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第2章 空に纏(まつ)わりつく死の翳(かげ)
第13話 強制入院
しおりを挟む 二十六、二十七と順調に異世界を踏破していき。
僕たちは二十八階の転移ゲート付近まで到達していた。
「あれは……人の歩いた痕跡かな」
ぬかるみのある地面に見覚えのある靴跡がある。
まだ真新しく、このまま歩いてでも追いつく距離だ。
「それも三人組のようですね。私様は種族が目立つので、ひとまず隠れるとします。よいしょ」
フェアリーの肉体を持つライブラさんは僕の上着に隠れる。
エルは手のひらを握ってくれる。アイギスさんは後方の茂みに。
意を決して歩みを進める。それから数分後――
「お前は……ロロア、生きてやがったのか!」
――ついに僕たちはクルトンさんたちと合流を果たした。
「クルトンさんたちもご無事だったんですね。こんな上の階層で再会するとは思わなかったです」
僕はとりあえず軽い挨拶を交わす。反応は悪いけど。
三人とも魔物との連戦に疲れているようで、傷も増えていた。
「テメェ、よくもその面を見せられたな!? 荷物を奪って俺たちを置いて逃げやがって!」
「運よく別パーティに拾われたみたいだねぇ。くたばっていた方が面白かったのに」
激昂したシーザーさんに、つまらなそうなローズさん。
やっぱり僕は臆病者のレッテルを貼られていた。
この人たちの方こそ、僕を見捨てたのに。
「どうしてそんな酷い事を言うんですか! あるじさまはずっとずっと頑張っていたんですよ!」
(やはりクズです。この者たちには必ず報いを与えます。私様のデータも怒り心頭です)
大粒の涙を流して、エルは三人に向かって抗議する。
上着の中でライブラさんも暴れていた。声は聞こえないけど。
「ダメだよエル、挑発に乗ったら!」
魔塔に挑戦する冒険者たちの多くは、
近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
常に危険と隣り合わせだからだろうか。
死に近付き過ぎて、倫理観を失いがちだ。
無抵抗の相手だろうが、
子供相手だろうが激高すれば容赦ない暴力を振るいかねない。
「っち、偉そうなガキめ、黙らせてやる!」
「やめろ!」
シーザーの躊躇いなく振り下ろされた拳が、エルの頭に直撃する。
「いっでえええええええええええええ!?」
骨が割れる音が鳴り響き、男の拳から血が噴き出していた。
そうか不死身の器だ。規格外すぎていつも存在を忘れてしまう。
「もう、何するんですか、もぅ! 頭が揺れました!」
「ひでぇ石頭だ……ストーンゴーレムを殴るよりも骨に響いた……」
「失礼です!」
頭を殴られたエルは、平然と頬を膨らませていた。
「この階層まで生き残ったガキだ。シーザー、見掛けで判断したお前も悪い。ロロア、新しい寄生先が見つかって良かったじゃねぇか。俺たちにお別れの挨拶でもしてくれるのか?」
クルトンさんはそう言って僕を見下ろしてくる。
皮肉を交えこちらの感情を揺すぶり、優位に立とうとする。
「クルトンさん、ここはお互い協力してまずは地上へ戻る事に専念しましょう」
僕は相手の思惑には乗らない。冷静さを保つ。
本心では一緒に行動したいとは思わない、お断りだけど。
地上に出て悪い噂を流されないよう、隣で監視しておきたい。
「何を言い出すかと思えば、今さら足手纏いを連れていけるか! ここで三人も増えたら余計物資が足りなくなるだろうが! あぁん!?」
シーザーさんが拳に包帯を巻いて睨んでくる。
「お前のような荷物持ちすら満足にこなせない屑はいらないよ。さっさと魔物の餌にでもなっちまいな」
ローズさんの反応も冷ややかなままだ。
「さっきから聞いていれば……貴方たちは何様なのよ!? ロロアが何をしたっていうのよ!?」
遠巻きに話を聞いていたアイギスさんが乱入してくる。
みんなが僕の為に怒ってくれている。それだけで十分だった。
「落ち着いて、僕は何を言われても気にしないよ」
エルもアイギスさんも、人の悪意というものに慣れていない。
このままだと言いように弄ばれてお終いだ。一度冷静にならないと。
「お前たちと協力する必要性は感じない。俺たちは先に進ませてもらう」
◇
「おい、失った金の生る木が向こうから戻ってきやがったぞ!」
ロロアたちと別れ、しばらく進んだ先でクルトンは仲間の二人を呼び止める。
「あの女子供はロロアの【擬人化】で生み出された存在だ。この異世界は無駄に広いからな、都合よく他パーティと合流なんてできるはずがない」
貴重なユニークスキルである【擬人化】。
持ち主の少年は気弱で、大した能力もない子供。
「つまりあのガキを殺せば、国宝級のアイテムが手に入るってことよね?」
「ユニークスキルは手に入らなかったが、とんでもない財宝が舞い込んできたな」
クルトンたちは邪悪な笑みを浮かべる。
実のところ、彼らは能力喰らいであったのだ。
能力喰らいとはその名が示す通り、冒険者のスキルを狙った犯罪者だ。
スキル付け替えの自由化を悪用して、
自分たちの欲しいスキルを無理やり奪い取る。
汎用スキルでもそれなりの価値で売れ。
それがユニークなら巨万の富へと変わる。
三人で固定のパーティを作り、残りの一枠に狙った獲物を招く。
そして魔塔奥地で犯行に及ぶ。問題が起きても表沙汰にはなりにくい。
クルトンたちは最初からロロアの【擬人化】を目的としていた。
しかし、ユニークスキルは魂に紐づいているので付け外しはできない。
その重大な事実を、クルトンたちは知らなかったのだ。
ロロアから【擬人化】を奪おうと何度も試み、失敗に終わっていた。
ユニークスキルは希少価値故に、冒険者ギルドでも情報を隠されている。
一般冒険者では、付け外しができない基本すら共有されていなかったのだ。
よってクルトンたちは、
ロロアがユニーク持ちを騙った詐欺師なのだと思い込んでいた。
腹いせに虐めを行っていたのもそのせいだ。
対価も得られないのに殺すリスクは取れない。
だが今になって、
ロロアは【擬人化】したアイテムたちを連れていた。
自ら本物の証明をしてくれたのだ。
「あのガキを殺すならトドメは俺にやらせろよ。まだ殴った痕がいてぇんだよ」
「死に際に見せてくれる顔が面白ければいいんだけどねぇ」
「いいか、最優先でロロアを殺せばそれで終わる楽な仕事だ。しくじるんじゃねぇぞ」
僕たちは二十八階の転移ゲート付近まで到達していた。
「あれは……人の歩いた痕跡かな」
ぬかるみのある地面に見覚えのある靴跡がある。
まだ真新しく、このまま歩いてでも追いつく距離だ。
「それも三人組のようですね。私様は種族が目立つので、ひとまず隠れるとします。よいしょ」
フェアリーの肉体を持つライブラさんは僕の上着に隠れる。
エルは手のひらを握ってくれる。アイギスさんは後方の茂みに。
意を決して歩みを進める。それから数分後――
「お前は……ロロア、生きてやがったのか!」
――ついに僕たちはクルトンさんたちと合流を果たした。
「クルトンさんたちもご無事だったんですね。こんな上の階層で再会するとは思わなかったです」
僕はとりあえず軽い挨拶を交わす。反応は悪いけど。
三人とも魔物との連戦に疲れているようで、傷も増えていた。
「テメェ、よくもその面を見せられたな!? 荷物を奪って俺たちを置いて逃げやがって!」
「運よく別パーティに拾われたみたいだねぇ。くたばっていた方が面白かったのに」
激昂したシーザーさんに、つまらなそうなローズさん。
やっぱり僕は臆病者のレッテルを貼られていた。
この人たちの方こそ、僕を見捨てたのに。
「どうしてそんな酷い事を言うんですか! あるじさまはずっとずっと頑張っていたんですよ!」
(やはりクズです。この者たちには必ず報いを与えます。私様のデータも怒り心頭です)
大粒の涙を流して、エルは三人に向かって抗議する。
上着の中でライブラさんも暴れていた。声は聞こえないけど。
「ダメだよエル、挑発に乗ったら!」
魔塔に挑戦する冒険者たちの多くは、
近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
常に危険と隣り合わせだからだろうか。
死に近付き過ぎて、倫理観を失いがちだ。
無抵抗の相手だろうが、
子供相手だろうが激高すれば容赦ない暴力を振るいかねない。
「っち、偉そうなガキめ、黙らせてやる!」
「やめろ!」
シーザーの躊躇いなく振り下ろされた拳が、エルの頭に直撃する。
「いっでえええええええええええええ!?」
骨が割れる音が鳴り響き、男の拳から血が噴き出していた。
そうか不死身の器だ。規格外すぎていつも存在を忘れてしまう。
「もう、何するんですか、もぅ! 頭が揺れました!」
「ひでぇ石頭だ……ストーンゴーレムを殴るよりも骨に響いた……」
「失礼です!」
頭を殴られたエルは、平然と頬を膨らませていた。
「この階層まで生き残ったガキだ。シーザー、見掛けで判断したお前も悪い。ロロア、新しい寄生先が見つかって良かったじゃねぇか。俺たちにお別れの挨拶でもしてくれるのか?」
クルトンさんはそう言って僕を見下ろしてくる。
皮肉を交えこちらの感情を揺すぶり、優位に立とうとする。
「クルトンさん、ここはお互い協力してまずは地上へ戻る事に専念しましょう」
僕は相手の思惑には乗らない。冷静さを保つ。
本心では一緒に行動したいとは思わない、お断りだけど。
地上に出て悪い噂を流されないよう、隣で監視しておきたい。
「何を言い出すかと思えば、今さら足手纏いを連れていけるか! ここで三人も増えたら余計物資が足りなくなるだろうが! あぁん!?」
シーザーさんが拳に包帯を巻いて睨んでくる。
「お前のような荷物持ちすら満足にこなせない屑はいらないよ。さっさと魔物の餌にでもなっちまいな」
ローズさんの反応も冷ややかなままだ。
「さっきから聞いていれば……貴方たちは何様なのよ!? ロロアが何をしたっていうのよ!?」
遠巻きに話を聞いていたアイギスさんが乱入してくる。
みんなが僕の為に怒ってくれている。それだけで十分だった。
「落ち着いて、僕は何を言われても気にしないよ」
エルもアイギスさんも、人の悪意というものに慣れていない。
このままだと言いように弄ばれてお終いだ。一度冷静にならないと。
「お前たちと協力する必要性は感じない。俺たちは先に進ませてもらう」
◇
「おい、失った金の生る木が向こうから戻ってきやがったぞ!」
ロロアたちと別れ、しばらく進んだ先でクルトンは仲間の二人を呼び止める。
「あの女子供はロロアの【擬人化】で生み出された存在だ。この異世界は無駄に広いからな、都合よく他パーティと合流なんてできるはずがない」
貴重なユニークスキルである【擬人化】。
持ち主の少年は気弱で、大した能力もない子供。
「つまりあのガキを殺せば、国宝級のアイテムが手に入るってことよね?」
「ユニークスキルは手に入らなかったが、とんでもない財宝が舞い込んできたな」
クルトンたちは邪悪な笑みを浮かべる。
実のところ、彼らは能力喰らいであったのだ。
能力喰らいとはその名が示す通り、冒険者のスキルを狙った犯罪者だ。
スキル付け替えの自由化を悪用して、
自分たちの欲しいスキルを無理やり奪い取る。
汎用スキルでもそれなりの価値で売れ。
それがユニークなら巨万の富へと変わる。
三人で固定のパーティを作り、残りの一枠に狙った獲物を招く。
そして魔塔奥地で犯行に及ぶ。問題が起きても表沙汰にはなりにくい。
クルトンたちは最初からロロアの【擬人化】を目的としていた。
しかし、ユニークスキルは魂に紐づいているので付け外しはできない。
その重大な事実を、クルトンたちは知らなかったのだ。
ロロアから【擬人化】を奪おうと何度も試み、失敗に終わっていた。
ユニークスキルは希少価値故に、冒険者ギルドでも情報を隠されている。
一般冒険者では、付け外しができない基本すら共有されていなかったのだ。
よってクルトンたちは、
ロロアがユニーク持ちを騙った詐欺師なのだと思い込んでいた。
腹いせに虐めを行っていたのもそのせいだ。
対価も得られないのに殺すリスクは取れない。
だが今になって、
ロロアは【擬人化】したアイテムたちを連れていた。
自ら本物の証明をしてくれたのだ。
「あのガキを殺すならトドメは俺にやらせろよ。まだ殴った痕がいてぇんだよ」
「死に際に見せてくれる顔が面白ければいいんだけどねぇ」
「いいか、最優先でロロアを殺せばそれで終わる楽な仕事だ。しくじるんじゃねぇぞ」
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