5 / 5
僕とあいつの未来図
しおりを挟む
夕食は化け狐の本領発揮だった。父親にお酌しながらニコニコと分厚い面の皮で笑顔を作り振りまく。中1の妹にまで愛想をふるうその姿に僕は内心あきれ果てた。
後片付けを母親と僕たち二人でするとまた2階の僕の部屋で僕の焼いたクッキーを食べながらくつろぐ。
「はー、4月から大学生かー」
「先輩と呼べよ。あともう食うな、全部あたしの」
「はい先輩」
「あれ、妙に素直じゃん」
「今日の僕は何事にも寛容なのだよ。怒鳴られようと蹴られようと」
「へえ……」
あいつはすくっと立ち上がる。
「どうした?」
「コンビニ行こ。おごって」
「僕はおごられる立場だと思うんだが」
「いいじゃんいいじゃん、寛容なんでしょ? 気にしないの」
「ちぇっ」
近くのコンビニで中華まんとコーヒーを買ってさらに近くの公園のベンチに座って脚を投げ出す。
「……お前こそ」
「え? なに? 聞こえない」
「お前の方こそ男子の注目の的で、ハラハラしてたんだ。今まで何人から『紹介してくれ』って頼まれたと思ってんだ。まあ全部断ったけど。だから『あいつは恋愛対象じゃない。ただの幼馴染なんだ』って思いこもうとしてずっとごまかしてた」
「そっか、ごめんね」
「お前だって実際何人にも告白されてただろ。僕の知ってるだけで4人」
「……うん。実際はね7人。小5の時から」
「モテモテだな。断るの大変だったろう」
少し長い沈黙ののち答えが返ってくる
「…………うん、でも好きな人がいるから、って……」
「えっ、好きな人って……」
思い切り足を踏まれる。
「いてっ」
「察しろよばか」
「はい察しました」
「大学はさ、めっちゃ楽しいから。楽しみにしとけよお」
「はいはい500回聞いた」
「あ、雪」
「天気予報通りだな」
「ふふっ、『ホワイトホワイトデー』だね」
「確かに。さ、帰るか。そっちの親御さんだって心配する」
「だね、名残惜しいけど帰るかあ」
僕たちは立ち上がってこれから5分程度の道のりを歩く。
僕の隣の元幼馴染、現彼女の横顔を見下ろす。同じ顔だけど別人のような気もする。目が合うと微かに笑って腕を絡ませてくる。
「なあ……」
「ん?」
「僕たちのこれから」
「うん」
「大学で先輩後輩になって」
「ん」
「そっちが先に卒業して就職して」
「うん」
「もしかしたら僕は院に行ったりして」
「へえ」
「お互いどんな未来があるかわからないけどさ」
「そだね」
「僕たち、ずっとこのままでいような」
「……らしいなあ、そういうこと言っちゃうとこ」
「なにを」
彼女が体重を預けてくるので僕は少しよろめいた。フフッと笑ったあいつはつぶやく。
「でも、嫌いじゃないよ」
人生がこの先どこまで続くのか、そんなもの誰にもわかりゃしない。そんなあやふやな未来に向かって僕たちは手に手を取って歩み続けていきたい。
こいつは外面ばっかりの化け狐だけど、僕の前でだけは本心をさらけ出してくれる。だから僕もそれをしっかり受け止めてやろう。嘘もつかないようにしよう。
粉雪舞い散る中、体を寄せ合いながらそんなことをぼんやり思った。
後片付けを母親と僕たち二人でするとまた2階の僕の部屋で僕の焼いたクッキーを食べながらくつろぐ。
「はー、4月から大学生かー」
「先輩と呼べよ。あともう食うな、全部あたしの」
「はい先輩」
「あれ、妙に素直じゃん」
「今日の僕は何事にも寛容なのだよ。怒鳴られようと蹴られようと」
「へえ……」
あいつはすくっと立ち上がる。
「どうした?」
「コンビニ行こ。おごって」
「僕はおごられる立場だと思うんだが」
「いいじゃんいいじゃん、寛容なんでしょ? 気にしないの」
「ちぇっ」
近くのコンビニで中華まんとコーヒーを買ってさらに近くの公園のベンチに座って脚を投げ出す。
「……お前こそ」
「え? なに? 聞こえない」
「お前の方こそ男子の注目の的で、ハラハラしてたんだ。今まで何人から『紹介してくれ』って頼まれたと思ってんだ。まあ全部断ったけど。だから『あいつは恋愛対象じゃない。ただの幼馴染なんだ』って思いこもうとしてずっとごまかしてた」
「そっか、ごめんね」
「お前だって実際何人にも告白されてただろ。僕の知ってるだけで4人」
「……うん。実際はね7人。小5の時から」
「モテモテだな。断るの大変だったろう」
少し長い沈黙ののち答えが返ってくる
「…………うん、でも好きな人がいるから、って……」
「えっ、好きな人って……」
思い切り足を踏まれる。
「いてっ」
「察しろよばか」
「はい察しました」
「大学はさ、めっちゃ楽しいから。楽しみにしとけよお」
「はいはい500回聞いた」
「あ、雪」
「天気予報通りだな」
「ふふっ、『ホワイトホワイトデー』だね」
「確かに。さ、帰るか。そっちの親御さんだって心配する」
「だね、名残惜しいけど帰るかあ」
僕たちは立ち上がってこれから5分程度の道のりを歩く。
僕の隣の元幼馴染、現彼女の横顔を見下ろす。同じ顔だけど別人のような気もする。目が合うと微かに笑って腕を絡ませてくる。
「なあ……」
「ん?」
「僕たちのこれから」
「うん」
「大学で先輩後輩になって」
「ん」
「そっちが先に卒業して就職して」
「うん」
「もしかしたら僕は院に行ったりして」
「へえ」
「お互いどんな未来があるかわからないけどさ」
「そだね」
「僕たち、ずっとこのままでいような」
「……らしいなあ、そういうこと言っちゃうとこ」
「なにを」
彼女が体重を預けてくるので僕は少しよろめいた。フフッと笑ったあいつはつぶやく。
「でも、嫌いじゃないよ」
人生がこの先どこまで続くのか、そんなもの誰にもわかりゃしない。そんなあやふやな未来に向かって僕たちは手に手を取って歩み続けていきたい。
こいつは外面ばっかりの化け狐だけど、僕の前でだけは本心をさらけ出してくれる。だから僕もそれをしっかり受け止めてやろう。嘘もつかないようにしよう。
粉雪舞い散る中、体を寄せ合いながらそんなことをぼんやり思った。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

茜川の柿の木――姉と僕の風景、祈りの日々
永倉圭夏
ライト文芸
重度の難病にかかっている僕の姉。その生はもう長くはないと宣告されていた。わがままで奔放な姉にあこがれる僕は胸を痛める。ゆっくり死に近づきつつある姉とヤングケアラーの僕との日常、三年間の記録。そしていよいよ姉の死期が迫る。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
坂の途中のすみれさん
あまくに みか
ライト文芸
2022年4月 大幅に編集しました。
海が見える街の、坂の途中に住んでいる"すみれ"は不倫をしている。変わりたいと思いながらも、変えられない自分を知っている。
大雨の翌日、玄関前に男性の赤いパンツが落ちていた。そのパンツが、すみれと「坂の上の住人」を出会わせる。
恋することを避けるようになった、雑貨屋ポラリスの店長真梨子や、嫌われたくなくて本音が見えなくなった恵理、恋人を待ち続ける"ひかる"。
海街を舞台に恋に傷ついた彼女たちの物語。
月と影――ジムノペディと夜想曲
永倉圭夏
ライト文芸
音楽を捨て放浪する音大生「想」は冬の函館にフリーターとして身を置いていた。想は行きつけの居酒屋「冨久屋」で働く年上の従業員、すがちゃんに心温まるものを感じていた。
そんな中、駅に置かれているピアノを見つけた想。動揺しながらも、そこでとある女性が奏でるショパンの夜想曲第19番の表現力に激しい衝撃を受ける。それに挑発されるように、音楽を捨てたはずの想もまたベートーベンの月光ソナタ第三楽章を叩きつけるように弾く。すると夜想曲を奏でていた女性が、想の演奏を気に入った、と話しかけてきた。彼女の名は「藍」。
想はすがちゃんや藍たちとの交流を経て絶望的に深い挫折と新しい道の選択を迫られる。そしてついにはある重大な決断をすべき時がやってきた。
音楽に魅入られた人々の生きざまを描いた長編小説。
些か読みにくいのですが、登場人物たちは自分としてはそれなりに魅力的だと思っています。
男性向けか女性向けかというと、消去法的に女性向け、と言えなくもないでしょう……
十年目の結婚記念日
あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。
特別なことはなにもしない。
だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。
妻と夫の愛する気持ち。
短編です。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています

すこやか食堂のゆかいな人々
山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。
母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。
心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。
短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。
そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。
一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。
やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。
じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。
伊緒さんのお嫁ご飯
三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。
伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。
子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。
ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。
「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。
「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にも掲載中です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる