の初恋の彼――ゼルク=ディートヘルムから放たれたその言葉。元々彼から好かれているなんていう希望は捨てていたはずなのに、自分は彼の隣に居続けることが出来ないと分かっていた筈なのに、その言葉にこれ以上ない程の衝撃を受けている自分がいることに驚いた。
「な、によ……それ」
声が自然と震えるのが分かる。目頭も火が出そうなくらいに熱くて、今にも泣き出してしまいそうだ。でも絶対に泣きたくなんてない。それは私の意地もあるし、なによりもここで泣いたら、自分が今まで貫いてきたものが崩れてしまいそうで……。だから言ってしまった。
「私だって貴方なんて、――――嫌いよ。大っ嫌い」
******
以前この作品を書いていましたが、更新しない内に展開が自分で納得できなくなったため、大幅に内容を変えています。
タイトルの回収までは時間がかかります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる