70 / 85
第70話 姉の、僕の死闘
しおりを挟む
翌朝、事態は一変していた。それも悪い方に。
姉は38.3℃の高熱を出していた。その他すぐに測れる数値も軒並み悪い。病室に行くと姉は僕を申し訳なさそうに見つめる。そして苦しそうに呟いた。
「へへっ、ちょっと、一昨昨日のザリガニ釣りではしゃぎすぎちゃった、かな……」
僕は思わず言った。
「大丈夫。僕たちが必ず直す。僕が絶対治すから」
「うん、期待してるよ」
「必ずだ。見ていてくれ」
「うん」
僕は思わず姉の手を握る。姉は熱発して熱い骨ばったかさかさの手で悲しくなるほど弱々しく僕の手を握り返した。
病との闘いは苛烈で僕たちは一方的に敗北を強いられ続けた。この頃にはもう僕は覚悟を決めつつあった。今まで効果のあった治療法や投薬では病状が改善する余地がなくなったからだ。それでも僕たちは闘い続けねばならない。それがどれほど勝つ見込みのない闘いであっても。
それでも少しは治療の成果はあったのか、それとも姉の気力体力のおかげか、進行を少しは遅らすことくらいはできた。翌年の三月には姉と僕は誕生日をあげ、スタッフみんなでお祝いをする中、病室でケーキを一口二口食べる事が出来た。その力ない微笑みに、一緒にザリガニ釣りに行った新人看護師は、口元を押さえ逃げるように退室した。何人かの医師や看護師も彼女と似たような表情を浮かべていた。みんなが姉の死期を悟っていた。
姉はしぶとく闘い、たとえ敗退をしても失地を最小限にとどめ踏ん張り続けた。だがもう車椅子に乗って院外はおろか院内の移動もままならず、完全に寝たきりとなってしまった。
もう限界だった。踏ん張り続けるのに疲れたのだろうか、誕生日を祝った翌週から急速に体調を悪化させた姉は遂にレスピレーターを装着する。僕たち治療チームはこれまでにない緊張感に包まれた。
四日後姉は意識不明に陥った。
姉は38.3℃の高熱を出していた。その他すぐに測れる数値も軒並み悪い。病室に行くと姉は僕を申し訳なさそうに見つめる。そして苦しそうに呟いた。
「へへっ、ちょっと、一昨昨日のザリガニ釣りではしゃぎすぎちゃった、かな……」
僕は思わず言った。
「大丈夫。僕たちが必ず直す。僕が絶対治すから」
「うん、期待してるよ」
「必ずだ。見ていてくれ」
「うん」
僕は思わず姉の手を握る。姉は熱発して熱い骨ばったかさかさの手で悲しくなるほど弱々しく僕の手を握り返した。
病との闘いは苛烈で僕たちは一方的に敗北を強いられ続けた。この頃にはもう僕は覚悟を決めつつあった。今まで効果のあった治療法や投薬では病状が改善する余地がなくなったからだ。それでも僕たちは闘い続けねばならない。それがどれほど勝つ見込みのない闘いであっても。
それでも少しは治療の成果はあったのか、それとも姉の気力体力のおかげか、進行を少しは遅らすことくらいはできた。翌年の三月には姉と僕は誕生日をあげ、スタッフみんなでお祝いをする中、病室でケーキを一口二口食べる事が出来た。その力ない微笑みに、一緒にザリガニ釣りに行った新人看護師は、口元を押さえ逃げるように退室した。何人かの医師や看護師も彼女と似たような表情を浮かべていた。みんなが姉の死期を悟っていた。
姉はしぶとく闘い、たとえ敗退をしても失地を最小限にとどめ踏ん張り続けた。だがもう車椅子に乗って院外はおろか院内の移動もままならず、完全に寝たきりとなってしまった。
もう限界だった。踏ん張り続けるのに疲れたのだろうか、誕生日を祝った翌週から急速に体調を悪化させた姉は遂にレスピレーターを装着する。僕たち治療チームはこれまでにない緊張感に包まれた。
四日後姉は意識不明に陥った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/light_novel.png?id=7e51c3283133586a6f12)
実家を追い出されホームレスになったヒキニート俺、偶然再会した幼馴染の家に転がり込む。
高野たけし
ライト文芸
引きこもり歴五年のニート――杉野和哉は食べて遊んで寝るだけの日々を過ごしていた。この生活がずっと続くと思っていたのだが、痺れを切らした両親に家を追い出されてしまう。今更働く気力も体力もない和哉は、誰かに養ってもらおうと画策するが上手くいかず、路上生活が目の前にまで迫っていた。ある日、和哉がインターネットカフェで寝泊まりをしていると綺麗な女の人を見つけた。週末の夜に一人でいるのならワンチャンスあると踏んだ和哉は、勇気を出して声をかける。すると彼女は高校生の時に交際していた幼馴染の松下紗絢だった。またとないチャンスを手に入れた和哉は、紗絢を言葉巧みに欺き、彼女の家に住み着くことに成功する。これはクズでどうしようもない主人公と、お人好しな幼馴染が繰り広げる物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/light_novel.png?id=7e51c3283133586a6f12)
茜川の柿の木――姉と僕の風景、祈りの日々
永倉圭夏
ライト文芸
重度の難病にかかっている僕の姉。その生はもう長くはないと宣告されていた。わがままで奔放な姉にあこがれる僕は胸を痛める。ゆっくり死に近づきつつある姉とヤングケアラーの僕との日常、三年間の記録。そしていよいよ姉の死期が迫る。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/light_novel.png?id=7e51c3283133586a6f12)
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる